第二話 秘めし力
コウカに自分の名前が主人公だと告げた青年だったが、その場で追及はされることはなく、ひとまず村の中へと招かれていた。
村は周囲を固い壁でぐるっと囲われており、櫓が村の二箇所の入り口に建っており、主人公が想像していたよりしっかりしている村であった。
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「おぉ! コウカ、無事に戻ったか心配したぞ」
「まぁね、今回はかなり危なかったけどね」
そう言ってコウカに近づいて来た強面の男性は、軽く肩を叩いて後ろにいた主人公を見つめた。
「それでコウカ、あの子は誰だ? 村の奴じゃないだろ?」
「俺は……」
「あの人は、逃げる途中で助けてくれたんだ。だからお礼も兼ねて一緒に来てもらったんだ」
「そうか、そうか! うちの娘を助けてくれてありがとうな! え〜っと名前は……」
コウカに近付いた男性は、コウカの父親であった。
そのまま名前を尋ねられ言葉に詰まっているとコウカが代わりに答えた。
「父さんその人、記憶喪失らしくて名前が分からないんだよ。あんまり迫らないでよ、父さん雰囲気怖いんだから」
「そうだったのか、すまんな。それと、コウカ父親に向かって怖いなんて言うな。父さん悲しいぞ!」
コウカの父親は強面ながらも娘には弱いのだとその時に主人公は感じとった。
するとコウカが父親をどかし近付いて来ると、そのまま腕を握って連れて行かれる。
「お礼とかは私がするから、父さんは何もしないでね! 何かしたらお母さんに言うから!」
「なっ!? おい、コウカちょっと待て!」
「ちょっ、ちょっと」
主人公は、連れていかれながらもコウカの父親に軽く頭を下げるが、コウカは父親の言葉を無視して主人公をそのまま連れ去られてしまう。
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主人公はコウカに連れられ、とある家へと入った。
「コウカさん、ここは?」
「ん、あぁここは私の家だ。『暗黒』が無くなるまで時間がかかるから、暫く泊まって行きなよ」
そのままコウカは、家の中へ入って行ってしまう。
すると奥でコウカと誰かが話している声が聞こえた。
「お母さん、今日から数日助けてもらった人泊めてもいい? その人、記憶喪失とかで大変そうだから」
「まぁ、母さんはいいけど、父さんがどうかは聞かないと……」
「それなら大丈夫。さっき父さんには、オッケーもらったから」
「そう。それならいいんじゃない」
そんな話し声が聞こえたのち、コウカが主人公の元に戻って来た。
するとコウカはまた、主人公の腕を掴んで先程まで話していた部屋へ連れて行かれる。
「お母さん、さっき言ったたのがこの人。名前は記憶喪失で思い出せないの」
「あら、もう連れて来てたのね。コウカの母です。大変でしたね、こんな所で良ければゆっくりしてって下さい」
そう言ってコウカの母親は軽くお辞儀をした。
それにつられて、主人公も頭を下げた。
「空き部屋使わせていいよね?」
「えぇ、大丈夫よ。あっ、でも荷物山積みかもしれない」
「大丈夫、大丈夫」
そのままコウカは主人公を連れて空き部屋へと向かった。
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それからは空き部屋の掃除を手伝ったり、コウカのお父さんと再び一悶着あったり、村の案内をしてもらったりしてもらい、二日が過ぎていた。
そしてコウカの村に来てから、三日目の日を迎えた。
「色々あって、あっという間に二日が終わったな」
主人公は、コウカに案内してもらった空き部屋で目を覚ました。
その場でこの二日間であったことを思い出しながら、これからの事を考え始めた。
「コウカとコウカ両親、村の人達によくしてもらったが、早く元の世界に戻る手段を探さないと……名前は思い出せないけど、早く元の世界に帰らなければいけない事だけは、使命感的に頭に残ってるんだよな……」
するとそこに扉を開けてコウカが部屋に入って来た。
「おはよう。ってどうしたの?」
コウカは主人公が扉の近くで難しい顔をしていたことが気になり声を掛けると主人公は、コウカに改めて自分の事を話した。
