第91話 ある勇者の死2
その事件が起きた当日、ケン達は船内を探検していた。
昨日までは勇者の集いに参加するための手順を学び、衣装を合わせ、流れを頭に叩き込み、今現在判明している各国から参加予定の勇者達の情報の確認を行っていた。
今回の勇者の集いにおいて特に重要なのが、各国勇者に分配される『初代勇者を倒した時に使われたという伝説の武具』の存在だ。
伝説と言われているだけあり、武器も防具も道具類でさえも今の技術では作ることが出来ない代物達らしい。一つだけでも『国と引き替えにできる』とまで言われる程価値のある代物であり、各勇者の適性を鑑みて配られることになるらしい。
無論優秀な物程、活躍が期待できる勇者に優先的に配分される。
そんな中行商人兼勇者であるケンがどのような伝説の一品を獲得できるのかを色々と議論していたのだった。
「可能ならば遠距離用の武器、次点で軽めの防具類、最低でも何かしら効果のある道具類を獲得したい所ですね」
「俺が自分で選ぶことは出来ないのですよね」
「その通りです。この武具の配分に関しては、勇者の国の国王及び勇者の巫女が配分権を持っています。彼らが各国勇者のこれまでの実績やこれからの期待値を考慮して武具の配分を決めるのです」
「国王と巫女ですか。そういえばその方達に挨拶に伺わなくても良いのですか?」
「ええ、彼らの仕事は魔物の活性化現象の間の各国勇者の統括ですからね。先に面会を申し込むと武具の配分に関して特別な配慮をしてのではないかと勘ぐられる事もありますから」
「分かりました。結局は何が来るのかは分からないという事ですよね」
「そうなります。ちなみに先代の勇者、つまり国王陛下の兄上は『剣』を貰ったそうです」
「おおっ、勇者っぽいですね」
「そして一月も経たずに命を落としたそうです」
「そんなに早く!?いや速攻で死亡したとは聞いていましたが」
「配られる武具はどれも強力な代物だそうですから使いたくなる気持ちも分かります。しかしもしケン殿が近接武器を配分されてもくれぐれも使用は控えて下さい」
「分かりました。武器がどれほど優秀でも使い手の技量が追い着いていなければ意味がないという事ですね」
「そういう事です」
勇者本人の資質や技量、力量も然ることながら、勇者が率いる仲間の数や援助金の多さにより勇者の活躍度合いは変わってくるものだ。
しかしそれを覆す事が出来るのが、配分される伝説の武具である。
効果の高い武具を手に入れさえすれば多少の不利は縮めることが出来るのだ。
ケンもマール国の大使館員も勇者一行も配分される武具について思いを馳せていたのであった。
そんなこんなで今日は勇者の集いの3日前である。
この日ケンはウロタに着いて初めての休みを貰っていた。
明日には続々と各国勇者達がこの町を訪れてくる予定だ。
そしてオリエンタル帝国とルネッサンス共和国の大使館から、今回の山賊退治における自国民救出の感謝を改めて述べたいと、それぞれの勇者団を交えての食事会が明日の昼と夜に予定されているのだ。
そしてその翌日はもう勇者の集いの前日だ。
そうなると準備で忙しくなるし、勇者の集いが終わればケン達はこの町を旅立つ事になる。
ならばせめて今日だけでも休みを取り、せっかく訪れたこの面白い町を探検してきてはどうかと提案されたのだ。
ウロタ到着後は忙しない日々が続いていたので久し振りの休日だ。
ケンはこの機会に船内をじっくりと歩き回ることにしたのである。
「んで最初はどこから行くんや?」
「取り敢えず現在地が最下層だから、下から順番に回っていこうと思ってる」
「良いんじゃねぇか?ここ数日、店と大使館と弁当屋と宿しか行ってなかったからな。こんな面白い町に居るんだ、折角だから楽しもうぜ!」
ケン達は移動を開始した。
今回は若者だけだ。ケンとハナ、ヘイにソレナにホド、それとシンとギンに加えてハスとノウとホッコにハチである。
