第80話 ドヴェルグ連合国の旅5 山賊のアジトへ
ケン達マール国の勇者一行は山賊退治を行うことを決めた。
そうなるとまずやらなければ行けないのは襲撃メンバーの選定とアジトの場所を特定することだ。その為に旦那とスミレが素早く動き出した。
旦那は山賊の中でも身なりが良い者を一人見繕い、背中に担いで山の中へと姿を消した。これからアジトの場所を聞き出すそうだ。ニックがそれを見て「つまり拷問するんだろ」と詰問したが、「これは必要な拷問だ」と言い残し、抵抗する山賊を担いだまま旦那は山の中へと消えていった。
そしてスミレは襲撃メンバーの選定をする。
まず馬車は山の中を進めないので置いていく。そして戦えない者達は留守番をしてもらい、それを守るための護衛も必要なのでメンバーを2つに分けた。
話し合いの結果、
馬車を守る任務は、ギイ、ハナ、ソレナ、ノウ、ホッコに5人の騎士と兵士が3人、冒険者5人という構成。
アジトを襲撃するメンバーはケン、ヘイ、ホド、ニック、旦那、スミレ、そして兵士6人と冒険者5人というメンバー構成だ。
防衛側は拠点防衛に優れているギイがリーダーとなり、山の中では真価を発揮できない騎士達をメインにして、王族2人と非戦闘員と荷物を守る。
襲撃メンバーは戦闘力に優れた旦那とスミレを軸に、勇者であるケンに言い出しっぺのニック。そして護衛のヘイとホド、そして殺人経験のある兵士と冒険者で固めた。先程の防衛戦からいきなり数が半減したが、戦力的には問題ない。旦那とスミレがこの一行のツートップだからである。
しかしこのチーム分けに意義を唱える者が居た。ハナとソレナである。
「異議あり!です。私も襲撃メンバーに加えて下さい」
「私もお願いします。もう先程のような無様な真似は致しません」
2人は防衛よりも襲撃に回りたいようだ。しかしスミレから許可は出なかった。
「2人共残念ながら却下だよ。これからアタシ達は山賊共を退治に行く。つまり山賊共を殺しに行くんだ。初めて人を殺した奴ってのはその後しばらく使い物にならなくなるからね。唯でさえ人数が少ないのにそんなリスクは背負えないよ」
「でもケンも入っているじゃないですか!」
「それは当たり前だよ。この襲撃を提案したのはニックだけど、最終的な決断はケンがしたんだ。山賊退治を決定した勇者様が参加しないでどうするんだい」
実はスミレはケンが口だけ出して「後は任せた!」なんて言おうものなら襲撃自体を中止にしようと考えていた。しかしケンは自分の決断の責任を背負う覚悟をしたのだ。ならばそれに答えるのが兵士というものである。
「どうしても参加したいなら残りの山賊をこの場で殺しな。その後いつも通りに動けたのなら連れて行ってやるよ」
「なっ!」「そんな!」
「嫌なら諦めな。足手纏いは必要ないよ」
そう言ってスミレは冷たく2人を引き剥がす。こと戦闘において、スミレはこの一行の中では旦那に次ぐ実質的なナンバー2だ。そのスミレにNOと言われれば諦めざるをえないのだ。
ハナとソレナは山賊とケン達の間をチラチラと視線を彷徨わせる。
そして覚悟を決めてスミレに顔を向けた。
「分かりました。私は山賊を殺します」
「わっ私もです。いつかはやらねばならぬことなのです。ならば今この場で手を汚しましょう」
そう言って2人は山賊の方へと向かって行く。それを見た山賊達は悲鳴を上げた。
「待て待て待て待て!殺さないでくれ!」
「悪かった!反省する!もう山賊なんて辞める!」
「故郷に嫁と娘が居るんだ!お願いだ!いや、お願いします!」
山賊達は必死に命乞いをし、地面に額を擦り付ける。
それを見た2人はブルブル震える手を必死に押さえつけ、剣を振りかぶった。
「私はあなた達に対して個人的な恨みは持っていません」
「ですよね!だからその剣を降ろして下さい!」
「しかしあなた達の先程までの態度を見る限り、とても信用は出来ません」
「違うんです!調子に乗ってたんです!だから!」
「だから私はあなた達を殺します。いえこの言い方は卑怯ですね、私は行商人であなたは山賊。襲われたので殺します。私の初めての殺人経験になって下さい」
「止めろ止めろ!止めろってんだこのクソ女があああぁぁぁー!」
