2話 困ったご主人様なのです
「助手! 気づきを得たぞ! 若い女はみな小動物が好きだろう。助手の首輪に小型爆弾を仕掛けて、女どもが『キャワイイ~』などと寄ってきたところをひとまとめに爆破するのはどうだろうか!?」
「ボクはどうなるんですか~」
「合コンを潰すためだ。名誉とともに散るがいい!」
てしてししてやろうか、この野郎。
***
ボクはネコ型ホムンクルスの『助手』です。
今日も今日とて朝っぱらから、ご主人様であるDr.ヒラガにストレートネコパンチをお見舞いするところでした。
いったい何を騒いでいたかというと。
じつはですね、この変態、じゃなかったドクターにはちょっと困った奇病があるのです。
「秋葉原に部品を買いに行ったら、電車内で子供に『臭い』などと言われたのだ。この際、駅ごとふっ飛ばしてやる。あの駅は路線が多いが、何線を破壊したら千葉県民が一番困ると思う?」
「東西線じゃないでしょうかねぇ。って、なんで八つ当たりの矛先がいきなり千葉県民なんですか? 千葉出身の女性にフラレたことでもあるんですか?」
「よくわかったな、さすがは私の優秀な助手だ。千葉ごと爆破しよう」
こんなに理不尽な八つ当たりってアリなんでしょうか。
臭いのはお風呂に入らないドクターが悪いし、千葉出身の女性にフラレたのも間違いなくドクターが悪いはずです。
ボクの脳に詰まった膨大なデータベースを照合して計算・推測した結果、だいたいのトラブルはドクターのせいですから。
いやいや、話が逸れましたが、この発言こそがドクターの困った奇病なのです。
本人もいつ頃から発症したのかわからないらしいのですが──
「で、冒頭の合コンの話とどう繋がるんです?」
「なぜ金曜日だからといって、合コンが催されるのだ!? 秋葉原だぞ!? 誇り高き電気街はどこへ行った? オタコン? そんなものは許さん。オタクなら独りで家に帰って流行りの今季アニメを視聴しながらSNSで実況してはすぐに飽きて次のコンテンツへとイナゴのように移り行くユルいオタ活でもしてろ」
なんで微妙にオタクまで敵に回す発言をするんでしょう。
自分だって発明オタクでわけのわからない素材や部品を電気街で買い漁ってるのに。同属嫌悪ですよ!
「合コンなどに参加する軟派なオタクは許さん。爆破するならやはり秋葉原だな。交通の便が悪くなってついでに千葉県民も困るがいい」
「千葉も忘れてなかったんですね……」
そう、口を開けば爆破、爆破。
ドクターが患ってる病は、いわゆる『破壊衝動』というもの。
自らの発明品に始まり、合コン、カップル、場の空気、はては国、地球まで、壊せるものは何でも壊そうとします。
ご近所から毎日わけのわからない発明をしてる不審人物だと思われているドクターが、毎日コツコツとその無駄な知能と技術を無駄にフル活用して造っているのは……。
だいたい、爆弾とかミサイルとかの破壊兵器なのです。
「よし、できた! 今日の破壊兵器はドローンに小型の高性能爆弾を搭載した、名付けて秋葉原ドロンくんだ」
「なるほど、さすがはDr.ヒラガ。秋葉原を街ごとドロンというわけですね、ドローンだけに! って、名前ダサッ!」
「ああ、しかし、やはりだめだ……!」
あ、また始まりました。
「完成品が完璧であればあるほど、使う前に壊さずにはいられない!!」
「ああ……開発費(今月の食費)が……。ボクのオヤツ代も入ってるのに……」
ドクターによってコントローラーを破壊されたドローン型爆弾は、窓から庭に飛び出し、はるか上空へ──
数十秒後、激しい爆発音が。
「また壊してしまったな……スッキリした……」
強迫観念みたいな奇病ですねぇ。
Dr.ヒラガが兵器を発明する目的は、破壊そのもの。つまり破壊のための破壊です。
なのに、そのために造ったはずの兵器も……完成した途端に壊しちゃうんですよね~。
自分の尻尾を追いかける犬の動画を観たことありますが、あんな感じでしょうか。
おかげさまで、人様に害を与える破壊行為が達成されたことは一度もありません。ご主人様の近所での評判も、よくわからない不審者で済んでいるわけなのです。
今のところ捕まってないですし、今日も前科者にならなくて本当によかった。
こんな感じで、我が家は平和です。ゴロゴロ。