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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第81話 ドヴェルグ連合国の旅6 山賊を襲撃

ケン達は襲撃してきた山賊を撃退し、今後の安全のために山賊の根城を突き止めて逆に攻め込む計画を立てた。


襲撃してきた山賊の生き残りからアジトの場所を聞き出し、逃げた山賊の足跡と血の跡を辿り山賊のアジトである鉱山跡に到着。


するとそこでは、山賊達が急いでアジトを引き払う準備をしていた。

襲撃が失敗した為に、この国の兵士にアジトの場所がバレると考えたのだろう。

彼らは溜め込んでいたお宝を荷台に積み込み、捉えていた奴隷達を外に連れ出し、旅支度を済ませて、アジトの外で出発を待っていた。


そして最後にアジトから出てきたのは、話に聞いていた山賊団の首領。

山賊赤錆団、団長、血爪のラストであった。


彼は熊の獣人であり、特徴的な赤錆色の毛皮をしている。

非常に凶暴な性格をしており、部下であってもすぐに暴力を振るうらしいが、熊故に両手には鋭い爪が生えている。だから彼の爪には常に真新しい血がこびり付いているという。そして話に聞いていた通り、今も彼の爪は真っ赤であった。


「いや、と言うか血の量多過ぎないですか?」


山賊団のアジトを見下ろせる高台の上から覗いているケンは、その男を一目見てそう呟いた。あれはどう見てもこびり付いているどころの騒ぎではない。

滴り落ちていると言った方が正しい量だ。


山賊団も奴隷達もその事が分かっているのだろう。

彼がアジトから出てきた瞬間に、彼らの緊張が目に見えて上がったのが分かった。


そして山賊団をつぶさに見ていたホドが納得したような声を上げた。


「あ~成程な。そういうことかいな」

「ホド、何か分かったのか?」

「まぁな。あの熊どうやら逃げ帰った連中を皆殺しにしたみたいやで」

「何だと?」

「さっき襲撃してきた奴らが見当たらん。恐らくあいつが殺したんやろ。そう考えればあの血の量も納得や」


そうホドが呟いた瞬間、ケン達一行の背中に冷たい汗が流れた。

逃げ帰った連中は最低でも3~4人は居た筈だ。

それを皆殺しとか、想像もしていない展開だ。

どうやらあの山賊の首領の熊は相当やばい相手であるようだ。


その熊は今並ばせた山賊達と奴隷達に向かって何かを喋っている。

流石にこの距離では内容は聞き取れないが、恐らくはこれから何処へ向かうのかを話しているのだろう。ケン達はまだ動けない。

彼らがどの方向に向かうかでこれからの行動が変わるからだ。


「ところで旦那、あそこに居るのは奴隷ですよね。彼らについては何も聞いてないのですが?」

「すまない、アジトの場所と残りの山賊の人数と山賊の首領については聞き出したのだが、奴隷については考えていなかった。通常山賊や盗賊はあれほど大量の奴隷を保持し続ける事は無いのでな。これは私も想定外だ」

「そうですか、それでどうします?計画に変更はありますか?」

「いや問題ない。計画通り行けば彼らと山賊は引き剥がせる筈だからな」


ケンと旦那が作戦の確認を終え暫くすると、山賊達は移動を始めた。

彼らはギンペに引かせた荷台を守るように荷台の周囲を囲みながら進んでいる。

山賊の首領であるというあの熊は最前列に居るようだ。


そして荷台のすぐ後ろには奴隷達が歩いている。と言うか彼らは交代で荷台を押しているようだ。流石にあの量の荷物をギンペ1匹では運べないのだろう。彼らは交代で荷台を押すが彼らの体力が無いのか荷物が重いのかすぐに交代している。しかし彼らは50人を超える集団だ。次々と交代しながら順調に荷台は前へと進んで行った。


