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学園編6

アリントン卿の元で剣の指南を受けて数日たったころだった。


あれから度々ゴブリン退治に出かけては、何匹ものゴブリンを殺しまわった。

アリントン卿はやけにゴブリンが多いとぼやいていたが、早いところトラウマを克服したかった俺にとっては好都合だった。


100匹もゴブリンを殺した頃には、俺のトラウマもどこかへ消えており、アリントン卿との手合わせでも普通に剣を打ち込むことができる程までに克服した。

とは言ってもアリントン卿との手合わせは元の実力差がありすぎて、指南を受ける前に比べてマシになっているのか、定かではないのだけど……。


「そろそろ、僕も城を開けなきゃならない。明日からは狩猟(ハンター)組合(ギルド)にでも行ってみたらどうだ?ゴブリン狩りは得意だろ」


「またゴブリン……勘弁してくれ……」


もうゴブリンは飽きたのだ……それに、放っておけば殆ど無害な彼らを探し出して、積極的に狩るのは殆ど弱いものイジメみたいで気分も良いものではない。


「いやね、丁度の僕の古い知り合いがこの辺りに来てるらしくてね。続きは彼に教えてもらった方が良いと思って」


「知り合い?」


「あぁ、あまり表に出てくるような男じゃないから名前は知られてないかもしれないけど……僕は彼こそがこの国"最凶"だと信じている」


アリントン卿を以てして最強と言わしめるとは、一体どんな方なのだろうか。

あまり乗り気ではなかったが、そういわれると興味が湧いてくる。


「ん?」


「ん?」


なんだか話がかみ合っていない気はするが、まぁ良いや。

丁度明日は休みだし、特に予定もないので、足を運んでみようか。


「その方の名前は……?」


「ロイ・マクファーレン」



**********



組合(ギルド)と言えば一般的には商人たちが作る商人組合(ギルド)のことを指すが、この王都には、そのほかに武具を作る職人たちで作られた工業(クラフト)組合(ギルド)と、魔物討伐を専門とする狩猟(ハンター)組合(ギルド)がそれぞれ1つずつ存在している。


狩猟(ハンター)組合(ギルド)は王都の外郭に存在しており、それは王都外で討伐した魔物を運び入れるのに適した場所だから、という事だけでなく、万が一、王都で有事の際は狩猟(ハンター)組合(ギルド)の労働者達が第一陣となり、敵勢勢力と戦うためだ。


組合(ギルド)がある周辺の家々には、軒先で槍や弓などの得物が干されており、王都の中心部とはまた違った雰囲気を醸し出している。



ログハウス風の建物のスイングドア押し広げて中へ入ると、そこはもう荒くれ者の巣だった。

ギルドの1階は殆ど酒場のようなもので、何グループかが卓を囲み、にぎやかに談笑している。しかし、俺が入った瞬間、彼らは一斉に談笑をやめ、ぎろりとこちらを睨みつけてくる。


魔物討伐は当然ながら危険と隣合わせの仕事だ。

そのため平民でさえ成りたがる者は少なく、行き場を失った者や、どこかから流れてきた者で構成されていることが殆どである。


そんな感じで成り手は少なく、仕事柄、人手が減ることもままあるという事も重なり、常に人手は不足しているらしく、平時には王国軍がその仕事の一端を手伝うこともあるという。

先日、アリントン卿に連れられたゴブリン退治もその一環なのだろう。


居心地の悪さを覚えて、すぐにでも帰りたくなったが、わざわざ外郭までえっちらほっちらとやってきたのに、手ぶらで帰るのは流石にきまりが悪い。さっさとマクファーレンという男を探して帰ろう。


「おいおい、貴族の坊ちゃんがこんなところに何の用だ?」


如何にもごろつき風の、額に無数の傷をつけた男が行く手を阻むように立ち塞がった。

……これは面倒臭いことになりそうだ。

先を思いやると、もう本気で帰っても良いかな、と思い始めたときだった。



「やめておけ、アルメリア卿のご子息だぞ」


階上から一際鈍重な声が響いた。


「ま、マクファーレン様……しかしアルメリア卿の坊ちゃんとは、失礼しやした!」


漆黒の鎧、漆黒の甲冑で全身を黒に染めた男が、ゆっくりと階段を降りてくる。

明らかに周りの者とは纏っている雰囲気が違う。決して大柄ではない体からは考えられないような、重厚な威圧感を放っていた。


「アルメリア卿は平民にとってはスターだからね。初めまして、ロイ・マクファーレンと申します。ギルバートから話は聞いています」


「あ……こちらこそ、トッド・アルメリアです」


アリントン卿を下の名前で呼ぶくらいなのだから、2人はやはりかなり親しい仲であろうことが読み取れた。


「ここじゃなんだから、奥に行こうか」


そう言ってロイはカウンターの奥へと案内してくれる。

しばらく細い廊下を抜けると、ソファーが対面に置かれたこじんまりとした部屋に通された。

机や、棚に飾られた盾は丁寧に磨かれており、この部屋の掃除をするものの几帳面さが透けて見えるようだった。


「すみません、皆の前では甲冑を取ることもできなくって……」


「いえいえ……おきに……ふぇ?」


甲冑を脱ぎ対面に座ったロイの姿に思わず目を疑い、すっとんきょうな声を上げてしまった。

髪こそ短めに揃えてあるが、各々パーツが絶妙な黄金比で成り立った顔は美しいとしか表現しようがなかった。


「じ、じじ、女性だったの、でしゅね」


もはやうまく舌が回っておらず、カミカミだ。

だって、それもそうだろう。あの鈍重な声の響きと、威圧感はこんな20そこそこの女性が出せるものではない。


「低い声は得意なの」


そう、はにかむロイはやっぱり美人だったが、得意不得意のレベルなのか、あれは。

もはや別人ではないのかとさえ疑いたくなってくる。


「ロイ・マクファーレンというのは本名なのですか?」


「もちろん、偽名よ。本当の名前は……な・い・し・ょ。もう少し仲良くなってからね?」


いたずらっぽく笑いながらロイはあっさりと告白した。

まぁ本名を伏せるのにはそれ相応の理由があるのだろうから、それ以上深くは追求しないことにした。


「それで、狩りに行く魔物なんだけど……」


「ゴブリンですか?」


きっとゴブリンに違いない。


「そんな雑魚じゃ面白くないでしょ?」


ごめんなさいそんな雑魚しか倒したことないです。


「ウィッチよ」


「は?」


思わず素の返事をしてしまう。なんかとんでもないこと言いだしたぞ、この女。

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