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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第89話 見習いからの卒業

翌日、ケンとハナは『ギイ商会ウロタ支店』を訪れていた。


昨日この町に到着直後はまず勇者として大使館を訪れたが、今日は行商人として師匠の店を訪れた。


本来2人の行商人としての修行は、マール国を回った後にシカーク王国を巡って、最後にドヴェルグ連合国のカンナの町の支店で最後の修行をして終了になる筈であった。


しかしマール国で発生した魔物の大量発生とそれに伴うセンターの村防衛戦、そしてケンが勇者に任命されてしまった影響で大幅に予定が変更された。

そこでマール国の勇者としての最初の旅の目的地であるここウロタのギイ商会の支店が2人の修行の最終地点に変更されたのだ。


ギイ商会ウロタ支店は巨大船町ウロタの6階、各種ギルド支部や高級商店街が並ぶ一角に存在している。


ここに店を出せるという事は、即ち世界屈指の商人である証拠だ。

国土その物が無いこの町は出店出来る場所も数も極めて限られている。

その一角に店があるだけで世界中の人々から世界屈指の商人と讃えられる。

ここはそんな場所だ。


そしてその店はケンとハナの旅の一つの終着点だ。

およそ2年と3ヶ月前、2人は別々の理由でほぼ同時期に行商人ギイに弟子入りした。


それからというもの、師匠であるギイに加え兄弟子であるヘイが付きっきりで面倒を見て、行商人のイロハを叩き込んでくれたのだ。


最初は何も分からなかった2人であったが、今では一端の行商人を名乗れるまでに成長した。


尤も行商人としては些かならず特殊な体験をし過ぎな気もするが、それは仕方がないだろう。世界屈指の行商人の1人であるギイであっても王女殿下が弟子になったり、別の弟子が勇者に任命されるなど予想外の事であったのだから。


