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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第2章 行商人見習い
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第49話 モンスターの大波

初めて「それ」に気づいたのはノースエンドに住んでいた村人であった。


ここ最近森の中でモンスターに遭遇する回数が急激に増え始め、何やら良からぬことが起きているのではないかと考えたノースエンドの村人達は、マール国の北の果ていつもなら足を踏み入れることもない大森林の奥地へと探索に向かい、モンスターの大群を発見した。


最低でも2~3百は居るであろうモンスターの大群を見た村人達は大至急村に戻り、このまま村に留まれば全滅してしまうと判断し、全村民が村を捨て逃走を開始した。


またそれと同時に足の早い村人が、隣の村へと状況を知らせに走り、そこからは馬を使って周辺の村々に避難を呼びかけて一斉に移動が開始された。


とは言え大陸の端にある国の、更に普段は余り人も来ない様な辺境にある村々である。馬の数が少なく、その馬も歩けない老人や子供が避難するために馬車として使用しなくてはならず、段々と伝令に使える馬も少なくなり、遂には1頭も居なくなってしまった。


そして普段は村から動かない村人達が、着の身着のままの大移動をしたために逆に目立ってしまい、はぐれモンスターに襲われるという事態が発生。


怪我人は出たがどうにか被害者は出さずに移動を続け、センターの村へと続く道の途中で村民達は合流を果たし、どうにかマール国中央にあるセンターの村まで辿り着いたという。


その間、遂に大森林のモンスターの大群が移動を開始。ゆっくりとしたペースであるが南下を開始しており既にセンターの村のすぐ近くまで迫っているという話であった。


「話であったって、何でその情報がこっちまで伝わってないんだよ!」

「どうやら馬を伝令に使わず負傷者や老人子供の移動の為の馬車として使用してしまったらしい。しかも誰一人事態を把握していなかったため、ここに来るまで誰かしらが連絡してある筈と思いこんでいたようなのだ。」


