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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第70話 ギイ商会 カンナ支店6 平凡戦士

ドワーフ達の朝は早い。前日にどれだけ酒を飲んで酔っぱらおうが、寝て起きれば気分爽快、スッキリとした状態で仕事に取り掛かることが出来る。


彼らは起きたらまず前日の酒盛りの後片付けを行い、部屋を清めてから自らも清めるために水浴びをする。そして朝食を食べ終えたら仕事開始だ。朝食の準備の最中には炉に火を入れておき、食べ終わったらすぐに鍛冶を開始出来るようにしておくのが肝だ。


そうして昼まで働いた後は各々昼食を取り、午後の仕事が始まる。そして日が暮れるまで働いたらそこからは飲み会だ。ドワーフの1日は酒の片付けに始まり、酒盛りに終わるのだ。


そして現在、ケン達がドワーフの工房を訪れた日の翌日の昼過ぎ、工房裏の空き地でケン達は揃って戦闘訓練を行っていた。

結局昨日は夜まで飲み明かして、そのまま工房横の事務所で爆睡。ドワーフ程酒に強くなかったケン達は揃って二日酔いになり、昼近くまでまともに動けなかったのだ。



「せいっ!はっ!とりゃぁ!」

「遅い遅い!その程度で勇者が名乗れるか!視界から消えるくらいの突きを放て!」

「無茶言わないで下さい!」


親方の前でケンとヘイが戦闘訓練を行っている。

お互いに槍を持ち、広い空き地の中で足を止めての戦いだ。



これは「戦っている姿を見なけりゃ良い武具は作れない」という親方の要望に答えた形だ。

勇者であるケンの実力はマール国の勇者一行の中でも下から数えた方が早い為、ヘイは余裕を持って対処していた。


「ぐぬぬぬ・・・うーむ」


それを見た親方は唸っていた。話には聞いていたが予想以上にケンの実力が低い。スピード、パワー、テクニック全てにおいて行商人としては十分以上だが、勇者としては問題外だ。正直兵士として見ても並程度かそれ以下位の力しか無い。


しかし仮にも一国の勇者に選ばれる位の人間なのだ。ならば何か理由があるはずだと考え、親方はケンに話し掛けた。


「おい、国王陛下はお前の何処らへんを見て「生き残れる」と判断したんだ?」

「あ~多分これです。ほいっと」


ケンは一度距離を取った後、ヘイとの間に逆茂木を出現させた。そして2人はそのまま訓練を続けるが、途端にヘイの勢いが鈍り始めた。ケンは逆茂木を盾にしながら、その隙間からヘイに向かって攻撃を放つ。


ヘイも同じように逆茂木の隙間からケンに対して攻撃を行うが、逆茂木の先端部分が前方に伸びている為近づき難く、距離を置いて隙間から攻撃しているため当てにくく、左右に避けられると逆茂木が邪魔で追撃の横薙ぎが行えない。


そしてヘイが一度下がり、逆茂木を回り込もうとすると、ケンは今出ている逆茂木をアイテムボックス内に戻して再びヘイの前に出現させる。基本的にはこれの繰り返しだ。ケンにしても追撃は出来ないが、逆茂木は「守りながら戦う」為の物である。よってケンが受ける攻撃の頻度がガクッと下がり、余裕を持って戦えるようになった。


これを見て親方及び戦闘訓練を見に来ていたドワーフ達は驚いた。

彼らが知っている一般的な戦い方と明らかに違っていたためである。


「分かった分かった、もういい!止めろ!」

「分かってくれましたか親方?」

「ああギイ商会の連中が逆茂木を愛用しているって話は聞いていたが、成程なこういう風に使う訳か」


そう言って親方は1人ぶつぶつと呟きながら自分の世界へと入っていく。どうやら想定していた戦闘方法と大分違っていた為に武具の内容を考え直しているらしい。そして同じく武具を依頼されているハナの方を見た。


「おい嬢ちゃん、すまねぇが今度はあんたの戦闘を見せてくれや」

「分かりました。スミレお願いできますか?」

「勿論ですよハナ様。ふふっ懐かしいですね」


ハナはスミレと戦闘訓練を開始した。2人はハナがまだ成人前に兵士として訓練を受けていた時の上司と部下の関係で、スミレはハナに武芸一般を教えた師匠の立場の人間だ。2人は過去を懐かしみながら暫く戦闘訓練を行い、そしてケンと同じようにハナも逆茂木を使って戦い出した。


