第46話 ソレナの帰郷
ヘイとソレナが久しぶりにノースの町に帰省し、
ヘイの実家で用意されていた昼食を食べ終わった後、
一行はソレナの家に移動していた。
昼食の際にはヘイの両親から今現在のヘイについて矢継ぎ早な質問を受け、
ホドやハナは昔のヘイについて質問をぶつけていた。
ちなみにケンは質問には答えていたが、質問することは無かった。
殆どの質問を2人にされたこともあるが、
ヘイから「質問するなオーラ」が出まくっていたせいもある。
女性陣は気にしなかった様だが。
そして食後にソレナの家に移動することになったが、
ヘイの両親、特に母親が中々にヘイを開放しようとしなかった。
何しろ息子の6年振りの帰省であるのだ。そう簡単には開放したくないのだろう。
結局話し合いの末、ノースの町にいる間は男性陣はヘイの実家に、女性陣はソレナの実家に泊まることになった。
一行の中に2人も実家持ちが居るのだから別れてはどうかと提案されたのだ。
つまり今夜はケンはヘイと男子会で、女性陣は女子会だ。
行商中は朝から晩までほぼ一緒に動いていたために何か新鮮な感じもした。
そうして一行はソレナの実家へと向かった。
ヘイの実家の商店の裏口から出ると、メインストリートから一本入った道へと繋がっている。そこから斜めに進んだ先がソレナの実家であった。
ヘイは「ご近所さん」と言っていたが本当に近所であった。
メインストリートから一本入っただけで通りは大分静かになっている。
しかし閑散としている訳ではなく、
メインストリートの喧騒も聞こえる程度の領域だ。
そこに町の中では大きめの家が何件も並んで建っていた。
一応この周辺がこの街の高級住宅街である。
そう、忘れているかもしれないが今は亡きソレナの曽祖父は元騎士団長であり、
1代限りとは言え爵位を貰った貴族だったのである。
それを考えればソレナの実家が高級住宅街にあり、
町の大店の息子のヘイと幼馴染であっても違和感は無いのだ。
どれだけ現在のソレナがポンコツであったとしても、
祖先の経歴の素晴らしさとは別問題であるのだ。
家のドアをノックするとすぐに扉は開き、
中から少し厳しい顔をした女性が顔を出した。
見た瞬間に全員気づいた。ソレナの母親である。髪の色も顔立ちもそっくりだ。
あの厳つい祖父や父親に似ないで良かったと言うべきか。
彼女はケン達に挨拶をすると一行を扉近くの部屋へと通した。
其処は応接室になっており、
ソレナの祖父と父親が椅子にも座らずに待ち構えていた。
そしてケン達一行が応接室に入った途端に、ソレナの祖父と父親はその場で跪いた。
「申し訳ございません王女殿下!我が娘が大変な粗相を仕出かしまして!」
「お詫びの仕様も御座いませぬ、ホッコから事の経緯は聞かされておりますが、
我が孫の不徳はこの老いぼれの責任!如何様にも罰して頂きたい」
2人共先程までの厳つさなどかなぐり捨てた謝罪っぷりだ。
やはり怒っていたのはソレナがハナの護衛の件を手紙で書いて寄こしたことが原因らしい。
家の外で謝らなかったのはハナの正体を広めない為であったようだ。
ソレナと較べて気遣いが出来る家族である。
そしてそれを見たハナは慌てた。
ソレナに対して怒っているのは分かっていたが、
ここまでされると申し訳なく思ってしまう。
「頭を上げて下さいお二人共。大丈夫ですよ、特に問題は起きていませんから」
「しかし!これは問題が起きていないから良しとして良い様な話では無いのです!
