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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第67話 ギイ商会 カンナ支店3 牧師のニックと司教のイッサ

「以後お見知りおきを。「ハナ王女殿下」そして「マール国の勇者御一行様」」


目の前に座るイッサ司教と名乗った男がそう言った瞬間、ホドとスミレはケンとハナを引きずり倒し、ソレナとヘイは2人の前に出た。ハスとレンゲも一拍置いて急いで剣を抜いた。全員戦闘態勢に突入したのである。


それを見たイッサ司教は一瞬キョトンとした顔をするとケン達に謝って来たのだった。


「いや失敬失敬、驚かせるつもりは無かったのですが」

「貴様何者だ!?何故ケンとハナ様の正体を知っている!」

「何故と申されましても皆様秘密にしている訳でも無いのでしょう?それに「困る陛下」からも「手を貸して欲しい」と連絡は来ておりますので」

「・・・誰から何が来たと言った?」

「いえ、ですから「困る陛下」から「娘達が困っていたら手を貸して欲しい」とお手紙を貰っているのですよ。」

「困る陛下って・・・あなたはお父様とお知り合いなのですか?」

「はい、もう数十年の付き合いになります。あれは陛下が王位を継承される前、諸国を巡る旅の途中に当教会にお立ち寄り下さいまして。それ以降懇意にさせて頂いております」


「ちょっと待って下さいね」と言い席を立ったイッサ司教はそのまま部屋を出て行ってしまった。それから暫くして戻ってきた彼の手には一枚の手紙が握られていた。


「どうぞお確かめ下さい。陛下からのお手紙です」


ハナはその手紙を確認した。押印は間違いなくマール王家の物だ。そして手紙には「もしも娘と勇者が困っていたのならば手を貸して貰いたい」と書かれており、その筆跡は間違いなく父親であるコウ=マールのものであった。


ハナは手紙が間違いなくマール国国王からの物であると皆に伝え、一行は一斉に非礼を侘びたのだった。


「申し訳ありません、司教様。知らぬ事とは言え国王陛下のご友人に剣を向けてしまうとは」

「構いませんよ。今のは私の伝え方が悪かったのです。陛下とは長い間気の合う友人同士としてお付き合い頂いておりまして、その娘さんと勇者殿には会えることを楽しみにしていたのです」



そう言ってイッサ司教はホッホと笑う。話を聞いてみるとそれは前回の魔物の活性化時期の話、勇者として参戦した実の兄が速攻で死んでしまった後に、時期王位継承者として諸国を歴訪中にこの町を訪れて、当時まだ牧師だったイッサ司教と国王陛下はお知り合いになったらしい。


そしてお互いの身の上を語り合い、時には共に酒を飲み交わす内に友と呼べる間柄になっていったのだそうだ。何しろマール国の立地上、基本西側の国に行く為にはこの町を通って行く羽目になるのだ。この街の人間と特別に親しくなった所で何もおかしな事は無いのである。


そしてケン達にしても必ずこの町には立ち寄るのだ。仮に勇者の国へ向かうために海路や山道を通った所で武具を仕入れる段階でこの町に立ち寄ることは最早必然。ならばこの町の重鎮であるイッサ司教に協力を要請しておこうと考えることもまた必然なのであった。


「それにしては、お父様から何も話を聞いていないのですが」

「あの方は「困っていたのならば手を貸して貰いたい」と書いておいででした。この町で困ったならば必ず当教会に立ち寄ると考えたのだと思いますよ。実際陛下もそうでしたからなぁ」


当時のことを思い出しているのだろうか、司教がどこか遠い目をして微笑んでいる。当時まだ国王になる前の国王陛下との出会いでも思い出しているのかもしれない。


「所で陛下はその時次期王位継承者なのに、他国を巡っている余裕があったのですか?」


とヘイが尋ねる。それに対して司教は笑いながら答えた。


「寧ろ次期王位継承者だったからこそ巡ったのですよ。言わば他国との顔繋ぎですな。国の代表ともなれば他国を一度は訪れねばなりません。知らぬ存ぜぬでは外交は出来ませんし、小さい国程外交とは重要なものなのです。今回ご一緒されては居らぬようですが、マール国の勇者一行にはノウ殿下も同行しているとの事。それは勇者の力になる事と同時に、諸国を歴訪し次期国王として見聞を広め、同時に各地の貴族や顔役への顔見せの意味もあるのですよ」


