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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第84話 ドヴェルグ連合国の旅9 山賊退治の収支

ケン達一行はスパナの町からレンチの町へと向かう途中、山道で山賊に襲撃され撃退。その後今後の安全を鑑みて山賊を逆に襲撃し殲滅するというイベントをこなしながらもどうにか無事にレンチの町へと到着した。


レンチの町では山賊退治の話が伝わっていたのか、多数の市民や旅人達が山賊団を退治した他国の勇者一行を一目見ようと沿道に詰めかけていた。


そこで彼らはレンチの町の兵士達に先導されたマール国の勇者一行を垣間見る事となる。

通常勇者一行と言えば100人を超える部隊の事を言い、その装備は国の威信を掛けた豪華仕様。装備を纏う騎士達も一騎当千の強者で構成されているのが常である。


しかし現れたのは10名にも満たない騎士達と10名しか居ない兵士達。

そして十数名の冒険者らしき人影と職人や文官、そして行商人の一行であった。正直言って数だけ見てもレンチの町の兵士の方が多い。


そして勇者一行と共に歩いているのは、数だけなら勇者一行を遥かに凌ぐ奴隷とされていた自国民達である。

最低限の治療のみをされた痛々しい姿、ボロボロの衣服、そしてガリガリに痩せた彼らを見たレンチの町の住民達は山賊達への激しい憎悪の感情をを持った。

そして悪逆非道な山賊団を少人数で退治し、自国民を救い出してくれた勇者一行への強烈な感謝の気持ちも同時に得ることとなった。


特に一行の真ん中を歩いていた体中傷だらけのギンペとその隣の幼い少女が炎の教会の牧師様に連れられて歩いているのを見た者達は怒りが爆発しそうになっていた。


ちなみに外を歩いている奴隷達はまだ無事な者達であり、重傷者達は軒並み馬車の中で横たえられている。ケン達マール国の勇者一行には文官や職人なども存在し、険しい山道では馬車に乗って移動していた者達もいた。しかし総じて待機組だった彼らは運ばれてきた奴隷にされていた者達の余りの惨状に同情し、レンチの町までは歩くことを決意。馬車にスペースを空けて重傷者を載せることを選んだのだ。


そうして一日半掛けて無事にレンチの町へと到着し、彼らはそのまま兵士の詰め所へと向かって行った。


レンチの町の兵士の詰め所では、一行が到着したと同時に待ち構えていた治療班が奴隷にされていた者達の治療を開始した。


重傷者はそのまま病院へ直行。比較的怪我の浅い者達はその場にて入念な治療を施され、湯浴みをし、清潔な服に着替え、運ばれてきた食事を食べてから、取り調べが開始された。


山賊団は全滅している為、生き残っていた元奴隷達から話を聞くしかないのである。


そしてケン達も同じように事情聴取を受けていた。

今回ケン達は被害者であると同時に、山賊団を退治した英雄でもある。

しかし英雄と言えども各自に話を聞き、大まかな事件の概要を知っておかねば正確に功績を評価することも出来ないのである。


ケン達襲撃班は元より、待機組の皆達も一通りの取り調べを受けた。

その間の食費や宿泊費は全てレンチの町が請け負ってくれた。

ケン達は取り調べの間は、兵士の詰め所に併設されている兵士の宿舎の空き部屋で寝泊まりし、食事は兵士達と同じく宿舎の食堂で食べていた。

味は町の食堂よりも上だった。流石は兵士の食堂といった所か。


ちなみにケンはレンチの町に到着する頃には普通に食事が出来るまでに回復していたが、ハナとソレナ・ハスの3人はまだ少し気分が悪そうにしていた。


しかしその取り調べも翌日の夕方までには全て終了した。

そしてその夜、ケン達は領主の館に呼ばれて歓待を受けていた。



「皆様には深くお礼申し上げます」


そう言って頭を下げてきたのは、この街の領主と名乗ったドワーフの女性である。

彼女はこのレンチの町を収める領主である。以前にも話したと思うがドワーフは女系種族だ。彼らは女性を上位に置くために、領主も基本女性なのである。

ちなみに旦那はここの兵士長らしい。


彼女と彼女の部下達は総掛かりで山賊の首領の死体を検分し、捕まって奴隷にされていた者達とケン達から話を聞き、回収した略奪品を鑑定した。


「取り調べの結果、皆様が退治した山賊団は赤錆団で間違いないという確信を得ました。かの山賊は何年にも渡り我が国を荒らし回っていた国賊共。感謝してもしきれません。特に勇者様は一騎打ちにて山賊の首領を倒したとの事。誠にありがとうございした」


