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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第73話 ギイ商会 カンナ支店9 新企画会議

ニックとハチが町での修行終了後に同行する事が決まってから数日後、ケン達は遂にドワーフの工房の挨拶回りを終了しギイ商会の食堂で唸っていた。


今回は二日酔いではない。ケンとハナは残っていた小規模な工房への挨拶回りを分担して行い、二日酔いにならない程度に酒を飲み交わして全ての工房を回り終えた。


この頃には2人共自分にとってベストな酒の飲み方が分かって来ていたため、ドワーフ相手にも気持ち良くかつ安定して挨拶回りが出来るようになっていた。何事も経験である。


そして全ての工房への挨拶回りが終わったと告げると、支店長のケードより新たな課題が与えられたのだ。それが今2人を深く悩ませていた。


2人は一枚の紙を挟んで唸り声を上げている。その紙にはこう書いてあった。


「ギイ商会 カンナ支店 新企画 草案」


そう2人に与えられた課題は、このギイ商会の支店で行う新企画の発案であったのだ。


しかしこれは明らかに行商人ではなく、商人の仕事である。

2人が支店長に対してそう意見するとこんな風に切り替えしてきたのだった。



「確かにこういった新企画は町の商人が行うものだな」

「ですよね、それを何故俺達が行うのですか?」

「理由は簡単だ。これは行商人にも必要なスキルだからさ」



ケード支店長曰く、町の商人達が新企画を作って特定の商品を販売し、利益を出す為には「今の売れ筋」ではなく「これからの売れ筋」を見極める必要があるという。


そしてそれは行商人も同様だという。

確かに行商で売れ筋商品だけを取り扱っていれば利益は出るかもしれない。しかし通常よりも儲けを出す行商人というのは、今の売れ筋商品だけでなく、これからの売れ筋商品を他の商人よりも先に扱っているのだという。そしてそれが出来れば先んじて大儲けが出来るというのだ。


行商という特性上、今現在売れている品物があったとしても、それを仕入れて再訪したらブームが終了している可能性も在るため行商人になってからは中々冒険は出来ない。よってまずは町の中で企画を出してみて「先を見通す力」を養うべきだと言うのだ。


実際世界各地に居る成功した行商人達は、例外無く売れ筋商品を先に安く仕入れておいて、需要がある時に売る事により莫大な利益を得たという。勿論ケン達の師匠であるギイもその1人だ。それもあって、ギイ商会の行商人の最後の修行は新たな企画を生み出す事なのだそうだ。


その今迄と全く違う課題に、ケンとハナは大いに苦しんでいた。今迄の修行はハッキリ言って肉体労働であったのだが、今回のこれは思いっきり頭脳労働だ。そもそもギイやヘイに言われた通りに行商をしていた2人が急に自力で企画を思いつけと言われても中々アイデアは浮かばない。2人の新米行商人はすっかり困り果ててしまったのだった。


そして2人は挨拶回りの時と同じ様に仲間に相談をしてみた。

しかし今回は芳しい結果は得られなかった。


「いや~幾ら何でも無茶やろこれは。ワイら只の護衛やで?これから何が売れるかなんて考えた事もないわ」

「アタシも同感ですよ。前の時ですらチンプンカンプンだったのに、今回なんて本当に雲をつかむ様な話じゃないですか。アタシは兵士としてはベテランですけど、金儲けは正直苦手ですからね」

「そもそもこれから何が売れるか分かっているのなら苦労はしない。・・・ハナ王女、申し訳ありません、今回は力になれそうもありません」

「気にしないでレンゲ」



皆正直お手上げの様だ。

本職の商人・行商人でも大変な難題なのだ。

兵士や冒険者には荷が重いのだろう。


「すいません、1つ質問です。これについてはヘイさんは答えを知っているのですか?」


ハスが手を上げてヘイに質問をする。それにヘイは肩を竦めてNOと答えた


「残念ながら俺にも分からねぇな。未来が見通せたら今頃俺は大金持ちだろうよ」

「その言い方だと、誰1人として答えが出せないって事になりますよ。そうするとこの課題には正解が無いって事になりませんか?」

「そらそうだろ、これは正解を探す課題では無いからな」

「え?」

「支店長も言ってたろ?「先を見通す力を養う為」だって。こいつはなケンとハナが自分で考える力を身に付ける為の修行なのさ。この課題は俺の時も修行の最終段階で出されてな、大分苦労したもんだぜ」


