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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第75話 ギイ商会 カンナ支店11 響き渡る出発の鐘

勇炎祭が終わって10日後、今日はケン達マール国勇者一行が2ヶ月もの間滞在したカンナの町を出発する日である。


勇者の国において各国の勇者達が集う日まで残りは1ヶ月と半月余り。

そしてこの町から勇者の国までの行程はおよそ20日間。

途中にある2つの街に行商の修行のため滞在をしても1ヵ月で到着が可能である。


しかしマール国は唯でさえ小国で参加人数が少なく、おまけに勇者が行商人なのだ。

途中何らかのトラブルに巻き込まれ、到着が遅れる可能性もあるため余裕を持った日程が組まれていた。流石に遅刻は印象が悪くなるだろうという判断である。


ケンとハナのこの街での修行は、最初に行った工房への挨拶回りと勇炎祭での新企画で終了した。とは言えこれは予定通りの事である。


ギイの予想では挨拶回りにもう少し時間が掛かると思っていたらしい。

修行開始早々ニック牧師と出会った事で期間が大幅に短縮されたそうである。


そして新企画でのレインコートの大当たりにより、ケンとハナはこの街での修行に合格を貰い、残りの期間は工房の親方に発注した装備の調整と、ドヴェルグ連合国内部の移動に関する事前準備により潰れてしまった。




これから旅をするドヴェルグ連合国はドワーフの国だ。


マール国からこの町までの道は基本草原地帯が続いていたが、

ドヴェルグ連合国内部の道は険しい山道と荒涼たる大地に変わる。


またここから先は出現するモンスターの種類も変わるのだ。

マール国及びシカーク王国では基本的に同じモンスターしか出てこなかったが、

この先はドヴェルグ連合国の固有種なども出て来るため対策が必要であった。


その為移動に使う馬車を頑丈に改造し、補給が可能な町の情報や道中の危険箇所をリストアップし参加メンバーに徹底。全員無事に勇者の国へと辿り着くために綿密な打ち合わせを行なっていった。



また道中での行商も忘れてはいけない。その為各村及び途中の町で売るために多くの酒を仕入れ、残りのスペースには他に売れそうな物を積み込んでいった。

ナントーの町で仕入れた魚介類の乾物も忘れてはいない。

折角武具で有名なカンナの街に居るのに酒が優先なのはドワーフ達が何を置いても酒を優先する為と、「ドヴェルグ連合国内ではドワーフの武具は既に行き渡っているため売れない」というアドバイスがあった為である。


何しろ実際にドヴェルグ連合国内で行商を経験済みであるギイとヘイ、更に工房の親方からも同じ助言を貰ったのでケン達は素直に従った。生の情報程重要な物など無いのだ。

それに武具は利益幅も大きいが重くて嵩張るため、売れないと分かっている状況で仕入れたりはしないのである。


「しかしヘイ、勇者の国に集合する他の勇者達に売ればよいのではないのか?」


そう聞いてきたのはソレナである。しかしヘイは呆れたように溜息を付いた。


「アホ、国の代表として集まってくる勇者達が並の装備をしている筈ないだろ。

間違いなく国から多大な援助を貰って豪華で強力な装備を身に着けてる筈だ。

俺らの取り扱っている武具なんざ見向きもしねぇよ」


「しかし中には我が国と同じ様に装備が揃えられない資金難の国も在るのではないか?」


「それなら尚更だろ。資金難の国がドワーフの装備なんざそうそう買えねぇよ。

忘れたのか?うちの連中は初めに売りつけられた武具の資金を捻出するために2ヶ月掛かってんだぞ。そもそも同じ勇者であるケンから買うかどうかも分かんねぇだろ」


「ソレナ嬢、商売の基本は兎に角「赤字を出さない事」だ。

勇者の国に着いてからどのような状況になるのかも分からない現状、冒険はする必要がない。いや、してはならないのだよ」


ヘイの言葉をギイが引き継ぐ。そうケンは勇者として任命され、ケン達はマール国の勇者一行として勇者の国へと向かっている。


しかしそもそもケンが勇者としてどのような活動をするのか、そもそも勇者の国で他の勇者達に勇者として認められるのかどうかも分からない現状、冒険的な行商はすべきではないのである。


