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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第88話 勇者の国のマール国大使館

ケン達はおよそ3ヶ月半もの時間を掛けて、マール国から勇者の国へと旅をしてきた。


そして今日、遂にその旅が終わり、ケン達は勇者の国唯一の街である巨大船町ウロタに到着した。


しかしこれで終わりではない。

寧ろここからが本番である。


ケンは勇者である。

勇者の目的は世界を守ることである。

世界各国の勇者達はこれから10日後に行われる勇者の集いに参加し、そこで他国の勇者と顔合わせをする。

国の代表として参加してきた彼らはこの時より各々の判断において世界各地に散らばり、その力で持って人間世界を守り抜くのである。



しかしケンはマール国の勇者である。

マール国の勇者の目的は、とにかく安全第一。

これから先訪れる魔物の活性化現象を無事に生き残り、そしてマール国を存続させる事が最重要課題である。



更にケンは行商人でもある。

行商人であるケンの目的は世界を見て回ることである。

金儲けは手段であって目的ではない。金の心配をせずに旅が出来る身分では無いから金を稼いで旅も出来る行商人になったのである。



つまりケンは行商人兼マール国の勇者である。

勇者として世界を巡りながら、それでいて安全第一。

生き残ることを最優先に活動し、同時に世界を旅してついでに資金も稼ぐのだ。

勇者になったとしても国からの援助は存在しない。

自力で稼いで、自力で旅をし、同時に世界に対して益のある活躍をしなければならないのである。



そんなケンは今ウロタ内部にあるマール国の大使館に来ていた。

この町、というか船に到着した時点でケン達の護衛をしてきた冒険者達はお役御免となった。

更にマール国から共に旅をしてきた職人や行商人達ともここでお別れだ。

ギイと旦那も勇者の集いが終了したらマール国へと帰国予定だ。

そしてナッカ大使を始めとした大使館の交代要員達はこれから引き継ぎをしてここで働き始めるのである。


よってこの町に到着した時点でマール国勇者一行総勢52人の内、半数を超える27人とは別れることになる。

勿論彼らは暫くはこの町に留まる予定だが、勇者一行としては卒業だ。


よって今夜は勇者一行の解散と到着祝いをしようと食堂街の店の一つを貸し切りにし、最後のお別れ会をすることになっている。


しかし夕食までにはまだ時間がある。

よってナッカ大使及びケン達勇者一行は大使館に到着の連絡をすることにしたのだ。



ウロタの7階、大使館エリアの一角にマール国の勇者の国大使館は存在した。

マール国は弱小国なのでてっきり端っこの方にあるものだと思っていたが、端っこの方が部屋が広いらしく、そちらは大国が使っているとのことだ。


扉を開けるとまず受付があり、その後ろで職員が書類の整理をしていた。

ナッカ大使が要件を告げると職員は急いで奥の扉を開いて呼びかける。

するとすぐに奥の部屋から太った中年男性が現れた。


「おおっ!ナッカ殿、遠路はるばるご苦労様です。まずは無事の到着をお祝い申し上げます」

「ありがとう御座いますマエノ大使。王女殿下ハナ様、王子殿下ノウ様と共に勇者ケン一行は全員無事にウロタへと到着いたしました」


どうやら2人は旧知の間柄らしい。固い握手を交わしている。

話を聞くに現在のマール国の大使なのだろう。

ニコニコと人の良さそうな笑顔を振りまいている。


すると部屋に居た職員達が全員立ち上がって拍手を始めた。

どうやら彼らもナッカ大使と交代要員としてやって来た大使館員達を歓迎しているようだ。


その後、ケン達は奥の部屋へと通された。

そこには椅子とソファが並べられ、数は少ないが品の良い調度品が置かれている。

どうやらここは大使館の来客用の部屋であるらしい。


ケンはハナやノウと並んでソファに座らされた。

そして職員の男性がお茶を人数分入れて一息つき、ナッカ大使が話を開始した。


「改めまして、今回の魔物の活性化現象に対応する為の勇者選定及びその護送のついでに私を含めて5人の大使館員が交代要員として勇者の国の大使館に着任する事となります。マエノ大使及び交代の命を受けた4名の皆様は、勇者ケン殿が勇者の集いを終わらせた後に各国の反応を見てからの帰国となります。どうかそれまでの間に業務の引き継ぎを宜しくお願い致します」

