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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第69話 ギイ商会 カンナ支店5 ドワーフとの酒盛り

「だからね!俺はね!勇者なんてやりたくねーんだよ!」

「本当よ、冗談じゃないわ!何でケンなのよ!お父様の馬鹿ぁ!」



工房の事務所で酒盛りが始まって暫く時が経った。


今ドワーフ達の目の前で「勇者」と紹介された小僧と「王女」と紹介された嬢ちゃんがぐでんぐでんに酔っ払って管を巻いている。どうやらやっとの事で本音を引き出せそうだとドワーフの親方はホッと息をついた。


今日の午前中、突然工房にまだ若い行商人の男女がドワーフの流儀を無視して好き勝手に挨拶に来た。先程も言った通り最初はぶっ飛ばしてやるつもりではあったが、その訪れた一団の中に見知った顔があったので自重することにし、怒鳴りつけるだけで追い出した。


間違いない、あれは音に聞こえたギイ商会会頭ギイの一番弟子だったヘイとか言う小僧だ。ギイ本人と一緒に来た時の事は今でも思い出せる。何しろ俺の工房で作られている武具の半数以上がギイ商会からの注文なのだ。幾ら俺でも上得意客を忘れる訳がない。


そのヘイが連れてきた若い二人という事は、あれもまたギイ商会の行商人という事なのだろう。つまり将来のお得意様だ、いくら俺でも無茶は出来ねぇ。

しかしルールは絶対だ、だから一度怒鳴り散らして追い出して、また来るのを待つ。

この町を初めて訪れる行商人の殆どは同じ間違いを犯すのだ。

勉強不足の奴らに一々ご教授する義理はねぇが、ギイ商会の人間なら必ず正解に辿り着く筈だ。なら俺達はいつもの様に鍛冶をしていれば勝手にまた訪ねて来る筈だ。


そして実際に奴らは来た。それもその日の午後という想定外の早業だった。一体どうやってこんな短期間でドワーフの流儀を身に着けたのかは知らないが、ルールに則るならば客だ。客の注文は受けなきゃならないから顔を出した。しかし訪れた理由がただの挨拶回りだと聞いてがっかり仕掛けたが、ヘイの奴がちゃんと依頼を持って来ていた。確認した。意味が分からなかった。その手紙に書かれていた内容は大まかに言えばこういう事だ。



・弟子を増やした、2番弟子の名は「ケン」3番弟子の名は「ハナ」

・ケンはマール国の勇者であり、ハナはマール国の王女殿下である

・しかし2人共まだ見習い行商人であるためこのままでは命の危険がある

・親方には2人の為に特注で武具を作成して貰いたい

・金に糸目はつけない、代金は私が持つ



以上だ、そして異常だ。


今迄様々な連中から色々な依頼を受けて来た。俺だって1人の鍛冶屋だ、いつか勇者の武具を作ってみたいと思ったことも無い訳ではない。しかしいきなり目の前に勇者と王女が現れて、それが見習い行商人で、このままでは死にそうだから武具を作ってくれとはどういうことだ。


王女の武具を作ることなんざ想定外だし、そもそも並の兵士程度の力しか無い勇者の為に、その勇者が死なない為の武具を作るなんて事も想定外だ。



そもそも勇者の物語で出て来る鍛冶師ってのはこう


「どうしても倒せない敵がいる」

      ↓

「奴を倒すには特殊な鉱物が必要だ」

      ↓

「その鉱物で武器を作れるのは熟練のドワーフしか居ない」

      ↓

「任せておけ、俺がお前のために槌を振るってやる!」

      ↓

「出来た武器で凶悪な魔物を倒す!」

      ↓

「凄いぜドワーフ!当たり前さ勇者!」

      ↓

「そして世界は平和になり、勇者と共にドワーフも歴史に名を刻んだのだった」


ってのが通常の筈だ。



なのにこの状況は、


「勇者は見習い行商人だ。しかも一緒に王女様も居るぞ」

      ↓

「この2人は弱い、このままだと2人共死亡だ!」

      ↓

「せめて武具だけでも良い物を身に着けて生存率をあげよう」

      ↓

「金は出すから宜しくお願い、助けてくれドワーフ」


とこういう状況な訳だ。



このままでは弟子達が死ぬという状況下で俺を頼ってくれたことは正直誇らしい気分だ。しかしだからと言ってこの状況が嬉しいかと言われればNOと言わざるを得ない。

勇者の為に武具を作成するという気持ちの高ぶりが全く湧いてこないのだ。


だから話を聞くことにした。幸いにも酒は目の前にあるし、ヒューマンはドワーフに較べて酒に弱い連中が多い。酔いさえすればこいつらの真の姿を見ることが出来る。こいつらの本音はすぐに聞き出すことが出来るだろうと考えたのだ。


