第八十話:外来異種の花火
ビルから持ってきた荷物を更衣室に預け、研究室の隅っこで膨張弾とガスを噴射するナイフの使用レポートを書く。
ちなみにレポートなんて今まで書いたことない。
なので、どういう"状況"で、どんな"外来異種"に対して、どう"使い"、どう"なった"のかを書いて御手洗さんに提出した。
ちなみに御手洗さんの反省文は運用時に明らかになった問題点とその対策についてビッシリ書かれていた。
これ反省文じゃなくてただの改善案……。
「なるほど、爆発……というよりも、膨張しすぎたせいで弾けてしまった感じですか。誤動作や暴発がなかったということは、一先ず成功のようですね」
「使用した結果が開発目的から遥か彼方の方向に飛んでいったのはいいんですかね」
こう、当てて相手の動きを止めてる間に逃げるとかそういうのを想定してたのに、今は傷口一つあればそこが爆発する悪魔みたいな武器になってるのだが。
「荒野さんのことですから甲種、もしくは大型の乙種への使用を想定していましたからね。だって、中型なら普通に弱装弾使えば解決する話ですから」
さらっと言ってるけど、何をどう考えたら甲種や大型の乙種と戦うことを想定することになるのか、これが分からない。
こちとら新世代でもなければ抗体世代でもない一般人なのだが。
「ちなみにあれ、材料って何使ってるんですか? 焦げる臭いとかしなかったので火薬じゃなさそうでしたけど」
「"おばけナメクジ"ですよ、乾燥させると物凄く縮むんで。だから相手の傷口に入れて血とか体液を吸わせて膨張させるんです」
外来異種を素材にして外来異種を殺す武器を作ったのか。
外来異種はいくらでも湧いてくる地球に優しいエコな素材、絶滅するまで狩っていこう。
……まぁ地球に優しいエコな素材で作られるものが非人道兵器なのだが、建前上は人に使わない物なので別にいいか。
「……ふと思ったんすけど、"おばけナメクジ"って梅雨になると腐るほど湧いてきますよね。これ、超安価な銃弾が量産できてしまうんじゃ……」
「あ、それいいですね。今って装薬が多い弾丸は駄目ってことになってますけど、膨張弾はそういうの関係ないですからね。うまくやればガスガンとか電動ガンで使えるかもしれないですよ!」
「余計にヤベーもんになってませんッ!?」
普通の銃は当たり所がよければ死なないけど、膨張弾はどこに当たろうがパーンだよ?
手とか足に当たったらもうそこ使い物にならないどころか下手したら千切れるよ!?
そんなものがガスガンとか電動ガンで撃てるようになったら日本の治安が爆発四散になっちゃう!!
このままここに居たら頭がおかしくなりそうだ。
俺は勲くんのお見舞いに行くぞ!
そして財布とスマホだけ持って都内にある大きな病院にある勲くんの入院している病室に来た。
「はい、これ入院見舞いね」
「ありがとうございます。でも、どうしてチキンラーメンが三十袋も……?」
「病院食だけじゃ足りないだろうと思ってね。俺が検査入院したときはメシもあんまり美味しくなかったし」
そう、奥多摩での騒動が片付きそうになった頃に久我さんの提案で勲くんを検査入院という名目で、雅典女学園系列の病院へ保護していたのだ。
俺は久我さんの子飼いというか秘密部隊の人員だから権力の庇護下にあるので大丈夫なのだが、勲くんにはそういうのがない。
ニュースで"外来異種瀬戸際対応の会"が取り上げられるというのは予想できていたことだが、そのトップである俺を見つけるために色々な手を使って勲くんを巻き込む可能性があった。
そこで、北小路理事長の力を借りて、ほとぼりが冷めるまで保護してもらうことになったのだ。
ちなみに不破さんは入院するくらいなら地元で休むとかいってギブスつけて北海道に帰ってしまった。
まぁあの人は俺のことを喋ったりしないだろうから大丈夫だと思うけど。
「お母さん心配してなかった? 俺の藁人形を作って丑の刻に神社に行くとか言ってなかった?」
「え、あ……むしろ怪我とかなくて安心してました。今度、お礼がどうのって言ってましたけど」
よし、セーフ!