スミレは逆茂木を使用したハナと戦うのは初めてであったが、剣にしても槍にしても目の前に逆茂木が1つ有るだけで途端に戦い難くなって驚いた。


そして思い出した。たしかあれは数年前、マール国とシカーク王国の国境沿いの森に砦を築いた盗賊団を相手取った際の事だ。盗賊達は拠点に逃げ込み、拠点防御をしながら粘った為、同じような柵越しに戦ったのだ。


しかし柵が一つあるだけで途端に戦い難くなり、確かあの時は柵に向かって火矢を打ち込んだり、ハンマーで叩き壊したりしたのだったか。それを一対一の状況で使われるとこうも戦い辛いのかと、スミレは戦慄しながら戦いを続けたのだった。


それから暫くして親方から停止命令が出たので2人は戦闘訓練を終えた。そして親方は大きく息を吐きながらケンとハナをジロリと睨んだ。


「お前らの戦闘スタイルは理解した。取り敢えず今日はもう帰れ。暫くしたら試作品が出来る筈だ。出来たならギイ商会に連絡を入れるからよ」

「了解しました、宜しくお願いします」

「後、ヘイとあんた・・・確かスミレとか言ったか、2人には少し話があるから残ってくれや」

「あいよ」「分かりました」


そうしてケン達はヘイとスミレを残して親方の工房を後にした。ケン達は今日これからも挨拶回りをする工房が残っているのだ。親方の所にばかりいる訳にはいかないのである。


そうしてケン達が工房から出ていった後、親方は工房のドワーフ達とヘイとスミレを連れて事務所へと戻って来た。そこで棚の奥から少しきつい酒を取り出してキュッと飲み、ヘイとスミレに話し掛けた。


「言いたいことは色々有るが・・・一応聞くぞヘイ、あれが坊主と嬢ちゃんの戦闘スタイルでいいんだな?」

「ええ、あいつらって言うかギイ商会の行商人の戦闘スタイルですね。勿論俺も普段からあんな感じで戦ってますよ」

「そんでスミレさんよ、嬢ちゃんの最初の戦い方がマール国の普通の兵士の戦い方で良いんだよな?」

「ああその通りさ。ハナ様に戦い方を教えたのはアタシだからね、間違いないよ」


親方は「ふー」と息を吐いてそれから言葉を紡ぎ出した。


「成程確かにあれは行商人の戦い方だな。守り重視で攻める事はしない。常に安全を優先して戦えばああなるだろうさ。でもな、言っちゃなんだがあれは「勇者の戦い方」ではねぇぞ。あれは攻めを完全に放棄した戦い方だ」


勇者と言えば困難に立ち向かい、押し寄せるモンスター達に敢然と立ち向かって行くというイメージが強い。同時に物語の勇者達は魔物の群れやダンジョン、そして魔王の城に「攻め込んで」いるのだ。しかしあの逆茂木の奥に引っ込んだ戦い方では攻め込むことは出来ないだろう。


「そうですね、しかしマール国の堅実勇者にとってはあれがベストですよ。活躍よりも生存重視ならあれこそが理想形だと俺は思いますね」

「アタシも今回始めて逆茂木を使ったハナ様と戦いましたけど滅茶苦茶戦い辛かったですよ。以前盗賊団を相手どった時の拠点攻めをしている様な感覚でした」


親方は遠回しに戦闘スタイルを替えろと言ったつもりだったが、保護者2人はそのつもりは無いようだ。ならば直接言うしか無いと親方は決断した。


「悪いことは言わねぇ、逆茂木を放棄して直にモンスターと戦えるように鍛え直せ。生き残る事も重要だが、活躍をしなけりゃ結局勇者の座からは引きずり降ろされるんだ。矯正するなら早い方がいい」

「その必要はありません。あの2人の代わりは居ませんからあの2人には何が何でも生き残って貰わなくちゃならないんです。活躍をするのはあいつら以外のメンバーですよ」

「何だと?」


そう言ってヘイは懐から用紙を取り出した。

親方は差し出されたその紙を広げて見る。

それはヘイ・ソレナ・ホド、そしてスミレの新しい武具の発注書であった。


「マール国の勇者と王女の一番の目的は「生き残ること」です。活躍は勇者一行の中の別のメンバーが担当します」

「具体的にはアタシとヘイ、そしてソレナとホドの4人だね。うちの連中の中でケンとハナ様よりも実力が高い4人が前に出て活躍することになってんのさ」

「最悪活性化終了時にあいつら2人が生き残ってさえいればマール国は存続するんですよ。だから危険な任務はあいつら以外が担当するんです。これはソレナとホドも納得の上ですよ」


