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11話 もしかして今、笑いました?

 最強の破壊兵器、KJ001号が何かたくらんでいないか、ボクは注意深く観察しているのですが──我がヒラガ家では相変わらずの日々が続いています。


 Dr.ヒラガは毎日、KJ001号を壊すための兵器を造っては返り討ちにされ……

 彼女は彼女で、持ち前の学習機能で絶対防御システムと家事スキルをどんどん向上させています。


 何かをたくらむとしたら、やっぱり地球の爆破とかでしょうかね? なにしろ破壊兵器の本分ですし。

 でもそれってドクターの最初の命令どおりであって、べつに反旗を翻してるわけでもないですよねぇ。造った人間の根本が間違ってるので、考えてると混乱してきますよ。


 そんなわけでネコ型ホムンクルスであり、優秀な『助手』であるボクは、アタッチメント掃除機の音やら焼き魚のにおいの誘惑と闘いながら、敵情視察に励んでいるわけです。


 そして気づいたのでした。

 近頃ちょっとだけ、KJ001号の様子がおかしいような?



 ***



 とあるお昼ご飯どき。


「ブロッコリーには目の疲労回復を助けるルテイン並びにビタミンA、B2、Cが豊富に含まれています。副菜のおかか和えもきちんと食べてください」

「ええい、うるさいぞ! 何を食べて何を残そうが、私の自由だろうが!」

「ねえ、ドクター! 食べないならブロッコリーの上にかかったおかか、ボクにください!」


 ちゃぶ台を囲んで、めっきり日課になっていた言い争いが勃発しています。争いというか、ドクターがワガママを言って叱られているだけですが。

 口喧嘩で済んでいるだけ、いつもよりは平和ですかねぇ。今日はドクターが食卓でマイ火器を使ってませんし。マイ箸みたいなノリで気軽に出してきますからね、この男。


 最近お部屋が片付きすぎててそのへんに材料が落ちてないから、というおかげでもあります。


 というか、なんでもいいからおかかを、おかかを早くボクにくださいーー!


「助手さんの分はべつに取ってありますから、落ち着いてください。Dr.ヒラガ、昨晩も暗い中で作業していたでしょう。視力が落ちて眼鏡の度が若干合わなくなっているようです」

「ぐぬぬぬぬ。いらんといったらいらん!!」

「完食するまで、デザートの手作りプリンは出せませんよ」

「なんだと……!? むうう、おまえを造ったのはこの私なのに、どうして私が造ったおまえの、おまえが作ったプリンを食べられないのだ……!?」


 ことばが渋滞した日本語ですねぇ。

 ボクのおかかはカリカリに混ぜてもらいました。やっほーう、いつものカリカリが一味違う!


「ダメです。デザートだけ食べては、栄養の偏りが発生します」


 たしかにドクターは好き嫌いが多すぎるのです。

 少し前までドラッグストアで揃うタイプの栄養補助食品で生きてきたんだから、温かいごはんをちゃんと食べたほうがいいですよね。



「ええい、最高管理者の私に逆らうな!!」



 あっあれは!

 必殺ちゃぶ台返し!!

 このままじゃ、まだ途中のごはんがめちゃくちゃになってしまいます!


 食べ物を粗末にしてはいけません、ドクタ──!!



 ──

 ────あれ? 



 何も起こってませんね……。



 ドクターはちゃぶ台を掴んで便秘みたいな顔してますし、KJ001号は涼しい顔で畳に正座しています。



「ぐ、ぐぐぐぐ。持ち上がらん……!?」

「食卓に設置型の重力発生装置を展開しました。18000kgの負荷まで耐えられる仕様となっています」



 わぉ、力技で食い止めてました。



「もういい!! 部屋に戻る!!」



 あーあー、勝てないからって逃げましたね。しかも、結局残していっちゃった。

 上のおかかだけ舐めていいですか? って、ボクは空気の読めるネコ型ホムンクルスなので、さすがに今はやりませんけど。

 残されたKJ001号がぼーっとしてて、どことなく寂しそうに見えましたから。


 彼女はニンゲンの食べ物は食べられないみたいですし、ボクもブロッコリーはちょっと消化できなさそうです。

 つまりこれって、ドクターのためだけに作られたごはんなんですよね?


 それなのにドクターってば、『察する』とか『気遣う』とか、そういうの一切できない男です。この歳まで友人や恋人もいなくて独り身なんだから、逆にお察ししてあげてほしいくらいですよ。


 ねえ? KJ001号──


「茹でたブロッコリーを冷蔵庫内で保存した場合の消費期限はおよそ60時間。明日の朝食でコンソメスープの具に使用いたします」


 あ、ただ残り物の使いまわし料理法を検索してたんですね。

 この方、結構メンタル強いってこと忘れてました。


「助手さん、こちらへ」


 ん? なんでしょう。

 KJ001号が棚からブラシを取り出して、ボクに手招きしています。


「最近、よく毛玉を吐いているでしょう。ブラッシングしましょう」



 ほほう、そういう作戦ですか……。


 べつに……ボク、そういうの求めてないですし?

 手招きされたからつい近づいてしまいましたけど……ネコの本能でつい指先を嗅いじゃっただけですし……。

 しかたなくお膝の上に、つい座っちゃっただけですし……。



 う~ん、これは。



 これはこれは……。

 ブラッシングとは……。

 夢心地というやつでは……。



 はっ! いけない、また篭絡されるところでした!


「助手さんが目を細めるのは、気持ちのいい場所なんですね。首の後ろと、尻尾の付け根がよさそうです。学習しました」


 あれ? KJ001号、もしかして……。

 今、ちょっと笑いました?


 ブラッシングされるボクがよっぽど可愛かったんでしょうか?

 やっぱり、近頃様子がおかしいのです。

 おかしいというか、最初と雰囲気が変わったというか……?

 なんででしょうね、ゴロゴロ。

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