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第二十七話:不可避の予知

【未来 六華サイド】


 夢を見た、大きな怪物に追われる夢だ。

 あたしとあの人が一生懸命に走っているのだけど、悪夢だとは感じなかった。

 二人で手をつないで走り、最後はあの人があたしを抱きしめる。

 あの人の早まる鼓動が伝わり、あたしの鼓動もつられて早くなる。

 そして怪物は魔法がかかったかのように倒れてしまう、まるで映画のワンシーンのようだった。


 目が覚めて、あれは予知夢だったのだと気付いた。

 いつ起こるか分からない未来のお話だけれども、あの時に感じた体温は本物と同じだった。

 もしかしたら、あれは明日にでも起こるお話なのかもしれない。


 あたしは水無瀬さんと九条さんを起こして、朝の支度を始める。

 先ずは朝ごはんを用意して、色々な人達に配る。

 次に怪我をしている人達の様子を見るのだが、そういった人達はもう別の場所に移送されているので、今はもうやらなくてよくなった。

 それからはゴミ出しをしたり、飲み物を働いている人達に渡しにいったり、細々とした仕事をしている。

 それと、夢で気になってしまったので荒野さんの所に向かったのだが、見つからなかった。

 鳴神さんや天月さんもいないそうなので、もしかしたら一緒にお仕事に向かったのかもしれない。


 少し日が高くなってきた頃、皆がTVに注目していた。

 あたしも気になって見てると、そこには大きな怪獣みたいなものが争っているシーンが映し出されていた。

 どうやらTV局がヘリを飛ばして、その様子を生中継しているらしい。

 争っている怪獣の一匹…亀の方は、あたしが夢で見たものと似ているやつだった。

 TVを見ている人達はどっちが勝つか議論していたけれど、ほとんどの人が大きな亀の怪獣が負けると予想していた。


「いやぁ、やっぱ数が多いと強いな。亀の方も頑張っちゃいるが、ありゃ無理だ」

「あっちこっちやられながら食い返してるけど、どうしようもねぇな」


 確かに無数の外来異種に襲われながら、怪獣のようなヤドカリにも攻撃されてるのだからそう見えてもおかしくない。

 だけど、あたしには結果は分かっていた。

 分かってはいたけれど、それでも大迫力の戦闘シーンに目を奪われたあたしは、しばらくTVを眺め続けていた。


 それからしばらくして、服がボロボロになった荒野さんに鳴神さん、それに天月さんとフィフス・ブルームの女の人が駅に入ってきた。


「ようやく一休みできますね……お疲れ様でした」

「そっちはまだいいでしょ。俺なんてずっと運転しててクッソ眠いんだけど!」


 やっぱり荒野さんは夜でも一生懸命に働いていたみたいだ。

 しかも日本一とも言われているフィフス・ブルームの人達と一緒に仕事しているなんて、本当に凄い人だ!


「皆さん、お疲れ様でした。どんなお仕事をしてらしたんですか?」


 気になって質問してみると、四人共すごく微妙そうな顔をしてしまった。

 なんだろう…秘密作戦とか何かかな?