社さんの奥さんに恨まれるのはちょっとキツイから、穏便に済むのならそれに越した事はない。
「失礼します」
控えめなノックと共に、女子高生が入ってきた。
「ゲッ……なんでお前が来てんだよ」
「なにって、別にお見舞いにきたっていいじゃん。ほら、これ」
え~っと……確か勲くんの幼馴染だったっけ。
彼女は手提げ袋をぶっきらぼうに突き出し、勲くんが受け取り中身を取り出す。
「なんだこれ? 弁当?」
「怪我か病気か知らないけど、ちゃんと食べた方が早く退院できるでしょ」
なんだろう……俺の心の奥底から、言いようのない何かが酸味と一緒に混みあがってくる。
多分胃酸だ、ストレスで喉の奥まで来てるんだと思う。
「じゃあ俺、お邪魔になりそうだから帰るわ。二人共お幸せにッ!」
「いやいやちょっと待ってくださいよ! なんでせっかく持ってきたチキンラーメンを持ち帰ろうとしてるんですか!?」
「うるせぇ! 彼女の手作り料理を食べる奴にこれを食う資格はねえ!」
「いやおれチキンラーメンの方が好きですよ!?」
なんて贅沢者だ!
これだから最近の若い者は!!
まぁ一度渡した物を取り上げるのは大人として恥ずかしいので、決して自分が逆に惨めに思えるからではないので、そのまま返した。
へんっ、チキンラーメンの塩分で幼馴染の手料理の味が分からなくなってしまえ!!
取り敢えず二人の逢引的ななんかあれを邪魔しないためにさっさと外に出る。
さて……どうしよっか。
研究所に戻ってもなぁ、あそこ防諜のために小規模コロニー化させてるから電波が届かない、つまりスマホで暇を潰すことができないのだ。
あと霧の狼が怖い、通路を通るたびに殺しにかかるもん。
よし、鳴神くんに電話して遊ぼう。
違った、一緒に遊ぼうって電話しよう。
スマホを取り出して履歴から電話をかけると、十回以上コールしてからようやく電話に出てくれた。
『…………なんでしょうか』
なんかすげぇ不承不承な声色の応答が返って来た。
「いや、やることなくて暇だから暇潰しに誘おうかと」
『今日平日で、オレ今仕事中なんですけど』
「じゃあ天月さん誘うわ」
『牧さんも忙しいから無理ですよ。せめて休日にしてください』
そう言って電話を切られてしまう。
上等じゃねぇか!
こうなったらギャル男になって天月さんに粉かけまくってやる!
……粉をかけるってなんだろ、きな粉とかでもいいのだろうか。
ギャル男………粉……花粉?
ほら、花粉って要はおしべとめしべのアレコレなわけだし。
つまり、粉をかけるということはえっちな隠語だったということだったんだ!
……アホなこと考えてないで天月さんに電話しよ。
粉はかけないけど、なんか暇だしフィフス・ブルームの仕事振りを外から見て野次飛ばすくらいは許されるはずだ。
そして天月さんに電話をかけると、こちらも大変な案件があるという返答が。
天月さんは二課で調査を担当してるけど、新世代としての能力があれば楽勝な気がするのだが、気になったので現地を教えてもらってそこに向かうことにした。
都内にある自然公園、平日でもそれなりに人がいるはずのその場所にはフィフス・ブルームの人達しかいなかった。
「荒野さん、こっちですよ!」
「天月さんその名前はちょっとヤバイっすよ!?」
「ご、ごめんなさいっ! えっと、じゃあ……フトシさん?」
フトシって、前に皇居で外来異種のテロがあったときにやった小芝居のときの名前か。
よく覚えてたなぁ……腹を見て言ったわけじゃないはずだ、うん。
「はい、あなたのフトシです。それで、なんか仕事が大変だとか言ってましたけど?」
「実は通報があったので調査をしていたのですが、その……手出しができないというか……」
人質でもとられたのなら身代金代わりに膨張弾を叩き込むのだが、残念ながら外来異種はそういうことをしない、本当に残念である。
天月さんが上の方を指差したのでそちらを見てみると、ヘビのような何かが空を泳いでいるのが見えた。
「中国で発見された丙種"气体畢方"です。体内で空気よりも軽い可燃性のガスを作って浮いていて、口の着火器官と組み合わせることで獲物を焼く珍しい外来異種ですね。ちなみに体の横に羽のようなものがあり、これで空中での動きを制御しているらしいです」
おぉ……流石は二課の切り札とも言われている天月さんだ。
アプリを使えば外来異種の名前は分かるけど、生態とかまでは流石に分からない。
「それで、あれの何が問題なの?」
「お恥ずかしながら、駆除ができないので監視することしかできないんです」
駆除できないって、なんでじゃろ?
確かに高い位置にはいるけど、銃を使えば一発ではなかろうか。
「もしかして、銃を使うと大爆発するってオチ?」
「いえ、体長から計算して体内のガスに引火しても大丈夫です。ただ、その銃をここで使えないんです。やはり街中で銃を使うというのは一般の人にとって脅威であったり、流れ弾などの危険性もありますから」
め……めんどくせぇ!
