第53話 マール国最大の危機
その報告はほぼ同時に城へと届けられた。
「イーストエンド先の森よりモンスターの大群が出現!現在イーストの町を目指して南下中!」
「ウエストエンドの森より大量のモンスターが出現しました。既に被害も出ています!」
マール国の最奥、イーストエンドとウエストエンドからほぼ同時にモンスターの大群が出現し、一斉に南下を開始。異変に気づいた村人達が近隣の村々に伝令を飛ばして遂に衛生都市まで到達し、そこから早馬で王都まで状況が届けられたのだ。
ちなみにノースエンドからと違い衛星都市まで伝令が届いたのは、首都からイーストエンドとウエストエンドまでは街道沿いに山がない為、村同士の連絡網が途切れなかったためだ。ノースエンドの場合は街道の途中にセンターの村だけが山間にあり別枠扱いだったので連絡が届いていなかったのである。
これに対しマール国は即座に兵士及び騎士をイースト及びウエスト各都市に派遣。イースト及びウエストの町の守備兵達は先行してモンスターの大群から逃げてきた避難民達を救助、大量の馬車を使い速やかにイースト及びウエストより北の村人達を全て避難させ、城壁の有る町での決戦の準備を始めた。
またこの非常事態に対し冒険者ギルドを含めた各ギルドに応援を要請。王都周辺に居た冒険者達はイーストとウエストの町に振り分けられ、まずは都市周辺の各村の住民達を近場の都市へ誘導。その後防衛戦に参加することとなった。
また商業ギルド及び行商人ギルドは戦闘で使用する武器防具や食料・薬の調達に奔走し、決戦前には必要十分な量を用意することが出来た。
これでどうにかなる。モンスター到達予定1日前に全ての準備が完了したマール国首脳部は気を緩めた。そこに突然更なる凶報が飛び込んできたのである。
「ノースエンド奥の森よりモンスターの大群が出現!村人達は避難をし、3日前の時点で我が国中央部の山岳地帯の村センターに到達。モンスター達の村への到達予定時刻は明日!大至急救援を求むと要請が来ています!」
その報告を聞いた際に首脳部の頭に通り過ぎたのは「無理だ」の一言だった。
助けたいのは山々だが、ここからセンターの村まで馬を飛ばしても最速で3日掛かる。武器や防具を揃えた兵士を送り込むの為にはそれ以上の時間がかかる。どう考えても時間が足りないのだ。
しかしそんな彼らの考えは次の報告で吹き飛んでしまったのだった。
「なおセンターの村にはギイ商会で行商人の修行中であるハナ王女殿下が居られるとのこと。ハナ様は「王族として民を見捨てる事などしない」と仰り、村の中で防衛の陣頭指揮を取っているとの事です!」
その報告でその場は一瞬静まり返り、次の瞬間凄まじい絶叫が響き渡った。
ハナ王女が何故か行商人の修行をしているのはこの場の全員が知っていた。しかしよりによってそんな危険地帯に居るとは考えもしていなかったのである。
とにかく王女をお助けしなければならないということになり、まずは首都とノースの町に残っていた騎士達が速度重視の最低限の装備で以て先行。そしてノースの守備兵達は総掛かりでノースより北の地域の村人達の保護に当たることになったのだった。
その手配が終わった後は原因の追求である。ギイ商会のギイ会頭が城に呼び出されたが、「行商の修行の為、ノースエンドまで往復の予定だった」との回答しか得られず、次は何故ノースエンドからのモンスターの大群の報告が来なかったのかを調べてみれば何の事はない、イーストやウエストとまでの道と違い村の連絡網が山で遮られたからという結論に落ち着いた。
結局の所マール国は平和ボケをしていたのである。有事の際の連絡網も各村に常駐する兵士も居らず、モンスター達が発生した国の最北の大森林の調査もしていなかった。これは起こるべくして起きた事態だったのである。
そして翌日、イーストとウエストの町はモンスターの大群に襲われた。それぞれ千を超えるモンスターに加え、滅多に見られない上位個体が多数という状況に兵士達は浮足立ち、最終的にモンスターの大群は無事に倒しきったものの、何人もの死者を出し、怪我人多数、街を守る城壁はボロボロという結果となった。
特にイーストの町に現れたキング・ウルフとウエストの町に現れたキング・コボルトはそれぞれが猛威を奮ってかなりの被害を出し、その討伐には冒険者ギルドのギルドマスターが対応する羽目になった。
そんな中センターの村に居るというハナ王女の生死は絶望的と考えられていた。
城壁と多数の兵士と騎士、冒険者で守られたイースト・ウエスト両街で絶大な被害を出したモンスターの大群である。おそらくは同程度の数が襲いかかっている筈のセンターの村では対処の仕様がないと考えられていたからだ。
しかしそんな状況を知らされていないハナ様救出を命じられた騎士達は諦めることなく馬を走らせ続けていた。途中立ち寄った村ではモンスターの大群が来ているという連絡がやっと届いたばかりなのか、今頃になって避難が開始されていた。