レンゲも誘ったが彼女は何やら忙しいらしく、部屋にこもって出てこない。
ニックはいつもの様に牧師の修行だ。彼は既にこの船の隅々まで歩き回っているらしい。ここはドヴェルグ連合国ではないため、炎の教会は無いが、大使館はあるのでそこを拠点に活動している。
スミレは兵士や騎士達との訓練に明け暮れている。
兵士や騎士達は今回の山賊退治の一件でケンに対しての評価を上げたようで、訓練に熱が入っているとのことだ。彼らは甲板で勇者の国の兵士達に混じって訓練をしているらしい。
なんでもこの国の兵士達はかなり強いらしく、スミレ以外は全く歯が立たないのだそうだ。ケンの代わりに戦うにしても、ノウ王子やハナ王女を守るために戦うにしても、結局強くなければ務まらないのだ。彼らは今日も訓練に励んでいた。
ケン達はまず宿泊エリアから見て回り始めた。
既に一週間泊まっているのだが、宿泊している宿以外の場所には行っていないため、中々新鮮だ。
ここには大小様々な宿が立ち並んでいる。階段付近には中級の宿屋が立ち並び、端に寄っていくに従って宿泊代金が安くなっていく。
ここは船内であり、オマケに地下部分だ。壁一枚隔てた向こうは湖である為、景色というものは存在しない。
よって移動するのに便利な場所、つまり階段付近に宿泊代金の高い宿が集中し、階段から遠くなればなるほど代金は安くなるのである。
ちなみに高級ホテルがあるのは7、8階だ。そこからは雄大な景色が常時見られるそうだが、ケン達の様に金が無い場合は自動的にこちらに移動してくるのである。
そしてホテル街を抜けると、ウロタに住んでいる者達の住居が見えてくる。
これも同じく階段へと続く大通りには広く、大きな家が建ち並び、端に行くに従って部屋の広さは狭くなっていく。
しかしここには余り古い家も壊れた家も存在しない。
何年かに一度まとめて壊して建て直しているのだそうだ。
事故防止と火災防止に加えて、代わり映えしない地下空間において住居のリフォームが重要案件だと言う事らしい。
なお、ホテルエリア及び住居エリアにも幾つかの店が存在している。
生活必需品を商っている店だ。尤も品揃えは商店街には及ばない。
あそこまで行くのが面倒臭い人達相手の出張所のような扱いである。
そしてここでは火を使う事は禁止されているため、基本的に料理が出来ない。
火を使わない料理ならOKではあるが、空調が働いているとは言え密閉空間である事は変わらないので、基本NGだ。
だからここの宿にも家にも台所も食堂も存在しない。
その分広く多く部屋を作れるため、限定された土地でも人々が生活できるのである。
階段を上がるとそこは1階だ。
ここにはケン達も通ってきた豪華な受付があり、更には倉庫や図書館、そして劇場やカジノ等も存在している。
流石に倉庫の中に入ることは出来ないが、図書館は利用料を支払えば一般人でも使用可能だ。シンが入学予定の魔法学園の生徒は無料で利用できるらしい。というかどんどん利用して知識を深める事が推奨されている。
そして劇場とカジノである。
年に数回、ここの劇場では公演が行われるらしい。
しかもこの劇場で演じることが出来るのは、各地で話題をさらった実力派の劇団のみなのだそうだ。そしてその数回の内の一つが、勇者の集いの後にあるという事で、船内にはその噂が飛び交っていた。
カジノは賭け事をする場所だ。
上流階級用のスペースと庶民用のスペースがあり、毎夜悲喜こもごものドラマが展開されているらしい。ちなみに利用は20歳以上からである為、ケン達一行はまだ利用することは出来ない。
これはこの船が召喚されて以来の伝統だ。
というかカジノの入場口に満20歳以下の人物の入場を制限する機能が搭載されており、20歳以下の人物が入場しようとすると、カジノの入り口が自動的に閉鎖してしまうのだ。
