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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第66話 ギイ商会 カンナ支店2 炎の教会

「出て行け!!」


ここはドヴェルグ連合国内部、カンナの町の工房の一角。店に顔を出したケンとハナにドワーフの怒声が叩き付けられる。


ケン達がカンナの町に到着した翌日、早速修行として町の工房の挨拶周りをやらされていたケンとハナは職人の街の手厳しい洗礼を受けていた。


ギイ商会のカンナ支店を任されている2人、ケードとサクヤにまずは一通り町を見て回りながら得意先に顔を出してこいと言われて実行したらこれだ。正直話もまともに出来ない状況で、2人は心が折れそうであった。


2人はトボトボと道を歩き、町の中の小さな広場の様な一角に備え付けられていたベンチに腰を下ろす。その疲れきった後ろ姿をソレナやホド、そしてハゲ三人衆とヘイが見つめていた。


彼らはこの街での行商の間の護衛を担当している。村の中では基本周囲に人が居たし、ナントーの町では行商地区のみで活動していたため問題はなかった。


しかしここのような大きい街では流石に護衛が必要と判断されたのである。そして彼らはギイ商会で高額な買い物から逃れたメンバーで構成されていた。旦那が護衛メンバーを事前に決定し、このメンバーにはギイ商会の商人が品物を売りつけなかったのである。


ここに居ない、シン・ノウ・ホッコは今現在金策中である。ノウとホッコには優秀な防具を、シンには魔法学校で使用する道具一式を買わせ、彼らは現在その代金を返すために奔走中だ。ノウとホッコは冒険者ギルドで、シンはまだ未成年であったためギイ商会内部で事務仕事を行なっていた。


そして護衛達のヘイへの視線が厳しい。「どうにかしろ」「お助けしろ」とその視線は訴えかけているがヘイは黙って首を振る。これを乗り越えられなければここでの修行は終わらないからだ。


「どうする?」

「どうしよう?」


ケンとハナは困り果てていた。これでもマール国内で1年以上行商人の修行を受けて来た身だ。出会った事もないドワーフの職人であっても話せば分かり合える、商談が出来ると思っていた。それなのに話すら聞いて貰えない。


師匠は以前「見かけはごついが話してみると中々良い奴らだ」とか言っていたがどうやって話せば良いのかすらケン達には分からなかった。




そんな時だ、道の先から赤色のローブに身を包んだドワーフがこちらに向かって歩いて来た。そのドワーフはベンチでグッタリしている2人を見つけるとゆっくりと歩み寄り2人に話し掛けて来た。


「おやおやガキ共、如何しやがったんだコンチクショウ」

「「!?」」


2人はびっくりして腰を上げる。後ろではソレナ達も臨戦態勢へと移行する。そのドワーフは口元をヒクヒクとさせながらなおも2人へと話し掛けて来た。


「おやおやガキ共、更に増えたガキ共、雁首揃えて何事だ?この俺様が相談に乗ってやるから一から十まで全部吐きやがれ」

「え~とあなたは?」

「見りゃ分かんだろ牧師だ牧師、炎の教会の牧師様だコラ」

「牧師様?あの、強盗ではなくて?」

「誰が強盗だコラ、犯罪からは足を洗ったんだコラァ、今は更生して世の為人の為に尽くしてんだコノヤロウ」


突然現れた口の悪いドワーフはなんと自分を牧師だと言う。しかし何処からどう見ても犯罪者というか危険人物だ。ケン達は速やかにこの場を立ち去ろうとしたが、そこに町を警ら中の兵士が現れた。


「おいそこ!何をしている!・・・何だ29番か、まだ牧師の真似事をしているのか」

「真似事じゃねぇ本物の牧師様だコラァ!それと29番と呼ぶんじゃねぇ!俺の名は「ニック」だコノヤロウ、司教様が着けて下さった名前を間違えんじゃねぇ!」

「誰一人救えない牧師がこの世の何処に居るというのだ。ほら行った行ったお前なんかに用は無い!」


兵士達はニックと名乗った自称牧師を遠ざけて行く。彼はケン達をチラッと見た後渋々といった感じに路地裏へと消えて行った。



そうして謎のドワーフが消えた後ソレナ達は警戒を解いた。あのドワーフはソレナ達から見ても相当「デキる」人物であった。とてもではないが警戒を解く訳にはいかなかったのだ。