イッサ司教はケン達に説明する。話を聞く限りこの方はどうやらかなり頼れる人のようだ。そう考えたケンはイッサ司教に1つの提案をした。


「司教様、実は我々がニック牧師をお尋ねした理由はこの町で力になって貰いたい事が起きた為なのです。もし宜しければニック牧師ではなくイッサ司教様にご相談をしても構わないでしょうか?」

「ふむ、そう言えば皆様は何時何処でニック牧師とお知り合いになったのですかな?」


ケン達は今日の午前中の出来事とニック牧師との出会いを司教様に伝えた。


「成程成程、それならば確かに私でもご相談に乗ることは可能ですな」

「それでは!」

「ですが貴方達とニック牧師が出会った事は正に炎の神の思し召しです。私と陛下が出会った事と同じようにね。ですからこの件はニック牧師に任せようと思います。彼は口は飛び切り悪いですが、更生して人のために尽くしたいという気持ちは本物です。きっと力になってくれる事でしょう」



イッサ司教はホッホと笑ってケンの提案を却下する。それから暫くすると、裏口が乱暴に開けられ、頭からゴミを被ったニック牧師が食堂に駆け込んで来た。


「クソッタレ、コンチクショウめ。牧師にゴミを投げるなんざ罰当たりにも程が有るぞ。元気になったのは何よりだが、全く神に仕えるのも楽じゃねーぜ。じゃない、ないぜ」


ニックはケン達に気づかずに目の前を通り過ぎ、食堂の水場で頭から水を被りゴミを一つ一つ落として行った。そして全身びしょ濡れになりながらもゴミを全て落とし終えると、突然仁王立ちになり目を閉じて集中を始める。すると彼の周囲に赤い魔力の渦が巻き起こり、瞬く間に彼も彼の服も乾ききってしまった。


それから水場に取り付けてある鏡で自らの髪と髭の形を整え、満足したのか一度ドヤ顔を決めるとクルリと振り返る。其処にはケン達とイッサ司教がいたので、彼はもう一度振り返り直して頭をブンブンと振った。


「やれやれ俺様としたことが・・・司教様はともかく昼間に一度会っただけのヒューマンの奴らの幻覚を見るなんざ疲れてんのかな。いや俺様はまだやれる!司教様だって最初からご立派だった訳じゃねぇって言ってたもんな。正気に戻れ俺!」

「貴方は間違いなく正気ですよニック牧師」

「うわあああぁぁぁ!!!」


イッサ司教の容赦ないツッコミにニック牧師は悲鳴を上げてひっくり返る。折角落としたゴミの中に落っこちた牧師は悲哀に満ち溢れた顔をしていた。




「居るなら居るって言って下せぇよ司教様!」

「「下せぇ」ではなく「下さい」ですね。更に言えば私達は最初から居ました。今度からはもう少し周囲に気を配りなさい」

「下さいですね。それと申し訳ありませんでしたコンチクショウ!」


ニック牧師がもう一度今度は全身のゴミを洗い落とした後、彼はイッサ司教と共にケン達の前に座っていた。


ケン達は早速ニック牧師に話を聞いて貰おうとしたのだが、それより先にニック牧師がケン達に話し掛けて来た。


「それでお前らはこんな所まで一体何の用なんだコラ。俺はお前らとは初対面だし迷惑かけた事は無い筈だぞコラァ。それとも俺が気付いていないだけで何かしら仕出かしちまってたのか?いやでも、もしそうならそれは俺の罪だ。司教様を巻き込むのは許さねぇぞコンチクショウ!」