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「なるほどね。貴方の事情は、なんとなく分かったわ。でも、私じゃ貴方の力になれそうにないわね」
「そうか」
主人公が少し落ち込んでいるとコウカが別の事を話し始めた。
それは、この世界の事や昨日巻き込まれた事についてだった。
「って言うのが、この世界の常識と昨日巻き込まれた『暗黒』についてよ。このくらいの事しか教えてあげられないけど、知らないよりましでしょ」
「あぁ、とても助かるよ。ありがとう」
主人公は、コウカに頭を下げた。
それを見てコウカはすぐ頭を上げるようにと仕草をした。
「まぁ、この世界は最低限『七王』と『暗黒』だけ分かってれば死にはしないわ」
「『七王』はこの世界の最高権力者的な位の奴らで、『暗黒』はこの世界を侵略して来る、宇宙人的な奴らって事だろ?」
「?」
コウカは聞き慣れない主人公の言葉に首を傾げていたが、主人公が理解している様子を見て追及はしなかった。
「で、これからどうするの?」
「『国王』のいる国に行こうと考えている。『国王』も俺と同じ境遇らしいから、戻れる手段を知ってるかもしれないからな」
その発言を聞いてコウカがため息を漏らした。
「貴方ね、本当にさっきの話理解したの?」
「? 分かってるぞ」
主人公がコウカの問いかけに少し疑問を持ちながらも返事をすると、コウカがもう一度説明し出した。
「『七王』と呼ばれる人達には極力関わらない方がいいと言ったでしょ。あの人達は、自分の目的の為なら私達の平和な日常でさえ簡単に壊すのよ! そんな人達を信頼すべきじゃないわ」
「そう言うが、俺が知りたい情報を持ってる奴は、今の所その『七王』である『国王』しかいないんだ。君がどんな目にあったかは分からないが、今俺は遠回りをしている時間はないんだ」
「っう、だったら私達がどんな目にあったか教えてあげるわ! そしたら、気も変わるでしょ。私達は元々ね……」
コウカが過去にあった事を語り出しうとした時だった、外から何かが崩れる音が響き渡った。
「!?」
「何、今の音?」
主人公とコウカも外からの異様な音が気になり、すぐさま家の外へと出た。すると村の北の入り口から煙が上がっている事に気付いた。
二人はそのまま煙が上がっている方へと走って行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「貴様ら何者だ! 爆撃してまでこの村に何の用だ!」
コウカの父親が村の男達を集め、村の周りを囲っていた壁が一部破壊され、そこから侵入させない様に襲撃された場所を囲うように集まっていた。
その後ろには、村の人々が何事かと集まり始めていた。
すると爆撃され煙が上がっている中から、人影が近寄って来た。
「こんな所に村なんてあったんだな〜にしても、硬ぇ壁で囲って何してんだ〜?」
村の中に入って来たのは、薄汚れた服を着てジャラジャラと動物の牙を腰に付け、棍棒を担いだ男であった。
更にその後ろからぞろぞろと、そいつの部下と思われる人達が村へと侵入してきていた。
それを見て村の男達は、すぐさま腰に付けた短剣を抜き侵入者達へと向けた。
「お前ら、盗賊か?」
コウカの父親が棍棒を担いだ人物に問いかけると、棍棒を担いだ人物は高らかに笑ってから答えた。
「そうだ、盗賊だ! だが、ただの盗賊じゃない。俺達は『暗黒』に属する盗賊だ!」
「なに!?」
「俺は賊長のジギ。先に言っとくが、俺達に逆らわない方がいいぜ」
するとジギが棍棒を握り地面に勢いよく突くと、その場に小さなドロドロした真っ黒い空間が現れる。
「それは!」
「これが何か分かるだろ?」
そして地面に出来た真っ黒い空間から異形な手が飛び出て来た。
それを見て村の男達は、後退りをした。
するとジギがもう一度棍棒で地面を突くと、その空間は閉じ跡形もなく消えた。
「分かっただろ、俺達に逆らう恐ろしさが」
「あぁ、充分に分かったよ……その棍棒で開閉してることが!」
そう言った直後、コウカの父親はジギに突っ込み棍棒を取り上げようと手を伸ばした。
「なっ!?」
棍棒にコウカの父親の手が届き奪い取った。
そのままジギに体当たりすると、ジギが後方へ突き飛ばされる。
「これでさっきのは使えないだろ。このまま、攻めるぞお前ら!」
コウカの父親が村の男達を鼓舞したが、反応がなかった。
