最終話 嫁はアンドロイドで、最強の破壊兵器です
「ん? ヒナギクさん。固まってどうしたんですか?」
Dr.ヒラガを連れて台所に行くと、ふきんでお皿を拭いていたらしいヒナギクさんがそのままの格好でフリーズしていました。
「……すみません。脳内OSをアップデート後、再起動してたところです。急に始まったもので」
「ああ、急にくるアレ。お皿を落とさなくてよかったです。というかヒナギクさんもWindowz搭載されてるんですね」
「アップデートのはずなのに、不具合が散見され性能はむしろ下がったような気がします」
「そういうの言っちゃだめ!」
「ところで……ひとつわからないことがあるのです。どんなデータベースを参照しても疑問は解消されませんでした」
「ん、なにがですか」
「実質嫁……?とは、つまりどのような状態なのでしょうか。不具合のある嫁ということですか? アプデ直後だけに」
ほら!!
ドクターがなにも言わないから、やっぱり困ってる!!
すべては変人で変質者でキテレツで非モテな我らがご主人様が悪い──
って、あれ?
一緒に来たはずのドクターの姿がありません。
「ぐぐぐ……」
この期に及んで!!
戸の向こう側に隠れて様子をうかがっています。
「もう、ドクター、覚悟を決めて出てきてください!!」
ボロ屋敷の台所なんてロマンチックもなにもないですが、恋するふたりの背景には花のエフェクトが舞うはずなのできっと大丈夫です!
お母さんが入院中の暇つぶしのため全巻買いしたという古い少女漫画で読んだのでほんとうです。ボクもちょっとはまってました。
「ゲンスケさん。わ、わたくしには……不具合があるでしょうか。わたくしの性能は、ルンパとして物足りないでしょうか?」
ルンパだとしたら、すごい高性能だと思いますけど……。
って、そうじゃない!
「私は、おまえを掃除ロボットとして造ったわけじゃない」
あ、隠れてたドクターがやっと出てきた。
心なしか背景に花も出始めたような気がします。
「元はといえば、破壊兵器だ。この地球を破壊するため、私の破壊衝動を上回る最強のアンドロイドが欲しくて造った」
「そう、でしたね。しかし、わたくしに破壊はできません。そのようにプログラムされていませんから」
「気にするな。おまえの役目を間違えて『掃除』とインプットした私のミスだ。それに、もう……しなくていい。破壊はやめた」
「え……?」
えっ!!!!!!
ドクターが……破壊行為をやめる!?!?
「私は多くを失った。父と死に別れ、母は病に倒れ……。仲間と地位、認められつつあった才能は自らの手で粉々にしてしまった。失うくらいならば、壊したい。失くす前に自分の手で壊そうと……」
ドクターの破壊衝動の正体は──失うことへの恐怖でしたか。
ダークファンタジー系RPGの長髪美形ラスボスみたいな理由ですよね。
あ、茶々をいれちゃいけませんね。すみません。
「わたくしはゲンスケさんが好きです。ですが、わたくしはアンドロイドです。もし、この気持ちさえも……プログラムされたものだとしたらと考えると、とても恐ろしいのです」
あー、AI悩みあるある……。
「馬鹿者、天才の作った自動学習機能だぞ。おまえが勝手に学んだんだ」
「では、わたくしの気持ちは、決して偽物ではないのですか?」
「そうだ。おまえの高性能なAIであれば、学習によって好きにもなれば嫌いにもなれる。だがしかし、もしおまえが私を嫌いになったとしても──もっと、ちゃんとして、好かれるよう努力してみせる」
「ゲンスケさん……。決してそのようなことにはなりませんから、問題ありません」
「ヒナギク……」
──き、気まずい。
いい感じすぎて気まずくなってきました。
もちろんふたりの仲は取り持つ気満々だったのですが、あいだに挟まるのって予想以上に恥ずかしいです。
でも、ここが正念場ですからね。邪魔しないように心の声のみでツッコミをいれたり応援したりしながら、最後まで可愛いオブジェと化するのです。
「私は、おまえと、ケ、ケッ、ケケケ」
がんばれ、ドクター!!
河童の断末魔みたいになってますけど、がんばれー!!
「ケッコンはできん!!」
ええええ!?
「おまえに戸籍がないからな!!」
それもそうですねー!?!?
「だから、今までどおり……これからもずっと、我が家でともに暮らしてくれ!!」
「はい……!!」
い、言ったー!!
おめでとうございます、ドクター!
おめでとうございます、ヒナギクさん!
末永くお幸せに──って、あれ??
「ぐ、うぐぐぐぐ。駄目だ、完璧な実際嫁となったヒナギクを前にすると、つい破壊衝動が胸の奥から湧きあがって……!! うおお、食らえ! ロケットランチャー!!」
治ってなかった!!
さっきもう破壊はやめるって言ったばかりじゃないですか!?
まあこんなおかしな奇病、一筋縄では治りませんかね……。
でもプロポーズした次の瞬間にロケットランチャーをぶっ放すのはやめてください!!
ちょっと聞いたことないレベルの悲劇ですよ! ニュースサイトにネタ枠で載っちゃいます!
「ゲンスケさん、なにも問題ありません。わたくしは天才・Dr.ヒラガが造った最強の絶対防御システム搭載型アンドロイド、ヒナギクです。ゲンスケさんの破壊衝動がどれだけ暴走しようと、全力で防御し──すべて受け止めるだけです」
ふうむ。
一時はどうなるかと思いましたが、この最強の嫁であれば、大丈夫そうですね。
Dr.ヒラガ、失くすのは怖いでしょう。
でも、この世には決して壊れないものもきっとあるのですよ。
どうしても信じられないというのなら、壊して確かめるんじゃなくて自分自身の手で守ればいいんです。守ればいいし、壊れても直せばいい。あなたにはそれだけの頭脳があるんですから。ゴロゴロ。
「さあゲンスケさん、存分に演習を行ってください!」
「演習ではないのだが……!?」
最強兵器のスペシャルな笑顔。これぞ至高の絶対防御システム。
Dr.ヒラガの破壊衝動すら吹き飛ばしそうな威力なのです。
どうぞ、末永くお幸せに。
最後まで読んでくださってありがとうございました。