どうやって識別しているのか今持って分からない超技術であり、数年に一度は調査団が入るらしいが、未だ解明には至っていない。
2階と3階の中央部は最初に通ってきた商店街だ。
そして船の先端にはシンが通う予定の魔法学園があり、逆に後方には病院と教会が存在している。
多くの人が生活しているこの街にも商店街が存在している。
この街の周囲は湖であり、同時に4大大国全てに接しているため、各国から運ばれてきた様々な商品が店頭に並んでいる。
とは言えケン達がもっぱら利用しているのは弁当屋だ。
毎食食堂に行っていてはすぐに資金が尽きるが、この船の中では自炊は出来ない。
よってここで売り出されている弁当はここで生活するためには無くてはならない物だ。全部で4店ある弁当屋は各国毎の味付けの弁当が並んでいるため飽きることがない。ケン達は今日の昼に食べる弁当を購入してから探索を再開した。
2階と3階の前方部分は丸々魔法学園の敷地になっている。
魔法学園と言えば、魔法の授業があり、実験があり、座学がある。
ここでは各部屋にそれぞれの分野のエキスパートの先生が在籍しており、生徒が各部屋を訪れることで授業を受けるという仕組みらしい。
そして魔法の発動及び危険を伴う実験をする場所は、3階から出られるデッキの先端部だ。
実はこの船に甲板は2つある。
一つは9階より上の広い甲板部であり、もう一つが、三階の先に存在する船の先端部のデッキの上だ。
魔法学園に通う生徒達が魔法を使う際にはここで空に向かって魔法を放つのだ。
そして甲板の上に作られた小屋の中で実験をしているのである。
とは言え必ずしも空に向かって放つだけが魔法ではない。
そんな場合は、船を使って国の外に出て魔法の訓練をするのである。
これは関しては各国とも条約を結んでいるらしい。
各国とも優秀な魔法使いは一人でも多く欲しいのである。
そして2階と3階の後方部分には、病院と教会が存在している。
病院と名乗ってはいるが、正式には『医務室』らしい。この船に乗船中に怪我や病気になった人の治療をする場所だ。
しかしここには世界で一番の医療器具が存在している。
それが『カプセル』と呼ばれる装置だ。
この装置に入れば死んでいない限りどんな傷であろうとも治すことが出来るらしい。しかしこれを使う人は滅多に居ない。死にそうになった人がこの町まで来ること自体が難しい上に、カプセルを使用するためには湯水の如く魔石を使用しなければならないからだ。
余程の金持ちが、この船に乗船中に不慮の事故にでも遭わない限り稼働しない代物なのだ。稼働しさえすれば素晴らしいのだが。
そして『医務室』の隣には教会がある。
教会とは言っても、1階と同様この階にも存在した劇場を改装して教会風にしているだけだ。ここでは各国の様々な宗教が一同に介している。ちなみに墓はない。この船には墓を作るスペースが無いため、死者は湖を渡って陸地に埋葬されるのだ。
4階と5階はこのウロタの町の行政施設が存在している。
ここで働いている人達は今大忙しだ。3日後に迫った勇者の集いに関する仕事が山積みでちらりと覗いた廊下には殺気が渦巻いていた。
ケン達はこの階はスルーすることにした。特に行く必要も無いし、仕事の邪魔をする程馬鹿ではないのだ。
6階は、中央部分が高級商店街、前方と後方には各種ギルドが存在している。
ちなみに前方には冒険者ギルドや魔法使いギルドがあり、後方には商人ギルドや行商人ギルド、職人ギルドなどが存在している。
ケン達が行商人見習いを卒業したギイ商会ウロタ支店の他にも幾つかの世界的有名店が商売をしているが、ここで買い物が出来る人物は限られているためいつもは閑散としている場所だ。
しかし最近は割りと忙しい。何故なら勇者の集いで使う美品や招待客や勇者に渡す贈り物などで需要が発生しているからだ。勿論そのような物を貰えるのは大国の有名な勇者だけだ。ケンには一つも来ることはない。
