第50話 センターの村防衛戦 その1
今回で遂に50話目です。
応援宜しくお願いします。
村に到着してから今日で4日目、太陽が中天に指す頃に遂にモンスターの大群が視界に入ってきた。
4日前の話し合いの後、すぐに馬の扱いに長けた村人2人が選抜され伝令役としてノースの町へと出発した。問題がなければ今頃は既にノースの町へと到着している筈だ。
しかしそこから準備をして救援を送っても直ぐには到着しない。
馬を使っても片道3日は掛かる距離なのだ。どんなに早くてもまだ途中だろう。
そして翌日には怪我人・女性に子供・老人は馬車に乗せられて隣村へと出発していった。何人かは残りたいと志願したが、ここに居ても足手纏いでしか無い。彼らは最終的に王女殿下であるハナの一言で納得し、センターの村に残ったのは元気な男性陣と多少の女性陣だけであった。
そして残ったメンバーは木を切り倒し、柵を設け、武器をかき集めて罠を張りモンスター襲来に備えた準備をしていた。ここで抑えなければ山を降りた先の村々をモンスター達は襲うだろうし、気力も体力も限界だ。正直これ以上は逃げ切れない。
またここの地形はこの国で唯一と言っていい程に大群を迎え撃つのに適していたのだ。でなければハナが居た所で迷わず逃げていただろう。
「それにしても、師匠に散々仕込まれた逆茂木作りがこんな所で役に立つとは」
そう言いながら高速で逆茂木を作っているのはケンである。昨日まではヘイとハナも同じ様に逆茂木を作りまくっていたのだが、ハナはこの集団のトップになり、ヘイは参謀役として収まった。今は最後の作戦会議中だ。作業をしている暇はないのである。ちなみにホドとソレナは2人の護衛として付き従っている。
4日前の会議の翌日に、ヘイは自分達が行商人である事とハナは王女で間違いないが、兵士も騎士も帯同して居ないことを村人全員の前で説明した。そしてここでモンスターを迎え撃つ事とその指揮をハナが行う事も説明し、村人達に協力を求めた。
村人達は最初は混乱したものの、怪我人や戦えない者達を連れてこれ以上逃げ続けるのは不可能であるということも理解していたため、渋々ではあるが作戦に賛成。そして自分達を見捨てずに怪我人や戦えない者達を先に逃し、陣頭に立ってモンスターを迎え撃つ準備をしているハナ王女に感化され、今では村人達は一つの集団として纏まっていた。
勿論ケン達はハナが無理をしているのは分かっていた。しかしそうせざるをえないことも会議の後にヘイから説明を受けていたのである。
「無理です兄さん!私に村人達を率いるなんて出来ませんよ!」
「その通りだヘイ、ここはきちんと説明して逃げさせて戴こう」
「だからそれはもう無理なんだよ」
ケン達一行は宿泊先の宿屋の部屋で先程の会議について話し合っていた。ハナが先頭に立ってモンスターの軍団と戦うという結論になったが、それは無理だとヘイを除く全員が訴えていた。
「いいか、既にハナが王女だってことは村人達にバレちまってるんだ。これからはこの村にいる限り常に監視されている状態になると思え。そんな状態で逃げようとしたら「王女殿下に見捨てられた!」って村人達は考えるだろう。そうなっちまったら俺らはとっ捕まって最悪袋叩きだ。俺らが生き延びるためにはこの場でモンスターと戦う以外ねぇんだよ」
「でもアニキ、村人達と一緒に逃げれば!」
ケンがヘイに提案するが、ヘイは首を振って駄目出しをした。
「それも無理だ。話を聞いたが半数は戦えない状態だ。しかも馬車が足りてないから移動速度も遅い。これじゃあ最悪前の村に着く前に追いつかれちまう。よしんば到着できたとしてもだだっ広い平原でモンスターの大群に襲われたら禄に戦えもせずに俺達も村人達も全滅する。でもここなら、この山間の道幅が狭い地形でなら少数でも大群相手に戦えるんだ。」
「でもそれでも厳しいで。ワイらだけでモンスターの大群なんて相手出来へんで」
「別に相手を全滅させるとかそういう戦いじゃねぇ、あくまでも俺らが生き延びればそれでいい。相手が引き返してくれてもいいし、やばくなったら逃げればいい。ここらは山が広がっているから逃げ道は幾らでもある。戦って勝てればそれに越した事はねぇがな、取り敢えず戦ってみてやばくなったから逃げるってんなら村人達も文句は言わねぇさ。」
「理想を言えば俺達だけでモンスターを撃退。駄目なら救援を待って持久戦、それも無理そうなら山の中へ撤退戦だ。ちなみにこれらの方が今から逃げた場合よりも生存率は高いからな」
