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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第71話 ギイ商会 カンナ支店7 見習い武器屋のハチ

ドワーフの親方の前で戦闘訓練を行なってから10日、ギイ商会のカンナ支店に帰って来たケン達に親方から連絡が届いた。「頼まれていた武具は揃った、仮の段階だがお前達の意見も聞きたいので一度顔を見せろ」という内容だ。この連絡を受けた翌日、ケン達一行はふらふらしながら親方の工房へと足を向けたのだった。


10日ぶりに訪れた工房は以前と変わらず活気に満ち溢れており、ドワーフ達が忙しく動き回っている。彼らを横目に隣の事務所に顔を出し、まずは女将さんに挨拶をする。そして親方を呼びに行って貰った。このやり取りもここ最近の連続した挨拶回りで大分慣れて来た。


ちなみに挨拶回りに行く度に各工房で酒盛りに突入していたため、最近のケン達一行はデフォルトで二日酔い状態である。朝起きると頭が痛く、午前中はまともに動けない。何とか午後には動けるようになり、工房に出向いて挨拶をすれば例外無く朝まで酒盛り。そして翌日はまた二日酔い、基本的にこの繰り返しだ。


しかし最初に訪れたこの工房が実は取引先の中では一番大きく、既に中堅どころの工房は回りきったので、これからは小規模な工房しか残っていない。それに伴い従業員の数も少なくなり、同時に酒の量も減っていく筈なので少しは楽が出来る予定ではあった。


「あ~頭痛い。後何件あったんだっけか?」

「後は小規模な工房が十数件ね。それで相談なんだけど、ここからは別れて行動しない?」

「賛成や、それなら酒の量も半分で済むしな」

「おや珍しい。ホドはお酒好きだと思っていましたが?」

「流石にこれだけ連日飲み歩くとなぁ。酒は百薬の長やけど、飲みすぎると毒になるで」


酒好きのホドが音を上げるくらい飲み続けてきたのだ。

ケン達の顔には隠しきれない疲労が滲み出ていた。


そうして事務所で項垂れていると、親方が工房の若手を連れて事務所へと入って来た。

ちなみにドワーフ達は成人すると皆髭を伸ばし、体型はがっしりしているが身長はヒューマンよりも低いくらいで固定される。その為ぱっと見では年齢の判別がつかない。

しかし年若いドワーフは年寄りに比べて肌の色が薄いため見分けることが可能だ。これは工房で働いた年月は関係なく、年と共に肌の色が濃くなっていくらしい。


ケン達はこの町で過ごす内にそのことに気づき、他の工房で確認を取って確信を得た。そして今回親方と共に入って来たドワーフの肌が薄かったため若手と判断したのだった。


「おうっ!元気かお前ら!聞いてるぞ、随分と飲み歩いているみたいじゃねぇか!」

「ぐはっ・・・親方、余り大きな声は・・・」

「馬鹿野郎!ドワーフは大抵大声なんだよ!その程度でへばってちゃこの町で商売は出来ねぇぞ!」

「了解っす・・・」


この親方の意見は少し間違っている。

正確に言うと、「騒がしい工房で働いている内に地声が大きくなった」が正しい。

工房内は常に作業音が響いていて基本煩い。

しかも危険箇所は沢山あり、いざという時に注意出来ないのでは話しにならないのだ。

よって工房で働いているドワーフ達は自然に声が大きくなって行くのである。


ケン達は頭をガンガンさせながら親方に連れられて工房裏の空き地へとやって来た。其処には名前を書かれた箱に入れられた武具が幾つも用意されていたのだった。


「取り敢えずお前らの戦闘スタイルに合わせて幾つか用意してみた。試しに装着して使い易い物を選びな」


親方に言われたケン達は早速自分の名が記された箱へと向かって行く。ケンも自分の名が記された箱を見てみると、防具一式と槍と剣、そして盾が入っていた。というかケンの箱に入っていたのはフルプレートの鎧であった。


