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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第63話 徹甲弾のダン

翌日、ケン達の姿はナントーの町の冒険者ギルドにあった。


冒険者の資格を持っている者達は、マール国から出発する前に冒険者ギルドでシカーク王国やドヴェルグ連合国への配達依頼を受けている者が多かったのだ。

副業が認められている今回のような依頼ではついで仕事で稼ごうとする者も多い。


勿論ケンやハナも手紙の配達依頼を受けていた。国の兵士達どころか国内最強のギルドマスターが直々に守ってくれているのだ。ここで稼がずにどうするのかという感じである。実を言うと、マール国内で行商中も、同じ様な配達依頼でちょくちょく小銭を稼いでいたのである。


ここに居ないのはシン位だ。

彼はまだ成人になっていないため冒険者登録が出来ないので宿で勉強中である。


そうして依頼を達成した冒険者達は町に滞在中に行う依頼を探し始めた。

ギイからこの町には5日間滞在すると聞かされている。

ならばその間に稼いでおこうという訳だ。


ケンとハナも依頼受付に並んでいた。勿論これから行商であるが、彼らが受けたのは次の町までの配達依頼だ。冒険者は基本1つの依頼を受けている最中は他の依頼を受けることは出来ないので、他の冒険者達が町の依頼に精を出している間に、割の良い配達依頼を先に確保しておくことにしたのである。


そしてそろそろケン達の依頼受付の番になろうという時に、声を掛けてくる者がいた。



「おおいっ!旦那じゃないか久し振りだな!」



彼は冒険者ギルドの受付の奥から現れ、ケン達を静かに護衛していた旦那に声を掛けてきた。その体は逞しく、精悍な顔つきをしている人物だが、よく見ると右腕が肘の先から存在しない。恐らくは元冒険者で旦那の知り合いといった所だろうか。


しかしそれに気づいたシカーク王国の冒険者達がざわめく。彼らは知っていたのだ、今声を掛けた人物はこの冒険者ギルドのギルドマスターだということに。



「おいおいライトさんに声を掛けられるなんてあのおっさん何者だ?」


「立ち姿にスキが無い、恐らくはかなりの使い手だな。知り合いの高ランク冒険者じゃあないのか?」


「いやまて今「旦那」って言っていたよな。旦那・・・ダン=ナー!?まさか「徹甲弾のダン=ナー」か?」


「徹甲弾の旦那?なんじゃそりゃ」


「アホ知らないのか、前回の魔物の活性化時期に隣のマール国から勇者に付いてきた冒険者唯一の生き残りで、ここのギルマスと共に戦場を駆け抜けた英雄だぞ!それに旦那じゃあない、ダン=ナーだ。ダンが名前でナーが家名だよ」


「思い出した!プレートタートル戦で大活躍したあの「徹甲弾」か!」



シカーク王国の冒険者達は伝説の人物の登場に驚き、ケン達はギルマスの本名に驚いている。散々旦那旦那と言わされて来たがまさかダン=ナーという名前だったとは想像もしていなかった。



「ってハナ知らなかったのかよ」


「仕方ないでしょ、物心付いた頃からギルドマスターだったのよ。それでずっと通して来てしまったから本名を知る機会が無かったのよ」


「う~ん上手いやり方やねぇ。アダ名と見せかけて本名を堂々と名乗るとは。ワイもやろうかな?・・・程々!いややっぱ無いな」


「突っ込もうと思ったのに!」


「乙女に簡単に突っ込めると思わんといてや~」



ケン達のアホな会話を他所に、ダンの元へとこの街のギルドマスターが近づいてくる。彼はカウンターを軽々と飛び越えるとダンの元へと辿り着き、その背中をバシバシと叩いていた。



「全くどうしたんだ珍しい?ギルマス会議でもなければお前は国外には出てこないじゃないか」


「国王陛下直々の依頼を受けていてな。この町には護衛対象及び同行者達の監督で訪れたに過ぎん」


「そりゃあ大層な話だな。で?どんな内容なんだ?守秘義務があるのなら俺の部屋で話せよ」


「守秘義務があるのならば、貴様の部屋でも話すことは無い。今回の依頼は護衛任務だ。我が国の「勇者」を勇者の国へとお連れしている」


「ほう、そうか!マール国は今回勇者を出さないのではと言われていたのだがな。ちなみにどなたが勇者様なのだ?我が国の勇者様はまだ勇者の国へは向かっていないのだ。是非とも首都に立ち寄り勇者同士で友好を暖めて貰いたいのだがな」


「残念ながらその時間は無い。我が国の勇者は未だ師匠の元から卒業許可も出ていないのでな、道中を使って鍛え上げねばならないのだ。首都まで行っている時間的余裕は存在しない」


「それは残念だ。では勇者の国でお会い出来ることを楽しみにしているよ」



そう言ってこのギルドのギルドマスターはカウンターの奥へと姿を消した。

どうやらすぐ近くにマール国の勇者が居たことには気づかなかったらしい。


彼はダンとの会話からこう推察したのだ、「マール国の勇者は今現在もこの街のどこかで師匠とやらと共に修行をしている」と。

だからギルド内にはいないと考えた。まさか勇者が行商人で小金を稼ぐ為に依頼の列に並んでいるとは考えもしなかったのである。


結局ケン達はそのまま依頼を受け、師匠であるギイの元へと戻り、その後行商の修行を開始した。勇者の修行など二の次である。




そして現在ケン達はギイに連れられてこの街の行商人ギルドの前へとやって来ていた。今迄他国の行商人ギルドには来たことがなかったケン達は多少興奮している。ギイはすました顔でケン達にここに来た理由を説明した。



