第83話 ドヴェルグ連合国の旅8 山賊のアジトの探索
その日は良く晴れた日であった。
レンチの町の兵士はその日もいつもの様に町の入り口で門番として働いていた。
このレンチの町は勇者の国と鍛冶屋が集まっている事で有名なカンナの町を繋ぐ最短ルートの途中にある町の一つである。
つい先日もカンナの町で勇炎祭という年に一度の祭りがあった為に、多くの旅人がこの町を通ってカンナの町へと向かい、そして帰って来た。
レンチの町とスパナの町を繋ぐ街道は山を分け入って作られている為、行く人も帰る人もこの町では必ず一泊以上して体調を万全にしてから旅立って行く。故にこの町には訪れる旅人の数が多く、また去っていく旅人の数も多い。
そしてまた、勇者の国へと緊急の知らせを運ぶ使者達も必ずこの町を通って進んで行く。この町が最短ルートの途中にある為、これは必然だ。
だからその兵士はこちらに向かって来る騎馬の群れを見た時に、いつもと同じく急ぎの使者が来たのかと考えた。結果的に騎馬の目的地は勇者の国ではなくこの町であったのだが、この町には急ぎの使者に対応する土台が出来ていた事はお互いにとって益となったのであった。
ノウはホッコやお供の騎士達と共にドヴェルグ連合国の山岳地帯を馬を駆って進み続けていた。原因はケンである。彼が山賊の襲撃に後、今後の安全の為に山賊を襲撃しようと決断し、それは執行された。
旦那が居る時点でその襲撃は成功するだろうと考えられていたが、実際成功してみると、山賊の首に掛かっていた賞金に加えて、山賊が溜め込んでいた略奪品。更には大量の奴隷にされていた者達がオマケで付いて来た。
この報告を旦那から受けたギイはナッカ大使と相談し、すぐさまノウに近場のレンチの町へと向かって救援を要請するようにお願いをしてきたのだった。
「ノウ王子、話に聞いた通りです。これよりノウ王子及び騎士の皆様には馬を駆ってレンチの町へと救援要請に向かって貰いたいと思います」
「それは構わぬが、我々で捕らえられていた者達と略奪品を取り扱った方が早いのではないか?」
ノウはギイにそう尋ねた。聞いた話では結構な量の略奪品と予想外の数の人数が居るらしいが、運ぼうと思えば運べない数ではない。
しかしギイとナッカ大使はそれを否定してきた。
「確かに我々だけで略奪品と彼らを運ぶことは可能でしょう。しかしそれをしては後々問題が起こることが考えられます」
「問題?何が起こると言うのだ?」
「王子、この国の者達の立場になって考えて下さい。今迄散々国中を荒らしまくっていた山賊団を他国の勇者一行に退治されてしまっては彼らの立場がありません。勿論既に山賊団は退治してしまっているのですが、最後の始末と略奪品や自国民の運搬だけでも彼らの力を借りるべきです。そうする事で彼らの面目を立てることが出来ます」
「成程、一定の成果を共有することで相手の自尊心を満たそうという訳か」
「平たく言えばそういう事です。レンチの町の兵士にはこうお伝え下さい。
「山賊に襲われたが我々はこれを撃破。そして逃げる山賊を追い掛けて山賊のアジトを襲撃し、捕まっていた者達を開放した。しかし奴隷として扱われていた者達の数が多く、山賊達の略奪品も予想外に多かった為人手が足りない。救援を求む」と。
自国民が捕まっていると知れば彼らは必ず兵を出して来ます。略奪品があると知れば尚更です。面倒な仕事ではありますがどうか宜しくお願いいたします」
そういった理由があり、ノウ達は早朝から馬を駆ってレンチの町へと向かっていた。
山岳地帯とは言え街道は整備されている為、危険地帯だけは減速するが基本今迄の旅路とは違い高速で駆け抜けることが出来る。
何しろ今迄は馬車や徒歩のスピードに合わせて進んでいたのだ。騎馬本来の速度で進めば早いに決まっているのである。
結果的にノウ達は一日半掛かると言われた道のりを半日も掛けずに走破してレンチの町へと到着。兵士に事情を説明して協力を要請した所、直ぐに救出部隊が編成され、ノウ達は彼らと共に来た道を引き返し、翌日の日暮れ前にはギイ達が待つ場所へと到着した。
そしてその場で夜を明かして、旦那の案内の元、ドヴェルグ連合国レンチの町の救出部隊は山賊赤錆団のアジトへと向かったのであった。
