第51話 センターの村防衛戦 その2
ホドは今、村の北の街道沿いの森の中に各村に住んでいた狩人達と共に潜んでいた。
今回も坂の上から攻撃をした作戦その1と同じくモンスターの数を減らすのが目的である。ケンが作戦その1を終了し、作戦その2の発動を告げて逃げ出してからホドは街道にモンスターが集まるのを待っていた。
村の北の街道はその両側を森で覆われており、その先が見晴らしの良いつづら折りの坂だ。坂を登ってきたモンスター達は森の中が見づらく、逆に森の中からは街道がよく見えた。
そして今ホドの前には罠にハマってもがいているモンスターの群れを見ることが出来た。
作戦その2の仕掛けは単純な罠だ。街道に落とし穴を掘り、ツタで作ったロープを大量に張り巡らし、そこに足を引っ掛けて転んだモンスターを射殺すというものだ。
良く見れば分かる罠であるので普段なら引っかからないだろう。しかし大群で攻めて来て、後ろがつかえている状況ではこういった単純な罠が凶悪な罠に変貌するのだ。
そして現在街道では予想以上の事態が起きていた。坂を登りきった勢いそのままで街道を突き進んだのだろう、モンスター達は次々に罠にかかり初めに罠に掛かったモンスターを後続が踏み潰し、更にその先の罠に掛かったモンスターを踏み潰すというとんでもない状況が発生しており、まるで地獄の様な有様であった。
しかし流石にモンスターといえど現状を理解したのか、今は罠に掛からないようにゆっくりと進んでいた。そしてそれはホド達狩人にとっては絶好の機会であった。
「おおうっ予想以上に凶悪な罠やったなぁ。んじゃまぁ可能な限り殺りますかい!」
そう言ってホドは森の中から次々とモンスターを射殺していく。他の狩人達もホドの第1射の後はとにかく打ちまくっていた。なにしろ街道に密集状態で居るために射れば当たるのだ。そして普段から森の中で狩りをしている狩人達にとってはこの様な森の中でも十分に射線が取れるのである。
結果モンスター達はバタバタと倒れていき、ホド達は場所を移動しながら攻撃を続けていった。ちなみに弓矢の利点として遠距離攻撃が挙げられるが、同時に欠点として矢を打ち尽くすと無力になるというものがある。
しかし今回は森の中に予め矢を分散して置いておき、各自矢が尽きたら補充しながら攻撃をするようにしていたため、ホド達はかなりの数のモンスターを始末していくことが出来た。
これはこのまま行けるのではないか?とホドは考え始めていたが、そこで突如街道を挟んだ向かい側の森から笛の音が聞こえてきた。
それは街道を挟んだ向かい側の森に潜んで同じ様に狩りをしていた別の狩人達からの退却の合図であった。どうやら向こうでは何やら起きたらしい。そしてこちらでもそれは起こった。上から火の玉が降ってきたのである。
それは誰もいない場所へと着弾したが、その勢いは中々の物であり、当たればヤバイということはその場の狩人全員が理解した。
そしてホドは見た、ケンが報告していたエリート・ゴブリン達に加えてローブを着て杖を持ったゴブリンが林の中へと進んできたのだ。ホドは村から森へと移動する前にヘイに聞かされた話を思い出していた。
最初に伝令からその報告を聞いた時、ヘイは間違いではないかと伝令に詰め寄った。しかし伝令自身も同じ物を目撃していた為に間違いないと念を押していた。
「まじかよ、ソード・ゴブリンにマジシャン・ゴブリン、さらにキング・ゴブリンだと・・・」
ゴブリンには幾つか上位個体が存在しており、6年前にケンの村を襲ったのはエリート・ゴブリンだった。ソード・ゴブリンとはエリートが近接武器の扱いに長けた存在で、マジシャン・ゴブリンとは魔法を使えるゴブリンのことである。そしてキング・ゴブリンとは文字通りゴブリンの王様と言われている危険モンスターであり、本来は国が対応する様な凶悪モンスターであった。
そしてヘイはその場に居た全ての人物にこれらの危険性を伝え、可能なら倒して貰いたいが普通にやっても無理だから基本は罠に嵌めて倒そうと提案していた。
そしてそれに異を唱える者など誰も居なかった。ゴブリンとは世界中に存在する尤も馴染み深いモンスターであるためその上位個体についても広く知られており、同時に危険性も正しく伝わっていたからだ。
「で、ワイの前にはその内のマジシャンがおると。う~んどうしよか?」
ホドは迷っていた。相手は魔法を使えると言ってもゴブリンだ。しかもここは自分のホームである森の中だ。一対一なら負けないだろう。しかしエリート・ゴブリンが邪魔だ。ホドはDランクの冒険者であったが、決して無理はしない戦いをして来た。でなければ1人で狩人など続けていられなかったからだ。