仮にも元騎士団長であった我が父のひ孫がこのような事を起こすなど、
亡き父に何と言って詫びればよいのか」
2人の男は猛省して頭を下げたままだ。
さして広くもない応接室では2人の魂の叫びがよく通り、
ケン達一行の鼓膜をガンガンと揺らしている。
そしてその謝罪を聞いて1人混乱している者が居た。
ハナが王女だと聞かされていなかった人物。勿論ホドである。
「えっ何?ソレナ一体何したん?ってかえっ?王女殿下って誰が?ハナやん?」
「あ~言ってなかったなそういやぁ。ハナはな、実はこの国の王女様なんだよ」
「ごめんなさいホド、隠すつもりは無かったの。
何か言うタイミングを逃しちゃって」
ハナは素直に謝った。しかしそう言われても中々直ぐに信じられるものではない。
「いやいやいや何言うとるの皆、嫌やわ~担がんといてや。意味分からんやろ。
王女様が何で行商人の修行してんねん」
「ごめんなさい。それは私にも分からないの。
父様の命令で急にお師匠様に弟子入りすることになったから」
「師匠も聞かされていないって話だしね。旦那も知らないみたいだよ」
「えっ、マジなん?えっ?えっ?えっ?」
ホドは大パニックである。当たり前だ3ヶ月以上も一緒にいた護衛対象が王女様だと知らされたら大抵こうなるだろう。そして一行は詳しい経緯を説明出来ないのだ。
何しろ今もってハナが行商人の修行をしている理由を誰も知らないのだから。
そしてソレナは父と祖父の強烈な謝罪を見て段々と自分がしていたことが本当に不味いことだったと自覚したようだ。ウエストの町で告白した後で散々回りに言われていたが実感してはいなかった。しかし家族の本気の謝罪を見てようやく自覚してきたのである。
「あのお祖父様、お父様、その申し訳ありませんでした」
「我々に謝ってどうするのだ!お前が謝るのは王女殿下だ馬鹿もんが!」
「何が「腕が上がったのですよ」じゃ。腕の前にまず頭を鍛えんかい!」
祖父と父親から強烈な雷が落ちる。
その雷を落としながら、2人はここまでの経緯を苦々しく思い出していた。
ソレナは頻繁に家族と手紙のやり取りをしていた。
そして家族宛にハナの護衛の件を書いてしまった。
どうにか弟であるホッコが機転を利かせて家族へ拡散防止の連絡をしてくれていたが、それより以前に手紙を受け取ったソレナの家族は頭を抱えていたのだ。
この手紙が偽物なら、娘は脳に異常をきたしている。そして本物ならばなおのこと不味い。王族のプライベートをこんな通常の手紙で垂れ流して良い訳がないのである。
その結果がこの大激怒だ。ちなみに母親は応接室には入らずに奥に控えている。
「まずは私達が」という父親達の意見を優先したのだ。
この後改めてメチャクチャ怒る予定ではあるが。
その後ソレナはハナに改めて侘びをし、
ハナがソレナの家族に執り成すことでようやく事態は収束を見た。
しかしソレナは実家に滞在中に事ある毎に家族に呼び出され、
厳しい叱責を受けていた。
そして町から出発する頃には流石のソレナも今回の件を猛省する事になったのだった。
ちなみにホドはその晩、ハナが直々に文字通り膝を突き合わせて事の経緯を説明し、話をした上で護衛を続けてくれるようにと説得された。ホドは王女殿下であると説明されていなかった事には抗議したが、だからと言って態度を変えるつもりは無いからとハナの護衛を続けることを告げた。
そしてハナは王女であると告げても変わらぬ態度で接してくれるホドに感謝をした。
その為ノースの町に滞在中に2人はより仲良くなったのだった。
結局ヘイもソレナも中々家族から開放されることは無く、一行がノースの町を出発したのは3泊もしてからだった。そしてノースエンドから帰って来た時も必ず家に寄って行く事を誓わされたのだった。
「まぁでも何だかんだ言いながら俺のしたい事とをさせてくれるんだから良い両親なんだよな。ありがとよ、親父、お袋」
ノースの町から離れた馬車の上でヘイはそっと独りごちた。
そしてその目の前にはぐったりとしたソレナが寝込んでいたのだった。




