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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第87話 巨大船町ウロタ

勇者の国唯一の町『ウロタ』


それは特徴的な形をした町であった。

国境からは距離があったためぼんやりとしか見えなかった全景が、船が近づく事で遂に姿を表した。


それは船の様な形をしていた。

いや違う、様な形も何もこれは間違いなく船である。

それもただの船ではない、白く光る鋼鉄で出来たとてつもなく大きな船であったのだ。


ケン達マール国勇者一行はその余りの巨大さと、『船が町』というありえなさに度肝を抜かれていた。


「師匠、師匠!なっ何ですかこれは!」

「うおースゲー!話には聞いていたけど初めて見た!」

「お師匠様、これがあの伝説の船なのですか?」

「そうだ。これこそが勇者の国唯一の町であり、約1000年前、初代勇者様が召喚したとされる鋼鉄の巨大船「ウロタ」だ」


ギイの説明にケンは更に驚く。

ギイは今「初代勇者様が召喚した」と説明した。

つまりこの船は当時から1000年もの間、この湖に浮かんでいるという事になるのだ。


「召喚?初代勇者様はそんな事も出来たのですか?」

「なんやケン、初代勇者様の能力を知らんのかいな」

「え?ホドは知ってるのか?」

「寧ろ何で知らんねん。知ってる人は手を挙げてや~」


ホドがそう言うと、大半の人物が手を挙げていた。

手を挙げていないのはケンとシン、そしてマール国からやって来た一部の職人や冒険者だけである。


ケンはびっくりして隣に立っていたヘイにどういう事なのかと問いかけた。

するとヘイは恐らくは聞かされていた昔話の内容の差ではないかと推測した。


「昔話の違いですか?俺もシンも家の宿屋にあった絵本を母さんに呼んで貰っていたのですけど」

「多分それだな。一番簡単で安い絵本だと、ページ数の都合で細かい箇所が省かれている事があるからな。お前らは初代勇者様の能力をどんな風に聞いていたんだ?」

「どんな風も何も「偉大なる力」としか聞いていませんが」

「そりゃまた大雑把な説明だな」


ヘイがケン達の知る昔話にツッコミを入れる。

そして初代勇者の能力について説明を開始した。


「世間一般で知られている初代勇者様の能力はな「引き換え」と呼ばれているんだよ」

「引き換えですか?」

「ああ、例えばこちらの世界の金銭や宝石と引き換えに、勇者様の住んでいた世界の物品を取り寄せることが出来たらしい」

「何だか商人みたいな能力ですね」

「実際にはもっと凄かったらしいぞ。何しろ金目の物以外も能力の適応範囲だったって話だからな」

「他に何があるんですか?」

「モンスターの体から取れる魔石やドヴェルグ連合国でよく取れる鉱石は元より、それこそそこらの土や草、木や水、それこそ空気や死体すらも引き換えに出来たらしい」

「何でもありですね!」

「国王陛下も言っていただろう「あらゆる物と引き換えに」ってな。そんでもって目の前のこれはその引き換えの能力で手に入れた物の中でも有名な奴なのさ。1000年経った今でも錆びることも腐ることもない鋼鉄の船ってな」


その説明にケンは改めて目の前の鋼鉄の船『ウロタ』を見つめた。

外観はどう見ても船その物であり、外壁は全て鋼鉄製だ。

よく見ると船の外側に通路らしき物が張り巡らされており、多くの人が行き交っている。

また窓も多数在り人影がチラホラと見える。

本当に船の中で人々が生活しているのだ。


それにしても巨大な船だ。まだ十分な距離があるというのにギリギリ端から端まで視界に入れることが出来るほどである。船というよりも船の形をした巨大な城の様だ。実際は町なのだそうだが。


そして何よりも問題なのは、1000年前から存在している代物なのに未だに錆も腐りも無いことだ。

ケンが今乗っている船は普通の木製である。当然使っている内に段々と擦り切れ、腐っていき、最終的には使用不可能となる。それなのに目の前の船は未だに当時のままであるという。これはとてつもない事なのではないかとケンは考えた。そして近くに居たハチに声をかけた。