だから今回は無理せずに撤退しようとしたのだが、他の狩人はやる気であったのだった。
「ホド殿、我々でエリート・ゴブリンを惹き付けます。あなたはあのマジシャン・ゴブリンをお願いしたい」
「分かった。しかしええのか?ワイが一番の首をもろうて」
「王女殿下の護衛を務めている方だからこそ一番の強敵を任せるのです。ではこれで」
そう言って狩人達はエリート・ゴブリンを惹き付けるべく矢を射っていく。それを見ながらホドは苦笑した。ホドとソレナはヘイに護衛と紹介されてから何故か「王女殿下の護衛」として村人達に見られるようになり、強者として認識されていたのだ。
王女殿下の護衛と言えば国の騎士の中でも最強クラスが着く栄誉ある役職だ。当然ホドもソレナも違うのだが、ヘイからは「都合がいいからそのままでいろ」と言われて結果作戦の隊長までやることになってしまった。
そして狩人達によってエリート・ゴブリンは惹き付けられ、ホドとマジシャン・ゴブリンの間には遮るものは何も無くなった。
ホドは矢を構え気配を探る。ホドはクオーター・エルフで有るが故に魔法の才能には恵まれてはいない。しかし婆様と母様から手ほどきを受け一つの魔法を使うことが出来た。
それは風を使った周囲の気配を察知する魔法。このような視界の悪い森の中の狙撃戦では打って付けの魔法である。
普段は広範囲に広げている索敵範囲をマジシャン・ゴブリンにのみ集中する。そうすることで対象の一挙手一投足まで察知することが可能だ。勿論普段はこんなことはしない。集中している間に他の獲物が襲い掛かってくる場合だってあるからだ。
ホドは多少ナイフの心得はあるが接近戦は苦手だ。
近づかせないで仕留めるのがホドの戦闘スタイルであった。
対象は獲物を探してキョロキョロしている。
対象はホドを認識していない。
対象は敵はエリート・ゴブリン達と戦っている狩人達だけだと考えたのか横を向いて斜めを向いてホドが居る場所は死角となった。
ホドは矢を射った。
その矢は一直線に頭部に突き刺さり、マジシャン・ゴブリンはここに倒れた。
一瞬で全く警戒していなかった方向から飛んできた矢にマジシャン・ゴブリンが射抜かれてエリート・ゴブリン達は混乱した。そしてその混乱を見逃さずホドと狩人達はエリート・ゴブリン達を全滅させる。しかしエリート・ゴブリンの最後の1匹は死ぬ直前に最後の力を振り絞り絶叫を挙げた。
「ギギャアアアアアアーーーー!!!!」
その声が聞こえたのだろう街道に居たゴブリン達がにわかに騒がしくなり、その奥から剣を持ったゴブリンがこちらに向かってくるのが見えた。
「やばっあれはソード・ゴブリンや。仕事は終わりや、全員退却すんで」
ホドは即座に敵の正体を見抜き退却の笛を鳴らす。おそらく向かいの森に居た狩人達も奴らが来たために退却したのだろう。遠距離攻撃専門の狩人にとって「飛んでくる矢を切り裂く」と言われるソード・ゴブリンの剣技は天敵だ。皆それは分かっているので即座に退却を決行。そのまま村まで一気に走りきり門の中へと入っていった。
「ご苦労さんホド。全員無事か?」
「お陰様でな。森の中でエリート・ゴブリン数匹とマジシャン・ゴブリンを倒したで」
「そうか、よくやった。・・・ちなみに反対側に行った狩人達は2人がソード・ゴブリンに殺られて死んだよ。無事で何よりだ」
「本気かいな、クソッタレが・・・」
ホド達が何とか無事に村まで到着するとそこは暗い雰囲気に包まれていた。今まではどうにか死者を出さずにやってこれたが、やはり死人が出ると訓練していない村人達は途端に士気が落ちる。
それを分かっているのだろう、ヘイが高らかにホド達の戦果を報告している。特にマジシャン・ゴブリンを倒せたのは相当にデカイ。これで敵には直接攻撃しか手の打ち様が無くなったからだ。
敵に魔法使いが居なくなったと聞いた村人達はどうにか士気を回復させた。そこでヘイは素早く「作戦その3」の開始を告げる。村人達は速やかに武器を取り、あらかじめ指定されていた地点へと移動していった。
そうこうしている内にモンスター達は遂にセンターの村へと到達した。しかし彼らはそこで立ち止まらざるを得なかった。そこには普通の村では考えられないほどの防備がされていたからである。
村の周囲は柵と逆茂木で二重にグルっと囲まれており、その間には藁やら細かい木やらが大量に積まれていた。入り口は空いてはいるが手前に丸太が横倒しにされて即席のバリケードとなっており、入り口にも逆茂木が設置されそこでは村人達が槍を構えている。入口付近の家の屋根には物見櫓が急造されており、そこでは帰ってきたばかりの狩人達が弓を構えていた。
