第五話 『剣王』の願い
主人公が次に目を覚ますと薄暗く、周囲が石で作られた部屋であった。
体は椅子に縛られ、手首も縄で縛られて身動きが取れない状態だった。
「あれ....ここは、何処だ?」
主人公は周囲を見回すが、正面と後方に一枚だけ扉が有りそれ以外は石で囲まれた部屋だった。
すると正面の扉が開くと、誰かが入って来る。
直後、『パチッ』と言う音が響くと部屋が少し明るくなる。主人公が細めた目を開けると正面には、剣を帯刀した人物が立っていた。
「目を覚ましたか、最後の『王』よ」
「貴方は....?」
「これは失礼、俺の名前は『剣王』。『魔王』『国王』と同じく『七王』の一人だ」
「『剣王』....っう....!」
主人公は突然、頭痛に襲われたがすぐにその痛みは引いた。
「突然、誘拐じみた事をしたのは謝る。それに拘束しているのは後ほど解くが、俺の話を聞いてもらうまでは、そのままでいてもらう」
「その話が終わったら解放してもらえるって事....ですか?」
恐る恐る主人公が『剣王』に確認をすると、『剣王』はゆっくり頷いた。
「それで話というのは........結論から言うと、俺を『王』として認めて貰いたい」
「??」
暫く間があった後に『剣王』が突然、結論から話した事が主人公は話に流れが分からず、困惑していた。
その様子を見て『剣王』は両腕を組み、暫く唸るように考え込んでから再び口を開いた。
「俺を『世界王』として欲しんだ!」
「はぁ....?」
「だから、俺を『王』として認めて欲しんだ!」
そう『剣王』が言い切った数秒間、沈黙がその部屋を包んだ。
その沈黙を破ったのは、主人公だった。
「いや....あの〜話の流れが分からないんですが....もしかしてですけど、考え事を口に出すのが苦手だったり....」
と主人公の問いかけたのと同時に『剣王』が力強く二回頷いた。
その顔は何故か、誇らしそうにしていた。
「な、なるほど....」
主人公は『剣王』が少し満足した顔をしているのを見て、この人と会話をするのは疲れるだろうなと決め付けていた。
そして小さくため息を漏らしてから、主人公は『剣王』に対して一からこの状況に至るまでの経緯を聞き始めた。
◆
「ふぅ〜、やっと理解出来ましたよ」
「お前凄いな! 俺の言いたい事が手に取るように分かるのな! 流石、最後の『王』だな!」
主人公は少しぐったりした様子だが、一方で『剣王』は主人公と打ち解けたのか、最初の頃より少し気さくに話していた。
「(この人、考え事を口に出すのが苦手じゃなくて、ただの人見知りだったのかよ....)」
主人公は深いため息を漏らし、『剣王』のから聞いた話を振り返りだした。
◆
『剣王』は『魔王』と同じく主人公を最後の『王』だと認識し、認められる為に誘拐したのだった。
元々は、『国王』の国へ連れ帰る予定だったが、自分の願いを叶えて貰いたい欲が勝ち、途中で見つけたこの廃墟に入り込んでいた。
『剣王』の願いは、今の強さをリセットして欲しい事だけだった。理由は、再び一から強者と戦い頂点を目指したいからだった。
◆
「そう言えば、何で今の力を手放して、頂点を目指したいですか?」
その問いかけに『剣王』は目を輝かせながら答えた。
「もちろんそれはだな、あのスリルと優越感・達成感を味う為だよ!」
その答えは、主人公には理解出来ない事で固まっていた。
「強者に剣一本で挑み、殺すか殺されるかのあの感覚、そして強者に勝った時の優越感! そして、全ての頂点に立った時の達成感もさっっっっいこうにいい!! あぁ〜あの感覚は忘れられないだ〜」
うっとりしながら主人公に語る『剣王』は、主人公の反応を見る事なく話し続ける。