救出が来るまでの間、ケン達は山賊のアジトの中の探索をしていた。
昨日の時点で、牢屋に残されていた生き残り達はアジトの外へと連れ出していたが、アジトの中には大量の死体と山賊が運び出しきれなかったお宝が残されているのだ。
死体は処理しなければならないし、お宝は回収しなければ勿体無い。そんな訳で、数名の見張りを残してケン達襲撃班は山賊のアジトとして使われていた坑道内を探索していた。
ちなみに昨夜倒れたケンは翌日の朝にはいつもの様に起きてきたのだが、食欲はまだ戻っておらず、温めたスープだけを取ってアジトの探索に加わっていた。休んでいても良いと言われていたが、何かしている方が気が紛れるからと探索に加わったのだ。
尤も彼らが最初に行った事は死亡していた者達の亡骸をアジトの外へと運び出す事であった。ケン達がアジトの牢屋から運び出した遺体は、動けるようになった者達の手で丁寧に清められ、荼毘に付される。彼らは彼らと同じく捕まっていた仲間達の死に涙していたが、全員を弔った頃にはケン達に全員揃ってお礼を言ってきた。
それをケンは不満げな視線で見つめている。もっと早く来ていれば救えた命もあったのではないかと考えているのだ。その考えが顔に出ていたのだろう。ヘイがケンに話し掛けて来た。
「どうしたケン、不満そうだな」
「すいませんアニキ、死んでた人達も救ってやりたかったと考えてしまいまして」
「そうか、しかしそれは無理ってもんだ。俺達が山賊達とやりあったのはあのタイミングだけだっただろうし、仮に全員が生きている段階で山賊に出会っていても助けられたかどうかは分からねぇだろう?」
「それはそうですが・・・」
「まぁ気持ちは分かるがな。お前のその考えは上手く行ったからこそ出てきた考えだ。俺達だけじゃ山賊団相手に勝てたかどうかも分からねぇ。旦那やスミレさんが居なければ怪我人や死人が出ていたかもしれねぇ。より良い結果を求める事は悪い事じゃねぇが、今の結果だって精一杯やった結果なんだ。胸を張れよ、今ここに居る生存者はお前が助けたんだからな」
「助けたのは全員で行動した結果ですよ」
「それはそうだろう。だけどな、あの時ニックの提案をお前が承諾したからこそ彼らは救われたんだ。誰が何と言おうが山賊を襲撃しようと決断したのはお前だ。それについては誇っても良いと思うぞ」
そう言ってヘイはケンの頭をポンポンと叩く。ヘイは普通の行商人では考える必要も無い事まで考え始めたケンを褒めていた。これから勇者になればこういう場面は幾らでも出てくる筈だ。その時の決断に押しつぶさないようにケンを支えていこうとヘイは誓いを新たにしていた。
そうして捕まっていた者達の死者を弔った後は他の坑道内の探索だ。
彼らが知っていたのは坑道の中でも僅かな穴の中のみであり、殆どの坑道内には足を踏み入れた事もないとの事だ。よってケン達は慎重に行動しながら坑道を進んでいった。
殆どの穴は単なる行き止まりであったが、中には山賊達が住処にしていた形跡のある穴も見つかり、彼らが残していた服や小物、岩の隙間からはへそくりなんかも回収することが出来た。
そして一際大きい坑道の奥には大きめの広さがあるスペースがあり、巨大な椅子やテーブル、そして死体が散乱していた。どうやらここは山賊の首領であったあの熊が暮らしていたスペースらしい。つまりこの死体は昨日ケン達を襲った後にここで殺された山賊達なのだろう。後でスミレとホドに面通しをして貰って確認したら間違いないと言われた。
その山賊達の死体も放置する訳には行かないので回収してアジトの外で燃やす。
元奴隷の内何人かが、文字通り死体に鞭を打っていたのが印象的であった。鞭は奴隷の牢屋に置かれていた物だ。彼らは山賊達にこの鞭を使って意味なく叩かれていたらしい。聞きたくもない話であった。
そして熊の住居の奥には食料庫と武器庫と財宝庫が存在した。ここで暮らすための全ての物資をあの熊は一括で管理していたらしい。
中には大量の武器とどこから盗って来たのか分からないが多くの食料、そして絵画や壺、骨董など、値は張るだろうが重くて嵩張るお宝が大量に放置されていた。山賊達は逃げる際に軽くて持ち運びが容易な物のみを持ち出して行こうとしたらしい。
