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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第3章 行商人見習い&勇者見習い
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第58話 名は体を表す

第3章の開始です。

宜しくお願いします。

「お待ち下さい!」


話が纏まってようやく緩みそうになった空気を1つの大声が切り裂いていく。

そこには椅子から立ち上がり復活したヘイが居た。


「ケンが勇者ではやはり不安です。ここはこの私がケンに代わり勇者となります!」

「アニキ?」

「ケン、お前はまだ行商人の修行も終わっていないひよっこだ。元々俺が勇者になる予定だったみたいだし、後は全部俺に任せときな」


ヘイはサムズアップをしてケンに対してポーズを決めた。

勿論ヘイは勇者なんてやりたくはない。しかし先程から話を聞いていると、可愛い弟弟子が危険な勇者の役割を演じる羽目になりかねない。


ならばここは自分がやるべきだろうとヘイは考えたのだ。この1年半の付き合いでヘイの中ではケンとハナの存在は、正に本当の弟と妹そのものとなっていた。弟が危機ならば兄が助けねばとヘイは考え行動に移した。


「駄目だな、断る」


しかしそれはあっさりと断られてしまうのだった。


「なっ何故ですか陛下、私の方が行商人としても冒険者としてもケンより優れています。更に言えば私はギイ師匠の一番弟子です。ギイ師匠直伝の生き延びるための技術をありったけ学んでおります。ケンが勇者になるよりも確実に私の方が生存確率は高い筈です」


ヘイは国王陛下に自分を勇者にするべきだと売り込みをかける。

しかしそれは想像もしない理由で断られる事になった。


「それは百も承知しておる。しかしお主は「平凡」であろう?」

「はい?」

「「平凡勇者」と「堅実勇者」では明らかに後者の方が生き延びる確率が高そうではないか。よってお主では駄目なのだ」



謁見の大広間の中に微妙な空気が流れていく。確かに「平凡勇者」よりも「堅実勇者」の方が生き延びそうではある。しかしそもそもその名前は陛下自身が付けたものの筈だ。


「同じ理由で他の者も駄目だぞ。「それなり勇者」や「程々勇者」ではそれなりの活躍や程々の活躍をして死んでしまいそうだ。やはり我としては一押しは「堅実勇者」だ」


国王陛下の話す余りの内容に誰も声を挟めない。

そんな中娘であるハナが手を上げて発言した。


「お父様・・・そう言えば先程ヘイ兄さんからケンに変更した理由を、私の報告と「名前を鑑みて」とか仰ってましたよね。まさか名前が決め手だったのですか?」

「無論だ。寧ろハナの報告よりも名前の方が決定打だな」


あまりと言えばあまりの理由に広間の中に困惑の空気が広がっていく。

そして「まさか・・・」という声とともに国王に声をかける者が居た。


「父上、その・・・まさかとは思いますが私の名前の由来は・・・」

「無論「普通」から来ているぞ。ノウ=マールでノーマル、つまり普通だ」

「なっ!何故そのような事を!勇者を決定した理由が名前だと云うのですか!」


その発言は流石に聞き逃せない。ノウは自分の名前が嫌で嫌で仕方がなかった。ノーマルつまり普通を連想するからだ。それなのによりにもよってそのノーマルが元ネタなど笑い話にもならないではないか。


「勇者の任の困難さを鑑みれば、多少の人生経験の差などあってないようなものだ。寧ろヘイには兄弟子としてケンのサポートを期待している。そもそも名前という物は非常に重要なのだぞ。私の名前を知っているだろう?」

「勿論です、コウ=マールですよね」


その瞬間皆の脳裏に電流が走った。今までの話の流れからするとつまり・・・


「お父様、えっとまさかとは思いますが・・・コウ=マールで「困る」なのですか?」

「その通りだ。我の人生は常に困っており、今現在も困り続けておる。だからお前達には苦労を掛けたくないと、「花丸のような人生」から取って「ハナ=マール」とし「我が歩めなかった普通の人生を歩んでくれるように」と「ノウ=マール」と名付けたのだ」


