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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第82話 ドヴェルグ連合国の旅7 アックス逆茂木

あらすじを修正しました

山賊退治の作戦が予想以上に上手く行き、残りは山賊の首領を倒すのみとなった。


その熊は自らの不利を悟ったのか、連れ歩いていた奴隷の1人を盾にしてケン達と向かい合っている。しかし逃げられないだろう、前方からは旦那、周囲はケン達襲撃班に完全に囲まれており、背後には万が一のためにスミレが待機している。


そして山賊の首領である熊は何故襲うのかと問うてきた。

馬鹿な質問だ。元々襲ってきたのは山賊達である。

ケン達は山賊を返り討ちにし、残党の始末を思い立っただけのことである。


正直こちらは赤錆団の存在すら知らなかったのだ。

襲ってこなければ壊滅する事も無かったのに。


そうして進退窮まった山賊の首領は捕まえていた奴隷を旦那に向けて放り投げた。

いよいよ自暴自棄になったのかと考えたが、しかし流石は山賊の首領。その諦めの悪さは大したものであった。


なんと奴は奴隷の中で一番幼い子どもを持ち上げて、今度はニックの目の前に投げ捨てて来たのだ。それを見たニックは思わず駆け寄ってしまう。そこに襲いかかる山賊の首領!それを見た自分は咄嗟にニックの前に出てきてしまった。


【うわやばい!何してんの俺?】


そう思ったがもはや戻る訳にも行かず、ケンは山賊の首領の攻撃を迎え撃つ。

散々練習してきた通りに、接触する直前に逆茂木をアイテムボックスから取り出してガード。逆茂木の尖った先端が山賊の首領の体に突き刺さり、動きが止まったので逆茂木に取り付けた仕掛けを発動!


すると逆茂木に備え付けられた仕掛けが発動し、逆茂木に備え付けておいた斧が高速で振りかぶられて、山賊の首領に向かって行く。


奴は咄嗟に両手でガードするが、この大斧は威力も重さも切れ味も間違いなく本物だ。

山賊の首領の両手を切り落とし、そのままの勢いで相手の頭をかち割ってしまった。

奴は即死だ。あの状況で行きられる人間など居る訳がない。

その証拠に、彼の死体の周囲には宝石を散りばめた腕輪や首飾りが現れた。

彼が死んだことにより、アイテムボックスの中の品物が外へと出てきたのだ。

山賊赤錆団は手下は全滅し、首領は勇者に殺されて、文字通り壊滅したのだった。



山賊の首領が死亡すると、途端に周囲から歓声が沸き上がった。

それはケン達襲撃班の歓声である。奴隷達は動かない。いや動けないと言った方が正しいか。彼らは助かったという実感が無いのである。長い間の奴隷暮らしのせいで喜ぶという感情を抑圧してきたのだろう。若しくは次はケン達に使われるだけだとでも考えているのかもしれない。


そして歓声の最中、旦那やヘイがケンの元へとやって来た。

彼らは勝利を喜び合うと、ケンが倒した熊の獣人の死体を見た。

その頭はぱっくりと割られており、両手は切断されている。

相当強力な攻撃が行われた証拠だ。

彼らはケンにどうやったのかと尋ねた。


「今のはアックス逆茂木ですよ」

「アックス逆茂木?」

「センターの村の防衛戦の時にキング・ゴブリンが持っていた斧を逆茂木に取り付けて、仕掛け一つで攻撃出来るように親方に改造して貰ったんです」


ケンはセンターの村の防衛戦の後に、キング・ゴブリンが使用していた斧を回収してアイテムボックスに入れていた。自分が行商人としては戦えるが、それでも一定以上の力を持つモンスターには対抗出来ない位の強さしかないと自覚していたからだ。


しかしこの斧があればキング・ゴブリンですら仕留められたのだ。

置いていくには余りに惜しいと考えたのである。


そしてそれからというもの、毎日のように鍛えてはいたのだが、流石に数ヶ月ではこの巨大な斧を扱える力は手に入らなかった。


そこでカンナの街にいる間に、親方に相談をして、この斧を逆茂木に取り付けて、使用できるような仕掛けを作成して貰っていたのである。


具体的には、普通の逆茂木を改造してモンスターの素材を使用した機工を取り付けたのだ。その仕掛けに斧をセットし、レバーを引くと斧が急加速して振りかぶられて、逆茂木で足止めされている相手に向かって襲いかかるという代物だ。