ヘイは当時を思い出して遠い目をする。あの時もケン達の様に右往左往してどうにか企画を提出したものだ。そしてその結果商品が売れた時は本当に嬉しかったものである。


「ちなみにアニキがどんな企画を出したのか聞いても良いですか?」

「今回は構わないぜ。俺の時は丁度冬前だったからな、これから寒くなるから防寒具が必要だと思ってウルフの毛皮を大量に買い込んで、そいつを加工した防寒マントを作ったのさ」

「防寒マントですか、どの位売れたんですか?」

「それがな、最初は全く売れなかったんだよ」



当時ヘイはこの町で大量の防寒マントを売ろうと考え大量に仕入れた。

しかし売れ行きは芳しくなかった。

何故なら主な購買層だと考えていたドワーフ達は総じて寒さに強い上に、日中は殆ど鍛冶場に篭り、夜は酒場で大はしゃぎ。

つまり防寒マントを羽織って遠出するような生活をしていなかったのだ。


「駄目じゃないですか」

「それがな、其処から先が面白かったんだよ」


当時のヘイは目論見通りにいかない事態に大変焦った。何しろ売れなければ大量の在庫が残る事になり赤字を出してしまう上に、行商人としての修行が終わらないという結果にも繋がるのだ。どうにかしてこの大量の防寒マントの在庫を捌かねばならないと街中を走り回った結果、ドワーフ以外の種族が大量に買ってくれて事なきを得たのである。


「ドワーフ以外の種族ですか?」

「ああ、この街は勇者の国よりも北にあるだろう?ここよりも暖かい南の地域、つまり勇者の国やワイルド王国なんかの人達が夏の終わりから秋に掛けてこの町に来て、ドワーフ達と商談をしている内に冬になっちまう訳だ。帰る頃には持って来ていた服では寒すぎる。そうすると寒さに慣れていない人達が寒さを凌ぐ為に防寒マントを買ってくれたって寸法さ」


そうして最初の目論見とは少し違うが、結果的にはヘイは防寒マントで利益を出す事に成功。その結果ギイはヘイの修行に合格を出し、ヘイは無事に一人前と認められたという。


そしてそれ以来ヘイは季節商品についてはひたすらに注意して扱う様になったとの事だ。


「おい貴様それで良いのか?最初はドワーフ相手の商売を考えていたのだろう?」

「良いんだよ。結果的に利益が出さえすれば俺達行商人は途中経過は余り気にしないのさ、ああ商人も同じだぜ。想定していた客層がズレるなんざ良くある話だからな。この話で重要なのは「俺が用意した防寒マントで利益が出た」って部分だけだ。それ以外は瑣末事なんだよ」


そう言ってヘイは笑う。兵士や騎士は途中経過を重視する傾向にあるが、商人達は最終的に儲かっていれば途中経過は余り気にしない職種なのだ。在庫を抱えたり、赤字を出す方が余程恐ろしいのだから。


「成程、しかし同じ手は使えませんね。兄さんの時とは季節が違いますから」


そう、現在は春真っ盛りであり防寒マントでは利益は出せないのだ。まぁ全くの模倣企画ではそもそもOKは出ないだろうが。しかし季節に関係する物を売るという考えは良い案かもしれない。そこでケン達は炎の教会に向かい、ニックにこれからの季節について話を聞く事にした。


「これからの季節だとぉ?春は暖かくて、夏は暑くて、秋は涼しくて、冬は寒いだろ。他に何が有るんだコラァ」


実際に聞いてみたが結果がこれだ。

正直参考にならないので、イッサ司教にも話を聞いてみた。


「成程、しかし今回はニックは間違ってはいませんよ。この町は基本的にマール国首都のサウスと同じ様な季節の巡り方をしていますからね」

「司教様!ひでーですよ「今回は」って!「今回も」でしょうーが!」

「ですから今回は余り皆様のお役には立てそうにありませんね。申し訳ないです」

「無視せんで下さい!最近冷たくないですか司教様?」

「貴方もいい加減私から卒業するべきかと思いましてね」

「無茶言わないで下さい!司教様に救われた俺は一生司教様に感謝して生きて行きますよ!これに関しては卒業なんてありえません!」

「そんな風に思ってくれる事は正直嬉しいのですが・・・そう言えば貴方を成敗してそろそろ1年になりますか」

「俺が食い逃げをしたのは「勇炎祭」の最中でしたからね。来月頭ですからそこで1年ですな」

「勇炎祭?」


ニック牧師とイッサ司教の会話の中に聞き慣れない単語が出てきたのでケンは話を聞いてみた。すると2人がそれについて詳しく説明をしてくれた。


「勇気ある炎の祭り、通称勇炎祭ゆうえんさいです。カンナの町全域で行われる当炎の教会主催のお祭りですね。3日間に渡って開催され、町の住民は疎か近隣の村々やシカーク王国やドヴェルグ連合国、更には遠く離れた国からも多くの人が訪れる由緒あるお祭りですよ」