「分かりました。事前に手紙で伝わっておりますので問題ありません。我が国は小国ですが、業務はそれなりにありますので緊張感を持って仕事に望んで下さい」


マエノ大使がゆっくりと頷く。今回の大使館員の交代に関しては事前に連絡が入っていたようだ。まぁ当然か、突然来られて突然交代など出来ないのだから。


「王女殿下も王子殿下も御久し振りで御座います。最後にお会いしたのは確かハナ様の10歳の誕生日を祝う式場でしたでしょうか?」

「ええお久し振りですマエノ大使。お元気そうで何よりです」

「お久しぶりです大使。姉の10歳の誕生日以来という事は8年ぶりですか」

「そうなりますな。お2人共大きくなられた・・・感無量でございます」


マエノ大使は優しげな視線で2人を見つめる。

8年振りに再会した王族の少年少女は立派な若者に成長していた。

王家に仕える大使としては感動が抑えきれない。


その後暫くマエノ大使はハナ達と昔の話で盛り上がっていた。

しかしそれでは話が進まないので、ナッカ大使はケンの紹介を始めた。


「マエノ大使、こちらの少年が今回我が国の勇者として任命されたケン=ジッツマン男爵です。短い間ではありますが、この勇者の国での活動のサポートをお願いします」

「初めまして、マエノ大使。ギイ商会所属の行商人見習い、ケン=ジッツマンと申します。貴族にも勇者にもなったばかりではありますが、精一杯活動していきますのでどうかご指導の程よろしくお願い申し上げます」


ケンは立ち上がって頭を下げる。

それを見たマエノ大使以下マール国の大使館員達は、内心とても驚いていた。


彼等の下にもケンが勇者に任命されたという知らせは勿論届いていた。

そしてケンが王族でも騎士でも兵士でもなく行商人であることも合わせて伝えられており、同時に国の置かれている危機的状況も伝えられ、勇者ケンの仕事は生き残る事だから全面的にバックアップするようにとも書かれていた。


その手紙を読んだマエノ大使以下大使館員達は、ケンの事を棚ぼたで勇者になった者としてかなり下に考えていた。「ハナ様は誑かされたのだ」とか「今頃調子に乗って居る筈だ」などと本人に会ってもいないのに適当な噂を囁き、祖国の窮状に思いを馳せていた。


しかし実際に勇者に会ってみれば、礼儀正しく、爵位を傘に着ることもなく、調子に乗っている様にも見えない。マエノ大使以下大使館員達は勝手な想像を働かせていたことを瞬時に猛省し、勇者ケンと友好的な挨拶を交わしたのだった。


「これはこれは、こちらこそ宜しくお願い致します。行商人が勇者に任命されたと聞いていたので些かならず驚いていたのですが、やはり陛下の目に狂いは無さそうですな」

「それに関してはまだ分かりませんが、精一杯頑張らせて頂きます」


マエノ大使は勇者ケンとも握手を交わした。

その手は戦士としてはまだまだであるが、並の行商人とは異なる力強さを持っていた。

マエノ大使はケンの印象を大幅に上げた。

元が大分下であったのでプラマイゼロになった程度ではあったが。



それから勇者の仲間としてケンと同じく爵位を賜ったヘイやソレナ、ホドの紹介が終わり、ギイや旦那、スミレなどのマール国内で有名な人物の紹介を済ませ、勇者一行として活動予定の兵士と騎士の紹介が終わった。


そしてカンナの町からケン達勇者一行に参加してきた牧師のニックと鍛冶屋のハチの紹介が終了すると、最後に残ったのはケンの弟であるシンとその相棒のギンだけになった。


「さてでは最後になります。彼はシン、魔法使い見習いであり勇者ケンの実の弟に当たる人物です。一緒にいるギンペはギンと言い、まだ生まれたばかりの子供です」

「宜しくお願いします」

「ンペ!ン~ペ!」

「おお君が我が国の勇者パーティーの魔法使いかね!どうか宜しく頼むよ!」


マエノ大使はシンを紹介されると急にテンションが上った。不思議に思って聞いてみると、マール国の深刻な魔法使い不足の現状を伝えられたのだった。


「我が国は国土も人口も少ないが何よりも魔法使いの数が少ないのだよ。在野には偶に優秀な魔法使いが出てくる事もあるが、彼らは基本他国で仕事をするか士官してしまう。当然だな、我が国に居ても彼らの能力を使う機会も無ければ、正当な報酬も与えることが出来ん。勇者一行には必ず一定数の魔法使いが居るものだが我が国の魔法使いの数は現段階ではゼロ。だから見習いとは言え将来必ず参加する事になる魔法使いが存在すると言うだけで嬉しいものなのだよ」


どうやらシンへの期待は予想以上に大きいようだ。

シンは期待に答えるために頑張って勉強しようと胸に刻んだのであった。

その様子を見ていたノウ王子が胸元から手紙を取り出した。


「シン余り気負わないようにしておけ。最初から飛ばしても長続きしないからな。さてマエノ大使、これが父上から預かっていたシンの勇者の国の魔法学園への推薦状になります。彼はまだ成人前ですが、勇者の集いの半月後には誕生日を迎えるため翌月からの入学手続きをお願いします」