そしてその機会は思っていたよりも早く訪れた。俺は工房の仲間と共謀し、勇者と王女を集中的に酔わせることにしたのだ。こいつらが持って来た酒は勿論の事、俺達が自作している梅酒や、最近流行りだした果物の汁を酒で割ったカクテルとかいう口当たりの良い酒を飲ませたのだ。


結果2人共それ程時間も掛からずに酔いが回り出した。この2人はそもそもそれ程酒に強くないみたいだ。いや違うな、まだ若いから酒自体に馴染みがないのだ。つまり自分の限界も酒を飲むペースも分かっていない。


後は簡単だ、飲ませすぎないように上手く酔わせればいい。急激に飲みすぎると酒に殺されることがあるが、その塩梅はドワーフに掛かればお手の物だ。


そして今、目の前で勇者と王女が本音を漏らしまくっている。そしてそれは何というか大分生々しい物であったのだ。



「大体何が堅実勇者だあの陛下は!困る陛下!困る陛下!!俺が困ってるじゃねーか!」

「お父様の馬鹿!アホ!トンチンカン!尊敬してたのに!何が花丸よ!ノーマルよ!」

「大体アニキの何処が平凡なんだ!俺より強くて、俺より頼りになって、俺より稼いでるんだぞ!節穴か!」

「ソレナはそれなりじゃない!ホドだって程々じゃない!私の友達を馬鹿にするなー!」


先程から兎に角ひたすらにマール国の国王陛下への罵倒が止まらない。確かあの方は炎の教会の司祭様と親しいのだったか、何で馬が合うのだろうと不思議に思っていたが成程、名前のセンスが全く一緒だ。馬が合うのも頷ける。


まぁあのボンボン馬鹿の29番をニックと名付けたのは分からんでもないが、こいつらはどうやら元々の名前を使うためにワザワザ貴族に仕立てて家名を授けたらしい。


「ジッツマン」「ボーン」「リー」「ホード」、確かに家名だけ聞けば何処かに同じ名前があっても変ではない名だ。だからと言ってこれを使って「堅実」「平凡」「それなり」「程々」と繋げるのは悪意がなければ不可能だろう。


俺はマール国の国王陛下の評価を大幅に下方修正した。伝え聞くだけなら財政危機に陥った国を立て直した名君ではあったが、やはり人間完璧とはいかないようだ。


「それにしても久し振りに顔を出したと思ったら貴族になって勇者の仲間をしているとはな、驚いたぜヘイ=ボーン准男爵様」

「勘弁して下さいよ親方。俺もこいつらもれっきとした行商人ですよ。勇者になった経緯は話したでしょうが」


そう、飲み始めてすぐにヘイの口から事の経緯は聞かされている。


・元々坊主も嬢ちゃんも普通に行商人の修行をしていただけだったこと。

・行商の最中に魔物の大発生が起こり、巻き込まれて対処したら英雄に祭り上げられたこと。

・マール国が存続の危機に立たされており、「活躍できる勇者」よりも「生き残れる勇者」を求めた事

・結果行商人兼勇者という謎の存在が生まれてしまった事


これらを聞いた時、正直聞いてはいけない世界の秘密を知った気分になってしまった。

そして何故あのギイが特別依頼をしてきたのかも分かった。


彼は単純に弟子達を守りたいのだろう。余りにも理不尽な状況に巻き込まれた弟子達を。



聞けばマール国の勇者一行は総勢50名。しかし勇者の国到着後は半数は離脱予定らしい。


少ない、正直余りにも少なすぎる。

遥かな昔、この世界には山を斬る剣士や大地を割る戦士、地形を変化させる魔法使いに死者すらも蘇らせる聖者が存在したという。


その頃の勇者の一行ならば4~6人位が適当であり、現在も冒険者達はその位の人数をパーティーの単位にして活動している。


しかし今現在それはただの夢物語だ。

剣士も戦士も精々岩や木を切り倒す程度であるし、魔法使いや教会の司祭の魔法にはそれ程の力は無い。故にモンスターの活性化に対応する勇者に必要な物は兎にも角にも数であるのだ。


知る限りではシカーク王国の勇者は3~4組、ドヴェルグ連合国に至っては10組以上の勇者一行が参戦する予定であるという。しかも最低でも一組百人はいる筈なのだ。


対してマール国は一組だけで人数も25人。いやギイとギルマスは勇者の国到着後には抜ける予定らしいので現在確定している人数は23人だ。各国の四分の一以下でしかない。これでは確かに心配にもなるだろう。


おまけにリーダーになるべき勇者が行商人なのである。聞けばまだ修行も終わっていない見習いだという。お陰で勇者の修行も移動中に戦闘訓練を始めただけで碌に行えていないらしい。聞いているだけで哀れみが込み上げてくる話だ。一体これでどうしろというのか。


「あ~くっそ!ノウさんが言ってた通り勇者なんて放ったらかしてずっと行商してようかなぁ」

「良いわね~、その方が絶対楽しいわよ!あ~でもねぇ、国が無くなるのは嫌なのよねぇ」


おまけに当の勇者に勇者をやる気が見当たらない。王女殿下にも見当たらないが、ギリギリ国を思う気持ちは残っているようだ。この2人は正直このまま行商人でいた方が幸せなのではないのだろうか?