「おい勇者の小僧、お前は生き残ることが第一だからよ、一応体全部を防御できる防具って事でフルプレートを選んでみたんだ。取り敢えず着てみろや」

「あの親方、俺こんな本格的な鎧を着た事は一度も無いのですが・・・」

「だと思ったんでな、俺の工房の新人を連れて来ている。おいハチ、手伝ってやれ!」

「了解です親方!」


そう言って若いドワーフがケンの元へとやって来た。

このドワーフも髭は既にモジャモジャだが、顔には皺も無く肌には艶がある。

どうやら本当に新人の様だ。彼はケンの元へと到着すると、にっと笑って挨拶をしてきた。


「宜しくな勇者様!俺はハチってんだ」

「こちらこそ宜しく、俺はケンだ。けど勇者様は止めてくれ」

「ははっ了解だケン。話には聞いていたけど全然勇者っぽく無いのな!」

「本業は行商人だからなぁ。じゃあ鎧の着方を教えてくれよハチ」

「あいよっ!」


そう言ってハチと名乗ったドワーフはケンに鎧の着方を指導し、手伝いが必要な場面では手を貸してくれた。そうしてケンは生まれて初めてフルプレートの鎧一式を着てみたが、ここで問題が発生した。鎧全てを装着した時点で、身動きが全く取れなくなったのである。


「あの・・・親方・・・動けない・・・のですが・・・」

「あ~だよなぁ。おい小僧、腕は上がるか?」

「何とか・・・でも・・・かなり・・・きついです」

「やっぱ駄目か、よし一度脱いで今度は動きに支障がない部分だけを装備してみろ!」

「ハチ・・・頼む・・・」

「あいよっ!大変だな勇者ってのも」


そうしてケンは一度フルプレートを脱ぎ、籠手と脛当てを装着した。ちなみに胴の部分も装備しようとはしたのだが、ここが一番重かった為着ることが出来なかったのである。


これを見て親方は溜息を漏らした。今着させたフルプレートの鎧はシカーク王国の騎士団の正規装備品だ。確かシカーク王国の勇者の内2人は騎士団から選ばれている筈だからこの鎧を着こなしているのだ。分かっちゃいたが、行商人と騎士の基礎体力の差は絶大である。


これでこいつは生き残れるのかと親方は不安を覚えたが、何も頑丈な鎧を着ているから生き残る訳でもないだろと考えて、次に案に移ることにしたのだった。


そして親方は別の箱をケンに開けさせた。その中には鎖帷子と籠手と脛当て、そして籠手に取り付けるタイプの軽い盾と鉢金が入っていたのだった


「そいつは先程のフルプレートと比べると防御力に穴があるが、重さはそれ程でもないから動きは阻害されない筈だ。着てみろ」

「了解です。・・・・・・おおっ確かにさっきのフルプレートに比べると動きやすい!でもそれでも少し重いかな?」

「その状態で走ったり飛び跳ねたり出来るか?」

「大丈夫ですね」

「ならそれにしろ。重いと感じるのはお前の力や体力が足りないからだ。これから鍛えりゃ良い。つーかそれ以上防御力を削るとお前の生存確率が下がるからな。これ以上の妥協はしねぇぞ」


そう言ってケンの一通りの装備が決定した。

それは勇者の装備というよりも、一般的な冒険者が着ている様な装備であった。

とはいえ、親方の知る所の他の勇者が着ている様な装備品を身に着けさせた所で、ケンでは重くて扱えない。それ故にやむなく妥協したのであった。


そして同じ様に、ケンの仲間の装備も決められていった。


・ハナはケンと全く同じ装備を

・ホドはケン達と同じ装備では有るが、盾が無い。そして弓と矢が良い物に変わった

・ヘイはケン達よりも一段階重量感があり、防御力の高い戦士用の装備を纏い

・ソレナはケンが着こなせなかったフルプレートの鎧を無理やり着ていた


「いやいやソレナ!だからお前、無理やりそういう格好をするなつってんだろうが!」


そう言ってヘイが突っ込む。ソレナがこの格好をするのはケンとハナの初めての行商の時と、あの勇者にさせられた表彰式の時に次いで3回目だ。ちなみにこの鎧はソレナが自前で揃えた鎧よりも重かったが何とかソレナは動くことが出来たのだった。