そう言って女性は再び頭を下げる。ケン達はそれを見て大いに慌てた。

ケン達一行にはノウやハナと言った王族や、ギイや旦那やナッカ大使のような経験豊富な者達もいるが、大多数は領主など雲の上の存在だと考えている者達である。


ケン自身も精々がコウ陛下と謁見した位である為文字通り動きが止まった。

どうして良いのか分からなかったからだ。

結局見るに見かねてノウが助け舟を出した。

この辺りは腐っても王族といった所か。


「過分な感謝痛み入ります。しかし我らはマール国の勇者一行でございます。勇者として山賊は見過ごすことの出来ない人類の敵。退治する事など当然であると勇者ケンも申しておりました」

「へ?」

「ああそれと勇者ケンは元行商人という特殊な経歴の持ち主であるため、こういった場には余り慣れておりません。故にこういった場では勇者ケンの仲間でありマール国の王子でもある私ノウが応対しております。勇者ケンに何かお話がありましたら、まずは私を通して頂きたい」


動きが止まって応対出来ないケンに代わり、ノウが領主に挨拶をする。

ケンの目的は生き延びることであり、戦闘はケンの仲間の仕事だ。

そしてノウは、自分の仕事はケンが対応できないであろう、貴族や王族との各種交渉だと考えていた。


勇者として活躍をしていけば必ずこのような場面は訪れることになる。

そしてこういう場所で不用意な発言をすれば、自らの首を締めることにも成り兼ねない。


王族、貴族、領主などをしている者達はどれもこれも狡猾な者達だ。

全てが悪人という訳ではないが、かと言って完璧な善人などいない。

そんな甘さを持っていては領地経営などやって行けないからだ。


ケンは行商人であるから商談は可能だが、未だ未熟であるため不用意な発言には注意しなければならない。よってこういう場合は自分が矢面に立つべきだとノウは考えていた。


「まぁ、報告は受けておりましたが王子殿下自らが勇者様と共に旅をされているとは驚きですわ」

「はは、当然の事ですよ。我が国は小国であるため勇者一行といっても人数も装備も決して完璧とは言えません。しかし世界の危機には対応しなければなりませんからね。王族の一人として例え微力でも勇者の力になりたいと考えたのです」

「ご立派ですわ殿下」

「ははは、いやいや」

「ふふふ、またまた」


ノウと領主との間に謎の力場が形成されていく。

ケン達はそれを見て、何がなんだか分からないが何やら目に見えない戦いが起こっているということだけは感じ取ることが出来た。




「まぁご挨拶はこの位にして、皆様にはささやかではありますが食事を用意してございます。昨日到着してからは兵士達と同じ食事を出しておりましたが、今夜は我が屋敷の料理長が腕をふるった食事をご堪能下さりませ」


そう言って領主が合図をすると、歓待を受けていた広間に多くの料理が運ばれてきた。

ケン達勇者一行の多くはその料理を見て歓声を上げているが、ケンやハナを含めたギイ商会のメンバーは何か嫌な予感を感じた。何故なら以前、マール国の謁見の広間で、同じように食事が運ばれた後に碌でもない話を聞かされたからだ。


しかし料理に罪はない。ケン達は勧められるままに料理長が作ったというドワーフ料理に舌鼓を打っていた。焼き物、揚げ物、煮物、スープに各種酒類と山岳地帯らしくなまものは少なく火の通った物が大半だ。そして酒の種類がとにかく多い。そして味は素晴らしかった。


ケン達は基本的に自炊か町の食堂で食べているため、こんな高級レストラン並の食事には基本縁が無いのだ。夢中になって食べていると、ノウがギイや旦那やナッカ大使を連れてケンの元へとやって来た。