「なぁハチ、俺達の中で金属について一番詳しいお前に聞くけど、ドワーフ達にはこの船と同じ物は作れるのか?」

「いやぁ無理っすよ。現代のドワーフの鍛冶技術を使っても作れません。こいつは初代勇者様の住んでいた世界から来た代物です。1000年前は今とは比べ物にならない位に魔法技術が発達していたって聞きますが、金属加工技術では当時のこの世界よりも初代勇者様の世界の方が遥かに優れていたって話です。僅かに残る当時の文献にも、当時の技術者達が匙を投げたって書いてある位ですからね」

「初代勇者様の住んでいた世界はそんなに凄かったのか?」

「何でも魔法の代わりに「科学」とかいう技術が発達していたそうっす。こちらの世界の魔法と比べても大部分で優れていたって話っす」


ケンはその話を聞いて戦慄した。こちらの世界よりも遥かに優れた文明を持つ世界からやって来た初代勇者。そしてその初代勇者をしても「あらゆる物と引き換え」でなければ倒せなかったという当時の魔王達。そしてその魔王達を倒した勇者すらも倒したという当時の戦士達。


一体どれだけの力のある者達だったのかと考え、行商人である自分がその人達と同じ勇者を名乗っても良いのかと考えた。


そしてそんな考えを口に出していたケンに対して旦那が声を掛ける。

彼は一言「気にするな」と呟いた。


「気にするなと言われても・・・やっぱり気になりますよ」

「気持ちは分かるがな。当時の勇者や戦士や魔王達の力は常軌を逸した物ばかりだったと聞く。現代ではそれほどの力は再現すら出来ていない。ならば考えるだけ無駄だ。そもそもモンスターを相手するのにそれ程の力は必要ない。あちらもこちらと同じく常識的な攻撃しかして来ないのだからな」

「そうなんですか?」

「当然だ。私は前回の活性化時も勇者の共の一人として参加し、勇者が死んだ後も一冒険者として戦い続けたが無事に生き残ることが出来た。もしも初代勇者が活躍した1000年前の様な力を持つモンスターが一匹でも居たのなら私は今頃死体になっている筈だ。しかし今も私はこうして生きている。お前はこれからも無理をせずに生き延びることを優先して自分のペースで戦えば良い」

「分かりました」



ケン達がそんな会話を続けている間に船はウロタの町へと近づいていく。

そして近づくに連れてその船の巨大さを実感していく。

見上げれば相当な高さだ。坂や山も無く単独の建物でこの高さを有する建築物をケンは今迄見たことがない。

それが何と一隻の『船』なのだ。正直言って現実感が無かった。


暫く進むと船が密集している場所が存在した。

そこには湖の上に木で作られた通路が備え付けられており、その通路はウロタまで伸びている。いわゆる『桟橋』だ。


ケン達の乗った船は中型客船用の桟橋に停泊し、ケン達はゾロゾロと降りていく。

そしてケン達は遂にウロタのすぐ近くまで到着した。


そこから見上げる鋼鉄の船はさながら巨大な要塞だ。鋼鉄の壁に守られた難攻不落の要塞とでも言うべき光景にケン達は怖気づいてしまった。


しかしここに何度も来たことのあるギイや旦那は気にせず進み、桟橋の先にある階段を登り、其処から伸びる橋を渡った先にある扉からウロタの内部へと入って行く。そして暫くすると後続が来ていないことに気づいたようで、旦那が扉から手招きしてきた。