そして今日、これからこの店に入店し、到着の報告をした後に、2人の持つ『見習い』の称号は外される。

これからは師匠から独り立ちをし、1人の行商人として活動していくのだ。

勇者と王女としてはどうかと思うが。


そんな訳でケンもハナも店の前で硬直してしまっていた。

「この扉を潜ったら弟子は卒業なのだ」と考えると動けなくなってしまったのだ。


護衛として一緒に訪れているソレナやホドは黙って見ている。

ギイとヘイは先に店に入っている。

ケンとハナは動けない。

動かないと店の扉が開かない。

店の前で動かずに突っ立っていると商売の邪魔になる。

だから2人は怒られた。



「さっきから何をしとるんじゃお前さんらは!そんな所に突っ立っていては商売の邪魔じゃ!とっとと入ってこんかい!」

「すいません!」「申し訳ありません!」



突然店の扉が内側から開き、威勢の良い老人の声が響き渡る。

2人は反射的に謝り、先程まであれほど躊躇していた店内に一目散に入店した。


店の中にはギイとヘイに加えて、1人の老人が待ち構えていた。

先程2人を叱りつけたのはこの老人だ。

背は低めだが眼光は鋭い。髪は総白髪だが体には気力が満ち溢れている。

華美ではないが高級な衣装に身を包み、高級店街に出店している店の店主として恥ずかしくない装いをしていた。


ケンもハナもこの老人には見覚えがあった。

そもそもギイとヘイから彼については聞かされていた。

だから2人は彼に挨拶をした。



「久し振りですね番頭さん」

「お久し振りですサッカ殿、お元気でしたか?」

「ご無沙汰しております王女殿下。お陰様で元気にしておりますよ。

坊主も久し振りだ、ヘイの初めての行商の時に村の宿屋で会って以来か」



ギイ商会ウロタ支店支店長を務めるこの男は、ギイ商会の番頭サッカ。

ギイ商会最初期からギイと共に世界を股にかけ、共に商会を発展させてきたギイ商会の実質的なNo.2である。



兎にも角にも2人は入店を果たし、最初の挨拶も交わしたので余裕が持てた。

そこで2人はまず店内をグルっと見回した。


店の中は船の中なのに広く豪華な作りだ。

流石は高級商店街といった所か。

ハッキリ言おう、マール国の大使館よりも広い。

店内にはギイ商会が扱っている世界各国の商品が余裕を持って展示されている。

ドヴェルグ連合国のカンナ支店では所狭しと並べてあったのに比べると偉い違いだ。

しかもよく見るとどれもこれも高級品ばかりが結構なお値段で売られている。

今まで見てきた店と比べても明らかに狙いの客層が違う。

ケン達は店内を一目見てそれを看破した。


「何と言いますか・・・随分と他の店と違いますね」

「ギイ商会らしくないと言うか、完全に高級店ですね」


2人は思った通りの事を口にする。

それを聞いたサッカは頷いて話し始めた。


「そうじゃな、ここはこの店だけはギイ商会の中でも別物として扱われておる。ここは勇者の国唯一の町ウロタの中でも高級店が立ち並ぶ一角。この階に買い物に来る客人達は、皆それなりの地位を持ち尚且つ懐に余裕の有る者達で締められとる。下手な物を置いても見向きもせんのじゃよ」


「この町は階層で完全に住み分けが出来ているからな。7、8階の大使館や高級ホテルの宿泊客はこの階でのみ買い物をする事が殆どだ。だからこの店だけは高級路線を追求している」


「そんな訳でこの店を任せられるのはギイ商会の中でも幹部クラスだけなのさ。番頭はギイ師匠に次いでNo.2だからな、ここにはもう6年も務めているんだ」


サッカ、ギイ、ヘイがそれぞれこの店の説明をする。

ケン達は周囲に有る高級品に傷をつけてはいけないと気をつけて店内を進んで席に着く。そして気づいた、こんな高級品をよりにもよって『船内』で販売しているということを。


「師匠、失礼ですが町扱いとは言え仮にも船内で高級品を扱っても良いのですか?幾ら気をつけていても揺れで割れたり傷つく事もあるでしょう」

「あら、それについては大丈夫よ」

「気付いていなかったのか?この船全く揺れてないだろう」

「揺れていない?・・・あれ?そう言えばそうですね」


ケンは言われて気が付いた。

確かにこの船に乗船してから揺れた記憶が全く無い。

今もそうだ。この船はまるで陸地のように不動であるのだ。


「この町は確かに船ではあるがな、浮いている訳ではないのじゃよ」

「浮いていない?湖に浮いている訳ではないのですか?」

「ああ、この船は大きかったじゃろう?つまりその分水面下もそれなりの深さがあるという事じゃ。そしてこの船の最下部は水面には浮かずに、湖の底にめり込んでおるんじゃよ」

「め、めり込んでいるのですか?」


どういうことかと言えば、

1000年前初代勇者がこの船を召喚した際、湖に浮かべるつもりだった船は、予想外に水面が浅かったのと船の水面下の長さが深かったため、湖には浮かばずに湖の底にめり込んでしまったらしい。


しかもここは海ではなく湖だ。波もそれ程高くはならず、風が吹いても船体はびくともしない。その為この船は船であるにも関わらず、召喚当初から一度も浮かばず、一度も動かず、一度も揺れずに今日まで存在しているのだそうだ。

冗談みたいな話である。


よってこの町は『船の形をした巨大構造物』と考えられ、そのように扱われてきた。ケンは納得した。たしかにそれならば高級品も置くことも出来るだろう。


よく考えてみればマール国の大使館の交代要員達はカンナの町で大使館に置くための置物を購入していたのだ。その事に考えが及ばなかった自分をケンは恥じた。まだまだ世の中は知らないことで溢れているようである。