一発限りの使い捨てであり、逆茂木で足止めしていない限り当てることも出来ないのだが、一発逆転の武器が一つあれば生存確率が上がるだろうと親方も乗り気になって作成してくれたのである。


「万が一を考えて作って貰った物だったんですがね。役に立って良かったですよ」

「お前いつの間にそんな物を・・・まぁいいか、無事で何よりだぜ」

「ケン、今のは実に勇者らしい行動ではあった。しかしもう少し慎重に動いて貰いたかったな。お前の仕事は生き残ることなのだ。敵の首領の前に立ちはだかるなどこれで最後にして貰いたい」

「すいません。咄嗟に体が動いてしまったのです」

「まぁ仕方ねぇよ。下手すりゃニックが死んでた訳だからな。オイ!無事か不良牧師!」

「誰が不良牧師だこの野郎!」


ニックは投げ飛ばされた奴隷の子供を抱えながらこちらへと歩いてくる。

ニック自身には怪我は見当たらないが、投げられた子供にはダメージがあったのだろう。随分と痛々しい状況に見える。


「助かったぜ勇者様、お陰で俺もこいつも無事に済んだ」

「勇者様は止めてくれよニック。その子は大丈夫なのか?」

「元から散々ひどい目にあっていたからな、平気とは言えねぇが今にも死にそうって訳でもねぇよ。とりあえず馬車まで戻って怪我の手当をしてやりてぇな」

「そうだな、とりあえず帰ろう」


そう言ってケンは元来た道を戻ろうとするが、それは旦那とスミレに止められた。


「待て待てケン、お前にはまだやることがあるだろう」

「この場にいる奴隷の扱い、あのギンぺと荷台に乗っている山賊のお宝の扱い、山賊の死体の処理に山賊の持ち物の回収、それにこの熊の死体の取り扱いとアジトだった鉱山の調査。やることは山積みだよ」

「ええっ!それって俺の仕事なんですか?」

「当たり前だ、お前が勇者で、我々は勇者一行なのだ。全ての行動はお前に決定権がある。人の上に立つのならその立場を自覚して、やるべき事柄を間違えるな」


旦那がケンに諭すように教える。ケンは未だに勇者である自覚に乏しい。元々が村人で現在も行商人見習いであるから仕方ない事ではあるが、勇者の国に到着してしまえばそんな事は言っていられなくなるのだ。多少早くても今の内から勇者としての仕事を一つずつでも覚えておく方が良いであろう。


そもそも山賊退治というのは、山賊を退治した後の方が大変なのだ。


捕まって奴隷にされていた人達の処遇に溜め込んでいた財宝の分配。

死体は適切に処理しないとアンデットになるし、名のある山賊団ならばその首領には賞金が掛けられている事もあるので死体の運搬も考えなければならない。

更にアジトの中も問題だ。今回赤錆団は急な引っ越しを行っている。

つまりアジトの中には運びきれていないお宝が残っているだろうし、殺したばかりの死体もまだ転がっている筈なのだ。

それも適切に処理しないといけない。問題は山積みなのである。


それを聞かされたケンは予想外の仕事の多さに唖然としたが、今まで培ってきた行商人としての経験を活かして行動を開始した。


まずシンを呼び、ギンと共に荷車を運んでいたギンペに話を付けに行って貰う。そしてギンペが戻ってくるまでに、残った兵士と冒険者に、倒した山賊団の装備と持ち物を回収して貰ってから、死体を一箇所に集めて貰い、ニックの魔法で焼いて貰う。


そして奴隷達に自分達はマール国の勇者一行であると告げ、奴隷から開放すると説明し協力を要請。呆然としていた奴隷達の中でも比較的話が出来た奴隷から情報を聞き出すことに成功した。


それによれば、アジトであった鉱山の中には自家製の牢屋があり、そこには怪我や病気で動くことの出来ない奴隷がまだ沢山放置されているとの事。そしてこの山賊団のお宝の中でも荷車に乗らない物は未だアジトの中に残っていることが告げられた。