ケン達は覚悟を決めて巨大な船の内部へと侵入していく。

気持ち的にはダンジョンに初めて侵入する初心者探索者の心境だ。

しかし入った先は明かりに照らされた通路であり、ケン達は拍子抜けをしてしまった。


「何だそんなに緊張して、モンスターでも出ると思っていたのか?」

「いえその・・・これ程の巨大建造物に入るのは初めてなものでして」

「ははは、まぁ気持ちは分からんでもないがな。そんな事ではこれから先驚き疲れてしまうぞ」


そしてギイと旦那に先導されケン達はウロタ内部を進んで行く。

中は人がすれ違えるだけの十分な広さを持つ通路が通っており、通路の壁には一定間隔ごとに扉が設置されていた。

そしてまるで町の路地の様に何本もの通路が伸びている。


そして入り口から暫く進んだ先には吹き抜けの広間とまるで城にあるような階段が存在し、天井からは豪華な照明器具が垂れ下がっていた。


「ここがこの町の入場口になる。そこにある受付でいつもの様に入場の手続きをするぞ。・・・おい聞いているのか?」


誰1人として聞いていなかった。ただ目の前の光景に圧倒されていた。

マール国で最も豪華な大広間など足元にも及ばない程の圧倒的な光景が目の前に存在している。


壁や階段に施された彫刻は今迄見てきたどの彫刻よりも繊細で気品に満ちており、2階どころか3階まで続いている階段の幅はマール国の大広間へ続いていた階段よりも広い。


天井から垂れ下がっている照明器具はデザインも豪華さも眼を見張るものだ。見れば中にあるのはロウソクではない。あれは魔石を加工した照明器具を贅沢にも使っているようである。


壁や床にも絵が描かれている。そして使われている材料は未知の代物だ。

壁や床もてっきり金属製だと思いこんでいたケン達はもう何に驚けば良いのかも分からなくなって来ていた。


暫く呆けていたケン達であったが、旦那の一声で目が覚めると受付に向かい、いつもの様に入場手続きをする。

受付の作りもまた凄まじい豪華さであったが、受付内部の担当者は普通の兵士の格好をしていたのでケン達は逆にホッとしてしまった。


そして全員の受付が終わると、旦那とギイに連れられて、ケン達は巨大な壁画の前に到着した。その壁画には巨大な船の絵が描かれていた。

いや絵であると思うがどうなのであろうか?ケンは自分の知っている絵との余りの違いに自信が持てない。それ程のここに書かれている絵は緻密だったのだ。


そしてその前でギイがウロタ内部での移動経路を説明する。どうやらこれはウロタ内部を図解した地図であるらしい。地図と言うには余りにも精密であったが。


「全員よく聞いてくれ、これがウロタ内部の精密な見取り図だ。今我々が居るのは「受付」と書かれたこの場所だ。これから我々は先程の階段を登り2階へと移動、「商店街」を通って逆サイドの階段を降りて地下へと下りていく。目的地は「宿泊フロア」と書かれているこの場所だ」

「始めてこの街を訪れた者は大抵迷ってしまうが、要所要所にこの図が備え付けてあるので、万が一迷った場合はこれを見つけて帰って来い。若しくは誰かに聞けば何とか成る筈だ」


ギイと旦那が説明をしているが頭に入ってこない。ケンはおずおずと手を挙げた。


「あの師匠、色々と聞きたいことはあるのですが取り敢えず一つ。その目の前の物は一体何なのですか?」

「これか?だからこの船の見取り図だ」

「それは分かりました。しかしそれは絵なのですか?明らかに俺の知っている絵と違うのですが」

「ああそういう意味か。これは「写真」と呼ばれる技術で作られた物らしい。初代勇者様が召喚した当初からこの船に存在しているそうだ」

「写真?ですか?」

「「目の前の景色を見たまま正確に映し出す技術」と言われているが未だ解明されていない超技術だ。深く考える必要はない。船の内部が正確に描写されている絵だと思っておけば十分だ」