そして後ろから押され、村の入口に到達したモンスター達は次々と射殺されていった。狩人部隊だけでなく、ケンや普通の村人達も柵の隙間から矢を射っているのである。なにしろ敵はドンドン来るしここしか来る場所が無いからバンバン当たるのだ。ケンはホドに弓を習っておいて良かったと心の底から思っていた。
そして矢の雨を掻い潜ってもそこにはヘイを始めとした村人達が作り上げた槍衾が存在した。他の場所は柵に囲まれて居るために結局モンスター達は空いている正面に来る。しかしここはそう簡単には突破は出来ない。ギイ商会の代名詞で有る逆茂木をギイの直属の弟子3名が中心となって3日間で作りまくっていたのだ。その凶悪さは既に折り紙付きなのである。数が居ようとどうにも出来ないのだ。
ソード・ゴブリンも襲ってきたがその剣技を持ってしてもこの槍衾は突破出来なかった。いくら飛んで来る矢を切り裂けるとは言っても持っている剣は一本だけなのだ。結局襲ってきていたモンスターの大群と同じ理屈である。数は力だったのだ。ソード・ゴブリン達は次々と槍衾の前に倒れていった。
本来ならここで終わる筈だった。村を完全に囲い、ワザと正面を空けておき、そこに殺到したモンスターを殺戮する「作戦その3」は地味だが非常に有効な作戦だった。
正直このバリケードを突破するためには強力な遠距離攻撃が必要だからだ。そして今回の敵にはアーチャー・ゴブリンは居らず、マジシャン・ゴブリンはホドが仕留めた。しかしヘイの建てた作戦がモンスターに効果的だったように、モンスターもまたこちらの考えの外から攻撃を仕掛けてきたのだ。
モンスター達の後ろに一際大きな巨体が現れた。ケンからの報告にあったキング・ゴブリンだろう。それはどこから調達したのか成人男性でも持ち上げるだけで精一杯であろう巨大な斧を持っており、そしてもう片方の手には丸太を持っていた。
「丸太?」とヘイは首を傾げた。あの丸太はおそらくケン達が坂から落とした丸太の内の一本であろうことは分かった。しかしそれを何故この場に持ってきたのかが良く分からなかった。
キング・ゴブリンは村の前の戦いの様子を見てニヤリと笑みを浮かべた。
キング・ゴブリンは持って来た丸太を片手で持ち上げた。
キング・ゴブリンはそれを投擲してきた。
それは柵を超え、回転しながら突き進み、物見櫓へとぶつかって物見櫓を粉砕したのだった。
「ホドーーーーー!!!!」
それを見たハナが悲鳴を挙げる。回りの村人達は声もない。余りに理不尽な状況に思考が付いていかないのだ。
キング・ゴブリンはニタリと笑いそのまま他のモンスター達を弾き飛ばしながらこちらへと向かってくる。その時ヘイは気付いた。入口の前にはバリケード代わりにもう一本丸太を横たえているのだ。
「ヤバイヤバイ!全員退却準備!作戦その4を発動する!」
「待って下さいアニキ!まだホドが!」
「分かってる!ケン、ハナ、急いで救出しろ!」
「でも瓦礫が!あんなに埋まって!」
「アイテムボックスを使え!一度中身を全部出して片っ端から収納と排出を繰り返せば直ぐに掘り出せる!」
「「分かりました!!」」
王女殿下への口調を完全に忘れているが無理もない。あんなものを食らってはこのようなバリケードなど一撃で吹き飛んでしまうからだ。
ケンとハナは急いで物見櫓跡地に向かい、アイテムボックスの中の逆茂木を全て出してから手元の瓦礫を一瞬で収納し、すぐ横に排出を繰り返した。そうしている内に瓦礫の中からホドや他の狩人達の姿が見えてきた。誰も彼も怪我を負ってはいるがどうやら死者は居ないらしい。
「ホド!ホド無事?生きてる?死んでる?返事して!」
「死んだら返事は出来んやんか・・・あっ痛ーー痛い!痛いということは生きとるで」
「姫様、こちらも全員無事です!」
「ああっ良かった!本当に良かった!」
「嬉しがるのは後だハナ!逆茂木を収納して!全員村から脱出!作戦その4を行います!」
ケンの言葉に全員に衝撃が走る。「作戦その4」は今回の作戦の中で尤も効果的だと思われるがこちらの被害も大きいものだからだ。それを使うということはそれ程に切羽詰まっている状況ということか。
そうこうしている内に入り口で戦っていたヘイと村人達が蜘蛛の子を散らす様に一斉に逃げ始めた。何事だと思って見ると入り口に丸太が突き刺さり、そこに設置してあった逆茂木を殺到していたモンスターごとふっ飛ばしていた。
つまりこの時点で「作戦その3」は破綻したのだ。ケン達は怪我人を背負い「障害物」を避けながら南側の村の出口へと向かって駆け出した。
ケン達が村から脱出し暫くすると、センターの村にキング・ゴブリンが侵入を果たした。




