第52話 センターの村防衛戦 その3
そしてキング・ゴブリンは遂にセンターの村へと侵入を果たした。ここには今までの村とは違い自分に逆らおうとする人間達が多数存在し、連れて来た配下はかなりの数が減ってしまった。
剣を使って獲物を素早く切っていた3匹は槍に貫かれ、魔法を使えた奴は林の中で射殺された。並よりマシな奴らも後2匹しか残っていない。しかし十分だった。自分が居さえすれば残っている人間は殺せるし、減った連中も暫くすれば勝手に増えるからだ。
今回は今迄と違い中々楽しかったと考えながら村に入ったキング・ゴブリンは村の中が何かおかしい事に気づいた。村の作りも広さも今まで通ってきた村と対して違わない。違うのは回りを囲っている柵位だと思っていたが、この村には村中至る所に木や枯れ草が散乱しており、しかも足元がつるつる滑るのだ。
自分が入った直後に配下のモンスター達もこの村へと雪崩込んでいる。勿論生存者を見つけるためだ。男は食べて女は犯す。その為だったがどうもここにも今迄と同様誰一人として人間は残っていないらしい。
ガッカリしながらしかしキング・ゴブリンは気を取り直し、先程殺し損ねた人間達を追いかけようと気持ちを切り替えた。あの群れの中には何匹か女も見えた。追いかけるには十分な理由だ。そろそろ日が沈むが頑張れば追い付くだろう。
キング・ゴブリンは配下の者達に追撃を命じようとした。
すると後ろから何か音が聞こえる事に気がついた。
それは何度か聞いたことが有る馬の足音であった。しかし自分の後ろには人間は誰も居なかった筈だと考えながら後ろを向くと、馬に乗った女がこちらに向かって突撃してくる所だった。
キング・ゴブリンは歓喜した。獲物がワザワザ出向いてくれたのだ。後ろに方向転換しようとした所で女は逆の方向に馬を走らせてキング・ゴブリンの横を通過した。そして通過する際になにやらヌメヌメする液体の入った壺を自分にぶつけて来たのだ。
その女はそのまま馬を走らせ、村の中の少し高くなっている場所から馬と一緒に柵を飛び越えて、柵の向こうへと走り去ってしまった。キング・ゴブリンはもう一度誰か来ないかと今入ってきた入口を見た。すると先程壊した筈の入り口に、また先程と同じトゲ付きの柵があるのに気づいた。
キング・ゴブリンはここで初めて「何か変だ」と感じた。しかし彼はそのことについてそれ以上考える事は出来なかった。村をぐるりと囲んだ柵の外側、そこから投げ込まれた松明が村中にばら撒かれた油と木と枯れ草に燃え移り、村に入り込んでいたモンスター達を一網打尽に焼き殺そうと迫って来たからである。
「この馬鹿野郎!!!!」
ヘイは物凄い剣幕でソレナを怒鳴り散らした。ここは村の南側の街道沿いの一角、今迄村で戦っていた村人達は全員この場まで退却し燃える村を眺めていた。
「作戦その4」は村の中にモンスター達を誘き寄せ、油と木と枯れ草をばらまいた村の中で一気に焼き殺そうと云うものだった。勿論そんなことをすれば村は壊滅だ。しかしそうでもしなければモンスターの大群には対処出来ないというヘイの意見に押され準備だけはしていたのだ。
しかし蓋を開けてみればモンスター達の数はこちらの想定を遥かに超え、想像以上に多くの上位個体が存在し、更には伝説級のモンスターであるキング・ゴブリンも現れた。そして次々と作戦が突破されて行き、村の入口がキング・ゴブリンの手で吹き飛ばされた時、村人達はセンターの村を捨てることを決断したのだった。
ケン達は負傷者を出しながらもどうにか村を脱出。そして万が一モンスターが村の外に出ないようにと北の出入り口にフタをする役目をこの場で最も馬の扱いに長けていたソレナが担当していた。
ソレナは村の中の戦いには参加せず村の横辺りで待機しており、人間全員が外に出てモンスター全部が中に入ったのを見計らってから村の北の出入り口を逆茂木で封鎖する役目を担っていた。
それだけだったのだ。
誰もキング・ゴブリンに油を掛けてこいとは言っていないのである。
「上手く行ったから良かった様なものの、失敗してとっ捕まっていたら作戦が水の泡だったんだぞ!」
「しかしこれならより確実に奴を倒せるではないか!」
「物には限度ってものがあるんだよ!お前が中に残った状態で俺たちが火を付けられると思ってたのか!ハナは泣いて止めた筈だぞ!もう少し周りの感情を考慮して行動しろ!」
ソレナは今回の作戦でずっと馬と一緒に待機をしていた。勿論これが重要な任務であるとは理解していた。だからちゃんとモンスター達が村に入ったことを確認してから村の入口を封鎖したのだ。
しかし同時にこれだけしかやっていないとも感じていた。最初の作戦その1はケンがその2はホドが担当し、かなりの戦果を上げたと聞く。そしてその3ではヘイも自ら槍を持って最前線で戦っていたのだ。
自分だけが馬を駆って入り口を塞ぐ仕事だというのはあんまりでは無いか。
そう考えた結果ソレナはキング・ゴブリンに対する単騎駆けを行うに至ったのだ。