「成程な、あれだけの人数がどうして必要なのかと考えていたが、山道で荷台を押すために必要としていたのか」

「力が無いから数を揃えましたってか?胸くそ悪い話だな」

「まぁいいさ、もう少しの辛抱だ。全員移動するぞ、気づかれないように注意して動け」



そしてケン達は山賊の追撃を始めた。

ケン達が山賊を襲撃するにあたって考えた作戦は地形が非常に重要となる。

よって山賊達に襲撃に適した場所まで移動して貰う必要があったのだ。


そしてその場所には割りと早くに到着した。

そこは坂である。それも道の両側が高くなっている下り坂であった。


旦那曰く、


「盗賊や山賊というのは、アジトにする場所に一定の法則があるものだ。彼らは攻め込まれ難く、逃げ出しやすい場所を選んでアジトにする。それは何処かと言えば、早い話が坂の上だ。坂の上に陣取っておけば、万が一攻め込まれても位置的に上を取れるし、逃げ出す時にも下り坂を下ればいいから早く逃げられる。特にこの国の様な山深い土地ではそれが顕著だ。案の定奴らのアジトも坂の上にあるらしい。それを利用して襲撃を仕掛ける」


事前にそういう話を聞かされていたので一行はここが襲撃地点であると確信した。

旦那は山賊達が全員坂を下り始めた頃を見計らって各々位置に着くようにと合図を出す。


ケン達山賊襲撃班が配置に着いた時、既に山賊達は坂の中腹辺りまで降りていた。それを確認した旦那は今作戦の要であるケンの弟のシンへと合図を送った。



「ンペ~!!」


ドヴェルグ連合国の山の中、突然ギンペの声が響き渡る。山賊達は立ち止まりキョロキョロと周囲を見回した。野生のギンペは偶にいるが、この場に急に現れるとは考えにくい。


先程行商人を襲撃して返り討ちにされて逃げ帰り、ボスに粛清された連中が行商人達がギンペの子供を連れていたと話していた。その事を思い出した山賊達はまさか行商人が俺達を襲いに来たのかと考え、警戒を強めた。


しかし周囲には行商人どころか人っ子一人見当たらない。

聞き間違いかと考えたその時、再びギンペの声が響き渡った。


「ンペ~!ンペ~!」


やはり聞き間違いではない。山賊達は周囲に散らばり周りを注意深く見渡す。

しかし誰も出てこない。ギンペの声が聞こえるだけだ。

声だけは聞こえるが何も起こらないその状況を不気味に思っていると、突然山賊達が使っているギンペが空に向かって声を上げ始めた。


「ぺ~!ぺ~!ンぺ~!」


それを聞いた山賊達は驚いた。このギンペは以前襲った村の家族が飼っていたギンぺであり、村のガキと一緒に攫ってきたギンペだ。

そのガキを助けたかったら言うことを聞けと教え込み、以来この国の険しい山道を移動する際の馬代わりとして重宝している。


勿論そのガキは暫くしてから他の村人同様奴隷商人に売り払ってしまった。

しかしこいつは人の言葉が分かるので、「大人しく働けばその内にガキに会わせてやる」と言ってそのままこき使って居たのだ。


そして馬と違って鳴き声がうるさいので、「鳴くな、喋るな」とも命令してある。以来こいつの鳴き声は聞いていなかった。

そのギンペが突然鳴き出したのだ。山賊達は呆気に取られてしまった。



そして暫く鳴き続けていたギンペは突然鳴き止んだかと思うと、急に坂道を爆走し、あっという間に坂道を下って遙か先まで走って行ってしまった。


ちなみに山賊達はギンペに荷車を引かせていたので、当然ながら荷車もギンぺと共に遙か先まで行ってしまっている。

あれには今迄襲って奪って集めまくった山賊達のお宝が積まれているのだ。

その事に気付いた山賊達は先を争うように荷車を追いかけ始めた。


そうして山賊達は荷台を追い掛けて駆け出していくが、手足を鎖で繋がれている奴隷達は山賊達のスピードに着いていけない。その差はドンドン開いていき、奴隷達と山賊達と荷車を引いているギンペはそれぞれ分断された。


