第54話 新たなる伝説
マール国を襲ったかつて無い規模のモンスターの大軍勢。その国家レベルの危機から既に3ヶ月が過ぎ、町や村には活気が戻りつつあった。
結局あれ以降モンスターの再発生は起きずに追加の戦闘は発生しなかった。
しかし戦いの場となったイーストの町とウエストの町そしてセンターの村は戦いの爪痕が生々しく、其処よりも更に北の村々は完膚無きまでに破壊&荒廃しており立て直すにも時間が掛かる。
またモンスターの脅威も人々の心からは払拭しきれていなかったので、取り敢えずはそれぞれの最終避難先に落ち着き、近場の村の復興を開始していた。
そんな苦しい状況下ではあったが人々には笑顔があった。
それは今回の危機的状況の際に生まれた新しい伝説のためである。
ここは国の何処かの酒場の中。
今日も1日の仕事を終えた人達が訪れ、吟遊詩人が見事な旋律に載せて新たな伝説を紡いでいた。
そこはとある山あいの村。
突如現れたモンスターの大群から逃げて来た人々は生きる為に山越えを目指す。
しかし多くの怪我人に多数の女子供、戦えない老人も多く、命からがら逃げてきた人達は村に着くなり最早精根尽き果てた。
そこに颯爽と現れたのは我が国の王女殿下。
若く、強く、美しいその女性は行商人に扮し供を引き連れ、人知れず世直しの旅を続けていたのだ。
事態を理解した王女殿下は狼狽える人々に高らかに言い放つ。
「私もこの国の王女、民を見捨てるなど考えもしません。私の支持に従いなさい。頼れる仲間達と共に必ずやモンスター達を打ち倒してみせます」
王女殿下は自らが乗ってきた馬を貸し与え、万が一の為にと王宮へ救援要請を出す。
王女殿下は自らが使っていた行商用の馬車を貸し与え、戦えない者達を山の麓の村へと逃がす。
王女殿下は自らが率先してモンスター達と戦う準備を整えていく。
それを目の当たりにした村人達や避難民達は勇気を貰い一致団結してモンスターと戦う戦士となる。
そして迫りくるモンスターの大群。
王女殿下の供の1人ケンがまずは先陣を切る。
彼は地形を利用した巧みな落石術を用いて凶悪なモンスター達を次々と屠っていく。
次に活躍するのは王女殿下直々の護衛の1人、美しきエルフのホドである。
彼女は自ら率先して狩人達を率いモンスターの群れを次々と射殺していく。
森の中で行われる彼女とマジシャン・ゴブリンとの一対一の死闘は手に汗握るものだ。
そして遂に村へと到達したモンスター達を迎え撃つのはメンバーの中で最年長、参謀であるヘイである。
彼は自らの知略で築き上げた陣地に巧みに敵を引き込み、次々とモンスター達を仕留めていく。
「飛んでくる矢を切り裂く」と言われるソード・ゴブリンも彼の槍術の前には型無しだ。
村の前には次々と死体が積み上がっていく。
誰もがこのまま勝てるだろうと考えた。
しかしここでまさかの伝説級のモンスター、キング・ゴブリンの登場である。
その怪物はホドに大怪我を負わせ、ヘイが築いた陣地を跡形もなく吹き飛ばした。
キング・ゴブリンの一撃に倒れるホド。そして王女殿下の友を思う絶叫!
観客達は手に汗握りながら早く早くと続きをせがむ。
しかしそこでもう1人の護衛ソレナが単騎でキング・ゴブリンに戦いを挑み、皆が脱出する時間を稼ぐ為に注意を引く。
その間に防衛部隊は村を脱出し、馬を巧みに操ったソレナもモンスターの囲みを振り切って村から脱出を果たす。
そして放たれるホドの大魔法!モンスター達は村ごと紅蓮の業火に包まれた!
そう、王女殿下の護衛を務めるほどの実力を持ったホドはモンスターの大群であっても一撃で仕留めるほどの魔法を会得していたのだ。しかし倒すことは可能だが周辺の被害が大きすぎるため敢えて封印していたのである。
だが相手は伝説級のモンスターであるキング・ゴブリン。
ホドは禁断の封印を解かざるを得なかったのである。
そうして彼らはモンスターの大群を倒したと考えた。しかし相手は伝説級のモンスターであるキング・ゴブリン!そうは問屋が卸さない!
何と炎の中から突撃してきたキング・ゴブリンは一撃でソレナを倒し、次は王女殿下へと狙いを定めた。
そこに立ちはだかる1人の青年。彼の名はケンと言った。
「離れろ化物!俺の女に近づくんじゃねぇ!」
そう言って彼はキング・ゴブリンに近づき首を一閃!