そんなことまで考えて駆除しないといけないのか。
……考えないといけないか、それが銃を使うってことなんだから。
「じゃあ弓矢は?」
「銃に比べれば一般の人への心理的ハードルは低くなりますが、空に射って通行人のいる場所に落ちる可能性を考えるとちょっと……」
「じゃあ投石!」
「石も当たり所が悪いと大変なことになりますので駄目ですね。そもそも、届くかどうかも……」
なるほど、確かにこりゃ面倒なお仕事だわ。
例え自分の仕事道具があっても手出しできそうにない。
うんうんと唸りながら頭を身体ごと捻るが、なんの案も出てこない。
そして肝心の"气体畢方"は呑気に優雅に空中をフラフラと泳ぎながら軽く火とか吹いてたりする。
なんかあそこまで我が物顔だと腹立つな。
「……あれ? あいつって体内でガス作ってるんだよね? それじゃあ浮きっぱなしっていうか、どんどん上に昇るもんじゃないの?」
ここで見ている限りではビルの五階程度の高度を維持している。
そこに何か引っ掛かりを覚えた。
「はい、確かに体内でガスを作り続けていたら際限なく上昇してしまいます。だから口やお尻から出して調節してるんですよ」
「つまり……口と下の口から屁をこいてるってこと?」
「そ、そういうことになるのかな……?」
ふむふむ、そんで銃はもちろん弓矢とか石も人を怪我させるから駄目と。
「それなら何とかなりそうかな」
「えっ!? ど、どうやってですか?」
「なんとかするから、ちょい十分か二十分くらい時間もらっていいっすか」
そう言って現場から離れて近くにある大きなオモチャ屋に向かう。
必要なものを買い揃えて、ついでにダンボールとかも貰ってきて戻ってきた。
「お待たせしましたぁ! ご注文のロケットランチャーです!」
「た、頼んでませんよ!?」
いいや、鳴神くんに頼まれたんだ。
牧さんが困ってるけど助けにいけないオレの代わりに何とかしてくれって。
そんなことは言ってないけど、きっと心の中でそう思ってたんだということにしておこう。
思ってなかったら彼女に苦労ばっかかけるヒモ男ってなじってやる。
「あの、こう……フトシさん? 何をするつもりですか?」
「要は銃の場合は弾が、弓の場合は矢が他の人に当たったら危ない。なら、当たっても大丈夫なものを飛ばせばいい」
天月さんや他の隊員に心配そうに覗き込まれながら、準備を進める。
ダンボールは円筒状にしてガムテープで固定する。
次にオモチャ屋で買ってきた大量のロケット花火をそのダンボールに詰め込む。
おっと、当たったらくっつくようにロケット花火の先に瞬間接着剤もつけとかないと。
そうして完成したのが三十発同時発射のロケット花火ランチャーである。
「狙い、ヨーシ! 角度、ヨーシ! それじゃあ誰か、着火お願いします」
そう言って持っていたオイルライターをフィフス・ブルームの人に渡す。
そして言われるがままに後ろから点火し………回避不能なロケット花火の弾幕が"气体畢方"に飛んでいった。
いくつかのロケット花火は外れたが、いくつかのロケット花火は"气体畢方"に着弾し……ロケット花火と共にド派手な音と共に散っていった。
"气体畢方"は可燃性のガスを使って高度を調節している、ならばそのガスに着火させれば体内のガスも一緒に引火し、体内から爆発するというわけだ。
俺は天月さんの側に向かい、空から降り注ぐ"气体畢方"の体液から守るためにダンボールを頭の上に掲げる。
おかげでこちらに被害はまったくなかった。
「よし、これで解決!」
気持ちよく終わったところで、後ろからフィフス・ブルームの人達から肩を叩かれた。
ダンボールの傘に入れなかった彼らの制服には、"气体畢方"のアレコレが付着していた。
「ッスゥー…………違うんだ、こんなはずじゃ……」
彼らの目を見て、俺はなんかサスペンスでつい人を殺した犯人みたいな台詞しか出てこなかった。
「いえ、別に怒ってないですよ? あのままずっと監視してたらいつまで経っても仕事が終わりませんでしたから」
「ゆ、許された……!?」
「でも事前に一言、そして今なにか一言あってもいいんじゃないかなって」
「すいませんっしたぁ!」
取り敢えず被害にあった方々には両手を合わせて深く謝った。
そうだよね、やるなら先に言うべきだったよね。
いつも俺一人で仕事を完結させてるからそういうの慣れてないんです、ごめんなさい!