それを説明してもヘイの怒りは収まらなかった。今迄大丈夫だと思っていたが、ソレナはまだ自分の実力が分かっていない。自分が冒険者ランクでは未だにEランクである理由が全くもって分かっていないのだ。
これは本気で矯正するしか無いのかもしれないと考えていた所に「ドオン」と凄まじい音が響き渡った。
一体何事だとケン達は浮足立つ。どうやらその音は村の方から聞こえてきているという事で皆でそちらに目を向けると、村の南の入口を封鎖するために作った大きめのバリケードが不自然に歪んでいた。
ちなみに火を付けてからは煙が凄く、外部からは村の中の様子は確認できていない。
ここで皆「まさか」と考えた。いくら何でもあの状況で生きている訳がないと思ったのだ。しかし直ぐにもう一度音がして更にバリケードは歪みだした。それは内部から力が加えられた歪み方だったので全員その場で現実を理解した。
「あの野郎まだ生きてやがる」
「ちょっ、どうすんですかアニキ。次の作戦は?」
「ねぇよ」
「は?」
「作戦はその4までで打ち止めだ。これで倒せないとか考えもしてなかったんだよ!」
「じゃあどうするのよ兄さん!」
「後は直接対決か戦わずに逃げるかだな。もうすぐ日が沈む。いくら奴でも暗闇の中で俺達は追えない筈だ。ゴブリンは夜目が効かないからな」
そして結論が出る前に事態は動く。門が内側から破壊され、キング・ゴブリンが燃え盛る村の中から出て来たのだ。
しかしそれは無残な状態であった。
持っていた斧は炭化し、体中はひどい火傷に覆われており、右目が存在していない。
そして門から出た瞬間にその場で倒れ伏した。それからピクリとも動かない。
「死んだ?」
「いや分からん。全員動くなよ」
そう言って全員がキング・ゴブリンの動向を注意していた。
一行は誰一人動かなかった。動いたのはその場に居た人間以外の生物だった。
「ブルルルル」
「おっおいどうした?」
ソレナが乗っていた馬が急に暴れだしたのである。
とは言っても木に繋いでおり動こうと思っても動けないのだが。
その馬に先程まで乗っていたソレナが馬を落ち着かせようと近づく。
しかし馬に触れることは出来なかった。
「ソレナ!」
「何だへ・・ガッ!?」
そう言ってソレナが吹き飛んでいく。吹き飛んだ理由はキング・ゴブリンの攻撃の余波を食らったからだ。そう余波である。キング・ゴブリンは突然起き上がり、斧を手離して馬に向かって突撃してドロップキックを浴びせた。結果馬は潰れ、繋いでいた木は吹き飛び、馬に近づいていたソレナも衝撃波で吹き飛んだのだった。
そしてボロボロのキング・ゴブリンは倒れたソレナにゆっくりと向かって行く。
そして近くまで行くと突然腰に巻いていたボロ布を脱ぎ捨てた。
「あ?」
「え?あっ大変!ソレナ逃げて!」
どうやらキング・ゴブリンは正気を失っているらしい。地面に倒れ動けないソレナに組み付き事をなそうとしているようだ。それに気づいた村人達が一斉にキング・ゴブリンに対して矢を浴びせ槍で突いていく。しかしキング・ゴブリンはびくともしない、ソレナは激しく抵抗した。
「離せ離せこの化物が!」
「ソレナ!オイテメェ!俺の女から離れろ!」
「この!この!なんでビクともしないの!」
どれだけ矢を射掛け槍で突こうともキング・ゴブリンには効果が無く、抵抗むなしくソレナの鎧も服も引き千切られた。
そして今正にそれはソレナに対して突き入れられようとしていたのだが、しかしそこにケンが現れ何かをした瞬間にキング・ゴブリンのそれは地面に落ち、キング・ゴブリンの絶叫が辺り一帯に響き渡った。
「ギャアアアーーーーーーーーアアアァァァ」
最後は何となく切ない感じの声になっていったキング・ゴブリンは地面を激しく転がり始める。しかしケンはその進行方向に回り込み逆茂木をアイテムボックスから出して行った。
「ギャアアア・・・・アアア!!!」
回転する勢いのまま逆茂木に突撃したキング・ゴブリンはその尖った杭に深々と突き刺さり大量の血が流れ出す。しかしケンは容赦せず更に逆茂木を出し続け、キング・ゴブリンを逆茂木で完全に包囲した。
それはいつかの初陣の際、ギイとヘイがケンと戦ったゴブリンに対して行なった状況と良く似ていた。
そして仰向けになり完全に動けなくなったキング・ゴブリンに対して再びケンは近づくと、首筋の少し上に手を突き出してキング・ゴブリンの首の血管を切断した。
それは黒く炭化した斧であった。ケンは皆の攻撃がキング・ゴブリンに効かないと分かるやいなやキング・ゴブリンが落としていた斧に近づいてアイテムボックスに収納し、まずはむき出しの弱点を切断。更に動きを止めた所で、キング・ゴブリンが丁度仰向けになって首を狙える位置に来たので斧を空中に出現させて落下させ、首の血管を切断したのだ。
そして首の血管を切れば勢い良く血が吹き出る。ケンもソレナも周囲にいた村人達も血まみれになりながらも決してキング・ゴブリンからは目を離さない。
暫くするとキング・ゴブリンは動かなくなった。槍で突き剣を突き刺しても反応はなくなり、最終的に息を確認し脈まで見た。
完全に死んでいた。
センターの村防衛戦はこの時を持って終了したのだった。




