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12話 初めてのお出かけです

 廊下で手足を思いっきり伸ばしたり、お腹を上にして転がったりと、多忙な平日の午前中──突然、KJ001号からお誘いがありました。


「助手さん、今日はわたくしとお買い物に行きませんか?」

「ボクですか? ニャオちゅ~る買ってくれるなら、付き合ってあげてもいいですけど」

「はい、いいですよ」


 マ? ですか?

 ダメ元で言ったのに、いいんですか。

 じゃあ、ちょっとクセがあるけどたまーに無性に食べたくなる『ホタテ味』がいいです!

 

「では、わたくしも支度してきます。少々お待ちください」


 と、KJ001号は襖の奥に戻っていきました。


 ふうむ、なんでいきなりボクを誘ったんでしょう?


 ボクはネコ型ホムンクルス。見た目は普通のネコと同じです。荷物持ちに役立つわけでもないですし……。

 何か裏があるのでしょうか。ついに企てを実行するのかもしれません!


 だってほら、もしDr.ヒラガだったらロクなお誘いじゃありませんから。

「助手をラジコンに改造して遠隔操作型爆弾を造ろう。場末のくせに小癪にもイルミネーションで飾りつけされた商店街を血の海にしてやるぞ!」とか言いかねません。

 ちょっと日頃の恨みもあって実物より表現が猟奇的になった気もしますが、ご主人様が非人道的だと疑心暗鬼にもなるというものです。

 

 それにボクはまだ、生まれてこのかたお屋敷の外に出たことがないのです。

 ニンゲンは可愛いものとめずらしいものが好きらしいので、『可愛い×喋る(レア)=最高に可愛い』の図式が完璧に成立するボクが、迂闊(うかつ)に外の世界へと出ていったら危険なのです。


 ドクターのように改造しないまでも、まさか見世物にしてお金儲けする気なんじゃ……!?


 美女とはいえ、相手は何を考えているかいまいちわからない鉄仮面の破壊兵器です。ホイホイついていくのは危険ですかね……。


 う~ん?


 まあ、いいや。

 ニャオちゅ~るが買ってもらえるなら、なんでもいいや。ホイホイ。



 ***



 門を出たところで、町内の奥様方に捕まりました。


「あら、ヒラガの奥さん、こんにちは」

「こんにちは。落葉が美しい季節となりましたが、ご近所の皆さまにおかれましては本日もご機嫌麗しくお過ごしでしょうか。今後も変わらぬお付き合いのほどをお願い申し上げます」


 はい?

 ヒラガの奥さん?

 だれが奥さん?

 KJ001号も、どうしてそんな時候の挨拶を例文検索したみたいな返しなんですか。

 ボクといえどもツッコミが追いつきません。


「相変わらず、背中に変なものつけられちゃって可哀想に。変人旦那の趣味かしら」

 

 や、ジェット機の主翼ついてるんですよ。そんなセンスの悪い服着せられて可哀想レベルの扱いでいいんですか。

 専門家として追及しますけど、もっと激しいツッコミが必要じゃありませんか?


「おたく、猫ちゃんいたの。名前は?」

「助手さんです」


 それ、役職であって名前じゃないです。

 さあ、今度こそちゃんとツッコミお願いしますよ……。


「へえ。ところでスーパーで卵10個入りパックが120円だったわよ。おひとり様2パック限定。あとカニ缶が特売だったわ」

「ありがとうございます。今から行ってみます」


 な、流された──!?

 奥様方は最高に可愛いはずのボクにもっと興味を持つべきでは!?


「では、失礼します」


 KJ001号はちょこんとお辞儀をして、ご近所さんの輪から離れましたが──。


 むう、外の世界は予想以上に怖いところです。


「あの、KJ001号……?」

「なんでしょう」 


 ボクはエコバッグから顔だけ出して、ゆらゆら揺られています。

 気持ちいい。眠くなってきました。

 いや、寝てる場合じゃないです。ちゃんと真意を問いたださないと!


「ヒラガの奥様ってなんですか?」

「スーパーに出かける際、毎日ご近所さんに挨拶をしていたらいつの間にかそう呼ばれていました」


 なるほど。

 たしかに、割烹着姿で買い物袋を持ったちょうどいい年頃の女性がお屋敷を出入りしはじめたら、奥様だと思われてもしかたないですねぇ。


「なんで否定しないんです?」


 まさか本気で嫁枠を狙ってるんじゃ。

 周りから固めて既成事実を作る作戦ですか!? 清純そうな顔してなかなかやりますわね、この女!


「──彼女らの表情、視線、声の調子、会話内容を分析したところ」

「ふうむ?」

「わたくしが否定しないほうが、Dr.ヒラガに対する不信感が下がり、好感度が微増したことを確認いたしましたので、現状維持を選択しました」


 ああ、それは……。

 いわゆる、社会的信頼度というやつでしょう。

 ちゃんとした女房がいるなら、想像していたより怪しい人物じゃないかもしれないと思われたんでしょうね。


 まったく、偏見に満ちたニンゲン社会らしい考え方ですよ。

 色眼鏡を取り払って、もっと純粋な瞳でドクター自身を見てほしいのです。

 だって、間違いなく怪しい人物ですからね。怪しいで間違ってない。

 れっきとした変態の危険人物です! ちゃんと危険人物である、ありのままのドクターを見てください!!


 でも──ドクターが変態だという話は置いておいて。


 それでさっき、KJ001号は時候の挨拶並に礼儀正しい態度を取っていたんですね。

 ドクターの良いイメージを捏造……じゃなかった、えーと、もっとオブラートに包んで言うと、せっかく好転した印象を壊したくなかったんでしょうか。


 あの男のことだから、知ったら余計なことをするなって怒るでしょうが……それでも、これってドクターのためにしている行動ですよね。

 もしかして、KJ001号はボクが思っているような無表情、無感情の鉄仮面ではないのでしょうか?


 う~ん?

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