そう言ってから国王陛下は再びケン達の方に目を向けた。


「今回家名を与えた者達も同じだ、「平凡」に「それなり」に「程々」に、そして「堅実」に歩んでいって欲しいのだ。覚えておくがいい「名は体を表す」のだよ」


そう言って広間の者達を見回した後、コウ=マール国王陛下は退出していった。

そして参列者達は呆気に取られたまま解散し、ケン達もギイ商会へと引き上げたのだった。




「何というか夢を見ていたような気がするな」

「どっちかって言うと悪夢やろうけどな・・・」


いつものギイ商会の食堂でケン達は茫然自失となっている。そして他の従業員達はそれを見て「慣れない城での謁見で疲れたのだろうな」と間違った解釈をして遠目に見守っていた。


結局その日起こったことは全員まともに理解出来ずに、そのまま夕食も食べずに寝てしまった。

しかし次の日には容赦なく現実が押し寄せてきたのだった。




明けて早朝、いつもより遅れてケンは目を覚ました。

昨日いつ頃寝たのかまるで記憶がない。確か昨日は城で防衛戦の表彰を受け、褒美を貰い、貴族に認定され、世界の秘密を聞かされ、勇者となった筈だ。


「しかし勇者と言っても」


そう勇者と言ってもである。勇者と言っても今でもケンは全力で行商人なのだ。何か特別な力が発現した訳でもなく、伝説の装備を持っている訳でもない。目が覚めたのはいつも寝起きしているギイ商会の自分の部屋だし世界を救う方法など検討もつかない。


やはりあれは悪い夢だったのではないかと思いながらケンは食堂を目指した。そして食堂に入った瞬間にそこに居た他の従業員達が一斉にケンを見た。


「あのケン君?」

「はい?」

「ケン君は勇者様なの?」


話し掛けて来たのはいつも軽い挨拶だけしているおばちゃんである。他の従業員達は固唾を呑んで見守っている。どうやらいつの間にか昨日の件が広まってしまったらしい。


「あ~うん、実は昨日お城で王様に勇者にさせられちゃってさ」

「やっぱり本当なの!じゃあヘイ君やソレナちゃんやホドちゃんは貴族になったの!?」

「1代限りらしいけどね」

「それでケン君は男爵様だって話だけど」

「うんそうらしいよ。良く分からないけど」


実際の所ケンには男爵が何なのかも良く分かっていない。貴族としての位よりも男爵いもの方が馴染み深いくらいだ。


そうしてケンはいつものようの食堂で朝食を食べ始めた。しかしいつものメンバーはまだ誰も来ていない。恐らくは自分のように寝ているのだろう。そして朝食を食べ終わった頃、にわかに外が騒がしくなり、突然ソレナとホドが食堂に駆け込んできた。


「はぁはぁ、ケン無事か!?」

「かくまってやー、勘弁してやー」


2人共何故か疲労困憊である。話を聞くと、昨日帰宅して朝起きると家の周りを囲まれていたらしい。何でも話を聞きつけた周辺住民達がこぞって押し掛けてきたのだそうだ。不安を感じた2人はギイ商会に逃走。人波を掻き分けてここまで来たのだそうだ。


その内にヘイも起きてきて皆で食堂の隅に陣取る。その様子を周りは遠巻きに眺めていた。その眼差しは昨日と違い、理解不能な物を見る目つきに変わっていた。


「成程ねぇ、外はそんな感じになってんのか」

「殆どの住民が昨日の件を知っているようだったぞ。何故か知らないが情報が漏れているのだ」

「何故かも何も王様は言うなとは言うとらんかったやろ。昨日の出席者が帰宅してから話して一気に広まったんちゃうかな」

「じゃあやっぱり俺は勇者になっちゃったのかな」

「なっちまったんだろうぜ。決まった理由が名前だとは誰も信じないだろうけどな」


一同は深い溜め息を吐き出した。ケンは勇者となり、自分達も貴族に任ぜられてしまったのだ。恐らくこれから周囲の環境は劇的に変わることだろう。


その事に対して考えを巡らせていると、ギイがハナを連れてやって来た。その後ろにはノウ王子とホッコも居る。ギイ達はケン達が居る一角に来ると話を切り出した。


「お前達現状は把握できているか?」

「正直言って余り自信はありませんよ、師匠」


ヘイが疲れた声でギイに答える。

ギイは「まぁそうだろうな」と呟いてから説明を始めた。


「では改めて説明しよう。昨日の表彰式の後お前達は貴族の位を賜り、ケンは更に勇者と認定された。そしてこの国の現状がこの国の重要人物全てに伝えられ、それが住民達にも伝わり今の騒ぎとなっているのだ」