キング・ゴブリンの首は落ち村を襲ったモンスターの大群は全滅した。
そうして伝説級のモンスターを倒した英雄と王女殿下は熱い抱擁を交わし、
この国は見事救われたのだった。
おしまい
「とまぁそういう話が流れとるんやけど」
「全然違うじゃない!何がどうしたらそういう事になるのよ!」
「大筋では間違っていないというのが何とも・・・」
ここはギイ商会の食堂の一角、怪我が回復して久々に外の酒場に繰り出していったホドがそんな話を仕入れてきた。
あの後、とにかくここに居ては不味いという話になり、避難先である麓の村まで引き返し、避難民達と村人達は再会を果たした。そこでモンスターの大群の規模の大きさと戦いの過酷さが語られ、死者の家族は涙を流し、怪我人達は治療を受けた。
ケン達も結局ノースエンド行きの修行は不可能と判断され、あの後一行はギイ商会へと戻って来ていた。事が事だけに騎士と兵士に先導され、途中のケンの村もノースの町も素通りして首都であるサウスに直行。
そこでホドとソレナは怪我の療養を、ハナは城へと事の顛末を報告に行き、ケンとヘイはギイに詳細を報告していた。
それからは国中に詳細が知れ渡ることになり、被害の概要が分かるに連れ人々の間に動揺が走った。しかし国が大々的に追跡調査を行いこれ以上のモンスターの大移動は起きないと発表すると混乱は収まった。
それから3ヶ月、復興に向けて国は一丸となって動き出し始めた。しかしその頃には既に上記の噂が国のあちこちで流れていたのだ。
「まぁとにかく酷い事になっちまったからなぁ。皆新しい英雄が欲しかったんだろうよ」
「だからってこんな!私世直しの旅なんてしてないし!作戦もみんな兄さんが考えたものじゃないですか!」
ハナは激高するが、ヘイは肩を竦めた。
「王女殿下が何故か普通に行商人の修行をしていて、たまたま村に居合わせましたってより説得力があったんだろうよ。作戦にしても考えたのは俺だけど結局ハナの名前を使ったんだからハナが考えたって事になったんだろうさ」
「ってかアニキ、落石術ってなんですか。俺ただ他の皆さんと一緒にモンスターに向かって石を落としただけですよ?しかも丸太が消えてるし」
「坂の上から一方的に石と丸太を落として殺しましたじゃ悪役っぽいからじゃねぇの?」
「ワイなんてマジシャン・ゴブリンと死闘を演じた事になっとるで。実際は一撃やったのに。そもそも大魔法なんて使えんし封印も無いしな。ヘイもソード・ゴブリンを槍だけで倒した事になっとるしな。参謀呼ばわりやし」
「私も何故か単騎でキング・ゴブリンと戦った事になっているしな」
「結局観客の受けの良いように事実が捻じ曲げられたってことだろうよ。魔法を使えないホドが村ごと焼き尽くしたってなってるのもそうだしな。モンスター相手とは言え罠に嵌めて村ごと焼き殺しましたってよりも英雄譚っぽかったんだろうさ」
「しかも最後のキング・ゴブリンの標的が私に変更されてますよ」
「最後のセリフも微妙に混ざっとるしな!抱き合ったのは事実やけど2日後の事やしなぁ」
「なぁヘイ、その・・・あの時のセリフだが」
「あそうだ、師匠に呼ばれてたんだ。ちょっと行ってくらぁ」
そう言ってヘイは席を立って行ってしまった。それを見送るソレナは微妙な顔だ。あの時のセリフは必死だった為によく覚えていないが、救助が来た時はヘイは自分に真っ先に抱きついてきたのだ。つまり・・・と考えてソレナはブンブンと首を降った。それ以上は考えられないのだろう。周りはそれを生暖かい目で見守っていた。
暫くするとヘイが戻ってきた。後ろにはギイも一緒だ。どうやら呼ばれていたのは本当だったらしい。
「ふむ、ホド嬢にソレナ嬢、怪我の具合はどうかな?」
「お陰様で無事元通りです」
「ゆっくり休んださかいな。ちゅーかあんがとな、動けん間の面倒見てくれて」
ホドとソレナは怪我の療養をしている間はギイ商会が全面的にバックアップをしていた。それはギイが弟子達を守ってくれた者に対して筋を通したということも有るが、有名になってしまった2人を守るという理由もあったのだった。
「それは良かった。さてハナを除いたお前達4人に王城から招待状が届いている」
「招待状?」
「今回の防衛戦の功績を表彰したいのだそうだ。1月後に城の中の大広間で大々的に行うらしい」
「マジかいな!こりゃあ褒美も期待できるかな?」
「う~んどうだろう?この国貧乏だしねぇ」
「しかし宜しいのですか?私達の他にも多くの方が防衛戦には参加しているのですが」
「お前達は今回の中心人物だからな、大々的に表彰して盛り上げたいのだろう」
「師匠、招待はありがたいですが、そんな所へ着ていく服がありませんよ。それに礼儀も分かりません」
「安心しろ、今回の件を無事に生き延びた褒美としてお前達の服は仕立ててやる。礼儀も出来る限り教えてやる。まぁ気にする必要はあるまい、今回のような場合では礼儀は余り重要視されないからな」
そうして彼らは王城に招待されることになった。
そこで彼らは思いもしなかった状況へと放り込まれることになるのだが、この時はまだ誰一人としてそんな事は考えもしていなかったのである。