「まぁ避難誘導……みたいな感じ?」

「言いえて妙ですね」


 荒野さんが説明して、鳴神さんがそれを聞いて頷いた。

 こんなにもボロボロになりながらも人助けをするなんて、やっぱり凄い人達だと関心する。


「あっ、そうですね! 甲種が戦ってるから、近くにいる人達を避難させないといけないですもんね」

「いや…元々あそこに甲種がいたわけだから、とっくに避難してるはず……」

「鳴神くん、ストップ! えっと…ほら、それでも逃げ遅れた人達がいないか確認しに行ってたわけだからね!?」


 もしもの時に備えてそこまで行動するなんて、本当に勇敢だ。

 そんな風に話していると、荒野さんがTVに映っている映像に気付いたようだった。


「うわー、やってんねぇ。鳴神くんはどっち勝つと思う?」

「枯渇霊亀は食べることで再生できますが、いつかは限界がくると思います。そう考えれば、文字通り万の大軍で攻めながら攻撃できる万魔巣が優位かと。荒野さんは?」

「アメリカの映画で、毎回カメの方が噛ませになってるからカメが負ける」


 う~ん、やっぱり亀のモンスターが勝つとは思っていないみたいだった。

 他の人ならどう言っても気にしないけど、荒野さん達には教えておいた方がいいかもしれない。


「荒野さん、亀の方が勝ちますよ。夢で見ましたから!」


 それを聞いて、荒野さんと鳴神さんは凍りついたかのような顔になってしまった。


「えっと、未来さん……それは本当に…?」

「いやいや…予知夢はあくまで未来の一つを見てるわけだし……そんな、まさか……」


 二人共信じられないようで、明らかに動揺しているのが見えた。

 あたしは二人に信じてもらう為にも、根拠のひとつを言う。


「あたしの予知夢は、あたしが関われることなら変わることもありますけど、そうじゃないものは絶対に変わりませんよ」


 それを聞いた二人は疲れた顔をしながらもう一度TVに視線を移す。

 大きな亀の怪獣の尻尾は千切れ、手足をもがれ、多くの外来異種に襲われていた。

 それでも勝つことを、あたしは確信している。


「取り敢えず休みましょうか!」

「そう…っスゥ……ねぇ…!」


 あたしは荒野さんと鳴神さん、そして天月さんと紹介してもらった軽井さんに付き添って、仮設ベットの場所まで案内する。

 途中で何度も荒野さんのお腹が鳴ったのでご飯を食べたらどうかと提案したけれど、何よりもまず眠いということだったので、あとで差し入れを持っていこうと思う。


 そして昼頃になると、だいたいの人はTVから離れていた。

 最初こそは怪獣同士の戦いということで見ていられたのかもしれないけど、ずっと変わり映えしないシーンのせいで飽きてしまったようだ。

 ただ、あまり見ていなかったあたしは、少しばかり違和感を感じていた。

 よーく見てみると、亀の甲羅にヒビが入っていたのだ。

 そこから更に外来異種が入り込んでいるようで、体液がとめどなく流れ出ている。

 それでもきっとあの亀が勝つのだろう。


 夕方…起きてご飯を食べていた荒野さんが、不破さんに連れて行かれてしまった。

 周囲の駆除はもうほとんど終わり、今はコロニー化した建物の掃討をしているそうだ。

 深度が低いから楽勝だと不破さんは言っていたけれど、ちょっとした油断でも死んでしまうのだから、気をつけて仕事をして無事に帰ってきてほしい。

 それと、自衛隊の派遣が決定したとのニュースも流れていた。

 これで一安心かと思ったけれど、人員や装備などまだまだ決まってないことが多く、作戦を練っている最中らしい。

 駅の近くにいる人は電車で石川まで避難して、空港の近くのいる人は各地に避難してもらっているけれど、自衛隊が来る時にはほとんどの避難が完了してるかもしれない。

 あたしはいつまでここに残ろう…予知夢の事もあるし、荒野さんと一緒に帰れればいいなぁと思う。


 夜……沢山の人が疲れた顔をして帰ってくる。

 ご飯の用意や掃除のお仕事が舞い込んで来て大忙しだ。

 クラスの皆も手伝ってくれたおかげで、比較的早く仕事が終わった。

 途中で関係のない人達もご飯を貰いに来たりしたけど、フィフス・ブルームの人達が追い出したおかげで何もなかった。

 あと、鳴神さんや天月さんとよく一緒にいる軽井さんとお友達になった。

 色々な事を教えてくれる良い人なんだけど、イタズラ好きでもあった。


「未来ちゃん、気をつけてね。荒野さんは私の服を剥ぎ取るようなやつだから」

「ええええええ!?」


 こんな感じで、冗談かどうか分からないことをよく言ってくるのだ。


「まぁ外来異種の体液がついたから脱がしてくれただけなんだけどね。…でも、その時の彼の眼は獣のようだった」

「は…はわわ…あわわわ……」


 本当かどうか聞きたい気持ちもあるけれど、それを問い詰める前に軽井さんはどこかに行ってしまった。

 あとで荒野さんに聞かないと…!

 そしてTVでは、たまに二匹の甲種について中継をしていたりする。

 相変わらず亀のモンスターは襲い掛かる外来異種を食べて再生しているが、満身創痍だった。

 ヤドカリのモンスターは前足が一本無くなっているものの、まだまだその数は残っていた。

 ……気のせいか、亀を襲っていた外来異種の数が減っているような気がする。

 続きは気になるけれど、明日もまた皆を手伝う為に早く寝ることにしよう。



 翌日の朝、TVの生中継で甲種がどうなったかが放送されていた。

 あれだけいた外来異種はまったくいなくなり、後に残されたのは二つの大きな死骸だった。

 大きな亀は甲羅がひび割れており、そこからよく分からない触手や部位がはみ出ていた。

 そしてヤドカリの方は何十本とあった足がもう片手で数えるほどしか残っていなかった。

 どちらも静かに川の上で佇んで……否、どちらもまだ生きていた。

 ヤドカリのモンスターは少しずつその場から逃れるように足を動かし、亀のモンスターはその足に喰らいつきながら咀嚼していた。

 少しずつ…少しずつその咀嚼が進み、遂にはヤドカリの身体へと辿りついたその亀は、今までやっていた事と同じように、その肉体を食べ始めた。


 食べるごとに肉体が再生していった、食べる部位が少なくなるほどにその肉体は変質していった。

 欠けた甲羅は戻ることはなく、されどその穴からはナニカの部位がせり出ていた。

 まるで進化の過程をその目で見ているかのような、それでいて言葉にできないおぞましさを感じた。

 もしもあの怪物が全てを食べきった時…アレはいったい、何になるのだろうか……。

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― 新着の感想 ―
[一言] あー、どうでもいいけど早いはタイミング、速いは動作。 歌なんかで早まる鼓動とか書いてるけど、あれはねー。速度だから速まるが正解っぽいんだけど、割とごっちゃに使われている。脈は速い一択なのに。…
[良い点] 我はヤドカメ。 コンゴトモヨロシク。
[一言] 最初の大地震の時のように 日本中の現場の隊員さんたちは、 準備を済ませて 出動命令は今か今かと 覚悟して待っているんだろうな そして「遅い!」と言う世間のクレームを 現場の人が一身に受ける…
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