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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第78話 ドヴェルグ連合国の旅3 山賊の襲撃

スパナの町を出発して4日後、ケン達マール国勇者一行は険しい山道を進んでいた。


カンナの町からスパナの町までは比較的移動しやすい荒れ果てた大地に通された一本道を通ってきたが、スパナの町から先はドヴェルグ連合国らしい山道が続く。


基本的には馬車がすれ違える程度の道幅は確保されているが、偶に細い道があったり、下を向くと谷底だったりする道もあるので、一行は気を付けて進んでいた。


地面をうねるように蛇行している河、そして切り立った崖と抉られた谷底。そしてそれらの間にそびえ立つ山脈群。


その景色は正に絶景であるとしか言いようがない。

たまに現れる展望ポイントでは思わず足が止まってしまう。


山は近くで見ればゴツゴツしていてゴツイ印象が強い。

しかしこうやって遠くから見渡せば、それは正に雄大と呼べる程の眺めであった。

その圧倒的な景色に、ドヴェルグ連合国を旅する数多の旅人達は深い感動を覚えるのである。



しかし今、一行の興味は山ではなく1匹の動物に注がれていた。

いや正確に言おう、一行の中の女性陣の興味が注がれていたのである。


「ンペ!ンペ!」

「はいはいギン、気をつけてな。崖から落ちたら大変だからね」

「ン~ぺ!」


それは昨日で生まれてから20日経ち、ようやく独り立ち出来るまでに育ったギンペのギンであった。


体長は大体成人男性の腰くらいまでであろうか?しきりにキョロキョロと頭を動かしながら馬車と同じ速度で山道を歩いている。昨日までは馬車の中でシンと共に遊んでいたのだが、積んでいた食料を食べ尽し急成長が止まってからはしきりに馬車から出ようとするので出してあげたのだ。そうするとギンは最初はゆっくりと、今では山道でも苦もなく歩くことが出来た。


シン曰く、「何となく外で遊びたい雰囲気があった」のだそうだ。ケン達は普通に移動しているだけであるが、生まれて間もないギンペにとってはこの移動も遊びの1つなのだろう。


まぁ人間が生後20日で外に放り出されたら生きていけないが、ギンペは魔物である。僅か20日でも十分な成長を見せていた。ギンペは最終的にはシカーク王国の河で見たような巨体にまで成長すると言う話ではあるが、それまでは長い時を掛けて割とゆっくりとした成長をするという。そしてギンはまだ生まれたばかりの子供であるため、暫くはこの大きさのままだ。


ケン達勇者一行の女性陣達はそのことが分かっているのでギンから目が離せない。たまに石に躓いてコテンと転ぶのもご愛嬌。ギンはすっかり勇者一行のマスコットになっていた。


「ギンは凄いですね。生後20日でもう普通に歩いてますよ」

「まぁなんだかんだ言っても魔物だからな。人間とは成長の仕方が違うって事さ」

「でもシン君はギンが巨体になったらどうするつもりなのかしら?」


「う~ん、出来る限りは一緒に生活したいって言ってるけど、流石にあの巨体で人間の町での生活は無理だからなぁ。そうなったらあそこの河に預けるか、もしくは他の群れに連れて行くつもりらしいよ」

「まぁそうなったらそうなった時に考えればいいのです。今はギンの成長を楽しみましょう」


ケン達はいずれ訪れるシンとギンの別れの時について思いを馳せながら山道を行く。

そんな周りの考えなど知りもせず、ギンは馬車に送れないように必死に山道を登っていた。



そして太陽が中天を指す頃、丁度良い広さの開けた場所があったので、ケン達はここで昼食休憩を取ることにした。

既に旅も終盤、一行の行動には迷いもない。

各々決められた場所で何時もの行動に移るのみだ。

そして今日も食事係が腕を振るう時間が来た。


「昼食にしま~す、全員準備して下さい。ニック宜しく~」

「何が宜しくだこのヤロウ!次の町までは後何日掛かるんだ」

「スパナの町から次の町までは6日の予定だから、後一日と半分だな。今日と明日を乗り越えればまた町に到着するよ」

「ちっ!しょうがねぇな、材料は揃ったか?ならとっとと作れ!俺様が火を出してんだから旨く作れよ!」

「いつも残さず食べてるくせに何言ってんだか」


食事班が昼食の準備のために腕を振るっている最中、ケンとハナは馬車の点検をしていた。昨日まで積まれていたギン用の大量の食料は食べつくされ、カンナの町で仕入れてきた大量の木材も既に半分。残っている物は次の町と勇者の国で販売する予定の商品と一行の旅荷物だけだ。