仮に勇者の国で勇者と認められず国へと引き返す羽目になった場合、カンナの町で仕入れた武具を持ったまま往復する羽目になるのだ。馬車にも負担がかかるし、武具を置いておく分のスペースが無駄になる。今は確実に売れる物だけを持って旅をするのがベストなのである。


「まぁ流石に勇者と認められないという事は無いと思うが・・・ケン、済まないが覚悟しておいてくれ。恐らく他の勇者達から非難されたり、嫌味を言われる事になる筈だ」


ノウがケンに嫌なアドバイスをしてくる。

しかしそれについてはケンも同じ様に考えていたので頷いておいた。


「分かってますよ。他の勇者の皆さんは国を背負って世界の為に戦いに来るのに、俺は生き残る事が優先ですからね。文句も言われるでしょうが、なに元々俺は行商人なんです。生存優先で何が悪いと開き直りますよ」


ケンはとっくに覚悟は出来ていたのだ。そもそも勇者として活動する気が余り無いので何を言われても気にするつもりがないのである。ある意味ふてぶてしい。





そんな事を言っている間にマール国の勇者一行の出発時間が近づいて来た。

彼らの中には町に滞在中に仲良くなった者達と別れを惜しんでいる者達もいる。


彼らは固い握手をしたり、泣きながら抱き合ったりしていた。

当然の話だが、ケン達がこの町で行商の修行に精を出し、ニック牧師やイッサ司教、更には親方を始めとした工房のドワーフ達と顔見知りになったのと同様に、彼らもこの町で2ヶ月の間過ごし、そこで様々な出会いを経験していたのだ。


その別れを邪魔するつもりは毛頭ない。現にケン達もついさっきまでケード支店長やサクラ副支店長を始めとしたギイ商会カンナ支店の皆と同じ様なことをしていたのだから。



そしてケン達の近くでは新たに旅の仲間に加わった2人が未だに別れを惜しみ続けている。

その内の1人、ニック牧師はイッサ司教に縋り付いて大粒の涙を流していた。


「司教様!俺は結局司教様に何の恩返しも出来ず街を去ることに!

我が身の不甲斐なさに胸が張り裂けそうでございますですー!!」


「いいえニック、貴方は十分に示してくれましたよ。札付きの悪であった貴方が真摯に信仰の道の修行に邁進する姿を私は覚えております。だからこそ先日の勇炎祭にも参加を許したのです。張り裂けている場合ではありませんよ、胸を張りなさい。これからはより困難な道を進むのですから」


「はいぃーーー!!このニック、身命をとしてこのガキの手助けになるよう努力いたしますです!」

「仮にもお世話になる勇者殿に向かってガキ呼ばわりですか?」

「間違いました!ケン殿と共に頑張って行きます!」

「よく出来ました。頑張りなさい。炎が貴女と共にあらん事を」



ニック牧師はようやくイッサ司教から離れたようだ。

その横ではハチが親方を含めた工房のドワーフ達と軽い挨拶を交わしていた。


「んじゃ行ってくるっす」

「軽いわ!もう少し惜しめよハチ!」

「行けっつたのは親方じゃないっすか。それに一昨日からずっと送別会だったでしょうが。もう2日も店休んでるんです。仕事は大丈夫なんすか?」

「甥っ子が旅立とうって時に仕事なんざしてられっかい!」

「ハチ体には気をつけてね。貴方の腕前があればどこでもやっていける筈だけど、帰りたくなったらいつでも帰ってきなさい」

「ありがとう社長。いやおばさん、親方も今迄育ててくれてありがとうっす。んじゃ」

「あら」

「おぉい待て!もう一度言え!」

「お断りっす。行ってくるっすよ~」


ハチもまた親方達との別れを済ませたようだ。軽いノリに見えるが目の端には涙が滲んでいる。それを冷やかすような人間はこの場には誰もいなかった。



ここから勇者の国へはドヴェルグ連合国内部の山岳地帯を通って行く。

途中に在る2つの町で行商をしながら進む予定であるが、この国は余り農業が発展していないため、農村そのものが少ない。よって途中に寄れる村が少ない。つまり途中で食料の補給が難しい。