それから兵士の1人がケン達に話し掛けて来た。ちなみに彼らは人間だ。朝からドワーフとばかり話していて疲れていたのでケン達はホッとしてしまった。


「君達大丈夫かね?怪我や被害はないかね?」

「はい大丈夫です。あの人、口は悪いですが俺らが困っているのを見て相談に乗ってくれようとしたみたいでして」

「炎の教会の牧師様だって名乗ったのですが、それって「あの」炎の教会ですよね?」


ハナは何か知ってそうな素振りで兵士達に問い質す。


「ああそうだ。あいつは「あの」炎の教会に住んでいる奴だよ。全く司教様も酔狂が過ぎるぜ」

「ハナ知ってるのか?俺は炎の教会なんて聞いた事も無いのだけど」

「仕方ないわよ、ドヴェルグ連合国の土着宗教ですもの」



ハナ曰く、「炎の教会」とはドヴェルグ連合国の内部にだけある土着の宗教であり、文字通り炎を神として崇めているらしい。


この国は大陸の北に存在しているため国土の大部分が冬は雪に閉ざされてしまう。しかし地下資源には恵まれており出土する金属類を使った武具はこの国の特産品だ。


冬の寒さを凌ぐ為、鉄や金属を加工する為、どちらにしても火は必要となる。そのためこの国では炎そのものを崇めるようになったらしい。


「だからこの国で牧師様になるためには炎の扱いに長けていなくちゃいけないのよ」

「炎の扱い?」

「具体的にいうと炎の魔法が使えることが条件ね。信者の大部分はドワーフで、彼らは鍛冶が得意だから炎には慣れているけど、牧師様以上になるためには実際に魔法が使える必要があるのよ」

「つまりどういうことですか?ハナ様」

「こういう事だろ?

・魔法を使う為には魔法学校で修行をしなければならない

・魔法学校に通うためには多額の授業料が必要だから大抵は裕福な家庭の子供が多い

・だから教育もしっかりしている筈

・それなのにあの自称牧師のドワーフは犯罪者らしい。一体どういう事だ?

ってな」

「ああ成程・・・」


そう言って一行は兵士に顔を向ける。兵士達は困った顔をしたが、観念したのか理由を話しだした。



「あいつはなぁ何というかこの街では有名な札付きだったんだよ。いわゆる金持ちのボンボンでな、魔法の才能があったから親が家庭教師を付けて魔法使いにしてしまってな。両親が亡くなった後は親の財産を食い潰しながら好き勝手やって生きてきたが、いよいよ金が無くなると食い逃げをやらかしやがってな。通り掛かった司教様に成敗された後は教会預かりになったのさ」


「何というか全く面影が無いですね・・・29番というのは?」

「この国では犯罪を犯すと罪を償うまでは名前を取り上げられるんだ。それからは番号で呼ばれるようになる。あいつに与えられた番号が29番だったのさ」

「それではまだ罪が償い終えていないのですか?」

「いやあいつは馬鹿で町の人間には迷惑を掛けまくってたけど、犯罪自体はその食い逃げだけだったからな。1週間の奉仕活動で終わったんだが、何を思ったのか牧師になっちまってな。今も教会に転がり込んで牧師の真似事をしているんだよ」


「えっと、それはつまり本当に更生して牧師になろうとしているという事では?」

「かも知れないけどな。この街の人間であいつを知らない奴は居ないから、牧師になっても誰の相談にも乗れてないのさ。切れない剣と同じさ、人を救えない牧師に存在価値は無いだろう?」


それで説明を終えたのか兵士達は巡回へと戻って行った。

ケン達はその後一度ギイ商会に戻る事とした。結局ドワーフと話をする為の解決手段は見つかっていないからだ。




ギイ商会カンナ支店では従業員達が忙しく働いている。そこには多くのお客達に混じり品物の納入に来たこの街に住むドワーフ達も居た。ケン達が午前中に彼らを訪ねた時はケンモホロロだったのに、今はケード支店長とにこやかに談笑している。ケンとハナはこの世の理不尽を噛み締めていた。


ケン達は店の奥から宿へと移動し、食堂に入って昼飯を食べる。そこにギイがやってきた。隣には疲れた顔をしたシンの姿も見える。良く考えればシンが実家の宿屋以外で働くのは今回が始めてなのだ。今迄との違いに苦労しているのだろう。


「2人ともご苦労だったな。・・・その様子では大分苦戦しているようだな」

「はい、何処に言っても門前払いでした」

「話も聞いて貰えませんでした。お師匠様どうすれば良いのでしょうか?」


ハナはギイに助けを求める。しかしギイはこれを突き放した。


「残念だが今回ばかりはお前達に一切手は貸さん。ここでの修行が終わればおよそ1月で勇者の国に到達する。私の修行はそこで終了だ。これからもお前達は多くの困難に見舞われるのだ、この程度自力で解決出来ないようでは先など無いぞ」

