第93話 勇者廃業
ケンがカプセルでの治療を終えてから1ヶ月が経過した。
今日からベッドから起き上がるための訓練が開始される。
そして今日はあの日以降起こった事の説明が行われる予定の日だ。
ケンはベッドで横になっており、その隣ではハナがケンの介護を甲斐甲斐しく行なっていた。
あの日見たハナの姿は酷い物であったが、ケンが日を跨ぐ毎に回復していくのと同様に、ハナの体調も目に見えて良くなって行き、今は目の隈も薄くなり、薄っすらと肉も付いてきていた。
2人は揃って朝食を食べている。
ケンは今日、実に3年ぶりのまともな食事を取っていた。
そしてハナはケンと同じ物が食べたいと願い、隣で同じ物を食べていた。
そして食事が終わって暫くすると、サッカとナッカ大使、ソレナとハスが病室を訪れた。
そしてケンの体調に付いて、医師の許可が取れたこともあり、これまでの事情説明が行われたのであった。
「まずケン殿、今はもう勇者の集いから3年の月日が経っており、ケン殿の代わりとしてヘイ殿が我がマール国の勇者として活動しております」
ナッカ大使が現状を説明した。
そしてそれはケンの予想通りの展開であった。
この1ヶ月の間、マール国関係者の中でケンの病室を訪れたのはハナとこの4人だけだ。
他のメンバーが誰も居ないという事は、皆勇者の活動で忙しいという事だろうとは容易に予想がついた。
そしてナッカ大使はあの日の船内探検以降に起こったことを説明してくれた。
あの日、ケン達は船内を下部から順に見て周り、最終的に甲板を訪れたという。
そこで訓練中であったスミレやマール国の兵士や騎士達で出会い、挨拶を交わして別れた後、甲板にある野菜畑を見に行こうとしたのだそうだ。
そこに現れたのが獣人の国、ワイルド王国の皇太子ファイナルである。
彼は他の勇者達よりも一足早くウロタに到着し、勇者達と腕比べをしようと考えていたそうだ。
そんな時、ワイルド王国出身の山賊が小国の勇者に退治されたという噂を耳にし、彼はその勇者を捜索。見つけ出したので早速腕試しを挑んだのだそうだ。
ワイルド王国の住人にとって勇者とは身体能力に優れた武人を指している。
そして彼は国王の息子で天才と呼ばれている程の人物であった。
彼の教育は、国内最高峰の使い手達が総力を結集して行なっていた。
そして彼は国を出る際に、「外の世界には沢山の強者がいるから努々油断をしないように」と言われていたらしい。
だから彼は初めて見掛けた自分と同じ勇者の称号を持つ者に対して全力の攻撃を行なった。
彼は天才であり、強かったが、弱者の力量を見抜く目と、手加減を知らなかった。
結果として、勇者を名乗っていた行商人であるケンはその場で即死した。
その際、すぐ近くに居たスミレが急いで救命措置を施しどうにか息を吹き返したらしいが、体中の骨はバラバラに砕け、内臓も大部分が破損。持って数十分が限界という状況だったらしい。
ケンはすぐに医務室に担ぎ込まれ、死んでいない限りどんな傷であろうとも治すことが出来ると言われるカプセルの中に入れられた。
そして勇者殺害の噂が船内を飛び交う結果となった。
マール国はナッカ大使とマエノ大使が揃ってワイルド王国大使館に猛抗議。
山賊から自国民を救って貰った、ドヴェルグ連合国・オリエンタル帝国・ルネッサンス共和国の大使も揃ってワイルド王国を糾弾した。
事の発端からしてワイルド王国の完全な落ち度であった今回の件は、ワイルド王国側が全面的に非を認め、マール国に対し莫大な賠償金を払い、尚且つ勇者ケンの治療費を全て持つ事で話し合いは決着。
ケンを殺害した皇太子ファイナルは『勇者殺しの勇者』の烙印を押され、ワイルド王国から追放処分となり、2年後に山賊として活動していた所を別の勇者に討伐されたらしい。
そして唯一の勇者を失ったマール国はケンの代理として元々の勇者候補であったヘイを勇者として認定し、勇者の集いに参加させた。
そしてケンの治療はウロタに残るナッカ大使に任せて、ヘイ達新たなマール国勇者一行は旅立とうとしたが、ハナはケンの目覚めを待つためにここに残ると宣言したそうだ。
「あの日ケンが目の前で死んで、私はケンに対する愛情を自覚しました。ケンを置いて旅に出るなど考えられません。私はここで王女の位を返上し、ケンと共に生きていきます。わがままを言って申し訳ありません。どうか祖国を宜しくお願いします」