「分かりました。他にも色々と聞きたいことがあるのですが・・・」

「気持ちは分かるが今は取り敢えず宿泊場所へ移動しよう。時間はたっぷりあるからな、後で幾らでも質問は受け付ける」


そう言ってギイと旦那はケン達を先導して歩いて行く。

ケン達は2人に置いて行かれまいと必死に着いて行く。

話に聞いていた勇者の国の首都がこれ程までに摩訶不思議な場所だとは想像もしていなかったのだ。

今ここで別れたら合流できるかどうかも分からない。ケン達は皆必死だった。


ケン達は先程の説明の通りに階段を登り、先へと進んでいく。

内部は想像以上に広い。先程まで乗っていた船なら既に端まで辿り着いているはずなのにまったく先が見通せない。


そして暫く歩くと突然天井が高くなり、急に視界が晴れた。


そこには『商店街』が存在した。

それは2階分のスペースを丸々使った文字通りの商店街だった。


ケン達が今歩いているルート沿いに、先程まで壁であった場所が全て店屋に変わっている。

よく見れば両端と道の途中に上に登れる階段があり、一つ上の階にも店屋が並んでいることが分かる。


売っている物は野菜や果物、肉や薬、服屋に靴屋に生活必需品に武器や防具など幅広い。

活気に満ち溢れたその場所は正に町にある商店街を思わせた。

いや実際ここは町なのだ。

町の中なのだから商店街が有った所で不思議でも何でもないだろう。


しかし同時にここは『船の中』である。

船の中にある商店街など聞いたこともない。

しかも良く見れば店の一軒一軒が見たこともない程に立派な作りをしているのだ。

ギイ商会の本店やカンナ支店は疎か、今迄見てきたどの店よりも素晴らしい。

ケン達は余りの景色に空いた口が塞がらなかった。


そしてその間にもギイと旦那は先へと進んで行く。

そして商店街を抜けた先にある階段を降り始めた。暫く降りていき『宿泊エリア』と書かれた張り紙が貼ってある階層で通路に戻ってその先にある扉を潜った。


そこは天井がかなり高い場所であり、広いと思っていた船の内部の中でも最大級の広さが見て取れた。

ここがこの町の宿泊エリアだ。

広いスペースの中には普通の町では街中に点在している宿屋が纏めて並んでいた。

ちなみにここの宿は全て木製か若しくはレンガ造りだ。


ケン達は数ある宿の中から比較的安くて過ごしやすい宿を宿泊場所と決め、全員でチェックインをした。そしてこの場での注意事項を説明された。


「さて全員居るな?この場所がこの街の「宿泊エリア」となっている。分かっているだろうがこの場所は船の下部、つまり壁の外側は水の中だ。ここでは喧嘩は勿論のこと、火を焚くことも禁じられているので注意するように」

「師匠、では食事はどうするのですか?」

「食事については船の上部にある「食堂エリア」に向かうか、船の外に出て自炊をするかだ。ここは町と言われいても船の中である事には変わりないからな。こんな場所で火を着けたら、煙が充満してあっという間に大量の死者が出かねん。よって船内での着火は最悪死刑か国外追放処分となる。ゆめゆめ注意するように」


一行は「死刑か国外追放」と聞いて顔を引き攣らせた。マール国から散々苦労してここ迄来て死刑や国外追放では割に合わない。

全員が説明を聞いている事を確認したギイと旦那は船内の説明を再開した。


「さてこれから船内の説明を開始する。

まずここが下部、船内で最も広い宿泊エリアだ。この奥は住宅街になっており、この街で暮らしている人達の住まいは全てこの奥にあると思って良い。

そして階段を登って1階には受付や倉庫があり、図書館や劇場やカジノが存在している。

そして2階と3階は商店街だ。更には船の両端に病院と学校と教会が存在している。

4階と5階はこのウロタの町の行政施設が存在している。

6階には各種ギルド支部や高級商店街がある。

ちなみにギイ商会のウロタ支店も6階にある。

そして7階8階は各国大使館や要人用の高級ホテルが存在し、

9階は食堂エリアだ。ちなみにここには「大浴場」も完備されている。

そしてその上は甲板だ。兵士の駐屯所や訓練所もここにある。しかし半分は畑になっていて、数は少ないが家畜も飼われている。

大雑把ではあるがこれが勇者の国唯一の街である巨大鋼鉄船ウロタの内部説明だ」


「まぁ説明された所で分からないだろうから、落ち着いたら内部を見学すると良い。重要施設の前には兵士が立っていて入れないようになっているが、それ以外は基本移動は自由に出来るからな。ここは世界的にも恐らく最も変わっていて面白い町だ。ここでの滞在を存分に楽しむと良い」


そうしてケン達マール国勇者一行は勇者の国唯一の街であり、今回の旅の目的地である『巨大船町ウロタ』に到着したのであった。

『ウロタ』のイメージは豪華客船です。

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