話を聞いた一行は余りの事態に絶句する。

それはセンターの村の住民達も同様であり、皆右往左往していた。


何しろこのような事態は初めての経験なのだ。

村に住んでいればたまにモンスターが集団で襲い掛かって来ることもあるが、村には柵もあり住民の数もあるため対処は可能だ。


しかしモンスターの大群等という話は、国の騎士団か凄腕の冒険者集団などが対処する案件だ。とても田舎の村人達だけで対処できるような話ではない



「あかんやん!大ピンチやん!早よ逃げよ、ここにおったら死ぬで!」

「俺もホドに賛成ですアニキ。俺達は馬車があるから他の村人達よりも早く逃げられる筈です。他の人達は死ぬかもしれませんが、正直自分の命が優先ですよ」

「そうだな、何とかしてやりてぇのは山々だが、俺らは行商人だ。ここは引くべきだろうな」


「なっ待て、村人達を見捨てるというのか」

「無茶言うなよ、モンスターの大群相手に戦った所で無駄死にだ。俺達は物語の英雄でも勇者でもない。最高でDランクしか無い行商人と護衛だぞ」

「しかし!ここから北に住んでいる村人達は今全員ここにいるのだ。これが一致団結すれば何とか成るだろう!」

「一致団結すればな、お前は纏められるのか?会ったこともない人達の命を背負えるのか?その人達がお前の話を聞いてくれると思っているのか?」


そう数だけ居ても意味が無いのだ。

束ねるものが居なければそれは烏合の衆となるのである。


逆に言えば束ねる者が居れば対処は可能だ。

そしてそれはケン達一行の中に存在したのだ。

いや正直に言おう、存在していることを知られてしまったのだ。


「もしやあなたは、あなた様は王女殿下ではありませんか?」


そう言って話し合いを続けていたケン達に近づいてくる者が居た。

その人物はここよりも北の村に住む村人であった。

彼は数年前に王都まで出向いた際にたまたまハナを見かけたことがあったのだ。


「えっ?あ、いや私は」

「ああやはり王女殿下だ、久し振りお姿を拝見しましたが益々おキレイに成られておいでだ。皆!安心しろ!王女殿下が助けに来てくれたぞー!!!」


そう言ってその村人はセンターの村の村人や避難民達にハナの事を高らかに吹聴しだした。

村人にしてみれば、この危機的状況に王女殿下が見えられたのは助けが来たものだと思ったのだろう。

そして疲れ果て、恐怖に震えている皆に希望の灯を届けようとしたのだろう。


だからこれは責められないのだ。

彼は王女殿下が行商人の修行でたまたま村に立ち寄っていただけなんて考えもしていなかっただろうから。




そしてハナからすれば堪ったものでは無かった。


確かに自分は王女ではあるが、今現在は絶賛行商人中だ。

自分を守る兵士も騎士もおらず、そもそもハナ自身それ程強い訳でもなく、戦略に優れている訳でもない。

当たり前だ、自分は多少鍛えてはいるがただの王女なのだから。


それを見てヘイは「やっちまった」と考えていた。

これでハナは、自分達一行は村から逃げられなくなった。

王女とバレたからにはその一挙手一投足が注目される。

このような極限の状況下ではなおさらである。


そしてもしも逃げようとすれば暴動が起きるだろう。

そうなれば自分達はただでは済まない。

乗ってきたのは馬車であるため、速度は出ない。

村人達が本気になって追いかけてきたら逃げられないのだ。


そうこうしている内に、何人かの人物がこちらへと集まってきた。

見たところ全員年配で、半分位は老人である。

その者達は揃ってペコリと頭を下げた後、ハナに向かって口を開いた。


「お初にお目に掛かります。私達はこことこの先にあった村の村長をしている者で御座います。王女殿下が居られると聞き、ご挨拶に参上いたしました」

「あっはい、これはご丁寧に。私はマール国王女ハナ=マールと申します」


そう名乗った。名乗ってしまったのだ、反射的に。

ヘイは頭を抱えた。この時点で逃げるという選択肢は消滅した。

ならばこの事態をどうにかしなければならない。

気を持ち直すと頭を高速で回転させ始めた。その間にも事態は動いていく。


「やはりそうでしたか!では救援が来ているのですね!」

「良かったこれで救われる!それで兵士や騎士はどちらに?」

「あっ、えっと・・・」

「失礼。ハナ様、村長の皆様もここでは何ですのでどこか落ち着いた場所で話し合いをしてみては如何でしょうか?」

「おおっこれは失礼しました。では私の家に、これでも村長ですので私の家は村で一番の広さがあるのですよ」


ハナが何か言おうとした所をヘイが機先を制して押しとどめる。

その突然の言葉遣いの変化にケン達一行が驚いていたが、村長達はそれには気づかずに全員でこの村の村長の家に向かって行く。


その間多数の避難民達が近づいて来た。

それに対して村長達は「大丈夫だ」「心配するな」と対応している。

彼らからすれば、「王女殿下が居る=救援が来た」という認識なのだろう。


「いやどうすんのやこれ?全く事態解決しとらんで」

「ごめんなさい、私が王女だからこんな事に・・・」

「謝らないで下さいハナさん。あなたが悪いことなど一つもありはしませんから」

「アニキさっきの態度・・・何か考えがあるのですか?」

「一応な。ハナ、俺が代表として話をする。お前ら暫く俺に話を合わせろ。」



そんな話をしている内に村長の家に到着した。

村長の団体とケン達一行は全員中に入り、村長の妻が皆にお茶を振る舞った。


そして話し合いが開始されようとしたが、その前に現在の状況を教えてくれとヘイが頼み、村長達は現在分かっている状況を可能な限り説明した。


それは先程聞いた話と重複する部分が殆どだったが、新たな情報も幾つか含まれていた。


・モンスターの大群は、野うさぎ・ウルフ・ゴブリン・コボルトの集団であること

・いくつか上位個体も確認できた事

・現在地は山の麓の少し先であり、おそらく3~4日で到着するであろうこと

・避難民に今の所死者は出ていないこと

・村人の人数はこの村も含めて約200人、その内戦うことが出来る者は約半数であり、残りは老人・子供・女性であること

・村人の中には元兵士や元冒険者も何人か居るが、このような事態には対応できないということ

・誰一人この先の村に伝令を出していないこと



以上が報告された。

今回の事態が発生してから初めて情報の共有が行われた訳である。

だからこの時点で村長達は気づいたのだ。

ここに王女殿下が居ることはおかしいのだと。


「皆さん現状は把握できましたね。ではこれからのことを話し合う前に名乗らせて頂きます。私の名はヘイ、ギイ商会所属の行商人です」

「行商人!?」

「その通り、私は行商人であり2人の護衛と共に2人の新米行商人の修行をしている所です。ちなみにその新米の内の1人がこの国の王女殿下であるハナ様です」

「なっ何を言っているのだお前は!」

「このような時に、馬鹿も休み休み言え!何故王女殿下が行商人の修行なぞするのだ!」


これまで何度となく問われてきた質問が投げかけられてくる。

しかしこれに関してはいつもの様にこう答えるしか無い。


「それはついては何一つ国王陛下より説明されていないため分かりません。しかし我々がこの村に居るのはただの偶然であるとご理解下さい。そもそも伝令を誰も出していないのでは事態に気づき様がないではありませんか」