ハナはそう言って頭を下げる。
それを聞いたマール国の勇者一行は全員揃って納得した。
彼らは見ていたのだ。
ケンが死んだ時の事も、
ケンが生き返った時も、
ケンの余命が残り少ないと告げられた時も、
その際のハナの取り乱し具合も、
そしてカプセルの前からハナが離れないことも、
全員が見ていた。
あれは愛だ。
愛で行動する人間を止められないと皆理解していたのだ。
そしてハナは勇者一行を抜けてウロタにとどまり、ギイ商会と大使館で働きながらケンの目覚めを待つこととなった。
そしてその護衛として、ソレナとハスが残ったという。
流石に王女の位の返上は無理だったらしい。
そして現在、マール国の勇者としてヘイは立派に働き、同時に行商もして資金を自力で稼ぎながら各地でモンスターの被害を鎮圧しているらしい。
他のメンバーはそれの補助に周り、新たな仲間も増えたのだそうだ。
それでいて相当慎重に事を進めているらしい。
ケンが目の前で殺された事が余程堪えているのだろう。
ヘイは自分が特別な力を持っていない平凡な勇者だと自覚し、弟弟子と同じく堅実に活動しているのだそうだ。
「これがあれから現在までの大まかな流れです。何か質問はありませんか?」
「いえ、おおよそ予想通りの展開でしたから。でも俺を襲った皇太子が国外追放になったというのは驚きました」
「いくら王族とは言え、問答無用で勇者に襲いかかって殺害してしまっては庇うことは出来なかったのですよ」
「勇者殺しは重罪だからのう。アレのせいで大分ワイルド王国の評判が落ちて向こうは大変らしいぞ」
「自業自得ですな!気にすることはないぞケン」
「いや、気になんかしませんよ。俺を殺した相手なんですから」
そう言ってケンは自分の体をまさぐる。怪我どころか昔の古傷も無い。
カプセルの凄さを思い知り、同じ船関連でケンは1つ思い出した。
「そう言えばシンはどうしているんですか?話には出て来ませんでしたが」
「シンか、彼はマエノ大使やギイ殿や旦那殿と共にマール国に帰ったよ。ここの魔法学園で学ぶ予定であったが、ケンが死んだ事にショックを受けてしまってね。
それにケンではなくヘイが勇者になった以上、ケンの弟がここの魔法学園に通うメリットが無くなってしまったので、推薦自体が受けられなくなってしまったのだ。後で聞いた話なのだが、ここの魔法学園に魔法が使えない者が入るための条件に『身内に王族か勇者が居ること』というものがあったらしい。彼は今マール国の魔法学校に通っていると聞いている。ギイ商会が面倒を見ているそうだ。心配することはない」
ナッカ大使の説明にケンはホッと息を吐いた。
ギイ師匠が面倒を見てくれているのなら問題はないだろう。
折角ここまで付いて来てくれたのに残念ではあったが。
そしてナッカ大使は今回の本題をケンに告げた。
「さてケン殿、現状は今言った通りです。貴方は倒れ、ヘイ殿が勇者を受け継ぎ、立派に務めを果たしています。そして我が国には複数の勇者を支援する財力は無く、貴方が普通に動けるようになるまではまだ2年の歳月が必要です」
「はい」
「国王陛下の許可も既に取りました。マール国勇者、ケン=ジッツマン男爵、貴方の勇者の任を今日この日をもって取り消させて頂きます」
「勇者廃業ですか」
「そういう事です。勿論男爵としての位は残りますし、勇者として得た山賊退治の収支はそのまま貴方にお渡しします」
「宜しいのですか?」
「勿論です。あの時の利益の内10%は貴方が山賊退治を決定し、単独で山賊を退治した事に対しての貴方に払われた正当な利益です。そもそもドヴェルグ連合国から貴方の口座に既に入金されていることは確認済みです。これからのハナ様との生活にお使い下さい」
「分かりました。……所でそれ、本当に良いのですか?」
「それとは?」
ケンはハナの方をちらりと見た。
「いやだから、さっきの話に出てきたハナが俺を愛してくれているって奴です」
「ケン殿はハナ様がお嫌いとでも?」
「大好きですよ!でもほら、ハナは王女な訳ですし、勇者だった俺なら兎も角、こんな満足に動けない男に嫁に出して国王陛下は納得しているのかなって……」
もう一度ケンはハナの方を見た。するとハナの顔が真っ赤になっている。
ギョッとしたケンはハナにどうしたのかと問い掛けたが、ハナはあうあう言うだけで要領を得ない。見かねたハスがケンに説明をした。