また、この山賊団で賞金が掛けられているのは首領であったこの熊だけであり、残りの山賊には賞金すら付いていないということが判明。賞金首の賞金の受取には死体が必要であるので、この重い熊をアイテムボックスに入れることが出来る人材が必要となった。


話し合いの結果、熊の死体は旦那のアイテムボックスに収納。残りの山賊の死体の片付けを終わらせ、シンが説得して連れてきたギンぺと合流し、空いているアイテムボックスに重い物を収容。奴隷達のアイテムボックスまでフルに使ってどうにか荷物をかき集め、坂を登り返してもう一度山賊のアジトまで引き返す事になった。




そして山賊のアジトの前で一度旦那と別れる。

旦那には1人山道を突っ走ってギイ達に山賊壊滅の報告と、救援要請をして貰うことにしたのだ。


その間ケン達はアジト内部の確認だ。


取り敢えず奴隷だった者達の鎖を外し、動ける者に内部を案内して貰ってアジトの中を探索する。中は死臭と汚物の匂いが入り混じった物凄い匂いが垂れ込めている場所であった。こんな所に本当に人が残っているのかと考えていると、一つの通路の先に粗末な牢屋が存在し、その中には多くの死体と一緒に何人もの奴隷達が鎖に繋がれたまま放置されていた。


案内した元奴隷が、「助けが来た」と告げても半数以上は動けない有様だ。ケン達は捕らわれていた者達を一人ずつ背負ってとにかくアジトの外へと連れ出していく。そしてアジトの外へと出た人達はキョロキョロと辺りを見回し、目を上げて太陽を見て、他の者達を視界に収めると一人残らず泣き出した。その光景は全ての人達を外に出しても続いたのである。


そして生存者の救出に成功したら次にするのは治療と炊き出しだ。山賊の荷台に積んであった食料を使って簡単な食事を作って皆に配る。しかし元奴隷達は中々食べようとしないので、ヘイが「いいから早く食べろ」と言うと、一心不乱に食べ始めた。


それが終わると今度は怪我の治療だ。荷台には一通りの怪我に対応する薬品類も揃っていたが、明らかに数が足りない。仕方なく重傷者を優先して治療を開始し、治療薬が尽きるまで治療は続いた。


その頃にやっと旦那が帰ってきた。用意の良い事に手には大量の薬品を抱えている。

旦那はケン達の活動を聞き、満足したように頷くと、待機班の状況を教えてくれた。


「よくやったなお前達、向こうにはギイに襲撃が成功した事を報告し、同時に予想以上の人数の奴隷にされていたと伝えておいた。そして明日ノウ王子とホッコが騎士5人と共に救援を呼ぶためにカンナの街へと先行する事になった。お前達はここでカンナの街から来る救援を待て」


「ここで待つのですか?馬車に戻るのではなくて?」


「見たところ自力で動けない者も多く居るだろう?それにこれだけの人数を連れて行っても、あの場所では狭くてあぶれてしまう。ここなら元々山賊のアジトだったのだから十分な居住空間が確保されているから問題なく待機できる筈だ。ノウ王子が応援を連れてくるまで辛抱しておけ」


「分かりました。旦那はどうするのですか?」


「俺はまた向こうに戻る。ここにはもう山賊が襲って来ることもないだろうし、万が一襲って来たとしてもこのアジトなら防衛向きだから耐えられるだろう。お前とヘイ、ギイ商会の行商人が2人も居るのだしな。しかし向こうは明日からは騎士は出払ってしまうし、山道の途中の開けた場所に過ぎないから危険だ。よって私は向こうの防衛をしなければならない。スミレ殿、済まないがこちらの指揮は頼んだぞ」


「あいよ、こっちは任せときな。応援が来るまで待てば良いだけだし、山賊が残した食料もたっぷりあるからね。問題は無いよ」




そう言って旦那はもう一度来た道を引き返して行った。ケン達はそろそろ日が暮れそうであったので、アジトの中から火が付きそうな物を持ち寄って焚き火を起こす。そして夕食を作って皆で食べ始めた。


兵士も冒険者も腹が減っていたのでガツガツ食っていたし、元奴隷達も先程食べたばかりだというのに幾らでも入るとでも言うように食べていた。しかしケンは食べられなかった。いや食べようとしてはいるのだが、胃が拒否をしてしまうのだ。