「そっそんな・・・では救援は」

「ありません。今この場に居るのは行商人が3人と護衛が2人のみです」


村長達は余りの事態に呆然としている。

救援が来て「助かった」と思っていたら「誰も居ません」と言われればこうなるだろう。しかし呆けていられては困るのである。


「さて現状の共有は終わりましたのでこれからのことについて話し合いたいと思います」

「なっふざけるな!何故行商人であるお前が仕切るのだ」

「ではお聞きしますがあなた達はこの事態に対処できるのですか?」

「お前は出来るというのか!兵士でも騎士でもないのに!」

「私は確かに行商人ですが、これでも数か国を巡り、何度か危険な目にも遭いながら今迄生き延びてきています。正直言ってこの国のモンスターよりも遥かに凶暴なモンスターと戦って勝った事もあります。本職には到底及びませんがそれでも「ただの村人」である皆さんよりも対処は可能ですよ」


ヘイは自分で言っていて「いや無理だろ」と思っていた。確かに嘘は言っていない。ヘイは国外でも行商していたし、そこにはこの国のモンスターよりも強いモンスターは沢山いた。


しかしそいつらの力は決して並の行商人では勝てない程ではなかったのだ。

単にこの国よりもモンスター全体の強さが上だっただけに過ぎない。


しかしここで烏合の衆である村人達を纏めねば自分も弟弟子達も死んでしまう。

もしもケンやハナが死んだら自分は一生後悔するだろうし、万が一生き延びても王女を見捨てたとしてこの国では生きていけなくなるだろう。


それでは困るのだ。

ようやく両親ともわだかまりが溶けたのだ、こんな所で死ぬ訳にはいかない。


「確かに我々村人ではモンスターの大群には太刀打ち出来ません。ではあなたは具体的にどうするつもりなのですか?」


村長達の中で話を聞こうとする者が現れた。

村長と言えば頭の固いイメージがあるが、現状を鑑みればそんな事を言っている場合ではないと考えられる者も居るのだろう。

ヘイは先程から考えていた内容を皆に伝えた。


「まずはこの村から南の村へと伝令を出します。モンスターの大群が迫っている事、避難民が多数出ている事、救援が必要な事を伝えて貰いそのまま南下。最終的にはノースの町まで行って貰います。勿論1人では不可能でしょうが、複数で行き、途中の村で馬を借りれば可能な筈です。なお伝令はとにかくノースの町へ行く事が最優先です。周辺の村へは途中立ち寄った村の村人達に避難勧告を出して貰いましょう」


「モンスターは3~4日で到達するという話です。時間に余裕はありますので今日はゆっくり休みます。そして明日の朝から戦えない女子供や老人は馬車を使って次の村まで避難をします」


「戦える人達はこの村の周辺で戦闘の準備をします。ここはこの国の中で唯一といえる程の山深い一本道です。モンスター達はこの先へ行く為には必ずこの道を通るのですから、罠を張り道を塞ぎ少しでも時間を稼ぎます。特に皆さんが通ってきた村の北の坂道は絶好の狩場です。ここで数を減らしながら戦えば救援が来るまで時間を稼げるでしょう。」


「そして先頭にはハナ様に立って頂きます。王女殿下自らが行動し、統率すれば普通の村人達であっても集団として機能するでしょう。王女殿下、無茶を承知でお願いします。村人達のために立ち上がって頂けませんでしょうか」


そう言ってヘイはハナに向かって頭を下げた。


ハナはびっくりして「無理だ」と言おうとしたが、よく見るとヘイは村長達に見えない角度でしきりにウインクを繰り返している。

そこで思い出した、「話を合わせろ」と言われていたと。

だから合わせる事にした。他に手が無いからというのも大きかったが。


「無論です。私もこの国の王女、民を見捨てるなど考えもしません。村長さん達安心して下さい。私の仲間は皆頼れる仲間ですからご心配には及びません。私も微力ながら皆さんの為に頑張らせて頂きます。どうかにい・・・ヘイの作戦通り行動して下さい」


そう言ってハナは村長達に頭を下げた。村長達は皆感動している。

王女殿下が自ら立ち上がり彼らに降り掛かった突然の困難に共に立ち向かおうとしているのだ。疑う余地が何処にあろう。


そういう訳でハナ達はこの村でモンスターの防衛戦に参加することになった。

というか防衛戦を率いることになったのだった。

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