そう言ってハナは振りかぶった剣を山賊の一人に振り下ろした。
首に向かって振り下ろした剣は、しかし力が足りずに切断までには至らない。
しかし頸動脈は切断したのか大量の血が噴出し、それを被ったハナはパニックに陥った。
ちなみにソレナは正確に首を切断した。この辺りは普段の修行の差が出たという所か。
しかし首を撥ねた胴から勢い良く血が吹き出てソレナはそれを被ってしまう。そして同じようにパニックに陥った。
「「ヒャアアアァァァーーー!!!」」
2人は初めて人を殺した衝撃でガクガク震えながら山賊から距離を取ろうとする。しかし足がもつれてすっ転び、腰が抜けて動けない。2人は這うように距離を取り、後ろで見守っていたスミレにぶつかると彼女に抱きついてブルブルと震え始めた。
スミレは2人を力強く抱きしめる。2人共は血だらけで、勿論スミレにも大量の血が付くがお構いなしだ。しばらくすると2人共気絶してしまった。ショックが強すぎたようだ。
気絶した2人を一気に持ち上げて、スミレは2人を馬車へと運ぶ。
そしてそこで待っていたギイに2人の看病を任せた。
そこに丁度旦那が帰ってきた。いや正確に言うと旦那と死体が帰ってきた。その死体は見た感じはキレイに見えるがよく見ると歯や爪が幾つか消えている上に、細かい痣が幾つか見受けられる。どうやら旦那の拷問はなかなかに激しかったようだ。
旦那は周囲を見て、新たに増えた山賊の死体を見て状況を理解したようだ。
先程燃えていた死体の側に新しく増えた遺体を置きスミレに話し掛けた。
「いささかスパルタ過ぎないか?」
旦那の問いかけにスミレは首を振った。
「いいや逆だよ。これだけ仲間が多い状況で初めての殺人をしておけば、その後のフォローが楽だ。寧ろこれを後回しにしてフォローが出来ない状況下で初めての殺人を犯す方が危険さ。ケンも言っていただろう、将来の不安を1つ取り除くためさね」
そう言って残りの山賊に目を向ける。
最初の襲撃で生け捕りにした山賊は合計7人。1人はニックが焼いて旦那が首を撥ね、1人は旦那が拷問の末殺した。そして2人はハナとソレナが殺したので残りは3人。彼らはガタガタ震えながら寄り添っていた。よく見ればその内の1人は失禁している。
「さあ残りは3人だよ!まだ人を殺した事のない奴は今が殺し時だ!今なら万全の体制でフォローしてやれるからね!誰か居ないかね?」
そう言ってスミレはこの場に残る者達の中で、殺しの経験のない者に問いかける。
すると兵士に1人、冒険者に2人手を挙げる者が居た。兵士はなんとハスで、冒険者はよく知らない2人組だ。彼らはそれぞれ獲物を携えて山賊の元へと向かい。最初は躊躇しながらもそれぞれ山賊を殺害した。
そしてハスはその場で倒れ、冒険者2人はその場で吐いた。ハスは馬車まで運ばれたが、冒険者の2人は自力で戻ってきて今は馬車の近くで座り込んでいる。
後で聞いた話だが、この2人は勇者の国に到着した後は、パーティーを募って世界中を冒険する予定があったらしい。しかし今回の襲撃では山賊相手にまともに動けなかったので、次は動けるようになりたいと思い殺人を経験しておくことにしたのだそうだ。
「それでアジトの居場所は?」
スミレが死体を片付けながら旦那に質問する。
旦那は先程の山賊から聞いた内容を説明した。
「この先の山を一つ超えた先にある昔の鉱山跡だそうだ」
「鉱山跡かい、厄介だねぇ。因みにその情報の信頼性は?」
「問題ない。途中まで辿ってみたが先程襲撃してきた山賊達の足跡や流した血の跡が地面に残っていた。それに私は相手から正確に情報を引き出す術を会得しているからな。信頼して貰っても構わない」
「分かったよ。ちなみに襲撃メンバーのリーダーは旦那、あんただ。準備が出来次第出発するよ」
「了解した」
ここで旦那の持つ「相手から正確に情報を引き出す術」について質問をする者など1人も居ない。
ケン達は旦那が聞き出した山賊の情報を共有し、山賊のアジトに対して具体的にどのように襲撃を掛けるのかを話し合い、待機組から作戦に必要な人員を譲り受け、カンナの街で新調した武具を身に纏い、必要な物を荷物の中から選んだ後に待機組に馬車を任せて出発した。
