0話 最強の美女型兵器、誕生!
固唾を飲んで完成を見守る、発明家 Dr.ヒラガと、助手のボク。
室内にレトロSF映画みたいな煙が充満し、もうもうと立ち込める中から現れたのは──
「Type-KJ001号、起動しました。初めまして、Dr.ヒラガ」
明るいブロンドのロングヘアーに、宝石みたいな青色の瞳。赤色の着物。
その上から割烹着を着た『最強の美女型兵器』でした。
***
「おおお、素晴らしい。完璧な出来上がりだ……。KJ001号、私のことはわかるな?」
「はい、Dr.ヒラガはわたくしの最高管理者です」
起動したばかりの彼女……KJ001号は表情も喋り方も硬く、いかにもアンドロイドという感じでした。
「そちらの座布団にいるのが、『ネコ型ホムンクルスの助手』さんですね」
ボクのほうもチラッと見た!
冷たそうな美人はちょっと怖いのです。
「よしよし、動作に問題はないようだな。さすがは私の発明品だ。ウッ……ウウウウ!!」
あっまずい!
病気が! ドクターのいつもの病気が!!
ボクのご主人様であるDr.ヒラガは『破壊衝動』という原因不明の奇病を患っていて、自称・発明家のくせに完成するとすべて壊したくなってしまうんです。
ドクターはそのへんに放置されていた市販の武器を取って、KJ001号に向けました。
「うおお、喰らえ、エネルギー砲!!」
「ドメスティック・バイオレンス! Dr.ヒラガじゃなくて、それじゃDVヒラガです! だめですよ!!」
青白いビームのようなものが、彼女のほうへまっすぐ飛んでいきます。
「あああ、危ないです!!」
と、ボクが叫んだそのとき。
声とほぼ同時に、瞬間移動みたいな速さでKJ001号はあっさりとドクターの攻撃をかわしていました。
今のは量子空間転移でしょうか。すごいハイテク!
たしかにこれなら、ちょっとやそっとじゃ壊れなさそうですね。
そう、ドクターは自らの奇病を克服するために、『壊そうとしても決して壊れない最強の破壊兵器』を造りあげたのです!
いやぁさすがですねぇと褒めようとしたのですが、なぜだかドクターはご立腹です。
「……なぜ避ける!?」
「絶対防御システムが搭載されていますので、攻撃を受ければ自動的に発動します」
「誰がそんな機能をつけたんだ!?」
「システムの最高管理者、Dr.ヒラガです」
「ぐぬぬぬぬ……」
そりゃそうだ。
傍から見ると完全にコントなんですけど、本人は気づいてませんね……。
「くそう、生意気だぞ! 私が造ったんだ。おとなしく私に破壊されろ!!」
ええー、なんて理不尽な。アンタがそういう風に造ったんでしょうが!
「わたくしはすべての攻撃を自動的に防御するようプログラムされています。エラーではありません。Dr.ヒラガの命令に従って正常に機能しています」
ド・正論。どうするんですかドクター。
「ぐぬぬぬ、喰らえ!! エネルギー砲連射!!」
言い負かされて八つ当たりを!?
めちゃくちゃかっこ悪いです、ドクター!!
「お屋敷が……! 自称・平賀源内から受け継いだお屋敷が壊れますよ、ドクター!」
「自称ではない! 私は天才の子孫だ!」
ボクのお気に入りの畳や縁側が壊れたら困ります。あと大きい音は嫌いなんです!
肉球で耳をふさいで目を閉じていると、最初はバキバキと鳴っていた音がなにやら小さく吸収されていくような……?
そうっと見てみたら、KJ001号がバリアーのようなものを出して壁や床を守っていました。
「全方位に防御装置を展開します。安心して演習を継続してください」
「演習じゃない!! ではこれならどうだ!?」
ちょっと!! 至近距離でロケットランチャーはやめてください!!
またしても一瞬でロケット弾を造り上げ、KJ001号にぶっ放すドクター。
「シールドに対砲弾衝撃吸収機能追加。制圧可能です」
が、やはりあっさりと敗北しました。ロケットランチャーくらいじゃ倒せないみたいです。さすが最強の美女型破壊兵器。
せっかく造ったエネルギー砲や弾を壊しながら、ドクターは床に突っ伏して悔しがっています。
「この私の技術力をもってして、傷ひとつつけられないだと……!! なぜだ……!?」
「あのぅ、そもそもですよ、ドクターは『絶対に壊せない兵器』を造るのが目的だったのに、積極的に壊そうとしちゃダメでしょう?」
***
いきなりお家騒動というか、家庭内の恥部を見せちゃって申し訳ありません。
いったいなぜ屋内でロケットランチャーをぶっ放す事態になっているのか──まあ、うちではこういうの日常茶飯事なんですけど。
せっかくなので、我が家の家庭環境を数日前からさかのぼってお話しましょう。