そうヘイは説明するが、ハナはそれでも無理だと言った。
「でも私はそもそも人を率いて戦った事なんてありませんよ」
「そんなの俺だってねえよ。村人の中にも居ないって話だ。だからニワカ知識であろうとも多少は分かっている俺らが率いた方が上手くいくのさ。ハナとソレナは兵士として訓練を受けているし、ホドには狩人としての経験がある。俺にも行商人として世界を巡った経験があるし師匠から教えられた知識もある。ぶっちゃけこれだけで普通の村人よりも役に立つ筈だ」
「いいかハナ、お前に求めているのは戦闘力でも知識でもない。王族として村人を纏めてくれさえすればいい。交渉や作戦は俺が担当する。
ソレナとホドはハナを優先的に守っていざとなれば俺らを置いてでも師匠の元に送り届けろ。
ケン、悪いがこの状況ではお前を側に置いて守ることは出来ない。本当ならいつか番頭がやってくれたようにお前は俺が助けてやりてぇがその余裕がねぇ。だからお前の身はお前自身で守れ。大丈夫だ、余程無茶をしない限り生き残ることに関してはギイ商会の行商人は並の兵士より優れているからな」
そう言ってヘイはケンの頭をワシワシと撫でた。
ヘイとしては一番初めに出来た弟弟子であるケンは出来ることなら守ってやりたい。しかしこの状況下ではどうしても王女殿下であるハナや他の非戦闘民を優先しなければならないのだ。
そしてケンもそれについては理解していた。これまでの行商の最中にもいざという時はハナを優先して守ることは話し合われて来ていたのだ。今回が偶々その状況であったというだけの話だ。特に問題はないのである。
「兄さん、分かりました。どれだけ出来るか分かりませんが何とかしてみます」
「安心しろ、ハナ様はこの身に代えても守り抜いて見せよう」
「ワイの腕の見せ所やな!上手く行ったらボーナス宜しくな!」
「分かりましたよアニキ。俺は俺でどうにかします。アニキも気をつけて」
全員が何とかやる気を見せ始めてきた。良い傾向だとヘイは一息ついたのだった。
「おう!頼むぜ、でもあんま心配はしてないけどな。ソレナもホドもケンもこれまでの行商の旅で腕が上がっているし、ハナなんかさっきの会議で「無論です。私もこの国の王女、民を見捨てるなど考えもしません」とか言ってたしな」
「いやあれは王族としての交渉の訓練の賜物と言うかですね・・・」
「それがあるだけでも十分さ。・・・まだお前らには死んでもらっちゃ困るんだよ。しっかり生き残って修行の続きをしようぜ」
「「「「はい!」」」」
あれから4日、可能な限りの準備は行った。今ここでモンスターの大群を迎え撃つ。村人達も行商人達もメラメラと殺る気に満ち溢れていた。
モンスターの大群は見える限りではウルフ・ゴブリン・コボルトの混成部隊だ。野うさぎが居るということだったが見当たらない。ひょっとしたら餌代わりに食べられてしまったのかもしれない。
ここはセンターの村から少し北へ進んだ道の途中だ。ここから先はつづら折りの坂になっており、モンスター達は今坂の下に到着して坂道を登ってきていた。
道沿いに登ってくるモンスターが大半ではあるが、中には道に頓着せずに坂を直進して来るモンスターも居る。そういう先走り達は弓を得意とする者達の手によって順に仕留められていた。この辺りは流石辺境に住む村人と言った所か。ホドと同じく狩人をしている者も何人か居たのである。
そうして倒されたモンスター達は後続のモンスターに踏みつけられて肉塊に代えられていく。どうやらモンスター同士で助け合う習慣や共食いする習慣は無いようだ。それとも食べてる暇もないほど急いでいるのか。
そうして段々とモンスター達は坂の途中に充満してきた。ケンは大群と聞いた時に精々数百匹位だろうと当たりをつけていたが、これはどう見ても千を超えている。正直体に震えが走るがそうも言っていられない。これからの作戦はケンが指揮することになっているのだ。
そうハナを含めた他の4人にはそれぞれ役割があるので、残ったケンに最初の実行部隊隊長のお鉢が回ってきたのである。とは言えヘイが考えた作戦はこの後で皆と合流できる手筈になっている為に余り心配はしていなかった。
またヘイとしてもケンが意外に度胸があるのは知っていた為に最初の攻撃役を任せたのだ。師匠に直談判したり、冒険者に食って掛かったりしているのを見ているし、これから世界を巡ろうとしている人間に度胸が無い訳が無いのである。