先頭は旦那とホド、その後ろは冒険者で更にケン達と続き、ケン達の後ろは兵士で最後尾はスミレという陣形で山道を進む。
先程の襲撃時にギンに続いて異変を察知した2人が斥候を努め、勇者の前後を冒険者と兵士で守るという陣形だ。そしてスミレは後方からの襲撃を警戒している。万が一裏から責められても対処出来るようにしているのである。
山の途中ではジャンピングストーンやロックゴーレムといったドヴェルグ連合国特有のモンスターも見受けられた。しかし旦那とホドの索敵能力のお陰で事前に察知できるため、モンスターのいる場所は基本的に迂回、どうしても駄目なら旦那が速攻で仕留めていた。
余計な怪我を負うリスクを避けるためである。
そうして暫く進むと見晴らしの良い場所が見えてきたので一行は隠れて息を潜める。
旦那とホドが索敵を行い、近くに見張りは居ないと判断して全員移動。そして全員がその場から山の向こうへと視線を向けた。
そこからは山賊がアジトにしているという鉱山跡がよく見えた。
山に幾つかの穴が開けられて、そこを山賊らしき集団が慌てた様子で出入りをしている。
彼らは穴の中から荷物を運び出し、外に置いてある荷台に積んでいるようだ。その荷台を引いているのは馬ではなく、一般人位の大きさのギンペだ。しかしそのギンペは体中至る所に傷があり、ひどい扱いを受けているのが一目で分かった。
「流石に行動が早いな。どうやら奴らは引っ越し準備に大忙しらしい」
「引っ越しですか?まさかさっきの襲撃が失敗したから?」
「間違いないだろう。恐らく我々が街に向かい、兵士に連絡をされたらアジトの場所がバレると考えたのだろうな。実際生き残りが居た訳だからそう考えるのが自然だ」
「流石は音に聞こえた山賊団やな、逃げ足の速さは一級品やで」
鉱山跡のアジトの状況を一目見て旦那は現状を理解した。
どうやら今すぐに討伐すべしと判断したケンの考えは正しかったようだ。
そうしてケン達は山賊の引っ越しの様子を眺めながらこれからの作戦を練って行く。
アジトが鉱山と聞いていたので襲撃している間に別の穴から逃げられることを心配していたが、わざわざ出ていってくれるのなら、全員が鉱山から出た後に外で倒すまでだ。
ついでに回収する予定だった山賊の宝も荷台まで運んで貰おうと考え、外での襲撃の方法を打ち合わせた後、ケン達は彼らの引っ越しの様子を眺めていた。
暫くすると荷物を積み終わったのか、山賊達が旅装束の格好で鉱山の外へと出てくる。
その数は20人も居ない。先程の襲撃は彼らの戦力の大部分を当てたものだったのだろう。
だがそこへ追加で現れた人影は予想外であった。
それは手足に手錠を掛けられた多数の人々である。
その服はボロボロで、その目には力がない。そして彼らは満足に歩くことも出来ないくらいに弱っているのかガリガリに痩せており、フラフラしながら進んでいる。
どう見ても奴隷である。子供から大人まで総勢50人を超える奴隷の集団が鉱山の奥からゾロゾロと現れたのだ。
そしてその内の1人が鉱山の外で倒れ込んだ。それはまだ子供のドワーフであったが、倒れて暫くすると木の棒を持った山賊が近づいてその子を棒で叩いていく。4~5発叩いてから無理やり立たせて歩かせて彼らは外に整列した。
それを見て飛び出そうとするニックをケンとヘイが必死に押さえつける。「今行くのはあの子にとっても危険だ」と説得しニックはどうにか収まった。しかしその目は憎悪の炎でメラメラと燃えていた。
そして最後に奥から出てきたのは周りの山賊よりも一回りデカイ大男だ。
その男の顔はどう見ても熊であり、体は剛毛に覆われていた。
「あれが山賊団のリーダー・・・」
「初めて見るか?あれが獣人だ。基本的に南のワイルド王国からは出ない種族なのだがな」
ケン達は旦那から山賊のアジトの場所以外にも、山賊のリーダーが熊の獣人であることも聞かされていた。
その男の身長は軽く2mを超え、両腕には凶悪な爪が生えている。
腰巻きをし、旅用のマントを羽織っているが、その赤錆色の特徴的な毛皮は誤魔化せない。
山賊赤錆団、団長 血爪のラスト。
その名の通りその男の爪からは真新しい血が滴り落ちていたのだった。