「中々の食いっぷりだなケン」

「まぁ確かにここの料理は旨いからな。しかしこういった場では余り暴飲暴食はするものではないぞ」

「何故ですか師匠?」

「腹が満腹になっても、酒に酔っても判断力が鈍るからだ」

「判断力ですか?」

「要はこれから始まる交渉に万全の体勢で望むようにしておけという事だな」

「交渉?」

「やはり気づいていなかったか。食事が終わったタイミングで領主から呼び出しがある筈だ。これからそれに関しての打ち合わせを行いたいと思う」

「交渉の前に美味しい食事を出して気分をほぐし、有利に交渉を進めたいという考えは万国共通です。カンナの町でギイ商会もやっていたでしょう?」


どうやらケン以外はこれから行われる「交渉」とやらの中身が分かっているらしい。しかしケンには皆目検討が付かないのでギイ達に聞いてみた。


「師匠、山賊を倒して、奴隷にされていた人達も開放して、略奪品も回収しましたよね。それでお礼の食事会をして貰っている訳ですが、これから何の交渉があるのですか?」

「正に今お前が並べた物に対しての交渉だな」

「はい?」

「山賊退治に関する報奨金の支払い、奴隷達の身請け金、略奪品の買い戻し価格の決定、後は山賊のアジトから回収した物品の分配、ざっとこの4つですかね」

「山賊退治の報奨金は分かりますが、残りの3つはどういう事ですか?」


それについては旦那から説明があった。

曰く、山賊を退治した場合は山賊退治の報奨金が貰えると同時に、退治した山賊の持ち物も全て退治した者が総取りすることが出来るらしい。


しかし今回はその中に多数の奴隷と略奪品が含まれている。

奴隷達の大半は自国民であるから領主としては開放してやりたい。

しかし慣例的に奴隷は退治した者の持ち物扱いとなる。

つまり今現在奴隷達は山賊を退治したケン達に所有権があるため、奴隷達全員に対して身請けのための金額交渉を希望されるだろうと言う事だ。


略奪品に関しても同じである。

赤錆団はドヴェルグ連合国を拠点にして荒らし回っていた山賊団だ。

当然略奪品はドヴェルグ連合国内から奪われた物が大半を占めており、中には持ち主から奪還を依頼されている物や遺族が探している物が多数存在している筈だ。故にこれらについても買い取りを希望されるであろうこと。


そして山賊のアジトから回収した物品も一つ一つはそれほど値は貼らないだろうが、纏めるとばかにならない金額になる。


以上、3点に関しての金額交渉があるだろうという話である。



「物語とかだと勇者は「何も要らない、彼らの笑顔が報酬だ」とか言うがな、そういう訳には行かないという事は理解できているな?」

「勿論です、タダ働きをするつもりはありませんよ。俺達は基本金が無い訳ですからね」

「それが分かっているなら良い。交渉の際には我々も同行するからまずは2人で対応してみなさい」


ギイの発言にケンとノウは驚いた。

てっきり経験豊富な3人が矢面に立ってくれると考えていたからだ。


「何を驚いているのですか王子。私は勇者の国で大使をする事になっておりますし、ギイ殿と旦那殿は勇者の国到着後はマール国へと帰国するのです。勇者の国到着後に向かった先の国々では我々の助力は期待出来ないのですよ?今回のように非常に有利な条件の際に場数を踏んでおかないでどうするのですか」


「今回こちらはそれほどまでに有利なのですか?」


「当然です。我々はドヴェルグ連合国内で山賊に襲われました。他国の王族や大使・勇者が自国で襲われるなど国の恥以外の何物でもありません。更に我々はその山賊を我々のみで撃退し、更にアジトまで見つけて退治しました。捕らわれ奴隷にされていた者達を救出しました。更に略奪品も回収し、そしてその場面はこの街の兵士達に目撃されております。これだけ良い条件での交渉など中々存在しませんよ。交渉は強気に、思う存分に行って下さい」


ナッカ大使は興奮気味だ。彼は弱小国家の大使として今迄タフな交渉を続けてきたので、今回のような楽な交渉を行える状況に興奮しているのだ。


「とは言え余り吹っかけるのも好ましくは無いがな。折角助けても金額を上げ過ぎると「金の亡者」とか「守銭奴」とか言われて逆に恨まれる結果にも繋がる。特にケンは経歴からして元行商人だから気を付けなければなるまいな。相手に恨まれず、かつ気持ち良く支払って貰える金額のギリギリのラインを見極めて交渉するのがポイントだ」

「そんな高度な交渉、やったことがありませんよ」

「だから我々がここに来たのだ。これから食事会が終わるまでに交渉のポイントを教えてやる。2人共こちらに来なさい」

「えっ?あっちょっと待って下さい。まだ食事が・・・」

「後は飲み物だけにしておけ。満腹でも空腹でもない位の腹具合に調整して、交渉に臨むことも行商人に必要なテクニックだぞ」

「王族にも言える事ですね。では始めましょうか」


そう言ってギイ達は3人掛かりで交渉のイロハをケンとノウに叩き込んでいった。

そして食事会終了後、予想通り領主に呼ばれたケン達は、数時間に及ぶ交渉の末に、今回の山賊退治の収支を確定したのであった。


結果


・「山賊退治に関する報奨金」の支払いは規定額での支払いとなり

・「奴隷にされていた者達の身請け金」は格安で

・「略奪品の買い戻し価格」は相場に色を付けた金額で

・「山賊のアジトから回収した物品」は、適正価格で買い取って貰う事になった。



なお、略奪品の中には元の持ち主から回収を依頼されていない物もあり、その中で使える物や価値のある物等はケン達がそのまま現金化せずに貰って行くことに決まった。

それと山賊に捕らえられていたギンペだが、彼はドワーフの少女のナナに懐いていたので、そのまま彼女が面倒を見ることになった。


そこまでやってようやく山賊赤錆団を巡る一連の事件は収束したのであった。

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