第57話 初代勇者の物語
今よりおよそ1000年前、世界は未曽有の危機に瀕していた。
当時この世界は高度な魔法文明に支えられ、多くの国々が存在する豊かな世界であった。
たまに国家同士でのイザコザが発生する時もあったが概ね平和であり、世界中の人々はその人生を謳歌していたという。
しかしその平和は突如崩れることとなった。どこからともなく現れた魔王達の手によって世界中にモンスターと呼ばれる魔物が出現。対人戦闘のみに特化していた当時の国々の防衛体制は瞬く間に崩壊し、多くの国が滅亡。人類は絶滅の瀬戸際まで追い詰められた。
そこに神より遣わされた勇者が降臨し、その偉大なる力で持って魔王達を次々に打ち滅ぼし、世界は救われる事となる。そして勇者は人知れず消えていったが、魔王は滅ぼしても魔王達が生み出したモンスター達は生き残り、1000年経った今でも世界は幾度もモンスターの脅威に晒されていた。
そこで生き残った各国は定期的に起こるモンスターの活性化の時期に合わせ、古の勇者の伝説に習いそれぞれの国から勇者を選定し世界平和の為に活動させてきた。
世界中から名乗りを上げた勇者達はこの世界の中央に位置する勇者が建国したと伝わる国に集まり、初代勇者が使用していたと伝わる伝説の武具を授かる。
そしてその力と各国の援助により勇者達は力を発揮し、この世界はモンスターの脅威から守られて来たのである。
そして各国が選出してくる多くの新たな勇者達は更に新たな伝説を紡ぎ、世界はその伝説とともに1000年もの間発展して来たのである。
これがこの世界において最も有名な伝説である。
「という話になっているのだが、事実は異なっているのだよ」
国王のその発言により大広間にざわめきが広がっていった。
今語られた物語はこの世界の住民ならば大人から子供まで誰でも知っている物語だ。国王はそれを明確に「違う」と断定したのだ。ざわめくのも当たり前であった。
「さて、ではこれから語るのは一般には知られていない真の歴史であるのだが・・・」
「ちょっちょっとお待ち下さい国王陛下!」
声を挙げたのはこの国では珍しい大商人の1人だ。彼は焦ったように声を上げる。
「あの、これから語られる物語を我々が聞いても良いものなのでしょうか?これはどちらかと言えば勇者殿とその仲間達のみに語られるような話かと思うのですが・・・」
殊勝な事を言っているようだが彼の本心は別にある。
「このままここで話を聞いてしまったら確実に巻き込まれる」
と考えたのだ。正直自分は誰が勇者であろうとも割りとどうでも良いと考えていたので早々に引き上げようと考えたが、この国の国王は一枚上手であった。
「無論だ。物語などでは重要な話は主人公達のみが聞き、誰にも知らせずに問題を解決するというのが王道では有るが、ここは現実である。問題点は全員で共有し、そして全員が一枚岩となって解決に当たらねばならない。そうでなくてはこの国が直面している未曽有の危機はおそらく乗り切れぬ。ここに居る全ての人物は我が事態を解決するに当って「必要」だと判断した者達た。すまぬが最後まで付き合って貰うぞ」
国王陛下直々にこの様に言われてしまえばNOとは言えないし退出も出来ない。彼は明らかに気落ちした風に了承の意を伝え下がっていく。良く見れば同じ様な顔をした者達が何人も居る。彼らも感じたのだろう、その「事実」とやらがろくでもない事であるのだと。
そうして国王は再び語り出した。
そしてその内容は予想以上にろくでもない事だったのである。
今よりおよそ1000年前、この世界は高度な魔法文明に支えられ、多くの国々が存在する豊かな世界であった。
たまに国家同士でのイザコザが発生する時もあったが概ね平和であり、世界中の人々はその人生を謳歌していたという。
しかしその平和に飽きた人々はその魔導の知識を活用し、動物達を強制的に改造。モンスターと呼ばれる魔物を生み出してその戦いを最大の娯楽としていた。
しかし暫くするとモンスターの中に野生に帰るものが出始め社会問題となる。世界中の人々は手の平を返したようにモンスター達を生み出した魔法使い達を弾劾し、追い詰められた魔法使い達は自らを魔物達の生みの親であり王「魔王」と称し世界中の国々と敵対を開始した。