大分車体も軽くなったが、険しい山道を通って来た為荷台の車輪には細かい傷がいくつも付いてしまっている。ケン達は休憩に入るたびに車体を入念にチェックしていた。途中で馬車が横転したり、壊れたりしたら一大事だからだ。


「ハナそっちはどう?」

「問題ないわ。流石はお師匠様が購入した軍用車両ね。物凄く頑丈に出来てる。これで中古なんだから相当お得な買い物よね」

「確かになぁ、安物ではこの山道は超えられられなかっただろうし。高くても作りがしっかりとしている物を買った方がお得って事か」

「そう言って貰えると師匠冥利に尽きるな」


ケン達が馬車の点検を終えるとギイが近づいて来て再度点検を始めた。スパナの町を出発して山岳地帯に入ってからはこうしてケン達の点検の後にギイが再点検をしてくれている。


既にケン達も数ヶ月間も馬車での行商を行っているが、ここまで険しい山道を通ったことは無いので、万が一を兼ねての再点検だ。今はもう大丈夫だが、初日は点検ミスが数箇所あり2人は怒られていたのだった。


「ふむ問題は無いな。それにお前達のチェックの仕方も同じく問題は無い。大分慣れてきたようだな2人共」

「まぁ1日4回も5回も点検してますからね」

「流石に慣れましたよお師匠様」

「そうだな。しかし油断は禁物だ。慣れた時ほど注意しておかないとやったつもりでもおざなりな点検をしてしまい、結果事故に繋がる事もある。私も以前山道で車輪が外れて動けなくなり難儀したものだ。用心の上に更に用心を重ねるつもりで行動しなさい」

「「はい、分かりました!」」


そうして全ての馬車の点検が終わった頃に食事係から昼食が出来たと連絡が来た。



ケン達も各々昼食を受け取り適当な場所に座って食べていた。

すると突然ギンが騒ぎ出した。横で食べていたシンは慌てている。


「ンペ!ンペ!ンペー!!」

「えっ?何?ギンどうしたの?」


それに少し遅れるようにして旦那が立ち上がり、ホドも弓矢を手に取った。


「全員食事を止めて戦闘体勢!何者かがこちらに近づいて来ているぞ!」

「数が多いで!20・・いや30人はおる!」


突然の事態に一行はポカンとしている。しかしギイやヘイ、スミレや他の経験豊富な者達は事態を把握し即座に動きだした。


「2人共どの方向から来る!」

「全方位だ!囲まれている!」

「両側の道から数人ずつ!それと少し遅れて両側の山側からも来とるで!」

「何ぼさっとしてんだい!兵士、騎士、冒険者は全員抜剣!戦えない人達は馬車の中に隠れな!」

「ケン、ハナ、お前らは俺の近くに居ろ。逆茂木からは決して出るな。ソレナは2人を守れよ!」

「あっああ、勿論だ。しかしこれは何事なのだヘイ?」

「分かんねぇのかよ!山賊だ!」

「「ウアアアァァァ!!!」」


ヘイがそう言った直後、道の両側に突然男達が現れ、問答無用で襲い掛かってきた。

彼らは最初ケン達に向かって音を立てずに接近して来ていたが、こちらが気づいていることを悟ると急に大声を出して威嚇しながら襲い掛かって来たのだ。


その格好は総じて薄汚れており、髪はボサボサで靴を履いていない者も居る。持っている武器も棍棒だったりぼろぼろの剣だったりで装備的には大した物ではない。

しかし、道の両側から血走った目をした男達が襲い掛かって来る光景は大層恐ろしいものであった。


そもそもケン達マール国の勇者一行の大半は「人間」に襲われる事自体が初めての経験である。その為とっさに動けなかったが、突如旦那の叫びが辺り一面に轟いた。


「オオオオオオ!!!」

「!」

「うおっ!?」


山賊の威嚇を遥かに超える突然の旦那の咆哮に一行は総立ちになる。

そこにスミレの冷静な命令が届けられた。


「ボサッとすんじゃないよ!ノウ王子とホッコは戦えない連中を馬車へ連れて行きな!騎士達はその警備!兵士は半分に分かれて逆茂木の後ろで防衛!旦那!そっち側は任せるよ!」