そして、それぞれ十分に距離が離れたその時、先程まで響き渡っていたギンペの声とは違う笛の音が響き渡り、山賊達に向かって矢と石と炎の玉が降り注いで来たのだった。




「この作戦には君の力が必要だ。是非協力して貰いたい」


旦那は出発前にシンに襲撃に参加するよう口説いていた。勿論シンはまだ成人前の子供であり、魔力はあるが魔法を使うことは出来ないので待機組の予定であった。この場の全員その事は理解している。だからケン達は旦那の真意を問い質した。


「ちょっと待って下さいよ旦那。シンを連れて行っても何も出来ませんよ」

「いや出来る。正確にはシン少年とギンに働いて貰いたいのだ」

「ギンにですか?」

「ああ、山賊団は攫ってきたギンぺを輸送手段として使役しているらしい。シン少年にはギンにお願いをして、鳴き声でそのギンペへと合図を送って貰いたいのだ」

「ギンが合図を送るのですか?」

「そうだ。山賊が鉱山内部に立てこもっているなら鳴き声で場所を知ることが出来る。鉱山から逃げようとしているのならギンペに逃げろと伝え、引かされている荷台ごと逃げて貰えば山賊達の注意を引き、奴らを分断することが出来る。どちらにしても我々にとって有利な状況を作り出す事が出来るのだ」

「しかしシンはまだ成人前ですよ。余り危険なことは・・・」

「問題あるまい。先程の襲撃を一番先に察知したのはギンだ。念の為兵士を2名護衛に付ける。それだけの価値が彼とギンにはあるのだ」


旦那の要請にシンは考える。自分はまだ成人前であるので、旅の最中もずっと勉強漬けの日々だった。カンナの町ではギイ商会で事務として働いており、兄さんの役に立つつもりで旅に出たのにまだ1つも役に立っていない。そんな自分が役に立てるのなら役に立ちたいとシンはそう思った。




そうしてケン達は襲撃犯にシンを加え、旦那の考えた作戦を実行に移した。


彼らが坂を下り始めてからケン達は坂の下からは見えない位置に移動して、坂道の両側の上に陣取る。そして山賊が中腹辺りまで降りた頃、配置が完了したので、シンにお願いしてギンにあのギンペに荷車ごと逃げろと説得して貰ったのだ。


そして説得は成功。ギンペは坂道を爆走し、距離を離したギンぺを追うために山賊達も移動、奴隷達はどちらにも着いて行けなかった。結果として彼らは上手い具合に3つのグループに別れたので、ケン達は坂道の上から山賊達に向かって攻撃を開始した。


ちなみにこの説得が失敗したとしても襲撃自体にそれ程影響はない。ギンぺと奴隷が巻き込まれる確率は上がるだろうが、山賊達に対して位置的に有利な上を取っているという事実は変わらないからである。




そして現在、山賊達に対してケン達は激しい攻撃を加えていた。ホドは弓を引き絞り、山賊を次々と射抜いていく。ケンとヘイもホドに教わった弓を射て、山賊にダメージを与えていた。


弓が使えない残りの兵士や冒険者達が行っているのは投石だ。ここは周囲に山が広がる山岳地帯。石はゴロゴロしているし、ケン達は山賊達よりも高所を確保している。投げた石は山賊の骨を砕き、肉を裂いた。当たり所が悪ければ動けなくなり、動きが止まれば集中攻撃を受けてそのまま死体になっていった。


そしてニックは魔法を使って火の玉を降らせていた。それは以前センターの村防衛戦でホドが戦ったマジシャン・ゴブリンが使っていた火の玉の魔法と同じであり、当たった相手は火達磨になり悲鳴を上げながら転がっている。


中には上から降ってくる攻撃を避けきって逃げ切る山賊も居るが、切り立った壁を下り、先回りして坂の下で待ち受ける旦那の剣の一振り倒れていった。

「下り坂で襲撃をする場合、取り逃がしを防ぐためには、逃げやすい下り方面で待ち受けていればいい」とは当の旦那のセリフだ。



そうして暫く攻撃を続けていると、旦那が攻撃中止の合図を出した。

落ち着いてみれば山賊達は既に1人も動いていない。ものの見事に全滅していた。


ケン達は歓声を上げようとした。しかし次の瞬間に坂の上の奴隷達から悲鳴が上がった。よく見るとそこには無傷の熊が血走った目をしながら奴隷の首に爪を掛けながらケン達を睨んでいた。