だから親方は聞いてみることにした。お前らこのままで良いのかと。それに対して2人はこう答えたのだった。


「ん~でもねぇ。一応OK出しちゃいましたからねぇ。陛下も「活躍はしなくても良い、無事に生き残ってくれれば良い」って言ってくれてるし。それに元々行商しながら世界を回る予定ではあったんですよ。結局行商人になったら世界を練り歩く予定なんだからこのまま勇者になって世界回っても対して違わないですしねぇ。陛下も無茶苦茶するし勇者にしやがってコノヤローとは思いますけど、ハナに行商の技を仕込んだりと家族思いですし、そういう人は助けたいじゃないですか。俺の家族もマール国民ですし。大体俺が勇者を降りた所で代わりに勇者になるのはアニキなんです。そしたら結局俺はアニキに付いて行きますよ。ほら役割が変わるだけでやること変わんねぇじゃないですか。だから俺は勇者で良いんですよ」


「私は元々王女ですからね、結局は勇者に付いて行くことになるんです。もしもケンや兄さんがお師匠様の弟子になっていなかったら他の誰かが勇者に任命されて、私はその方と共に旅に出ていた筈です。よしんばノウが、弟が今迄と同じ感じで勇者になり旅立っていたのだとしても同じように付いて行ったと思いますよ。だって国の危機ですもの。失敗したら国が滅びるという状況で1人国に残る訳にもいきませんからね。だからこれで良いんです。最初は猛反対しましたけど、本音を言えば寧ろケンが勇者で良かったですよ。このメンバーだと活躍は出来ないでしょうけど生き残ることは出来そうですしね」



自分で聞いておきながら何という事を言うのだと呆れた。こいつらは勇者が誰でもやることは変わらないと言ったのだ。


ケンは世界を回りたいから行商人になった。でも勇者に任命された。だから一応活動はするけど本来の目的は世界を回る事で、あくまでついでに国も家族も助けるつもりだ。世界の為に命を懸けるなんて考えは微塵もない。こいつはあくまでも自分に出来る範囲での活躍をしてその結果国に貢献出来れば良いと考えている。


ハナはもっと単純だ。王女だからここに居る。王女だから勇者に付いて行く。それだけだ。王族なんて楽な商売だと考えていたが、それは間違った認識だったらしい。少なくとも目の前にいるこの王女様は国のために動くことが当たり前だという認識で行動していて、其れについて疑問も抱いていない。普通の娘は危険な勇者の旅に付いて行ったりはしないというのに。


しかし親方はそんな2人が気に入ってしまった。物語の勇者達は皆「世界の為に!」とか言って戦っていたが、親方自身その考えには賛同出来なかったのだ。正直言って「世界」とか言われても良く分からないというのが本音だ。


しかしこの2人は自分にとって大切なものの為に戦おうとしている。ケンは勇者でなくても行商中に邪魔が入れば戦うだろう。ハナは王女だからこそ国を守るために戦うだろう。


これから集まる各国の勇者達は皆「世界の為に」戦えるご立派な英雄様なのだろう。ならば其処に自分勝手にただ生き残るために行動する勇者が居ても良いのではないか?とそう考えてしまったのだ。


だから親方は決断した。決断してしまったのだ、この対して活躍しそうもない行商人勇者に手を貸すことを。


「よーし!気に入ったぜお前ら!俺が直々にお前らの装備を作ってやる。はっ良く考えてみればこりゃあ良い機会じゃねぇか!中身はどう見ても平凡な行商人なんだ。なのに生き残る、何故か?武具が優秀だからだ!それを作ったのは?俺だ!って事になるじゃねぇか。かあちゃん俺はこいつらの依頼を受けようと思うんだが許可をくれねぇか」


「驚いたねぇあんたがそんな事を言うなんてさ。まぁ折角の依頼を断る必要性も感じないから良いよ。上得意様のギイ商会からの依頼なんだ。精々気合を入れて作りなよ」


そしてケンとハナの武具が作られることが決定した。

何故かやたらと親方に気に入られる形で。

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