「あーやっぱり昨日の参列者達はこの国のお偉いさん達やったんか」


「そうだ、彼らは自らの仕事場や家庭に帰り昨日の事について報告をし、その詳細を知りたがった民衆達は今外に出て大騒ぎを起こしている状態だ。何しろ国が無くなるかも知れないという危機的状況であるからな、知らんぷりは出来ないのだろう」


まぁそれはそうだろう。普通に生きていたのにいきなり国が無くなって流浪の民になるかもしれない等と聞かされたらパニックになって当然だ。あの場で直に話を聞いた自分達でさえよく事態を飲み込めていないのだ。居なかった人達からすれば尚更だろう。


「その事についてですが、本日午後にも城から騎士団を使って国民達に詳細な報告を行う事になっています。幸いと言っていいのかは分かりませんが、普段なら遠くの村に居るはずの村人達も今は全員衛星都市の近くに居ますから、そう遠くない内に国民全てが現状を理解することになるでしょう」


「まぁ昨日国王陛下は大げさに言ってはいたが、実際問題例え国が無くなっても国民全てが流浪の民になるなどということは無い。そこは心配しなくても大丈夫だ」


「えっ、そうなんですか?」


「仮にお前が失敗してこの国が無くなったとしたら、状況的に見て隣の国に吸収される形になる筈だ。隣の国としてはこの国から税を取らなければならないから結局人には居て貰わなければ困るからな」


そう、結局国が無くなって困るのはその国の上層部の人間くらいだ。下々の人々にとっては今の生活が変わらなければどこの国だろうと余り関係が無いのである。だから昨日国王はこの国の重要人物を残らず招待したのだ。


【この国が無くなった場合に、実際に被害を受ける者達から確実に支援を引き出すために】


国の財政が赤字であるならば、ある所から勇者の援助金を出させようという考えなのだろう。ギイは国王の必死さに深く同情した。


「同時に勇者ケンと共に世界を救う仲間も募集するんだってさ。僕達も一緒に行くからね~」

「皆本当にごめんなさいね。もうこうなれば切り替えて意地でも生き残って見せましょうよ!」


ハナがそう言って拳を振り上げる。明らかに疲労困憊な顔つきをしているが、目だけは爛々と輝いていた。昨日見たあの輝くドレス姿は幻だったのだろうか?


しかしそれよりも今ホッコから伝えられた情報にケン達は興味を掻き立てられた。


「ちょい待ち、一緒に行くってハナと王子様もかいな」

「2人は王族だろ?大丈夫なのか?」

「大丈夫も何もケンが死んだら国が滅びるのだ。行かざるを得ないだろうよ」

「私が皆だけに任せる訳ないじゃない。断っても一緒に行くからね!」


何とハナとノウも勇者の旅に同行するという。

しかしだからと言ってもケンとしては困ってしまうのだが。


「でもさ、具体的にどうすれば良い訳?勇者なんて言われても何すれば良いのかサッパリ分からないんだけど」

「それなんだけどね、半年後に勇者の国で各国の勇者達の顔合わせがあるんだって。取り敢えずそこで全員の面通しをしてから各自それぞれの判断で世界を救うための冒険に出るのが今までのやり方みたいよ」

「だからまずは半年後までに勇者の国に行くことだけを考えるべきだ。まずは到着しなければ勇者として活躍する事も出来ないのだからな」


そんな事をノウが言ってくるがケン達は疑問を感じた。

その言い方ではまるで勇者の国に行くこと自体が困難であるかのように聞こえたからだ。


「あのさノウ、もっとハッキリ言わないと伝わらないよ?」

「そうだな、ではハッキリと言おう。父上から昨日聞いたのだがな、我が国の財政は今正に危機的状況であり、昨日の立食パーティーや諸君らへの恩賞はかなりの無理をしたらしい。だから昨日の恩賞と貴族認定を以て諸君らへの支援としたいと言っていた」

「つまりこれ以上国としては支援は出来ないから、何とか自力で勇者の国まで行ってくれって事ね~」


その話を聞いて誰ともなく呟いた。


「昨日も思ったけど、やっぱり国王様ってどっかおかしいんじゃないの!?」


人に国の命運を勝手に背負わせておいて、スタート地点まで行く時点で既に丸投げだ。


文句の1つも言いたくなるが、言った所で始まらない。

ケン達は気持ちを入れ替えて旅立ちに向けて準備を開始したのだった。

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