「兄さんどうしたの?食べないの?」

「いや、食べようとしてるんだけど、何故か食べれなくて。何でだろう?」


シンは異変を感じてケンに声を掛ける。兄は好き嫌いなく何でも食べる筈だ。それにこの料理は味付けは素朴だが旨い。食欲さえあれば食べている筈である。実際ギンも山賊に使役されていたギンぺも美味しそうに食べている。


「ゆうしゃさま、ごはんたべないの?」


そう聞いてきたのはニックが救った奴隷の子供だ。この子はケンが勇者と言われていた事を耳にしており、ケンの事を「ゆうしゃさま」と呼んで体を張って助けてくれたニックと同様に慕っていた。


そこに違う奴隷が声をかけてきた。彼は初めから比較的に動くことが出来た奴隷の内の1人であった。


「ナナ、間違えてはいけないよ。彼は勇者様と行動を共にしている行商人さんだ。勇者様は先程の旦那と呼ばれていた男の方だよ」

「ちがうもん!ゆうしゃさまはこのおにいちゃんだもん!」

「そんな訳が無いじゃないか。逃げる山賊をバッタバッタと倒していたのはあの人だし、先程あの人この少年の事を行商人と言っていたのだからね」

「ちがうもん!にっくちゃんもだんなちゃんもこのおにいちゃんをゆうしゃってよんでたんだもん!それにあのこわいくまさんをたおしたのもおにいちゃんだもん!」

「あの化物を?この青年が?一体どうやって?」

「ほんとうだもん!このおにいちゃんが、おおきいおのをふりかぶってくまさんのあたまにあてたんだもん!くまさんのてがきれて、あたまはわれてちがでたんだもん!」


ナナと呼ばれた子供がそう言った瞬間、ケンは膝を着きその場で吐いた。

突然吐き出したケンに周囲は驚くが、事情を理解した者達は逆に納得したのだった。


「あ~成程な。そう言えば初めての殺しだったか」

「つーか遅!なんで今頃吐くんだよこいつは」

「勇者として行動していたから緊張していたのが一つ。それに直接殺した訳じゃ無いのが一つってことじゃないかい?」

「成程なぁ、ケンが使っていたのは弓とアックス逆茂木、どちらも直接殺しの感触を得る物ではなかったしなぁ」

「ホドの獲物も弓だろう?覚えは無いのかい?」

「ワイの最初の殺しはナイフやったんや。それ以降は弓ばっかりやけどな」


周りは平気な顔をして食事を続けている。鬼か。

しかし鬼ではない者達は大慌てであった。


「兄さん!兄さん!大丈夫?しっかりして!」

「ンペ!ンペ!」

「ゆうしゃさまがしんじゃう!たすけてにっくちゃん!」


ケンの弟のシンとギン、そしてナナがケンに駆け寄って背中を擦る。ケンは何とか体勢を立て直すと、水でうがいをして喉を潤した。


「大丈夫・・・大丈夫。問題ないよ」

「あるよ!顔色悪過ぎだよ兄さん!」

「つーか無理すんなケン。食えねぇなら水分だけ取って今日は休め。明日、明後日位になれば食えるようになるから」

「にっくちゃん!ゆうしゃさまをたすけてよ!」

「あ~ほら、大丈夫だ。俺らの勇者様は今日初めての経験をして動揺してるだけだ。勇者としていつかは通らなきゃならない道なんだ。今は辛いだろうが、2~3日すれば問題ない。だから安心しろ。勇者様は死なないからよ」

「ほんとう?ゆうしゃさましなない?」

「本当だって、死なない死なない」


ナナの慌てように慌てているニックを横目に見ながらケンは休憩場所に指定された場所に向かいそのまま倒れて泥のように眠りについた。


それを見ていた元奴隷達は、近くの兵士や冒険者に話を聞いた。


そして自分達を救ってくれた勇者というのは、今吐いていたまるで行商人のように見える若者であり、実際に行商人でもあるが本物の勇者でもあり、ナナが言っていた事は正しかったのだと聞かされ驚いていた。


ケンが初めての殺人に手を染め、勇者として初めて山賊を壊滅させた夜はこうして更けていったのだった。

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