今日明日は村に泊まる予定だが、其処から先は暫く野宿が続く予定だ。

昼飯も3日目までは村で温かい食事が取れるが、それ以降は基本外での食事になる。

同行者達は万が一のためにと、皆それぞれ日持ちのする食料品を大量に買い込んでいた。


その中でも特に多くの食料を持っていたのは実はケンの弟のシンだった。

何故ならシンには新たなパートナーが出来、そいつは物凄い大食漢だったからだ。


「ンペ!ンペ!」

「はいはいどうしたのギン。もう少し待ってな、教会の鐘が鳴ったら出発だからね」

「ンペ~!」


それは10日前に卵から孵ったばかりのギンぺの赤ん坊であった。

名前は「ギン」オスである。

ギンペだからギンと言うのは流石に安直では無いかと言われたが、シンは気にしなかった。主としての権利を叫んで名前を譲らなかったのは記憶に新しい。



勇炎祭が終わった後ケン達が出発準備に勤しんでいる中、卵の番はシンが行なっていた。

それはシンがギイ商会の中で事務仕事という基本余り動かない仕事を任されていた為卵の番に最適だったのと、何よりもギンペの加護を得ていたという事が大きい。


何でもホドが魔物の卵を景品で貰う際に、シンを主として契約したそうなのだ。魔力さえあれば誰でも良いらしいのでホドが契約しても良かったのだが、折角なら魔法使いになる予定でありギンペの加護を持つシンに魔物の主を任せたのである。


そして10日前、商会での仕事の最中に遂に卵が孵った。

その時のことをシンはこう語っている。


「机の直ぐ側に卵を置いて仕事をしていたんだけど、突然卵がグラグラ揺れ始めてね。生まれるかも知れないって事で人を呼んだら商会中の人が集まって来たんだよ。

そして暫くしたら卵が割れてさ、中から凄く小さいギンペが出てきてね。

目を合わせるなり僕の方に向かって歩いてきてスリスリしてくるんだ。

一撃でノックアウトされちゃったよ」


その日ケン達が商会に帰ると物凄い嬌声が商会内に響き渡っていた。

それはギンペの赤ちゃんを見た商会内の女性陣の叫び声であった。

良く聞くと何人か男性も混ざっていたのだが。


ギンペは大きくなってもそれなりに愛嬌のある顔であるが、赤ん坊のギンペの破壊力はその比ではない。その抗えない愛くるしさに女性陣は自腹を切って大量の食料をギンペに与えていた。そしてギンペはそれをモリモリ食べていく。流石は魔物、生まれたばかりでもしっかりと食事が出来たのである。


それからシンの下には出発までの間に大量の食料が運び込まれてきた。これはシンの為ではなく、生まれたばかりのギンペに食べさせるための食料である。


ギンペは生後20日間位は大量の食事が必要とされるが、それ以降は普通の量の食事で十分なのだそうだ。

更にこいつは魔法でシンと契約しているため、食料に加えて主であるシンの魔力でゆっくりと成長していく。

その為生後20日以降はそれ程の食事は必要とされない。

その為シンが町から出発してから残り10日間分の食料が有志達によって集められたのだ。可愛いは正義ということか。


その大量の食料は女性陣が使っている馬車の荷台に積み込まれている。

彼女達は率先して馬車にスペースを開けて、食料を積み込んでいた。

「3日もすればスペースが空き始めるからそれまで歩けばいい」というのが彼女達の言い分だ。シンは女性陣のギンペ好きに若干引いていた。


そして各自の別れが済んだ頃、炎の教会の鐘の音がカンナの町に響き渡る。

町の人間達はこの鐘の音を聞いてベッドから起き上がり、朝が始まる。

しかし行商人やら旅人やらはこの鐘の音と共に町を去る。

次の村に到着するためには、これ位早く出発する必要があるからだ。


「皆さんそれでは出発します!カンナの町の皆さん、長い間お世話になりました!」

「「「お世話になりました!!!」」」

「では勇者の国へ向けて出発!」

「お~!」


一応の代表者であるケンの号令でマール国の勇者一行はカンナの町から勇者の国へと旅立った。

見送りに来た人達はその背中が見えなくなるまで見送り、各々の生活へと戻って行ったのだった。

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