またセンターの村の1つ前の村には多数の村人達が避難していた。どうやらハナ様は怪我人や戦えない者達は先に逃し、残った者達だけで防衛線を築かれたらしい。
今回救出に赴いた騎士の中には兵士として訓練をしていたハナ様を見知っている者も多数おり、あのハナ様がこんな立派な事をと不覚にも涙が込み上げている者もいた。
そうして日が沈む頃、騎士達はセンターの村を目指し山を登っていた。村人や避難民の話では2日前にセンターの村の辺りで大規模な煙と炎が見て取れたという。それからセンターの村に残った者達は誰一人としてこの村には辿り着いていないという。
たとえ生存が絶望的でも現状を把握するためには行かねばならない。また万が一生きていた場合も同様だ。モンスターに襲われて生きているという状況は特に女性では最悪の状況であるが、それを確認するのもまた任務なのだ。
そうして彼らは遂にセンターの村へと辿り着いた。
そして彼らは見たのだ。完全に焼け焦げて廃墟のようになってしまった村と、そこで山のような魔石や戦利品と共に夕餉を囲みながら救助を待っていた村人と避難民と護衛と行商人と王女殿下を。
魔物の大群の親玉であったであろうキング・ゴブリンが死んだことを確認した後、ケン達はセンターの村の中へと戻って来た。
そこは正に地獄であった。数百を超えるモンスターが炎に殺られて倒れている。黒く炭化したもの、焼け爛れたものが大多数で、僅かに生き残っていたモンスター達も最早死を待つばかりの状態である。
しかしケン達はその倒れているモンスター達を一体ずつ冷静に仕留めていった。
先程のキング・ゴブリンの最後の抵抗が頭から離れずに、とにかく確実な死をモンスター達に与えようとしたのだ。今回は作戦が上手く行っただけで油断すればこちらが死ぬことは十分にあり得る話だからである。
そして村の中に侵入したモンスター達を完璧に殺し尽くした後は、村の外の街道に倒れているモンスター達を一体ずつ突いていった。殆どのモンスターは死んでいたが、よく見れば急所を外れて生き残っている者も結構な数が存在したためだ。
村の外の街道に居たモンスターの生き残りを全滅させ、その後坂を下って同様の行為を行おうとしたがそこで太陽が沈み掛けていることに気づいた。
夜間にモンスターの群れと戦うなど愚行でしか無い。彼らは急いで村に戻り、行商人達のアイテムボックスに入れてあった逆茂木で一応周囲を囲い、焼け残った木材を掻き集めて焚き火を起こし、避難させておいた食料を持って来て食事を開始した。
その間ほとんどの人が無言であった。キング・ゴブリンを倒し取り敢えずの危機は去った。しかしこれから先、更なるモンスターの増援が来る可能性もあるため全く油断が出来ないのだ。
結局その日は食事の後は交代で寝ることになった。なお見張りは通常よりも大量に配置した。ここまでやって死ぬのはゴメンだからだ。
翌日は朝日が登りきる前の薄暗い時間から作業は開始された。
今回は村の中で死体を片付ける係と、村の外の坂でモンスターの始末をする係に分け作業を開始。ちなみに怪我人は全員村の中で待機となった。
実際に坂まで行ってみると怪我だけして動けないで生きていたモンスターがかなりの数存在していた。その為速やかに始末を繰り返し、坂の上から下まで生きているモンスターは1匹も存在しなくなった。
そしてその後はモンスターの「処理」である。体を開いて魔石を取り出し、使える持ち物は全て回収する。ゴブリンとコボルトには使える部位は存在しないが、ウルフの毛皮は売れ、肉は食えるのだ。
そして人型であるゴブリンとコボルトからは持っている武器や着ていた防具を剥ぎ取っていく。途中何度か休憩を挟みながらモンスターからの戦利品を黙々と集め死体は纏めて焼いていく。
残酷なようだがこれも生存競争なのだ。それにこの戦利品はこの後の村の復興の資金に変わるため誰一人文句を言う者は居ない。
良く見ればモンスター達が武器としていた物の中には明らかに農具である物も存在した。実際見ては居ないがここから北の村々も酷い事になっている筈なのだ。金は幾らあっても足りないのである。
結局その作業に丸2日を費やし、全てのモンスターの処理が完了したのはキング・ゴブリンが倒された日から2日後の夕方だった。そして同じように焚き火が炊かれ、食事が作られた。初日とは違いメインは新鮮なウルフの肉であった。
そうして日が沈む頃に交代で夕食を取っていると、南から騎士が来たと見張りの1人が知らせてきた。
全員持ち場を離れて南口に集まってくる。そこには急いで来たのであろう鎧も着ずに剣だけを持った騎士十数人が存在した。
その姿を見た瞬間に一同は助かったと安堵し声を挙げて泣いた。ケンはハナと抱き合い、ヘイは怪我をして寝ていたソレナを抱きしめた。ホドも加わりたかったが怪我をしているためソレナと同様寝ていた。そこにケン達が突撃して来て痛みに絶叫を挙げたのだった。
こうしてマール国最大の危機、モンスターの大群の襲来は幕を閉じたのだった。
王女殿下とそのお付き達が残した伝説を手土産にして。