「一日たりとも忘れた事はないんだ! だが、今じゃ俺より強者も全くいない、戦いのスリムも味わえない。そして、『王』になった今も満たされない日々が続いてるんだ。こんな辛い事はない」
『剣王』は帯刀していた剣を抜き、正面に持って来て剣を見つめた。
「俺はまた、一から頂を目指したいだけなんだ。それ以外に願いはない。それだけの為に『世界王』になりたいんだ」
すると『剣王』は剣を主人公を縛っていた縄と手首の縄に当てると縄が切れる。
「だから、俺を『王』として認めてくれ」
真剣な表情で頼まれた主人公だったが、一つ申し訳なさそうに答えた。
「その〜貴方の理由は分かったんですが、俺自身どう認めていいとか、どうすれば『世界王』にさせられるとか分からないんですよね....」
その答えに、『剣王』はキョトンとした顔をして主人公を見つめた。その状態が数秒間続き、気まずい雰囲気になる。
すると『剣王』がゆっくり主人公に背を向けて扉の方に歩いて行く。そして急に振り返った。
「えっ! 分からないの!?」
「あっ、は、はい....」
突然の大声にビックリする主人公。一方で腕を組み周囲を歩き回る『剣王』だったが、何か思い付き立ち止まる。
「分かった! 認められるという事は、俺の力を君に認めてもらう事だろ!」
そう言うと、主人公に一気に迫って来て同意を求められたが、主人公は曖昧な返事で流した。
だが、『剣王』はそうであると思い込み、完全にその方法だと確信していた。
すると『剣王』は主人公の正面の扉を開けて何処かへ行ってしまう。主人公は、その間に真後ろの扉から逃げようとゆっくりと立ち上がった時、『剣王』が様々な武器や袋を携えて戻って来た。
「こんだけ有れば良いだろ」
その場に『剣王』は持って来た物を全て地面に置いた。
「何ですか、それ?」
主人公は逃げるのがバレたのではないかと思いながら、慌てて質問し様子を伺った。
すると『剣王』は物凄い笑顔で答えた。
「俺と戦う用の武器とか防具とか色々だよ。ここに来た時に色々あったから集めておいたんだ」
「何故、武器を?」
主人公はあえてその質問を投げかけた。自分の中では何となく予想が付いたが、その答えでない事を祈りながら質問していた。
だが、返って来た回答は、主人公が想像していた最悪のものだった。
「それは今から俺と戦って貰うんだよ。そしたら俺の凄さが分かるし、力を示して認めた事にもなるだろう?」
「いや、でもそれは、流石に難しいんじゃないかな〜....現に貴方は『剣王』と呼ばれてますし....戦った所で力の差が大きすぎる気が....」
主人公は何とか戦闘を回避しようと説得し始める。
「いや、そんな事ないだろ。俺は見てたんだよ、君が魔王城で人間擬きを素手で圧倒するのをさ」
「?」
主人公は『剣王』が言った言葉の意味が理解出来ずにいた。主人公はその時の記憶が曖昧で自信がそんな事をした記憶がなかったのだ。
「何にしろ、武器を選びなよ。それに、もし死にかけても問題ないよ。『国王』の国には『救王』がいるし、アイツならどんな状態だろうと救ってくれるからさ」
「(死にかけって....これはもう逃げられないか....)」
主人公は覚悟を決め生唾を飲み込み、目の前に散らばっている武器を選び始める。
その中で剣以外のとある武器を見つけた。そして主人公は一か八かの作戦を思い付き、実行に移す為に『剣王』の方を一旦目線をずらす。
「あ〜何か、久々にワクワクするな〜これで俺の力が認められれば、願いが叶うのか〜」
その時『剣王』は浮かれており、主人公の方は見ていなかった。それを見逃さず、主人公は手提げ鞄に入っていた黒い筒のピンを引き抜き宙に放り投げた。