「改めさせて頂きます。・・・成程確かに。ではシン殿の入学手続きはマール国の大使館が責任を持って行わせて頂きます」

「はっはい!宜しくお願いします!」

「ンペ~!」

「ちなみに彼は在学中何処で宿泊する予定なのですかな?ここの魔法学園に寮はありませんし、我が国の大使館は大使館員のみで一杯なのですが・・・」

「ご心配には及びません。シンは我が弟子ケンの実の弟です。在学中はギイ商会のウロタ支店で面倒を見る事が決まっております」

「それは助かります。我々は経費削減の為、大使館で寝泊まりしておりますので・・・」



勇者の国の魔法学園はこの世界の魔法使いの学校の中で最高峰と言われている場所だ。

何故なら遥か1000年前に勇者が呼び出した巨大船町ウロタ内部に存在し、当時の魔法書がそのままの形で保管されているからだ。


この街の図書館に収めされている書物は1000年もの間、この船と同様に燃えることも奪われることもなくあり続けた。しかも船内は初代勇者の世界の謎の技術を使った空調が備え付けられているため、本がカビる事も湿気にやられる事もなかったのだ。


ちなみにこの空調が宿泊エリアで火を炊かなくても暮らせる理由である。

夏は涼しく、冬は暖かい為火で暖を取る必要が無いのである。


よって各国は選び抜いた優秀な人材をこの船に送り込んでくる。

しかしながらその滞在に関してはここにある大使館員に丸投げだ。

彼らは国を背負う優秀な魔法使いのために船内の宿泊場所でも快適で高価な場所を押さえ、研究に使うための十分な資金提供を行う必要がある。


しかしマール国の様な貧乏国にはそれだけの余力がない。

弱小国の大使館員は経費削減のため大抵は大使館の部屋の一部を宿泊場所にしてそこで寝泊まりしていることが多い。

弱小国はここに来る留学生を大使館に泊まらせて、学校に通わせるのだ。

そのような状況であるため学生の面倒を見て貰う事はとても助かるのである。

唯でさえ狭い部屋が一人分空くことはとても助かるのだから。


ちなみにナッカ大使を始めとした大使館の交代要員達の宿泊場所も当然ながら無い。

よって彼らはマエノ大使達がマール国へ引き上げてから大使館内に引っ越す予定である。

それまではケン達と同じく宿暮らしだ。だから暫くは一緒なのである。


そうしてケン達の到着の報告は終了した。

細かいことはまた後日にする事とし、ケン達は大使館を出てそのまま食堂エリアへと向かう。これから一緒に旅をしてきたメンバーと打ち上げなのだ。マエノ大使達も気持ち良く送り出してくれた。ちなみにナッカ大使達の歓迎会はマエノ大使達の送別会と同じ日に行うらしい。一度で済ませる事で経費削減になるそうだ。深刻である。


そしてケン達は9階の食堂エリアへとやって来た。

ここには大勢でパーティーが出来る大広間から、数人入れば埋まってしまう小さな居酒屋まで様々な飲食店が軒を連ねている。


食堂エリアが9階にあるのはこの上には甲板しかない最上階だからである。

煙が上に登っていく性質上、火を使い煙を出す飲食店は纏めて最上階に揃えるしかなかったのである。


ケン達はその中でも旦那やギイおすすめの、安くて、旨くて、量もある店にやって来た。中には既に他のメンバーは揃っており、早速料理と酒が配られた。

そして宴会の最初にケンが今回の旅を総括して乾杯の音頭を取ったのだった。


「皆さん、今日までの長旅お疲れ様でした。

我々は本来なら1ヵ月で到着する行程を3ヶ月半も掛けて移動して来ました。

途中、ナントーの町で賄賂を請求されたり、シカーク王国の河でシンがギンペの抱擁を受けたり、カンナの町に2ヶ月も滞在したり、同じくカンナの町で勇炎祭に参加したり、ドヴェルグ連合国の山道で山賊に襲撃されたり、逆に山賊を襲撃したりと盛り沢山な旅になりました」


「この一行はここで解散になります。皆さん目的が違いますし、こちらとしても雇えるだけの資金がありませんのでこれは仕方がないことです。ちなみに俺は10日後、各国の勇者同士の顔合わせ、通称『勇者の集い』に参加します。そしてその後は正式にマール国の勇者として活動していく予定です。そして行商人としても世界を股にかけて活動していく予定です。ここで別れる人達も、ここに残る人達も、お互い健康に気をつけて、これから起こる予定である魔物の活性化現象を無事に乗り越えていきましょう」


「そして何時かまた、世界の何処かで皆さんに会えたなら、またこうして共に酒を飲み交わしたいと思います。皆さん本当にお疲れ様でした!マール国の勇者ケンとしてお礼を申し上げます!乾杯!!」


「「「乾杯!!!」」」


全員のグラスが高々と掲げられ、近くのグラスと打ち合わされて澄んだ音を響かせる。


この日マール国の勇者一行は誰一人欠ける事無く、目的地である勇者の国唯一の町、巨大船町ウロタに到着し、その夜解散したのであった。

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