さて、挨拶も終わりいよいよケン達が見習いを終了する時が来た。

ケンとハナはギイに帳簿を提出する。


ここに書かれているのは、2人がギイの弟子になり行商人として働き始めてから記録し続けてきた2人のこれまでの収支額だ。


最初に行なったサウスの町中での冒険者ギルドの仕事、

逆茂木の作成の最中に行なった薬草採取の仕事、

徒歩でサウスの町周辺を行商して回った時の売り上げ、

馬車でマール国を回った時の売り上げ、

カンナの町での勇炎祭の売り上げ、

最後にマール国からこの町まで旅をして来た際の行商の売り上げ


以上が詰まった帳簿である。


ちなみに帳簿は2人で共同だ。ハナが弟子になって以来ずっと行動を共にして来たので分ける必要が無かったのである。


なお、センターの村防衛戦でケンが貰った報奨金と山賊赤錆団を壊滅した際に配分された金額に対しては計上していない。あれは『行商で儲けた訳ではない』からである。


ケンとハナは毎晩寝る前に1日の収支を必ずここに記してきた。

ギイはそれをじっくりと読んでいく。

読み終わった帳簿はサッカの手に渡り、サッカが読み終わった帳簿はヘイの手に渡り読まれていく。


暫くはページをめくる音のみが店内に響いていた。

そしてまずギイが全てを読み終わり、サッカが読み終わり、ヘイが読み終わった後、ギイが2人に話し掛けた。


「よくやったな2人共。最初は何も分からなかったお前達が今ではこれだけの利益を挙げられるようになるとは師として誇らしい気分だよ。サッカとヘイはどう思うかな?」


「番頭として言うことは何もないわい。これだけ利益が出せるなら既に一端の行商人じゃ。息子からも2人の人となりは手紙で報告されて知っとるでの、問題はあるまい」


「同じく問題無しです。って言うか2人が立派になってくれて俺は嬉しいですよ・・・」


「何じゃ涙なんぞ流しおって、手紙に書いておったが本当にアニキをしとるんだのう?」

「仕方ないじゃないっすか!俺だってびっくりですよ。あ~全く!弟弟子の成長がこんなに嬉しいとは思いませんでしたよ」

「儂はお主のそんな姿を見れて感無量じゃよ」


ヘイが涙ぐみ、それを見たサッカも涙ぐみ始めてケンとハナは混乱した。

まさかヘイが2人の成長に涙してくれるなんて想像もしていなかったのだ。

後ろではソレナやホドが驚いた表情をしている。

この2人もいつの間にか店内に入っていたようだ。

多分ケン達が入った時に一緒に入店していたのだろう。



サッカとヘイの意見を聞き、その態度を見たギイは1つ頷いてケンとハナに話し掛けた。


「番頭であるサッカと兄弟子であるヘイの許可も得られた。そして私自身も問題無しと太鼓判を押せる。ケン、そしてハナ、2人は見習いを卒業だ。本日只今を持って一人前の行商人と認める。おめでとう。途中色々あって伸びたにせよ、およそ2年間の修行、良く頑張ったな」


ギイがそう言って懐から箱を取り出し2人に渡してきた。

2人は受け取り中身を確認する。中にはバッジが1つあった。

丸い円の中に逆茂木が描かれたバッジ、ギイ商会の行商人達が持っている専用のバッジだ。


ケンとハナは震える手でそれを手にし、自らの上着に取り付けた。

キラリと光る鉄で出来たバッジは華美ではないが誇り高く2人の胸元を照らしていた。



「そのバッジを身に着けていれば世界中の殆どの場所でギイ商会所属の行商人として扱って貰える筈だ。私が以前世界を回った際に訪れた様々な国や地域ではそれさえあればそれなりに有利に商談が出来るようになるだろう。

だが逆に言えばそれだけでしかない。

これからお前達がどのような行商人になるのか、どれだけ儲けて、どれだけの国や地域を巡ることが出来るのかはお前達次第だ。

お前達には私が持つ知識の全てを伝授したつもりだが、お前達はまだ見習いから初心者行商人になったに過ぎない。

これからも行商の技を磨き立派な行商人として成長してくれる事を願う」


「「はい!!」」


「それからもう一つ、2人はこれで一人前の行商人になった訳だが、同時にケンは勇者であり、ハナは王女でもある。

コウ陛下は生き延びることを優先して活動しろと仰っていたが、私の経験上、堅実に手堅く行動していても突発的事態は起きるものだし、どこかで必ず堅実を破棄して勝負に出なければならない時もある。

私とサッカが世界を回っていた際もそういう場面は存在した。平和な世界で行商人をしていた私達ですらあったのだから、これから魔物の活性化が始まる中で勇者と王女が旅をすれば必ずその場面に遭遇する。

その時は突然訪れる。だから覚悟を決めろ。常に万全の準備を整え、余裕を持って行動し、仲間と自分の命を優先して活動し、力と知恵を身に着けろ。

私の授けた行商の技がお前達の手助けになるよう祈っているよ」


「「ありがとう御座います師匠!(お師匠様!)」」


ケンとハナはギイからの心からのエールを受け取り、自らの師匠に向けて深く深く頭を下げた。

その目には大粒の涙が伝っており、止まるまでは暫く掛かるのであった。


この日、勇者の国唯一の街、巨大船町ウロタの6階にあるギイ商会ウロタ支店において、ケンとハナは行商人見習いを卒業し、初心者行商人となったのであった。

これにて第3章は終了です。

これまでの見直しと、登場人物紹介を入れる予定なので、

次回までは少し間が空きます。

連日更新は厳しかった・・・

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