初めは有利に事を進めていた各国だったが、モンスター達に倒される人々が増えるに連れて権力者への不満が増大。彼らは一発逆転の策として、異世界から戦闘力の高い人物を召喚術により呼び出して、モンスター達と魔王達の始末を任せようと考え、その企みは成功した。
そうして呼び出された人物を勇者として祭り上げ、勇者の力を使ってあらゆる物と引き換えに魔王達を滅ぼした。そしてお役御免となった勇者を故郷に送還させると詐称し殺害しようとしたが失敗。
そして召喚には成功したものの、帰る方法は確立されていないと知らされた勇者は暴走。この世界の戦い方のみに特化していた当時の国々の防衛体制では、異世界の戦い方をする勇者には対応出来ずに瞬く間に対勇者の戦線は崩壊し多くの国が滅亡。この世界の人類は絶滅の瀬戸際まで追い詰められた。
その後激しい戦いの末に何とか勇者を討ち取った各国だったが更なる悲劇が襲いかかる。魔王は滅ぼしても魔王達が生み出したモンスター達は勇者が暴れている間に数を回復させ生き残り、生態系に組み込まれてしまったのだ。以来1000年経った今でも、世界は幾度もモンスターの脅威に晒され続けている。
生き残った各国は力を合わせこの危機に対抗することとなった。そしてこの悲劇を生み出した勇者召喚は世界最大の禁忌とされ、全ての資料は破棄されて今はもうその方法は誰も知らないし伝わってもいない。
そして各国は定期的に起こるモンスターの活性化の時期に合わせ、勇者の伝説を利用してそれぞれの国から強者を選定し、勇者と名付けて世界平和の為に活動させてきた。
勇者達はこの世界の中央に位置する、勇者を打ち倒したとされる場所に作られた国に集まり、初代勇者を打ち倒したとされる今となってはもう作ることも出来ない伝説の武具を授かる。そしてその力と各国の援助によって常にこの世界は滅びを免れてきたのだ。
しかし逆に言えば役に立たない勇者を出されても各国としては意味がない。よっていつからか国の代表として参加してくる勇者達の、世界に対する貢献度によってその後の世界のあり方を決めるという約定が秘密裏に作られてしまったのだった。
「要するに魔物の活性化の時期に各国が勇者を選出し、活性化が終わった時点での各勇者の世界への貢献度によってその後の各国のパワーバランスを変えようという話だ。そして皆も知っている通り、我がマール国の歴代の勇者達は殆どが満足な結果を残せずに途中で死んでいる。ハッキリ言ってしまえば今度の勇者が途中で死ぬ様なことがあればそれは国家の滅亡を意味するのだ」
「あのお父様、以前聞かされた先代国王時代の領土を失う事件って・・・」
「その通り、前回の我が国の勇者、我の兄であった者が開始早々に死亡したのが原因だ。最後まで生き残れとは言わないが、何か手柄の一つでも立ててくれればここまで追い込まれることは無かったのだがな」
そう言って国王は深い溜め息を吐き出した。仮にも血の繋がった実の兄弟に対して言う言葉ではないが、これまで散々苦労してきたのだ。恨み言の一つもぶつけたい気分であった。
「ちなみに今までの周期からするとおよそ6年後辺りから魔物の活性化現象が開始する筈だ。だからその時点から活躍出来るようにと20歳前後の人物から勇者候補を探していたのだがな、正直この国の兵士や騎士の中には目ぼしい者は居なかったのだ」
「なっ父上そんな事はありません、私もホッコも更には私が知る限りこの国の兵士や騎士達は皆誇り高く正々堂々と戦うことが出来る者達です!」
余りの物言いにノウが反論する。しかし国王である父親は息子に優しく諭すのだった。
「そんな事は知っている。お前は我が息子として実に立派に育ってくれたし、我が国の兵士や騎士の勇気に疑う所など微塵もない。しかしお前達では駄目なのだ。我が兄も歴代の我が国の勇者達も同じように勇気を持ち、人を助け、困難に立ち向かえる者達であったという。しかし結果として彼らはいつも途中で死亡し、段々と国土は削られて行き、この国は瀬戸際まで追い詰められてしまった。現在我が国には十分な人口も重要資源も存在しない。これ以上の失敗は出来ないのだ」