「ん?」
筒が視界に入った『剣王』は目線を筒に向けると、主人公が奥の扉に向かって走り出していた。すぐさま『剣王』は自らの剣で止めようと抜刀した瞬間だった。
宙に浮いた黒い筒が、雷の様に光る。そして少し遅れて大きな破裂音が響き渡った。
主人公は背中からの爆風に少し押され、飛び出す様に部屋を出ると左右に開けた廊下に出る。勢いについて行けず、つまずき転ぶがすぐさま立ち上がり左への方へと走り出す。
「(想像していた以上の威力だな、あれ! とりあえず振り返らずに走って逃げるのみ!)」
主人公はここが何処で、出口が何処かも分からないまま『剣王』から逃げる為に走り出す。
一方で主人公がいた部屋の入り口は爆発の影響で天井からの瓦礫で埋まっていた。が、瓦礫が奥から吹き飛んで来た。
そこから剣を握りしめた『剣王』がゆっくり歩いて出て来る。特に怪我を負っておらず服に着いた埃を払っていた。
「まさか、不意打ちの様に始めるとはびっくりだ。だけど、これも最後の『王』が考えた不意打ちに対応できるかの確認なんだろう」
『剣王』は主人公の行動を勝手に試されていると受け取り納得していた。そして廊下にて準備運動をし体の筋肉をほぐした。
「さて、次は探索能力と言うわけか。事前にこの迷路の様な場所は把握しているから問題ない」
そして『剣王』は左右どちらかに行くのではなく、正面の壁に進むと剣を壁に当てると斬ると言うより、剣先を流し通り抜けられる穴が空いた。
「さて、まずは出口の方に行ってみるか」
◆
主人公は、迷路の様な通路を直感のまま走って進み続けていたが、息が切れて壁に寄りかかって休憩していた。
「くっ...そぉ....はぁー....はぁー....何だよここ....マジで迷路だな」
進んでも進んでも同じ様な分かれ道が続き、景色も石の壁があり、所々に壊れた扉などがあるのみだった。
主人公の手元には、勢いで拾って来た一本の剣と手提げ鞄があった。手提げ鞄には、三個の煙玉と黒い筒のバグ弾が一個入っていたが、今では黒い筒のみだけだった。
ここまで来る途中、来た道や選ばなかった逆の道に煙玉を投げ込んで来て、簡単に追跡されない様にしていた。
主人公は息が整うと、再び進み始める。そして三つの分かれ道を越えると奥に、上へ続く階段を見つける。
「あれは!」
階段を見つけるや否や走り出し、階段に近づいた瞬間だった。右側の壁の一部が主人公の目の前をかすめて吹き飛んで行った。
突然の事に主人公は足を止め、壁が飛んで来た方に顔を向けるとそこには、『剣王』が立っていた。
「ここにいたか」
そして主人公の前に立ち塞がった。すぐさま主人公は、手提げ鞄に手を突っ込み後退りし始めた。
「これで探索能力の確認はクリアかな? それじゃ次は俺の剣捌きを見てもらおうかな!」
そう言って勢いよく踏み込んで来た『剣王』の振り上げた剣を主人公は、寸前でかわすとすれ違う様に黒い筒を投げ込んだ。
「同じ手は二度は効かないか、の確認だね」
『剣王』が振り上げた剣は、次の瞬間には主人公の投げ込んだ黒い筒が真横に真っ二つになっていた。そして主人公が瞬きした後には、更に縦に真っ二つに斬り裂かれていた。
「っ!」
その後剣は、主人公の胴体目掛けて振り抜かれるが、体をくの字に曲げ避ける。『剣王』は避けた事に驚いていた。
そのまま後退した主人公は、持っていた剣を構えた。
「(勢いで構えちまったが、どうしよう....)」
自分でもまさかの行動で、次にどうするか全く考えておらず、頭をフル回転させてどうするか考えていた。
一方『剣王』は、自身の剣撃を一度とならず二度もかわされた事に驚き、ニヤつき始めていた。