そしてギルドである。こんな船しか無い場所に何故ギルドがあるのかと言えば、ここが世界の中心であるためだ。だからここにあるのは只のギルドではない。各ギルドの本部は大体此処にあるのである。例外もあるが。
その内の一つに冒険者ギルド本部が存在する。
何でも旦那は数年に一度ここで行われるギルドマスターの集いに参加していたらしい。こんな湖の上にある船の町の中で冒険者ギルドの仕事があるのかと言えば、これが結構あるそうだ。
この町まで護衛依頼を受けて来た冒険者が、ここから先の護衛依頼を受ける場所であり、モンスターの討伐にしても、湖の中を移動して町や船を襲うモンスターも居るそうで、定期的に駆除の依頼が来るらしい。
また、基本的に生活する人数が決まっているこの町は慢性的に人手不足だ。
よって手伝いの仕事には事欠かないらしい。稼ごうと思えば稼げるのである。
7階、8階は各国大使館や要人用の高級ホテルが存在するが、基本的に所属国の大使館以外に用は無いのでここは飛ばした。
というか、この階は他の階と比べても警備が厳しく、用もなくウロウロしているとすぐに捕まって根掘り葉掘り聞かれるのだ。余り長居はしたくないエリアである。
9階は食堂エリアであり、船の後方には『大浴場』が完備されている。
食堂エリアはケン達も頻繁に利用しており、大体どんな店があるのか分かっている。前方には巨大な会場があり、そこで勇者の集いが行われる予定だ。
そして段々と後ろに下がっていくに連れて店の敷地が狭くなるのである。
一概には言えないが、大体船の前方にあればあるほど高級レストランであり、後方にあればあるほど庶民的な食堂と思って良い。
とは言え基本どの店も旨いので利用者は余り気にせずに飲み食いをしている。
一部ルネッサンス共和国の空気の読めない貴族達が高級レストラン以外を馬鹿にしている位だ。
そして『大浴場』である。
ここは文字通りの広い風呂であり、日替わりで男女別に別れた風呂が格安で提供されている。
何故ならここで使われている湯は、湖の水を汲んで濾過して、熱して供給されているからだ。しかも全自動であり、人件費は掃除くらいである。
大浴場の湯船からはガラス越しに湖を見ることが出来る。ここから見える景色は絶景であり、景色を見ながら風呂に入れるという贅沢を味わうことが出来るのだ。
ケン達も何度も入りに来たものである。
旅の最中は基本体は水に濡らしたタオルで拭く位しか出来ない。
町や村で水浴びできれば良い方なのだが、ここでの暮らしですっかり風呂の良さに目覚めてしまった。
ここから旅立った後、風呂無しの生活に適応できるか心配だ。
ギイ曰く、『最初の数日が辛いが、その内慣れる』のだそうだが。
そして最後は甲板だ。
中央の広い部分に兵士の駐屯所と訓練場が存在しており、現在もこの国の兵士に混じってマール国の兵士や騎士が訓練に励んでいた。
彼らはケン達を見ると訓練を一時中止し、礼を取ってくる。
全体を統括していたスミレがこちらに気づいて話し掛けて来た。
「ハナ王女、ノウ王子、ケン殿、そして皆、今日は揃ってどうしたんだい?」
「この街に来て初めて休みが貰えたから、下から順番に見て回っていた所よ」
「後は甲板で最後なのでな。残りはこの先にある畑と家畜小屋だけだ」
「その前に皆の姿が見えたので訓練を見に来たんですよ」
「成程ねぇ」
スミレはこの町に着いてから忙しそうにしていたケン達の事を思い出して苦笑いした。まだ若い彼らがこんな面白そうな場所に来たのなら探検の一つもしたいだろう。3日後に迫った勇者の集いが終われば、今度は行商人としてではなく、勇者としての旅の日々が始まるのだ。こんな日があっても良いのかもしれない。
「それにしてもかなり激しい訓練ですね」