「兄さん達も大変だね・・・僕も頑張るよ」


そう言ってギイ達は食堂から出て行ってしまった。厳しいようだがこれがギイなりの修行なのだ。最初からギイは2人に自分の頭で考えるように鍛えている。ギイ本人も教えてやりたいのは山々だが、敢えて正解を教えない事もまた修行である。


2人共その事は理解している。そもそもこれはギイの修行であるから「解決可能」な問題の筈なのだ。必ず回答はある。2人は昼食の間考えた。考えたが答えは出なかった。だから周りに聞いてみた。具体的には護衛をしているソレナとホドとハゲ三人衆に聞いてみたのである。


「って聞かれたけど、ワイらが考えてもええんかいな?」


ホドはヘイに訪ねた。行商中は口出し無用と考えていたからだ。


「構わねぇよ。師匠や俺が答えを言うのは禁止だが他の奴と相談するなとは言われてねぇだろ」


ヘイの許可が出たので全員で相談を始める。とは言え、ここに居るのは行商人見習いと護衛の兵士と冒険者だけだ。中々良いアイデアは出てこない。


「実際アタシにはさっぱりだよ。話も聞かない相手にどうすりゃいいってのさ?」

「不敬罪ですよ!1人2人しょっ引けば話も聞くようのなりますよ!」

「ここがマール国ならそれもありだったのだがな・・・いや流石に国内でも駄目か」

「そもそもこの場にドワーフについて詳しい人が居ないのが問題・・・誰か紹介して貰って話を聞いてみては?」

「それが問題なんやろ?話を聞いてくれるドワーフなんて・・・居たな、そう言えば」


全員の脳裏に昼間出会った自称牧師の不良ドワーフの姿が思い浮かんだ。


「29番さんか!駄目で元々だ行ってみよう!」

「ニックさんね。29番って言ったら怒ると思うから気をつけてね」




そこで一行は炎の教会に行ってみる事にした。実はその建物は街に入った当初から目立っていた。何しろ見た目は普通の教会っぽいのに色はド派手に真っ赤なのである。嫌でも目につくのだ。


そして中に入ると教会の内部だというの轟々と火が炊かれていた。其処から出る煙は教会内部のダクトを通り外へと排出されている。見た目は真っ赤に塗られただけの普通の教会の様に見えるのに、しかしその内部はまるで鍛冶場のように熱せられていたのだった。



ケン達がその様子に暫し呆然としていると声を掛けてくるドワーフが居た。先程のドワーフと同じローブを着ているがこちらの方が多少は良い材質に見える。そのドワーフはニッコリと笑ってケン達に話し掛けて来た。


「ようこそ当教会へ。ヒューマンの方達が来るのは珍しいですね」

「お邪魔しています。こちらにニックさんという牧師様は居られますでしょうか?」

「おやニック牧師にお客様とは珍しい。彼は町を巡っている筈です。いつもならもう少し待てば帰って来ると思いますが」

「そうですか。では待たせて貰っても宜しいでしょうか」

「ええどうぞ。良ければ奥の部屋へ。ここはドワーフ以外はキツイでしょうから」


そう言って物腰柔らかなドワーフはケン達を先導していく。それを見てケン達はやはり先程のニックは特別に口が悪かったのだと実感したのだった。


「ところでアニキ、「ヒューマン」って何ですか?」


「あ?そりゃ俺達のような人間を示す言葉だよ。ドワーフもエルフも見た目が違うだけで同じ人間だろ?でも昔は亜人って呼ばれて差別されていた時代もあったんだ。だから差別を無くそうと俺らのような人間のことも「ヒューマン」って区別してな、全部纏めて「人間」って呼ぶことにしたのさ」


「へー成程。悲しいですよね見た目で差別するなんて」

「だよなぁ。誰が払っても同じ金なのにな」

「「「おいっ!!!」」」


そう言ってヘイが突っ込まれている間にケン達は教会の奥へと進んで行った。そこは先程とは打って変わって実に普通の気温である。どうやら壁を隔てて断熱効果があるらしい。


そうして一行は奥にある食堂へと通された。そこは今は誰もいないが、食事時には教会で暮らす多くの牧師や司教がここで食事を取るのだろう。


「申し訳ありません。良く考えたらこれだけ人数を収容できる部屋は現在使用中でした。食堂ではありますが常に清潔を心がけていますので安心してお座り下さい」

「ありがとう御座います。ところでお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?私は行商人のケンと申します」


そうして一行はそれぞれ自己紹介を済ませた。


「これはご丁寧に。当教会の代表を務めております司教のイッサと申します。以後お見知りおきを「ハナ王女殿下」そして「マール国の勇者御一行様」」


牧師のニックと司教のイッサ。

この2人はケン達の今後に深く関わってくる人物なのであった。

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