すぐさま振り返ると、村の男達はジギの部下達に身動きが取れないように首元と胸に短剣を突き付けられていた。
「っ!」
その光景に驚いていると、後頭部に強い衝撃を受け地面に倒れるコウカの父親。
「まさか、突っ込んで来るとは驚きだぞ。だが、見た通りうちの部下も優秀でね」
コウカの父親が後頭部の痛みに耐えながらも首を回し、見上げるとジギが見下して立っていた。
そのままジギは、奪われた棍棒を地面から拾い上げると、コウカの父親の背中に向かって棍棒を突き立てる様に振り下ろした。
「ガァハァッ!」
「さぁ、これで脅威となる奴らは無力化した。お前ら、村の金品と若い女共を拐って来い!」
「ウォォォォー!」
ジギの残りの部下達が雄叫びを上げながら村へと侵略を始めた。
直後、男達の背後にいた村人達が悲鳴を上げながら逃げ始める。
「き……貴様らッ!」
コウカの父親はジギを睨みつけると起き上がろうと体に力を入れるが、ジギは棍棒で地面へと押しつける。
「無駄だ。お前はここで、仲間や家族が連れて行かれるのを眺めているんだ。最後には、そいつらの前で綺麗に首をはねてやるからじっとしていろ」
「ふざけるなぁァァァー!」
「っ!?」
するとコウカの父親は、ジギが棍棒で押さえつける力を押し返し立ち上がった。
「この村を護るのは長たる役目! 貴様らもいつまでそうしている! 村の護りも出来ないで、何が漢だ!」
「っ!」
その言葉に動きが取れずにいた男達の目の色が変わった。
首元と胸に突き付けられていた短剣を、それぞれ手で握るとそのままジギの部下達を投げ飛ばしたり、ぶつけ合ったりし状況を一瞬で変えた。
そのまま一部の村の男達は、村へと侵入して行ったジギの部下達を追って行った。
「さぁ、お前にもさっさと出てってもらおうか!」
コウカの父親がジギ目掛けて拳を突き出した次の瞬間だった。
拳がジギに届く前に突然現れた謎の空間へ入り込んでいた。
「っん!?」
ジギの前に突如現れた空間は直径10センチ程の大きさであるが、拳を引き抜こうとしても抜けずゆっくりと飲み込まれる様に引き込まれて始めた。
「抵抗するだけ無駄と言ったろ」
するとジギが棍棒で地面を軽く突いた。
だが、地面に小さなドロドロした真っ黒い空間が出現する事はなかった。
その直後、村の中からジギの部下を追って行った男達が吹き飛んで来た。
「お前ら!」
その後に、村の奥から帰って来たジギの部下達の姿が変わっていた事に気付く。
全身に黒い鎧を纏った姿になっており、更にその後ろに村の女性達が鎧から伸びた黒い紐の様なもので拘束され、連行されて来ていた。
「なっ!」
コウカの父親は、連行されて来た中に自分の娘であるコウカがいた事に動揺が隠しきれなかった。
「ん? 何だ、あの中に家族でもいたか?」
その言葉を告げた直後、コウカの父親はもう片方の拳をジギの顔面目掛けて振り抜くが、空間が出現し飲み込まれる。
「図星か」
するとコウカの父親は飲み込まれた両腕を引き抜こうと力一杯引き抜こうとしたが、抜ける事はなかった。
しかしコウカの父親は、諦めず腕が引きちぎれてもいいのかと言うくらい力を入れていた。
「そんなに抜きたいなら、俺がへし折ってから斬り落としてやるよ」
それを見たジギがコウカの父親の腕側へ移動して棍棒を振り上げた。
そして振り下ろされる瞬間だった。
「父さん!」
その声が聞こえると、ジギが振り下ろした棍棒をピタリと止めて声が聞こえた方を向いた。
そこには、コウカが息を切らしながら立っていた。その姿を見たジギが不敵な笑みをした。
「あれが、お前の娘か〜」
ジギの顔を見たコウカの父親はすぐにコウカに逃げる様に大声を上げようとしたが、ジギが首元を掴み声が出せない様にした。
「うぅぐぅぅ……!」
「おい、そこの女をこっちに連れて来い!」
ジギの言葉に部下達がすぐさま動きコウカを拘束しようとする。
だが、コウカは簡単には捕まらず突っ込んで来るジギの部下達をかわしながら、地面に落ちていた短剣を掴みジギへと向かって行く。
しかし、ジギの部下達は黒い鎧から鎖状の物を放つとコウカの足元、手首に巻き付いた事で転びそのままジギの近くに倒れてしまう。
「うぅっ!」
「ちょうどいい所に転がって来たな。上物で勿体無いが、お前の反乱意志をこのままにしておくと俺が殺されかねない。だから、貴様の支えとなる者を絶ち、反乱意志を削ぐのが優先だから仕方ないな」
「やめ“ろ”―――!」