そうしてそろそろ最初の作戦を行おうとした時に唐突に見えていたモンスターの列が途切れた。どうやらあそこが最後尾のようだ。
そこには6年前に故郷の村で見たエリート・ゴブリンが10匹以上にそれよりも強そうな剣を持ったゴブリンが3匹にボロボロのローブを着て杖を持ったゴブリンが1匹、そして一際体が大きく巨大な斧を持った化物のようなゴブリンが1匹存在していた。
「アニキに伝令!モンスターの数は全部で約1500匹。最後尾にエリート・ゴブリン10匹以上に剣を持った強そうなゴブリンが3匹、ローブを着て杖を持ったゴブリンが1匹、そして斧を持った化物のように大きなゴブリンが1匹です!」
「なおモンスターの先頭がもう2つ坂を曲がったら攻撃を開始します。皆さん宜しくお願いします!」
伝令役の青年がヘイの元へと走っていく。ヘイやハナは今も後方でモンスター達を迎え撃つ準備をしているのだ。最初に作戦を聞いた時にそこまでする必要があるのかと意見が出たが、やっておいて正解だったとケンは思っていた。この数もあの上位個体も予想外だ。慎重過ぎる位で丁度いいと言っていたヘイの先見の明にケンは感謝した。
そうして遂にモンスターの大群の先頭がケン達が待つ坂の上のすぐ下まで到達した。そこでケンは大声を上げて作戦開始を告げる。
「皆さん攻撃開始!落とせ落とせ!!投げろ投げろ投げろーーー!!!」
そう言ってケンも自分の隣に置いてあった物を坂を登るモンスターに向かって落としていく。
敵が迫る坂の上で敵に向かって落とす物といえばこれしかない。
大きな石と丸太である。
ヘイが今回の作戦で最初の攻撃場所として選んだのがこのつづら折りの坂だった。ヘイ自身6年前に初めての行商でこの道を通っていた為ここが難所だと知っていた。
ここから落石や落丸太で一方的に攻撃出来ればかなりの数が減らせるだろうと考えていたのだ。だから今ここには後方で準備をしている人達を除いた全ての人数が集結し、皆必死に投げ続けている。
ここを最初の戦闘場所と決めてからは、この場所で攻撃するための石集めと丸太の切り出しが開始された。他の作業と同時並行だった上に時間も無かった為にそれ程の数は揃えられなかったが、その威力は正に絶大であった。
先頭を進んでいたゴブリンに落石が直撃し、頭を陥没させたゴブリンは後続を巻き込みながら下へと転がり落ちていく。そして落石は止まることなく転がり続け更に下に居たウルフの足を砕き、コボルトの腕を折り、もう一度ゴブリンにぶつかって動きを止めた。
坂中至る所で同様の事態が発生しておりモンスターの数は相当減っていた。よく見ればエリート・ゴブリンも何匹か倒れている。当然モンスター達は怯み逃げ出そうとするが、そのタイミングで下に居たデカゴブリンが物凄い大声を挙げてきた。
「ゲギャガアギャ!!ゲーーーゲギャア!!」
そうして逃げ出そうとしたコボルトを捕まえるとそのまま頭を丸かじりにして喰い殺してしまった。それを見たモンスター達は決死の覚悟で坂を登って来る。坂の上の者達も同様の覚悟で石や丸太を落としていく。暫く拮抗した状態が続いたものの、元から数が少なかった石や丸太は全て使い切ってしまい、遂にはモンスターの勢いに押し切られてしまった。
「ここは放棄します!全員退却!作戦その2を開始します!逃げろーー!!」
そう言ってケンと村人達は道を逆走して行った。途中走りにくそうにピョンピョン飛びながらだったがどうにかして村の入口まで到着するとそこにはへイ達が待っていた。
「よくやったケン!皆も無事で何より!」
「お疲れ様でした皆さん。さぁ中で休んで下さい。食事も飲み物も用意して有りますよ」
全速力で駆け抜けてきた村人達は他の村人達から食料と飲み物を分け与えられて一息ついている。ケンも同じく食べていると、その前にヘイが現れた。
「中々やるじゃないかケン、予想以上の成果だったみたいだな」
「本当ならもう少し減らしたかったんですけどね。如何せん石も木も数が足りませんでした。ホドは大丈夫ですかね?」
「今ここにモンスター共が来ていないのが良い証拠さ。あいつも頑張っているだろうよ」
そう言ってケンとヘイは村の北、モンスター達が居る方向へと視線を向けた。
センターの村防衛戦。作戦その2の隊長はホドである。