「ふっふっふっ、折角親方殿が用意してくれたのだ。着ない手は無いでは無いか」

「いや嬢ちゃんよ、無理やり着てるのが丸分かりだぞ。用意した俺が悪かったから大人しく別の奴を装備しちゃあどうだ?」

「ご心配には及びません。先程ケンさんに言っていた通り私の力と体力が無いのが原因ですから、これから鍛えて着こなしてみせますよ」



ソレナは着る気満々だ。彼女は何だかんだ言っても騎士に憧れが在るため、事ある毎に騎士の鎧を着る機会を狙っていたのだ。だから今回この鎧を見てソレナは即座に着こなしてみせた。彼女はご満悦だったが、しかし今回は装備した鎧が悪かった。スミレから待ったが掛かったのだ。


「残念だがソレナ、お前にその鎧を着させてやる訳にはいかないよ」

「なっ何故ですかスミレ殿」

「親方も人が悪いよ、その鎧はねシカーク王国の騎士団の正規装備品なんだ。仮にもマール国の勇者一行が着て良い物じゃないのさ」

「ええっ!?」


そう言ってケン達は親方を見る。親方は罰が悪そうにガリガリと頭を掻いた。


「悪かったな。一応念の為に用意したんだよ。流石にそのまま渡すつもりは無かったさ」

「そうだろうねぇ。兎に角ソレナ、一旦脱いで、それからアイテムボックスに入っているあんたの鎧を着て親方に見せてやりな」

「私の鎧をですか?」

「あんたが騎士に憧れてるってのはこの道中で痛い程聞かされて理解したからね。あんたの鎧は一昔前にマール国の騎士団でも使われていた代物だから、そいつを親方に鍛え直して貰えば良いのさ。それなら何の問題も無く着ることが出来るよ」

「おおっ成程。了解であります!」


そうしてソレナは一旦鎧を脱いだ後、アイテムボックスから自分の鎧を出して再度着直した。始めてケン達の前に着て来た時には着ているだけで大変だった鎧では有るが、あれから鍛え続けた結果か、今では幾ばくかの余裕を持って着ることが出来るようになっている。


それを見た親方は確かにこの鎧を鍛え直した方が良いと考えたのだが、1つ気付いたことがあったのでソレナへと尋ねてみた。


「鎧はこれで良いかも知れねぇが・・・お前さん馬は在るのかい?」

「馬ですか?いえ生憎と私専用の馬は持っておりませんが」

「・・・おいヘイ、まさかマール国の騎士は馬に乗って無いとか言わないよな?」

「あいつ以外にノウ王子とお付のホッコ、そして騎士が5人付いて来てますが、全員馬持ちですよ。こいつは「騎士に憧れている」のであってまだ騎士では無いですからね。馬がいないんですよ」

「駄目じゃねぇか!」


そう、何度も説明してあるがこの鎧は「馬に乗って戦うための鎧」なのである。馬にも乗らずにこれで移動などしていたら確実にバテるのだ。それならば普通の鎧の方がまだ使い道がある。


そう言ってソレナを説得したのだが、「いつか馬を手に入れれば良いのだろう!」と言い切られてしまい、結局ソレナの分は騎乗用と下馬用の2種類準備することになったのだった。


そうしてケン達一行の装備の方向性が決まったので、親方は作業を開始した。納品はケン達がこの町を出発するまでとし、ケン達は一度帰ることになった。その際親方は1つケン達に頼み事をしてきた。


「お前らの旅にこいつを連れて行ってやってくれねぇか?」


そう言って親方はハチをケン達一行に推薦して来たのだった。

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