「行商人といえども、いや行商人だからこそ、その国のルールや風習には従わなければならん。さもなくばその国で活動している同業者たちに迷惑をかける事となり、それは取りも直さずお前達への不平・不満となって返って来るからだ」


「成程、ではここにはこの国のルールを聞くために訪れたのですか?」


「それもある。しかし他にも理由はある。村や道中では適当な場所で行商をしても良いが、町では殆どの場合縄張りが存在している。下手な所で商売を始めようとすると、地域を管理している者達が難癖をつけてきて商売が出来ないという状況に陥ることもある。だからこの町の様に行商人ギルドが存在している場所では商売が可能な場所を教えて貰ってから行商を始めるのがベストだ。たまに場所代を請求されることもあるので覚えておくように」


「分かりましたお師匠様」



そう言ってギイは弟子を引き連れて行商人ギルドへと入っていった。

ギルド内に居た行商人達が急にざわめき出す。世界を回って商売をしたギイ商会の会頭ギイの伝説は隣国だろうと轟いているのだ。当然顔も知られている。


ギルドの受付は伝説の行商人であるギイの対応が出来るのかとドキドキしていたが、前に出てきたのはまだ新人の様な若い2人であった。



「あのこんにちは。行商人のケンと言います」


「同じくハナと申します。マール国からやって来まして、ご挨拶に伺いました」


「はぁご丁寧にどうも。それで当ギルドにどのようなご用件でしょうか?」


「俺達はこの町で行商をしようと思っているのですが、この町特有のルールとかあったら教えて下さい」


「後は何処で行商をすれば良いのかですね。この町を訪れた行商人は何処で行商をしているのでしょうか?」



受付はギイと共に来た2人ということで身構えていたが、聞いてきたのは常識的な内容ばかりだ。少しホッとしながら受付は答えていった。



「そうですね、この町ではというかこの国では町で行商をするためには「行商地区」へ行く必要があります。ここは国が管轄している行商人専門の区域でして、各スペース毎に決められた場所代を支払えば、丸一日はそこでの商売が認められております」


「行商地区ですか、それは初めて聞きました」


「ドヴェルグ連合国やオリエンタル帝国でも同様のシステムが存在した筈ですよ。場所は中央広場から南へ向かった先です。看板が立っておりますので分かるかと思います。入り口で受付に料金を支払えば空いている場所ならどこでも商売が可能です。なお単に買い物客としてなら入場料金は掛かりませんので今日は雰囲気を掴んでおいて、明日の朝一番で商売を始めてみては如何でしょうか」



ギルドの受付にそう告げられたケン達は礼を言って行商人ギルドを後にした。一度宿に戻り勉強に疲れて休憩をしていたシンを加えて教えられた通りに行商地区へと行ってみると、「行商地区」と書かれたゲートが有り、その先には様々な品物を扱う店が通り一面に密集していた。


いやそれは店だけではない。店があったのは入口付近だけで、奥にあるのは屋台の群れだ。そこでは様々な種類の品物が多くの商人によって売られていた。



「おお~すげぇ!面白い!」


「あ~懐かしいな。ワイが訪れた港町にもこんな場所あったで」


「武器屋に薬屋に食べ物屋まで!凄い、これだけの場所に色んなお店が密集しているわ」


「あれは魔法屋ですかね?いや魔道具屋なのかな?」


「お2人共余りフラフラせずに!店は逃げませんからゆっくり見て周りましょう」



行商地区に浮かれたケンとハナがフラフラと隊列を乱しそうになる所をソレナが押しとどめる。その後ろで同じことをしようとしたスミレが慌てて口を閉じていた。


ギイから行商人の修行中は危険な時意外は口出し禁止とされているためである。ハゲ三人衆も護衛として同行していたが後ろで完全に空気になっていた。いやスミレ意外の2人はケン達と同じく行商地区を楽しんでいたのだが。



一行はそのまま行商地区を視察し、途中にあった食べ物屋でマール国では高級品とされる海の魚を昼に食べ、そして翌日の行商をする場所を探していた。



「う~ん旨かった。やっぱ魚はええなぁ」


「ホドって魚が好きなのね。でも何でここで海の魚が食べられるのかしら?港までは結構あるでしょう?」


「そりゃ簡単だ。この国は中央にデカイ川が流れていて、そいつは北と南両方の山からシカーク王国の首都へと繋がっている。だから北から川を下って運ばれた魚が、今度は川を登ってここまで届けられてるのさ」


「川下りはともかく川を登るのか?それはどうやっているのだ?」


「そいつは町を出た後のお楽しみってことで。この町からドヴェルグ連合国へ行く途中にその川を渡るからそこで見ることが出来るぜ」


「アニキは知ってるんですよね。く~楽しみだなぁ」



一行はワイワイしながら行商地区を練り歩く。そして空いている屋台を見つけてはそこに貼り付けてある場所代を確認していった。


結局半日歩き回って良さげな場所を幾つか見つけ、その日は宿に戻った。


翌日からこの町で過ごす残り4日間、行商地区においてケンとハナはひたすら商売に打ち込んだのであった。

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