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美女と決別

サンタさん。たくさんの人が読んでくれますよーに!

黄磊(おうらい)大駒っ!」

 開きっぱなしの扉から、宝華(ほうか)比美が姿を見せる。

 慌てたような様子で、全身に汗をかいている。どうやら昨日の怪我は快調ではないようで、足に包帯が巻いてあるなど、見るからに痛々しい。というか随分焦っていたのか、ホットパンツのパジャマ姿だった。

 彼女は部屋に入ってすぐに、大駒の姿を見つけてほっと胸を撫で下ろす。

「良かった……まだ殺されてなかったわね。私が気を失っている間に貴方を処分するという命令が下ったって聞いて、飛んできたのよ。担当は私なのに、そんな勝手な事をされても困るわ……でもあの山南(やまなみ)さんを倒したのね。まさか、〈逢魔ヶ時(おうまがとき)〉を、迎えた?」

 その質問に、しかし大駒はちらりと視線をやっただけで、何も答えなかった。

 ただジッと窓際に座り込んでいる。

「……何よ、それ。私が心配して来てあげたのに。うわっ、ていうかこの部屋なに? どうしてこんな散らかってるのよ? 貴方片付けもできない程野蛮人だったっけ? そういえばドアも開けっ放しだったわよ? 危ないじゃ無い。ノラちゃんがいるんだからちゃんと閉めとかないと…………」

 その時ようやく宝華は気付いた。

 その六畳一間の部屋に、あの小さな少女の姿が無い事を。

「ノラちゃんは、どこ?」

 ごくり、と嫌な予感を感じながら、宝華は尋ねた。

 だが大駒はやはり何も答えない。沈黙を保ち続ける。

「ちょっと待って……ねぇ! ノラちゃんはどこに行ったの!?」

 大駒の様子がおかしいことと何かが関係している、そう悟った宝華が、大駒に詰め寄った。胸ぐらを掴み、顔を持ち上げさせる。

「山南さんが負けたって事は、私達はまだノラちゃんを確保していない! それなら今貴方と一緒にいなきゃおかしい! でもどこにもいない! どういう事なの!?」

 いつもと違う大駒の様子に、宝華は焦りを感じ始める。

 もし家にいなければ、誰かに無理矢理(さら)われたのであれば、大駒はノラを追っているはずだ。ここで魂が抜けたように座り込んでいるわけがない。この男はそんな単純な男ではない。

「まさか、貴方……あの子を、渡したの?」

 そう疑い半分に言うと、大駒は一瞬宝華を見て、それから逃げるように視線を下に戻した。

 バシンッ――と、宝華が大駒の頬をはたいた。

「……痛ぇなァ」

「誰に、誰に渡したの!?」

「誰でもいいだろ」

「良くないわよ! ……まさか、《悪しき者(ヴァイラン)》の組織に渡したんじゃないでしょうね?」

「……」

「渡したのね? 誰? どこの組織?」

「……〈ブラックシアター〉。岩の、《怪物(モンスター)》」

 詰め寄る宝華を鬱陶(うっとう)しく思い、大駒はさっさと帰ってもらおうと、正直にそう言った。

 バシンッ――宝華はもう一度、今度はグーで大駒を殴った。だがそのごつい身体を殴った小さな宝華の手の方が痛そうだ。

 彼女はその顔を確かな怒気に染めて、大駒を睨み付けた。

「馬鹿! よりにもよって、何で!」

「お、俺は……やりたい事があるんだ! そのためには、あいつは邪魔なんだよ!」

「だからってよりにもよってどうしてあんな奴らに! あいつらは泣く子も喜んで殺すような悪魔の集まりよ!? 殺人者集団よ!? わかってる!?」

 グラグラと、宝華は大駒の身体を揺らす。

 大駒は負けじと宝華を見つめ返し、叫んだ。

「でもあいつは殺されない! そう約束してくれた! ノラは神様の国とかに行くための鍵なんだろ!? だったら変な扱いはしない! それくらい俺にはわかる!」

「わかってないッ!!」

 その時、常に強気で表情を変えない宝華の瞳に、確かな悲痛が浮かび上がった。

「私は、貴方たちが嫌いじゃなかった……できれば二人とも仲間になってもらえるように、上に説得してた……それは貴方たちが微笑ましい程に仲が良かったから! 一緒にいて楽しいって思えたから! 貴方はきっとその破壊衝動にも勝ってくれるって思ってたから!」

 涙を浮かべながら、しかし宝華は鋭い視線を大駒に向けて、叫び続けた。

 殺そうとした怪物相手に、心を通わせるように。

「でも貴方は何もわかってなかった! 大事なのはノラちゃんがどういう扱いを受けるかって事!? 良い物食べて、良い服着て、良い生活をすることが、あの子の幸せの全て!? 違うでしょ!? あの子は貴方とずっと一緒にいたかった! 例え血が繋がっていなくても! 例え貴方が乱暴者でも! そんなの関係なく、ずっと貴方と一緒にいたかった! そんなの言われなくたってわかるじゃない!」

「……う、うるさい! あいつがどう思おうが、俺には関係ねぇ! 言ったろ? 俺がまっとうに生きていくためには、あいつは足枷(あしかせ)なんだ! 俺が嫌だから手放した! それだけの話だ!」

「…………そう。わかったわ」

 宝華はまぶたに溜まった涙を手の甲でぬぐい去り、立ち上がった。

「あの子は私が助けて保護する。そして二度と貴方には近づけない。それでいいんでしょ? それで貴方は自分の人生とやらを真っ当できるんでしょ? ……心底くだらない、見栄っ張りの人生を」

「……勝手にしてくれ。もう俺を、巻き込むな」

「失望したわ。野蛮人。貴方は破壊衝動を持っていても、心の底では良心的な人間だと、そう思っていたけど、違ったみたい。貴方は最低よ。最低で最悪な怪物よ。身も心も、全てね」

 そう吐き捨てるように言い残し、宝華は家を出ていってしまった。

 家に残された大駒はそれを視線だけで追って見つめ、最後に小さくぼやいた。

「……ドア、閉めてけよな」


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