「了解した!」


そう言ってスミレは逆茂木を通り抜けて今さっき通ってきた道の方へと向かい、旦那はこれから行く方向へと向かって行く。


そこに山賊が襲い掛かってくるが、旦那が剣を振ったかと思うと次の瞬間には山賊は地面に倒れている。見れば旦那は高速移動を繰り返しながら次々と山賊達を仕留めていた。


そしてスミレも同じように倒していたが、流石に旦那のような身のこなしは出来ない。

しかしスミレのスキを埋めるようにホドの援護射撃が飛び、山賊は次々と倒されていく。


あっという間に旦那側の山賊は全滅。スミレの側の山賊も残り2人となっていた。

その頃には戦えない人達の避難は完了し、全員馬車の中へと移動している。そして馬車の隙間から見えた2人の強さに歓声が上がった。


「こちらは済んだ!私は馬側の方へと移動する!」

「分かった!私は逆側だ!あんた達ここは任せたよ!ホドはアタシの援護を頼む」

「了解や!」


そう言って3人は今度は道の左右へと移動していく。スミレとホドが戦っていた山賊達の生き残りは今は残された兵士と戦っていた。そういえば先程ホドが「少し遅れて両側の山側からも来とる」と言っていた。それを思い出してケン達もホドの方へと向かう。すると先に着いていたスミレにケン達は怒られてしまった。


「馬鹿!何で来たんだい!」

「いや手助けをしようと・・・」

「そんな震えてるのにかい!いいから今は引っ込んでな!ソレナ、ハナ様と勇者殿を戦わせるんじゃないよ!あんたも震えてるんだから無理して戦う必要はないんだからね」

「えっ?」


言われてソレナは気がついた。確かに体が小刻みに震えている。よく見ればケンとハナも体が震えていた。しかし一緒に来たヘイとギイは震えていない。そして当然だがホドもスミレも震えていなかった。


しかしソレナは自分が震えている理由が分からなかった。戦闘はもう何十回もこなしてきたし、モンスターも同じく何十匹も仕留めてきた。それなのに何故体が震えているのか。これではまるで初陣に立つ新米兵士の様ではないか。


しかし考える時間もなく事態は動く。

今度は道の両側の山の中から山賊達が襲い掛かって来たのだ。


彼らは先程の山賊達とは違い着ている防具もそれなりの物で、持っている獲物もきれいな物であった。髪がボサボサで目つきが濁っているのは同じだが。どうやらこちらの山賊の方が本命らしい。


「ヒョー!見ろよ団体さんだぜ!」

「なかなか良い装備をしてるじゃねぇか!寄越せやぁ!」

「女もいるぜ!しかも若くて美人だ!今夜はアジトでパーティーだぜぇ!」


そんな身勝手なことを言いながら山賊達は山を駆け下りケン達に襲い掛かってくる。

しかし到達する前に何人かはホドに射殺され、先行してきた者達もスミレの前に倒れていく。


自分達の不利を悟ったのだろう、残りの山賊達はスミレを避け、そのままケン達の方へと向かって来た。しかしバリケードとして置いておいた逆茂木に勢いを殺され、動きが止まった所でヘイとギイに攻撃を受け倒れていく。


そんな時再び馬車の方から歓声が上がった。何だと思って声のする方へ振り向くと、旦那が山を登り返して逃げようとしている山賊を次々に仕留めている所であった。どうやら向こうの戦いは旦那無双で終了して、今は追撃戦に移行したらしい。


結局向こう側を攻めた山賊は一人残さず旦那一人に全滅させられた。

そしてそれを見ていたこちら側の残りの山賊は、スミレやホドに向かって持っていた武器を投げつけてスキを作ったかと思うと一目散に山を登り返して逃げてしまった。


こうして突如起こった山賊の襲撃は怪我人を出す事もなく無事に終了した。

しかしこの話はここからが本番だったのである。

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