「まあね、話には聞いていたけど、この国の兵士達の実力が相当高くてねぇ。全員コテンパンにのされたものだから『このままでは国の為にならない!』って全員奮起しちまって。今迄見たことも無い位に訓練に励んでいるよ」
「本来なら俺が真っ先に訓練しなきゃならないのですがね。勇者の集いが終わったら訓練よろしくお願いします」
「言われなくてもそのつもりさ。勇者が一番弱くちゃ話にならないからね、しっかり鍛えさせて貰うよ」
「お手柔らかに」
そう言ってケン達はスミレと別れ、最後に残った甲板の上に作られた畑と家畜小屋に向かった。
いや正確に言うと向かおうとしたのだ。その時突然ケン達の前に人影が現れ進路を塞いできたのだった。
それは狼の獣人であった。目の覚めるような銀髪をしており、口から牙を覗かせた、2m近い長身の男だ。立派な鎧を着て、腕には高価そうな腕輪を嵌めている。ケン達に獣人の年は分からないが、聞こえてきた声は随分と若い様に感じた。
「やあやあ我こそはワイルド王国皇太子『ファイナル』なり!貴公はケン=ジッツマン男爵で相違御座らんか?」
「え?ああ、はい。私がケン=ジッツマン男爵ですが」
「同じ勇者として手合わせ願いたい!いざ尋常に勝負!」
そう一方的に宣言したと思ったら、『ファイナル』と名乗ったその獣人は目にも留まらぬ速度でケンに向かって突っ込んできた。
ケンに対処など出来ない。目にも留まらぬ速度に対応できる程ケンの反応速度も動体視力も優れていないのだ。
それは周りにいるハナやヘイ達も同様だ。
この速度域に対応出来る人物は、マール国関係者では旦那とスミレ位だ。
そして旦那はこの場におらず、スミレは後ろの訓練場で訓練をしている。
つまり誰一人、この突然の状況に対応する事が出来なかった。
だからケンは反応する事も出来ずに突然襲い掛かってきた攻撃を無防備に受け、そのまま後ろへと吹っ飛んでいった。
それは突然の出来事だった。
スミレは兵士達と訓練をしている際に、この街を探索していたケン達と出会い、軽く挨拶を交わしてから訓練を再開しようとしていた。
そのスミレに向かって何か高速で近づいてくる気配がある。
咄嗟に振り向き、それが人くらいの大きさであると看破したスミレは咄嗟に避けた。避けてしまったのだ。
それが横を通り過ぎた時、その飛んできた物体が、勇者ケンであると気がついた。
気がついたが後の祭りだ。動いた体は元には戻らず、伸ばした手は空を切った。
そしてマール国の勇者ケンは訓練場横の駐屯所の壁に激突。
辺り一面に物凄い轟音が響き渡った。
その場にいた全員が咄嗟には動けなかった。
突然現れたワイルド王国皇太子と名乗った狼男がケンに向かって突撃して来たと思ったら、次の瞬間には背後で物凄い轟音が響き渡る。
全員揃って音の発生源に目を向けた。
そこには陥没しヒビが入ったレンガ造りの駐屯場の壁が見え、その前に倒れているケンが見えた。
スミレがケンに向かって走っていくのが見える。ヘイとホドが遅れて続き、その場にいた兵士や騎士達もケンに向かって走っていく。
そして彼らが到着する前にケンに変化があった。
一度『ビクン!』と体が跳ねたかと思ったら、ケンの周りに突然逆茂木が出現したのだ。
ケンに意識はない。意識がなければアイテムボックスは操作できない。
それなのにアイテムボックスの中に収納されている逆茂木が出て来るのはどういう状況か。
決まっている。
分かっている。
理解している。
しかし脳が拒絶する。
『アイテムボックスの中身が全て出てくるのは、その人物が死んだ時だ』
その事を思い出し、ハナは絶叫した。
その事件が起きたのは勇者の集いが始まる3日前だった。
事件が起きた場所は、勇者の国唯一の街ウロタの甲板にある訓練場付近。
この日マール国の勇者ケン=ジッツマン男爵は、同じく勇者であるワイルド王国皇太子ファイナルの手によって殺害されたのだった。