「何時だかの勇者にドワーフが救われた出来事を祝ったってのが発端でな、この時は街中が文字通りお祭り騒ぎになるのさ。多くの出店や屋台が軒を連ねて大混雑になる。尤もメインイベントは祭りのラストに行われる「炎の巡礼路」だけどな」

「炎の巡礼路?」


また知らない単語が出てきた。

ケンが尋ねると、イッサ司教は面倒臭がる事もなく内容を教えてくれた。


「町のメインストリートに伝説をなぞって炎で作られた道が作られ、そこを各工房の親方達がずぶ濡れになりながら走り抜けて行くのです。大迫力ですから是非とも見学することをお勧めしますよ」

「え~と、一体どんな伝説なんですか?」




イッサ司教曰く、


かつてドワーフ達がまだ亜人と呼ばれ蔑まれていた頃、ドワーフ達ばかりを狙う謎のモンスターが現れ、世界各地に散らばっていたドワーフ達は大陸の北にある「ドヴェルグ王国」に逃げ込んで来たという。何故ならその生物は寒さに弱く、冬の寒さが厳しい大陸の北は格好の逃げ場だったからだ。


しかし暫くするとそのモンスターは寒さに弱いという弱点を克服し再びドワーフ達に襲いかかってきた。瞬く間に数を減らしたドワーフ達であったが、とある勇者が彼らを救う。


その勇者は当時ドワーフの中で最大勢力を誇ったドヴェルグ一族とバラバラに戦っていたその他の一族に団結する事の重要性を説き、先頭に立って種族問わずにドワーフを救い続けた。勇者の言葉と行動に感化されたドワーフ達はそれまでのわだかまりを酒を酌み交わす事で水に流し一致団結。徐々に謎のモンスターを駆逐し始める。


すると今度は謎のモンスターを操っていた黒幕が登場し大群を引き連れて来て一大決戦となった。数と勢いに負けるドワーフ達は滅亡の危機に瀕したが、勇者が黒幕に特攻を掛け、相打ちに近い形で黒幕を撃破。制御を失った謎の生物達を滅ぼしてドワーフ達は天敵から開放された。


それ以降北の大地に住むようになったドワーフ達は、国名を「ドヴェルグ王国」から「ドヴェルグ連合国」に変え、種族毎の差別を許さないドワーフの連合国家を設立したのだった。




勇炎祭とはその勇者を称える祭りであり、炎の巡礼路とはその決戦の最終盤、勇者が黒幕に特攻を掛ける際に、炎の教会の牧師や司教達がモンスター達の群れのど真ん中に炎の魔法で黒幕までの道を作り上げた事に由来している。


勇炎祭のラストでは、実際に魔法を使って炎で道を作り上げ、勇者の活躍になぞらえて親方達がその中を走って行く。勿論炎で出来た道であるため、普通に走れば大火傷だ。だから親方達には走っている間は大量の水が掛けられ続ける。この時掛けられた水を浴びると幸運が訪れるとドワーフ達には信じられているという。


この天下の奇祭を一目見ようと、当日は街中が大混雑になるという。

そして炎の巡礼路が終了した後は、種族問わずずぶ濡れになった見物人が町中に溢れ返るのだそうだ。



この話を聞いてケンは1つ閃いた事があった。そしてそれをニック牧師とイッサ司教に聞いてみると「そういう事もあるかもしれない」という感想を得られた。


そこで今度はギイ商会に戻り、ドワーフ以外の従業員に話を聞いてみた。

すると「実は前からそう思っていた」という答えが返って来た。


そこでケンはハナと相談し、1つの企画を作り出した。その企画は支店長であるケードを始めとして副支店長のサクラ、そして会頭のギイにも太鼓判を押された。よって準備をして売り始めたら飛ぶように売れた。


ケンとハナは無事に今回の修行を合格したのだった。

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更に始めての評価を頂きました。

これからも頑張っていきます!

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