二人は暫く動かずにいたが、先に動いたのは『剣王』だった。
「っ!」
『剣王』は一瞬で主人公の懐に入り込み、剣を振り上げた。が、主人公はその一瞬の移動も目で追えており、剣で振り上がって来た攻撃を自身の剣で押さえつける。そして剣がぶつかり合った事で金属音が響く。
「流石、最後の『王』だ! 俺の剣撃も見切り、止めるとは驚きだ。少し手を抜いていたが、これは殺しに行く気で来いと言う事だな!」
そう言って剣を押し切り、一旦距離を取った。
「な、な訳ないだろ! 偶然受け止めただけだし、斬られたくないから避けてるだけだ!」
「避けようと思っても普通の奴は避けられない。止めようと思って止められる攻撃ではないんだけどね。やっぱりそこは最後の『王』の力かな」
主人公の言葉も『剣王』は勝手に解釈して再び距離を詰める。主人公もその行動に反応に剣で攻撃を防ごうと構えた。
だが、その瞬間には『剣王』は既に剣を振り抜いていた。直後、主人公の構えた剣先が斬り落ちた。主人公は、すぐさま剣を手放し咄嗟に両腕を顔の前に出した。
そして『剣王』は、振り抜いた勢いを使い踏み込んだ右足を軸にその場で一回転して、主人公の顔目掛けて真横に振り抜いた。
剣先は主人公の両腕を斬り裂いた。『剣王』は感覚的に腕を斬り落とした気でいたが、主人公が顔の前に出した両腕は残っていた。
「っ!?」
主人公の両腕には剣が斬り抜いたと思われる切り傷があったが、それは服は斬り裂いたが、腕にはとても浅い傷のみだった。
まさかの光景に『剣王』は動きが止まってしまう。その隙に主人公は、背を向けて全力で走りその場から逃げ出した。
「....ど、どう言う事だ? あの感覚は完全に斬り落とした感覚だったが、何故切り傷しかついてない....」
『剣王』はその場に固まったまま考え込んでしまう。今までに自身の感覚が間違った事がないだけに大きく動揺していた。
暫くして地面に線の様に薄く何か光る物が目に入った。その場に屈み掴み上げた。
「....糸....か?」
◆
主人公は一度も振り返らずに息が続く限り走り続けた。そして息が続かなくなった所で止まると、そこで初めて後ろを振り返る。
そこに『剣王』の姿はなく、先程の場所も何処かも分からないくらい思うままに必死に走って来ていた。その場で、主人公は片手を壁に当てて、中腰で屈む様にして息を整え始めた。
「(な、何がどうなってんだ....)」
息を整えながら先程『剣王』に斬られた両腕を見る。そこにはただの切り傷しかついていない。
「(斬り損じた? いや、そんな表情じゃなかったし、アイツがそんな事するとも思えない....っ?」
主人公は両腕の切り傷を見ていると、細い何かが付いている事に気づき、それを取り上げる。手に取ると薄く目を細めるとなんとか見える程の糸だった。
「何だ....これ?」
暫くするとその糸は溶ける様に無くなってしまう。そして両腕の斬られた箇所の服の内側を見ると、もう数本同じ様な糸が付いていた。
「何で糸がこんな所に....」
主人公は眉をひそめて考えていると奥の通路から誰かが近づいて来る足音が聞こえる。
主人公は動く事はせず、その場で身構えた。そしてその人物が主人公の前に姿を現した。
「やっと会えた....」
その人物は上着のポケットに手を突っ込んだまま近付いて来た。姿は『剣王』ではなく、見知らぬ人だった。主人公は、質問もする事なく相手の動きに警戒していた。
「そう警戒しないでほしいな。俺は君をあの『剣王』から助けに来たんだからさ」
「?」
主人公の警戒が少し緩むと、その人物はポケットから両手を出して名乗った。
「俺は『ジダイ王』。あの剣しか興味がないヤロウと同じ『七王』の一人さ」