「ケン殿、ハナ様は先程の『大好きですよ!』のせいで赤面しているのです。察して下さい」
「ああっ!成程、分かりました」
「それとハナ様との結婚の件ですが、これはマール国関係者全員が納得している事ですから。寧ろハナ様を嫁にしないと、貴方殺されますよ」
「そんなに!?えっとどういう事ですか?」
「貴方は元とは言え勇者。しかもここに来るまでの3ヶ月半の間に山賊退治と被害者の救出という実績を出しているのです。しかも倒れた事について貴方に落ち度は全くありません。あれは巷では暗殺扱いです。それにその後のハナ様の対応を見て『結婚するな』なんていう人は我が国には1人も居ませんよ」
「そりゃあハナと結婚できたら嬉しいですが、俺がここから退院したとしても出来ることは行商だけですよ?」
「ハナ様だって行商人ですよ。貴方が眠っていた間、ハナ様はギイ商会とマール国大使館で働いていたのです。何の問題もありません」
「というかケン、つべこべ言うな。お前はハナ様と結婚したいのか?したくないのか?」
「結婚したいに決まってます!ずっと一緒に居たいですよ!」
「ならそれが答えた。兎に角お前はこれから全力でリハビリをして、体を元に戻し、そしてハナ様と結婚して行商人に戻れ。後のことはそれから考えれば良いのだ」
「そうじゃな」「その通り」「そうですよ」
そういう事になった。
そして説明を終えた3人は病室を出て行く。
ちなみにここは個室だ。ケンの他には部屋に残ったハナしか居ない。
2人は暫く黙っていた。
そしてハナはケンに向かって話し掛けた。
「えっと、そういう事だからこれから宜しくお願いします」
「ああ、うん。お願いします。本当に良いのか?」
「うん。私はケンと結婚したい。ケンじゃなきゃ嫌だ。駄目かな?」
「駄目じゃないよ。でも本当は俺からプロポーズするつもりだったんだ。こう勇者的に活躍をして、その際にロマンチックにさ。まさか一度死んで生き返ってから病室でプロポーズされるとは想像もしてなかったから」
「そんな事考えてたんだ、やっぱり男の子だねぇ」
「そりゃあな。男が勇者になったのなら、王女様に求婚したいと考えるもんさ」
「ふーん。じゃあさ、行商人は?」
「うん?」
「行商人は王女様に求婚しないの?」
「そりゃあそうだろ。行商人じゃあ普通の王女様に求婚なんて出来やしないよ」
「そっかー」
「でもその王女様が行商人の修行をしに同じ師匠に弟子入りしてきたら話は違うけどな」
「そっか!」
「そうだよ。そんな訳でハナ、俺と結婚してくれるか?」
「オッケー!」
「久しぶりに聞いたなそのセリフ」
そうして2人は笑いあった。
それはケンが倒れてから3年振りとなる心からの笑いであった。
それから2年間、ケンは必死にリハビリに励み、完全に回復した後で再び行商人として活動を再開した。
その隣には妻となった女性が常に連れ添っていたという。
マール国の堅実勇者、ケン=ジッツマンの伝承はここで終了だ。
しかし彼の名は平凡勇者ヘイ=ボーンの伝説に幾度となく出て来る事となる。
勇者となった兄弟子を何度も助けてくれた、とても優秀な弟弟子として。
今回を持ちまして堅実勇者は終了となります。
思えば2017年が始まった正にその日に突発的に投稿を始めた本作。
小説を書くこと自体が始めてであり、色々とお見苦しい点もあったと思います。
この作品は紛れもなく私の初めての作品であります。
その為根拠のない自信もあり、ネット小説大賞にも登録しておりましたが、見事に落選しました。
そして今回総評に書いてありました
・文章の読みやすさ
・設定の面白さ、わかりやすさ
・キャラクターが魅力的か
・序盤がだらだらしていないか
・先を読みたいと思わせてくれるか
・会話のテンポがいいか
等が、全て当て嵌まっておらず、これは「打ち切りだな」と考えましたので今回で終了する事と致しました。
拙い作品ではありましたが、ブックマーク17人。そして感想がお一人から得られましてとても励みになりました。
今回何とか完結まで書ききって小説を書く楽しさを体感した次第です。
次回作はまだ未定ですが、再び投稿したその時は皆様に楽しんで貰えますよう頑張ります。
それではまた、再び『小説を読もう!』でお会いしましょう。
2017年4月2日 髭付きだるま