そう、赤錆団の首領であったあの熊はギンペが走り出した後も他の山賊達とは違いペースを変えずに移動していたのだ。別に旦那の罠を見破った訳ではない。ただ単に、こういったトラブルは部下達の仕事だと考えていただけの話だ。


それなのに先行した部下達に向かって突然攻撃が降り注ぎ、瞬く間に部下は全滅。いつの間にやら自分は孤立しており、咄嗟に奴隷を人質に取ったのだ。


それを見た旦那はゆっくりと坂を登り山賊団の首領に近づいていく。

ケン達もそれぞれ移動し、ケン達襲撃班は熊と奴隷達をぐるっと包囲してしまった。


それに驚いたのは当の熊である。てっきりこの国の兵士であるドワーフ達が現れたのかと思っていたら、出てきたのはドワーフの兵士ではなくヒューマンばかり。しかもその内の数人は明らかに兵士の格好をしていなかった。


「お前ら一体何者だ!」


熊は怒鳴る。この状況は正直意味が分からない。

この国の兵士ではない連中に何故襲われなければならないのか。

熊の叫びに旦那が答えた。


「我々はマール国の勇者一行だ。山賊、赤錆団の団長、血爪のラストだな。これより始末する」

「勇者!?何で勇者がこんな所に現れる!?」

「何故も何もない。お前の山賊団が、我々を襲撃してきたからだ」

「何言ってやがる!あいつらが襲ったのは行商人の馬車の筈だぞ!」

「その馬車には勇者が同乗していたのだ。運が無かったな」


そう言って旦那は一歩近づく。

ケン達は逃げられないように周囲を完全に包囲している。


熊の獣人ラストは考えた。


・目の前の勇者(旦那の事)は強すぎる。戦えばまず間違いなく負けるだろう。

・しかし周囲を囲んでいる連中は違う、こいつらを突破すれば逃げられる筈だ。


そう考えた熊は一番弱そうな相手を探して周囲を見回す。

すると兵士と冒険者に混ざって何故か聖職者と新米冒険者らしき若造が視界に入った。


明らかに場慣れしていない事が分かる程挙動不審な2人だ。

特に聖職者の方はしきりに奴隷達へと視線を向けている。その視線を辿ると、奴隷の中で一番小さなガキを見ているのが分かった。そのガキはこの場の緊張に耐えきれなかったのか地面に座り込んでしまっている。


それを見た熊はニヤリを笑うと、手にしていた奴隷を旦那に向けて放り投げ、奴隷のガキを引っ掴むと今度はニックの前に向かって放り投げた。


旦那は飛んできた奴隷を避け、敵の狙いを見抜くや否や熊の元へと駆け出す。

そしてニックは突然目の前の地面に叩きつけられた子供を助けようと、包囲を抜けて子供の側に向かってしまった。


そこに熊が容赦なく襲いかかる。熊は子供に気を取られたニックを殺すか盾にするかして包囲を脱出するつもりであったのだ。


するとその前に聖職者の横に居た新米冒険者らしき若造が立ちはだかる。身の程知らずは殺してしまおうと熊は自らの爪を振るうが、突如目の前に木で出来た杭付きの柵が現れ、熊の勢いの付いた体はそのまま目の前の杭の先端に突き刺さってしまった。


「ガアア!!」


熊は身を捩って悲鳴を上げる。そして杭を体から抜いて距離を取ろうとした時、不意に自分の頭の上に影が差したように感じて視線を上げた。


するとそこには凄まじい勢いで迫ってくる巨大な斧が存在した。

熊は咄嗟に両手で頭を庇う。

しかし斧はその勢いを落とすことなく、熊の両手を切り落とし、ついでに頭をかち割ったのだった。


ドヴェルグ連合国を荒らし回っていた山賊赤錆団。

数々の被害をもたらした凶悪山賊団は、この日マール国の勇者一行の手によって壊滅したのであった。

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