コウカの父親の叫び声も虚しく、ジギが再び棍棒を振り上げる。
それは、足元に拘束されたコウカの頭目掛けて振り下ろした。
「弾け飛べ」
棍棒がコウカの頭に当たるその瞬間だった。
「そこのお前、その場でこっちを向け!」
その言葉に何故かジギは腕を止めてしまい、声がした方を向いていた。
「何だお前?」
「き、君は……」
ジギの視線の先にいたのは主人公だった。
そのままゆっくりと、ジギへ向かって歩き始める。
「な、何してるの!? 貴方が来るべきところじゃない!」
コウカがすぐ逃げる様な仕草をするが、主人公の足は止まらない。
そこでコウカが主人公の雰囲気に違和感を感じた。
近付く主人公に対しジギが少し後退りをした。
「何してる! さっさとそいつを抑えろ!」
ジギは近くの部下に命令をして主人公を抑えようと部下が動き出す。
だが、部下達が近付こうと足を踏み出すが途中で足が止まってしまう。
「何してる!」
「いや、何というか……足が出ないというか、体が動かないんです!」
「何!?」
主人公はそのまま少しずつ後退りしていたジギへと近付き、ジギの正面で立ち止まると言葉を言い放った。
「その場で止まれ。そして部下を全員をここへ集め、人質を全員解放しろ」
「貴様、何様のつもりで……」
「何を言い訳している。早く従わないか?」
「うっ……」
「黙ってないで早くしろ」
「うっ……ぐぅっ!」
ジギはそのまま棍棒で地面強く突くと、部下達が全員ジギの元へ帰って来た。
「何してる、さっきの命令もしろ」
「うっ、お前ら女も金もその場に置いてこっちに来い!」
「な、何言ってるですか!?」
「そうですよ!」
部下達から反論の声が聞こえたが、主人公がその方を向いて小さく呟いた。
「何か言ったか? リーダーの命令には従うものだろ」
「っう!」
主人公の言葉を聞いて部下達は、少し後退りしながら言われた事に従いジギの元へと戻った。
その間にコウカの父親の両腕が空間から解放され、コウカが父親に手を貸しながら後方へと下がって行った。
その際にコウカは主人公を見たが、主人公から出ている異様な雰囲気に押され、何も声をかける事が出来ずそのまま後退していた。
「何者なんだ、彼は?」
コウカの父親からの問いかけにコウカは首を横に振った。
「分からない……でも分かるのは、さっきまで一緒にいた彼じゃない」
「どういう事だ?」
「うまく言えないけど、今の彼は私が知ってる彼じゃないの……感じ取れる雰囲気が別人すぎて……」
その返答に父親は追及する事はなかった。
一方、ジギも葛藤していた。
「(何なんだアイツは……何故かアイツの言葉に逆らいづらい。体が本能的に訴えてくる感じだ)」
「ど、どうするんですか?」
近くにいた部下が小声で聞いてくると、ジギは八つ当たりする様に顔面を殴る飛ばした。
「それを考えてるんだろうが! わざわざ邪魔をするな! テメェらも立ってねぇで何かしろ!」
ジギが部下に怒鳴り散らすと主人公が、ジギを呼び顔を向かせて言葉を発した。
「一度だけ伝える。さっさとこの村から消えろ」
その言葉にジギは従いそうになるが、その場で踏み止まり雄叫びを上げ、心臓を何度も拳で強く叩いた。
「ふざけるなぁ! 何してるんだ俺は! こんな奴に言葉で押されるのは、心の弱みだ―! 俺は選ばれたんだ―!」
それを見た主人公は目を閉じで軽いため息を漏らした。同時にジギが俯いた状態から振り返り、顔を上げて棍棒を持ち上げて部下の指揮を上げた。
それに連なり部下達も雄叫びを上げ、何かを払拭した様な面構えになった。
そのままジギが再び振り返り村へと攻撃を仕掛けようとした瞬間だった。
目の前を向いたそこには、主人公があたかもボールを蹴る様な動作を取っていた。
ジギが振り抜いたと同時に足を振り抜くと、その蹴りは腹部に捻れ食い込んだ。
「ぐぅぅっ……」
そのまま主人公がジギを村の外へと蹴り飛ばした。
「ガハッ!」
飛ばされたジギはそのまま破壊して入って来た壁を出て行き、村の外にある木の幹に背筋から打ち付けられそのまま意識を失い地面へと倒れた。
その一瞬の出来事に、村のコウカを含めた人、ジギの部下達も何が起こったのか理解出来ていなかった。
更に、今までの光景を村の壁の上から誰にも気付かれずに見ていた人物も驚いていた。
「あれは、本物だな」
そして、主人公が小さく呟いた。
「悪人、成敗」