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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第60話 中々大使

勇者の国での各国の勇者集結までは残り4ヶ月。

ケン達マール国の勇者一行はまずは隣国との国境を目指している。


マール国は世界の中でも端っこに有るために、世界の中央に存在する勇者の国へと辿り着くためには他国を経由しなければならないのだ。


この世界は1つの巨大な大陸だとされていて、その周りには幾つかの島々が存在している。


そしてその大陸中央に「勇者の国」が存在しており、

・南には獣人国家「ワイルド王国」

・東には黒髪黒目で顔が平たい人達が住んでいる「オリエンタル帝国」

・西には金髪碧眼で顔の彫りが深い人達が住んでいる「ルネッサンス共和国」

・北には髭面で背は低いが体はゴツいドワーフ達が住む「ドヴェルグ連合国」


という巨大国家が存在し、その隙間には中小の国家がひしめき合っているのだ。

マール国から勇者の国へと向かうためには、まずマール国と国境を接している隣の国「シカーク王国」を経由し、「ドヴェルグ連合国」を通って行くのが最短ルートである。


他のルートも無い訳では無いが、遠回りになるし、なにより危険地帯が含まれてしまう。よってケン達は安全な最短ルートを通って勇者の国へと向かうことが決まった。


しかしこのルートを通れば、片道1ヶ月もあれば勇者の国へと到達は可能だ。何故4倍もの時間を取って出発したのかと言えば、ケン達の行商の修行の為であった。


家族がギイ商会を訪れ勇者としての活動を認めて貰った後、ケン達は王様から勇者の活動と並行して行商人としての活動の自由を得ていた。何しろ国の援助がもう無いという状況なのだから、勇者としての活動資金は自前で稼がねばならないのだ。


国民からの援助にしても限界があるだろうし、この先モンスターの被害も増えるだろう。その時、援助が止まって勇者として活動出来なくなるという事態は防がねばならないのだ。


物語の英雄達は活躍の凄さばかりが目立つが、結局の所それを支えるシステムがなければ活躍自体が出来なくなるのである。

国王陛下も理解しているので勿論すぐに認めて貰えた。

これもあってギイ商会の行商人を勇者としたのだろう。


同行する兵士・騎士・冒険者・文官達にもこの事は伝わっている。

彼らはケン達が行商をしている際には各々の裁量で仕事をしたり、依頼を受けたり、近くに住んでいる知り合いに会いに行ったりしても良いこととなっていた。

要するにケン達の行商中は自由行動が保証されているのである。


「まっ俺らとしては万々歳さ。勇者様と一緒に勇者の国へ行くだけで金が稼げるのに、途中で幾ら仕事をしてもお咎め無しなんだからな」

「ホントよねー、この人数に襲いかかって来るモンスターなんていないから楽なものよ」


そう言ってガハハと笑うのは、昔ケンを故郷の村からギイ商会まで護衛してくれた冒険者の男女だった。


今回久し振りに再会し話を聞くと、彼らはその後結婚し、今は新居を購入するための資金を貯めている最中だという。そんな時にケンが勇者に任命されたという話が流れ、同時に勇者の国までの護衛依頼が冒険者ギルドに張り出された。


それは片道で4ヵ月という長期間の仕事ではあったが、非常に割の良い仕事でもあり2人は早速応募。一度ケンの護衛を無事に成し遂げたという実績が評価され、競争率の非常に高かったこの仕事を得ることが出来たのである。


ちなみにマール国の男性冒険者の大半が、王女であるハナが行商人の修業をしていた時期に様々な問題行動を起こしていた。

その為、今回の勇者の護衛任務の依頼は非常に厳しい人選が行われた。


結局彼らを含めて参加50人中10人が護衛として雇われた冒険者であった。

彼らは過去ハナ王女へ不貞を働こうとしなかった人物達で構成されており、今回の旅の間に問題は全く起きてはいない。


ちなみに彼らがギルドで受けた依頼は「勇者ケン一行を無事に勇者の国まで送り届ける事」である。つまりそれ以降はケンが自力で冒険者達を雇わねばならないのだ。彼らは最後まで付き合ってくれる訳ではないのである。



そして残りの40人の内、ケン・ヘイ・ハナ・ソレナ・ホド・ギイ・旦那・ノウ・ホッコ・シンの10名が一応身内に当たり、護衛の兵士は10名、騎士は5名、そして勇者の国の大使館の交代要員が5名で、残りの10名はマール国在住の行商人や職人達から選ばれた「勇者の国に行きたい者達」で構成されていた。


「ぶっちゃけ実質は半分の25人の集団ですよね。しかも追加でどれだけ増やすかは丸投げってあり得ないんですけど!」


ケンが自分の一行の内情を鑑みて怒りを爆発させる。

それを見ながらヘイは肩を竦めて語りだした。


「何でも勇者の国まで向かう機会なんて滅多に無いから、「大使館の職員をついでに交代させよう」って話になり、「箔をつけるために参加者を増やそう」という事で、他の行商人や職人の同行を認めたって話だぜ」


「別の機会に行うとそれだけで護衛代が嵩むからな・・・これも節約の方法の1つとして理解してくれ」


ノウがケンとヘイに対して謝ってくる。結局の所いくら援助があったとはいえ、マール国の中だけでは限界があったのだ。

それでも何とか片道4ヶ月分の移動費と護衛代金を捻出することが出来た。


なお兵士及び騎士達は国から給料を支払われているため勇者の国に着いてからもケン達と行動を共にする予定だ。ATMは世界共通であるため、マール国で入金された彼らの給金は世界中何処に居ても引き出すことが出来るので問題は起きない。