それらをアジトの中から外へと運んでいる時に疑問に思ったことがあったのでケンはヘイに尋ねた。
「アニキあの熊はどうして手下や奴隷のアイテムボックスを使わなかったのですかね?」
「あん?どういうこった?」
「いや、この壺とか絵画とか嵩張るけど、アイテムボックスに入れられない程の重さじゃ無いじゃないですか。逃げる時あれだけ人数が居たのですから全員のアイテムボックスをフルに使えばこのお宝を置いていく必要もなかったと思いますけど」
実際ケン達もお宝の運搬にはアイテムボックスを使用している。一々持ち運びが面倒だし、坑道の途中には狭い場所もあるため、アイテムボックスを使用しない限り持ち運び自体が出来ないのだ。恐らく熊の暮らしていたスペースに存在していた巨大な椅子やテーブルも熊自身がアイテムボックスを使用して運んだ物の筈だ。だから不思議だったのだ。これだけの品物を置いて逃げた理由が分からなかったのである。
「ん~多分やけど、あの熊は部下を信用しとらんかったんやないかね」
「え?」
「最初に襲ってきた山賊も、その先の坂で仕留めた山賊も、殺してもアイテムボックスからは何も出てこなかったやろ?恐らくあの熊はアイテムボックスを使ってお宝をネコババされるのを嫌っていたんやないかな」
「自分の部下なのに?」
「部下っちゅうても所詮は山賊やしな。平気で裏切るし平気で殺す間柄やったんやろ。だからいざ逃げよ思た時にも頼るって考え自体が浮かばんかったと違うかな」
そう考えるとあの熊も寂しい人間だったのだなと考えてしまい、ケンはブンブンと首を振った。例えそうだとしても山賊行為を行い、略奪を繰り返して、多くの人々を不幸にして来た事は事実なのだ。これから勇者として活動していけばああいう輩にも出会う機会が増えるだろう。ケンはこれからも毅然とした態度を取っていこうと心に決めたのであった。
「でもアニキ、あの熊はどうやって部下がお宝をネコババしていない事を確認していたんでしょうかね?」
「んなもん簡単だ、持ってるお宝を把握しておいて、部下のアイテムボックスの中身を確認しとけばいい」
「アイテムボックスの中身は人には分からないでしょう?」
「簡単だよ。アイテムボックスの中身を全部出せと命令した後に、石やらゴミやらを合計10個アイテムボックスに入れさせればいいんだ。アイテムボックスの数が10で固定なのは常識だからな。こうすれば10個入らなかった奴は「何か隠し持っている」って分かるだろう?」
「成程、だから山賊の部下はアイテムボックスに何も入れてなかったのですね」
「この山賊団ではアイテムボックスに物を入れておくのはご法度だったってことだろうな」
そんな会話をしながらケン達は次々とアジトに残されたお宝の運搬をして行く。
その数は相当に多く、全ての数を運び終えたのは翌日の昼過ぎであった。
その後はまだ調べていない坑道の探索だ。しかし数が相当多く、夜まで頑張っても全てを調べることは出来なかった。
そうして2日掛けて山賊のアジトに使われていた坑道の探索を続けていると、3日目の朝にようやく旦那が救援を連れて戻って来た。
彼らはその場に居た奴隷にされていた者達の多さに目を見張り、近くの坑道内に積み上げられていた武器や食料、山賊の財宝の数にも目を見張り、そして生き残り達によって伝えられた死者の数にも目を見張っていた。
彼らはまずは奴隷にされていた者達の人数と名前を確認し、持ってきた治療薬を使って彼らの傷を癒やす。そして歩けない者には肩を貸したりおぶったりしながらギイ達が待つ街道へと引き返して行った。
そして再びアジトへと戻って来ると、今度は山賊が残した食料・武器・財宝をリスト化しながら嵩張るものはアイテムボックスに収納し、手に持てる物は手に持って運んで行く。
勿論ケン達も手を貸して、一行はようやくギイ達が待つ街道沿いの空き地へと帰って来た。
そこで未だに気分が悪そうにしているハナ達と合流し出発。隊の前後をレンチの町の兵士達に護衛されながら、一行は一日半掛けて、次の目的地であるレンチの町へと到着したのであった。