親方はその話を聞いてヘイとスミレを見つめた。どうやらこの2人はとっくに覚悟を決めているようだ。ならば野暮なことを言うつもりはない。鍛冶屋はいつだって戦う者の決意を尊重するのだから。


「ちっ分かったよ。ならあの2人には動きやすさと防御を兼ね備えた装備を見繕ってやる。んでお前らにはここに書いてある通りの武具を揃えてやるよ」

「ありがとうございます、親方」


ヘイとスミレは親方に礼を言った。

ちなみにこの件はケン達には伝えていない。

あの2人がこれを知ったらきっと怒って撤回させようとするだろうからだ。


「全員に一通りの防具が必要で、武器はスミレさんとソレナの嬢ちゃんは剣と槍、ホドの嬢ちゃんは弓だな。んでヘイお前は・・・おい何だこりゃ?」

「書いてある通りですよ」

「剣、槍、弓、ナイフ、ハンマー、斧、盾・・・お前アホか!こんなに発注してどうするつもりなんだ!」


スミレがギョッとした顔つきでヘイを見る。ヘイは肩を竦めて親方に説明をした。


「いやまぁ、ケンのパーティー構成を見た感じだと俺の役割は「戦士」なんじゃないのかと思いましてね」

「戦士だぁ!?」

「ケンが「勇者」、ソレナが「騎士」、ホドが「狩人」でケンの弟のシンが「魔法使い」、そうなると俺の役割は「戦士」って事になるかと」

「他にも付いてきてる兵士や騎士が居るだろうが!」


親方は昨日ヘイからマール国の兵士や騎士が共に同行していると聞かされていた。その中には戦士として活躍できる者だっているだろう。

しかしヘイはそれは違うと否定してきた。


「それは勿論居ますがね、そいつらはケンを勇者と認めている訳じゃないんですよ。どちらかと言うとマール国の兵士と騎士の皆さんはハナとノウ王子を守る為に付いてきてると言っても過言じゃない。

ケンが勇者として活動中危険な状況になったとしたら、彼らはケンと共にモンスターと戦うことなく王族2人の命を優先する筈なんです」


彼らはあくまでも「マール国の兵士や騎士」である。彼らはいくら国王陛下から命令されているとは言え、行商人でしか無いケンの命令を聞くとは思えない。もしも土壇場で命令に従わずにハナやノウの命を優先してしまってはケンの命が危険なのである。


「そうなったら実質ケンのパーティーはケン、俺、ソレナ、ホド、そしてシンの5人だけなんです。しかもシンはまだ見習い魔法使いだから戦力には数えられない。実質4人パーティーなら俺が戦士の役を演じるべきなんですよ」


そう言ってヘイは肩を竦めて笑った。スミレも親方も苦い顔だ。実際にそういう状況になったらヘイが言った通りの展開になるかもしれないと2人は理解したのだ。そうなれば確かにケンのパーティーは4人だけだ。100人は欲しい所が50人しか集まらず、実際は23人で最終的には4人とかどういう状況なのか。ケンの命は風前の灯火だ。


「話は分かったがな・・・お前こんなに使いこなせねぇだろう」

「ここにいる間に修行しますよ。実は既に旦那やホドに鍛え始めて貰っているんです。

行商の修行にしてもドワーフの流儀に気づくまでは一緒にいてやるつもりでしたが、気付いたのなら後はあいつらだけで行動しても大丈夫ですから。師匠にも許可を貰っています」

「アタシは1つか2つに絞った方が良い気がするけどねぇ」

「どんな状況にも対応出来る様にな。一応目指せ武芸百般!って考えてる」

「何が武芸百般だ、手前が戦士になるんなら「平凡戦士」だろうが。精々武芸十般だろ」


「そりゃそうだ」とヘイは笑い声を上げた。

この日よりヘイは行商人ヘイと平凡戦士ヘイの2つの顔を持つ事となるのであった。

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