「それでケンなのですか?」
「そうだ、今の我が国の勇者に必要な能力は「戦闘力」でも「勇気」でも無い。
「堅実」な活躍をして無事に生き残る為の「生存力」だ。その為には勇者は兵士でも騎士でも無く行商人が相応しい。特にギイ商会のギイ会頭が世界を巡って無事に帰国したという話は有名だったのでな。その手ほどきを受けた弟子にこの国の未来を託す事にしたのだ」
そう言って国王はケンの方を向く。ケンは余りの内容に頭がパンクしそうだったが、一国の国王の鋭い眼差しに射抜かれその身を縮み上がらせた。
「行商人見習いのケンよ、突然の申し出で困惑している事は重々承知の上だ。しかしどうかこの国を救ってはくれないだろうか。
先程ノウは震えるお主を見て勇者としての役目が果たせるかと聞いた。よってハッキリと言おう、お主には勇者としての活躍など全く求めては居ない。
お主に求めることは唯1つ「我が国出身の勇者となり堅実な活躍のもと無事に生き残る事」これだけだ。
訳の分からない状況に震え、逆茂木の後ろに引っ込んで戦い、一方的に戦える状況でのみ戦果を挙げ、敵対したモンスターの生き残りを入念に始末する。そんなそなたこそが我が国の勇者として相応しいのだ」
そして国王は大広間に集まった人達に対しても目を向ける。
「そしてお主達にはケンのサポートをして貰いたい。他の国々では十分なサポートを受けた優秀な勇者達が大量に送り込まれて来るだろう。しかし我が国の財政は火の車であり、ハッキリ言ってまともな支援も出来ない状態だ。ケン以外の他の勇者を出すことも出来ず、可能な支援も最小限だが、ケンが倒れれば国が滅ぶ。そうなればこの国は他国に吸収され、この国の全員が故郷を持たない流浪の民となるだろう。それだけは避けなければならないのだ。国を預かる者としては誠に情けないことでは有るが、どうか協力をお願いする」
そう言って国王である男はその場の全員に向かって頭を下げた。それを見た参加者達は事態の深刻さを理解し、今聞いた話が現実であると実感したのだった。
そしてケンは最後の話を聞いて1つ閃いたことがあった。
だからそれを聞くことにした。
「すいません国王陛下、1つ聞いても宜しいでしょうか?」
「かまわんよ。何かね?」
「何故ハナを師匠の弟子にしたのですか?」
「先程も言ったであろう?ギイの弟子を勇者にするためだ」
「でもそれならヘイのアニキを呼びつけて勇者に任じれば済む話だった筈です。仮にも王女様であるハナを行商人の弟子にしなくてもそれで済んだ筈です」
「それは・・・」
「先程国が滅んだらこの国の全員が流浪の民になると言いましたよね。あれは王家の人間も含まれているのではありませんか?」
「!?」
「あなたは最悪の場合を考えて自分の娘に自力で生きていく力を身に着けさせようと考えた。違いますか?」
その発言にハナは口元を押さえる。そう、現在も兵士として生活し、男であるノウならば例え国が滅んでもいくらでも生きていく当ては有るだろう。
しかし女であるハナにはそれは厳しい。仮に国が滅んだ場合、残った国民が国を滅ぼした王家を恨まないとも限らないのだ。
そうなっては最早この国には居られなくなるため遠くの国へ移動して生きていかねばならない。そうなれば行商人は正にピッタリの仕事なのだ。
先程この国の王様は頭の良い方であると聞かされたばかりである。そう考えた時ケンの頭にこの考えが浮かんだのだ。そしてそれはどうやら正しかったらしい。流石のケンでもこの驚いた顔を見れば分かるのだ。
そしてその顔を見て覚悟が決まった。後から考えても何故あの場面だったのかと悩むのだが何故か決まったのだ。
「分かりました。勇者の任、受けさせて頂きます」
「何と!まことか!」
「はい、でもあくまでも無理をしない範囲で堅実にやらせて貰いますよ」
そう言ってケンはマール国の勇者となることを承諾した。
ここに新たなる勇者伝説が幕を開けたのである。
遂にケンが勇者になりました。
予定では10話位でなっている筈だったのに・・・
小説を書くという事がこれ程難しいとは思っても見ませんでした。
これからも応援宜しくお願いします。