ニック牧師は突然喚き散らしながらケン達に喧嘩を売り始める。驚いたケン達だが、そこにイッサ司教が激しい拳骨を御見舞した。


「フゲラ!?」

「落ち着きなさい。牧師たるもの常に静かな気持ちで相手の話を聞かねばならないと教えた筈ですよ。・・・彼らは街で出会った貴方に相談事があってここを訪れたのです。まずはお話を聞いて差し上げなさいな」


ニックは目を白黒させてケン達を見た。


「相談?俺に?貸せる程の金はねーぞコラァ!」

「いえお金ではなく悩みがあるので相談に乗って貰いたいのですが・・・」

「・・・すまん、もう一度言ってくれねぇか」

「ですから俺達は貴方に相談があるのです」

「・・・俺に相談?」

「はい、貴方に」

「お・・・」

「お?」

「おおおぉぉぉ!!!うおおおぉーーーーーん!!」


突然ニック牧師が泣き出しケン達はドン引きする。イッサ司教はやれやれと言った感じで首を振り、持っていたハンカチをニック牧師に渡した。ニック牧師はそのハンカチで涙を拭うが次から次へと涙が溢れて止まらない。ケン達はまさかの展開にほとほと困り果てたのだった。



暫くして、ニック牧師はようやく落ち着きを取り戻してきた。イッサ司教は先程からずっとニック牧師の肩を支えている。するとニック牧師が突然テーブルに頭をぶつけてケン達に謝罪と感謝の意を述べてきた。


「すまねぇ!突然の事でびっくりしちまった!それとありがとう!あんた達が俺の初めての相談相手だ!なんでも聞いてくれ!何だってやってやる!」

「あ、いや、そんな大それた話では無いのです。それと礼を言うのはこちらの方です。困った事態になっていまして、どうか相談に乗って貰いたいのですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ!で、何が聞きたい?」

「実は今日の午前中の話なのですが・・・」


ケンとハナは行商人の修行をしていること、工房の挨拶回りに出向いたこと、そして例外なく門前払いをされたことを話し、ドワーフの職人と話をする方法は何か無いかと尋ねた。


それを聞いていたニックは聞いている最中にポカンとした顔になり、ケン達が話し終えた後に開口一番こう答えた。


「いや話なんてする訳ねーじゃん。馬鹿じゃねーのお前ら?」


ブン!ドカン!


実に良い音が響き渡り、ニック牧師の頭がテーブルに叩き付けられる。勿論犯人はイッサ司教だ。柔らかな物腰なのに中々の武闘派らしい。犯人は司教様だったんだよ!


「何すんですか司教様!」

「それはこちらのセリフです。なんて事を言うのですが貴方は」

「いやだって、どんな相談かと思えば、常識の話じゃねぇですか。何でこんな事知らねぇんですかこいつら」


ケン達が相談した内容はどうやらこの町では常識的な話だったらしい。

しかしそれを聞いたイッサ司教は溜息を1つ付いてニック牧師に語りかけた。


「成程、常識の話ですか。ではニック牧師、マール国の国民がよく口にする食べ物を言ってみなさい」

「えっ?」

「マール国に出没するモンスターの名前を挙げなさい。マール国の有名人の名を挙げてみなさい」

「あっいやそれは・・・」


「分からないでしょう?彼らはマール国の人間です。ですからこれらの質問は「常識の話」です。そこに住んでいる人達ならば誰だって答えられる。しかし貴方はマール国の事をよく知らない。貴方にとってこの話は非常識な話になるのです。つまり逆もまた然り。貴方にとっての常識は彼らにとっての非常識なのですよ」


「申し訳ありません・・・」

「私に謝ってどうするのですか。貴方は謝る相手も分からないのですか?」

「坊主どもすまんかった!」

「ケン殿とハナ殿です!相談の為にワザワザ足を運んで下さった方の名前を失念するとはどういうつもりですか!」

「ケン殿、ハナ殿!申し訳ありません!今度はきちんとご相談に乗らせて貰うぜコノヤロー!」


そうしてニックは改めてケン達の相談を聞き解決策を提示してくれた。

それはとても単純で、かつそうと知らなければ対処の仕様のない話であったのだった。

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