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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第1章 幼少期
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第6話 行商人の実力

「逆茂木」と呼ばれる物がある。


主に「こちらの世界で」中世まで活躍していた物であり、村の周辺や戦争での陣地をぐるっと囲んでいる木で出来たバリケードだ。


敵の侵入を防ぐために「木の枝を尖らして並べてバリケードにした物」といえば分かりやすいだろうか?平面だけの普通の「柵」と違い攻撃性があるのが最大の特徴でまさに攻性防御の塊の様な物である。



何しろ先端が尖っているためそこに突っ込めば当然刺さって大怪我をする。下手をすれば即死だ。作り方は割りと容易で効果は抜群だからどんな時代でも作られていた。ただ物が物だけに携帯性には乏しくあくまでも「陣地用」の設備であった。しかしそれはあくまで「こちらの世界の」話である。





ケンは怯えていた。ゴブリンの群れはたまに村を襲ってきたが、一度たりとも村の中まで入って来た事など無かった。だから今回も大丈夫だと思っていた。


今まで沢山の旅の話を聞いてきたが、冒険者や行商人の話でよく出てきたのは「ゴブリンの群れに囲まれて死ぬかと思った」という話だ。新米は興奮状態で、ベテランは思い出話として語っていた。


「あれを突破出来るかどうかで世界を旅する事が出来るかどうかが分かる」


と言われる程に頻発する危機の筆頭である。いずれは自分もゴブリンの群れに囲まれるだろうと思っていたし、そしてそれは華麗に回避できる筈だった。しかしケンの体は動かない。回りも突然の事態に動けない。


行商人達だけが動いていた。彼らは冷静にいつものごとく整列して、慣れた感じで「それ」を出した。





「戦闘開始!逆茂木を出せ!」



ギイが叫ぶと同時に4人の前に大きな構造物が現れた。それは木で出来た柵であり、前方に向かって何本も尖った木の杭が突き出ていた。それが4つ、等間隔に並べられており、そこにゴブリンが突撃してきた。


「ギャゲギャ!?」

「ギーーーー!!!ギャア!」

「ゲギャアアアーーー!!」


目の前に突然杭が出現し、それに全速力で突撃したものだから当然のように突き刺さってゴブリン達が悲鳴を上げる。さらにそこに後続も突っ込んできて押し込まれてしまい酷い有様だ。頭や胸に突き刺さって即死しているのが3匹、さらに4匹程が怪我を追っている。


そこに容赦無く行商人達が攻撃を加えていく。使っているのは槍のようだ。柵の隙間から槍を出し入れして生き残りを片付けてしまった。あっという間に7匹もの仲間が殺されて少し遅れてきたゴブリン達は右往左往してしまっている。



「よし全員無事か?」


「当然ですよ会頭!でも歯ごたえねぇなぁ、所詮はゴブリンか」


「・・・油断は大敵、でも大丈夫この程度なら問題ない」


「ふむそうじゃな、別口から襲ってきたから何かあるかと思ったがいつものゴブリンの動きじゃな。」


「よろしい。皆さんお怪我はありませんか?」



振り返ってギイが村人の安否を確認している。事態の急展開について行けなかった者達もようやく再起動を果たし、最初に我に返った者達がコクコクと頷いている。


「被害ゼロか、それは良かったんだが・・・ヘイ!お前何してる!」


「・・・こっちへ来い、それでもギイ商会の行商人か」


先輩達に怒られた行商人見習いは顔をキョロキョロさせた後ソロソロと仲間の元へと向かう。目の前にはギイ商会の名物である「逆茂木」が聳え立ち、その奥ではゴブリンの死体が散乱している。本日初陣の見習いの顔色は青を通り越して真っ白だ。


「あの、すんません、俺・・・」


「落ち着け、な~にお前さんが初陣だってのは皆分かっとる。いきなり動けんでも無理ないわい。とりあえずこっち来て同じように逆茂木出してみい」


「あっはい。えっと「出ろ逆茂木!」あれ?」


「阿呆!反対向きに出してどうする、というかなんじゃその掛け声は。アイテムボックスの出し入れに掛け声なんざ要らんじゃろうが、早く戻さんかい」


「はっはい!よいしょ~!」


「持ち上げるな!一度戻して逆向きに出せ!」


「スンマセン!」



ヘイは言われた通りに一度アイテムボックスに入れてから再び逆茂木を取り出した。ここでようやく村人はあれはアイテムボックスに入っていたのだと認識した。ちなみにこの間ゴブリンは動いていない。何もない場所に突然杭付きの柵が出来てしまって攻めるに攻められないのである。



「ゲゲゲギャギャギャーーー!!」


そこへ突然甲高い声が響き渡った。見ると口を血で真っ赤に染めた一回り大きなゴブリンがのっしのっしと歩いて来る。その声に覚悟を決めたのか、残りのゴブリンもこちらに向かって来た。



「なるほどエリート・ゴブリンがいたのか、奴が指揮官ということか。」


「なるほどねぇ謎が解けましたね会頭!でも所詮はゴブリンだもんなぁ」


「・・・問題無い。我が魔槍の疼きは未だに止まず。血祭りに上げてくれる」


「魔槍のう、一度で良いから扱ってみたいものよのう。まぁ冗談はともかく、ヘイ!お前はワシの隣で逆茂木に取り付いてくるゴブリンを殺せ!イザという時はフォローしちゃる!」


「はい!お願いします!おおお!来いやぁ」


「取り付いてからと言ったじゃろうが!まだ間合いにも入っとらんぞ!」


行商人達は危なげなくゴブリンを始末していく。見習いもがむしゃらに槍を突き出して何とかゴブリンを仕留めたようだ。ちなみにエリート・ゴブリンは手下が全滅した後に同じように突撃してきたが、逆茂木に阻まれてまともに戦うことが出来ずに倒されていた。



静かな村を襲った突然のゴブリンの襲来。めったに出ないエリート・ゴブリンに率いられたそれは、同じく滅多に来ない行商人達の手によって倒され事態は無事に解決したのだった。

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