彼らについては現状を理解した上で立候補してくれた人達としてケンも信頼を置いていた。


王様からは「兵士や騎士は好きに扱って良い」と言われているが、ケンには兵士や騎士を扱った経験など無いので、運用や振り分けに関しては王子であるノウや元兵士のソレナに丸投げしてある。


そして大使館の交代要員達と同様におっかなびっくり旅をしているのは何故か参加してきた他の商会の行商人や街で働く職人であった。彼らは同時期に勇者の国に行く予定があった者達で、「護衛代と移動費をこちらが持つ」という内容に惹かれて一緒に旅をしているだけだ。


彼らからすれば旅の費用が浮くし、こちらからすれば人数を水増しして多少見栄も貼れるという事である。ありのままで行動するにはどうやら今の人数では他国と比べて数の面でも相当足りないらしい。


「これはありなんでしょうか」

「いやありやろ、あいつらは移動費が浮く、ワイらは見栄を張れる。WinーWinの関係ゆうやつや」

「騎士団丸ごと出せれば見栄も貼れるんだけどねぇ。城の財政も人材も火の車なのよ」


女性陣から現実的な意見が出てくる。

見栄を張ることもまた外交上必要な事なのであろう。

実際に役に立つかどうかは別にして。




そうこうしている内に国境が見えてきた。ここを超えればシカーク王国だ。

本日は国境を超えた後、国境の向こう側で宿泊する予定となっている。


今回の参加者の内大部分は国境を超えること自体が初めてな者達だ。

よって今回は何度も国境を超えた経験のあるギイが全員を代表して国境越えの手続きを行い、皆はそれを真似ていった。


とは言えそれ程おかしな事は行わない。


村や町に入る時と同じく身分証明書代わりのギルドカードをを提出し、入国料を支払うだけだ。ちなみにマール国には入国料は存在しない。人が少ない国は入国料を撤廃して、出来るだけ入国してくれる人数を増やそうとする傾向にあるからだ。


しかしシカーク王国に入るためには入国料が必要だ。この国は北の果てに港を持ち、マール国からドヴェルグ連合国へ抜ける街道が通っているため、通過する人数がとても多く迂回路は遠すぎる。よって入国料を取っても通過する人数が減らない国なのである。これを聞いた時「なんて楽な商売なんだ」と皆が思ったものだ。


だが今回は入国料を支払う必要はない。勇者の活動を妨げる事になるという理由で、「勇者及び勇者一行は、国境をまたぐ時の入国料や町に入る際の入場料を支払う必要は無い」という国際条約が存在するからだ。


だからギイはそのことを伝え、勇者としてケンが国境の詰め所へ出向いたがここで問題が起きた。

シカーク王国の国境を守る衛兵達がケンを勇者だと認めなかったのである。


彼ら曰く、

「そんな行商人の様な格好をしている勇者など居る訳がない」という意見だ。

全く仰る通りでは有るが、ケンが勇者なのは事実である。困っていた所に1人の男性が現れた。彼は大使館の交代要員として今回の旅に同行していた者の1人である。


「すまない、ちょっと宜しいかな?」

「何でしょう?今取込み中で・・・何とこれは大使殿。お久しぶりで御座います」

「うん、久し振り。僕がシカーク王国で大使をしていた頃以来だから3年振りになるね」


何と彼は前シカーク王国の大使だったらしい。つまりは今回交代する勇者の国の大使は彼という事か。全く気にしていなかった人物がお偉いさんと分かりケンは途端に緊張し出した。


「取り込んでいる理由は分かっているよ。彼の正体だろう?」

「はい、この者達は勇者を語り国境を不正に越えようとしている不届き者達です。全くどこからどう見ても行商人にしか見えないこの男の一体どこが勇者だというのか・・・」

「でもね彼が我が国の勇者だと言うのは本当さ。この僕が保証するよ」

「何と!本当なのですか!?」

「事実は小説よりも希なりさ」


結局大使殿の執り成しによりケン達は無事に無料で国境を通過することが出来た。そしてケンとギイは大使殿にお礼を言いに行き、彼と話す機会を得た。


「ありがとうございました。まさか勇者と認められないとは思いませんでしたよ」


「構いませんよ。私もこの勇者一行に同行しているのですから助けるのは当然です」


「そうですか、しかしどうしたものでしょうか?今回は顔を知られている大使殿がおりましたが、次の国境越えの時も同じ手が使えるとは限りません」


「そうですね、では我が国の国旗が描かれたマントを着用してそれっぽい態度を取ってみてはどうでしょうか。確か途中立ち寄る町にはマントを買える店もあった筈です。見栄えの良いマントを購入してマール国の国旗を描けば勇者らしく見えるのでは?」


「成程、それなら簡単に出来そうですね。では早速やってみます。ああそれとご挨拶がまだでしたね、勇者をすることになりました行商人見習いのケンです、宜しくお願い致します。大使殿のお名前をお聞かせ願えませんか」


「私は「ナッカ=ナーカ」と申します。勇者の国での大使を命じられまして、マール国と勇者の国、そして勇者殿をお繋ぎする仕事を仰せつかっております」


「・・・失礼ですがその家名はやはり国王陛下が?」


「正にその通りです。以前シカーク王国で大使をしていた時の功績が評価されましてね。ですから勇者殿達の苦労も心労も理解出来るつもりですよ」


「こんな所に同士が居たとは・・・これからも宜しくお願い致します」



マール国から勇者の国へと派遣された「中々大使」。

彼はこれより幾度となく勇者ケン一行を助ける事になる人物であった。

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