第44話 帰郷に向けて
ケンとハナがギイに弟子入りしてから既に1年と4ヶ月が経過した。
最初の一ヶ月で冒険者ランクをFまで上げ、更に一ヶ月で逆茂木作りを始めとした行商人の基礎を叩き込まれ、9ヶ月掛けて首都近郊の村々を隅々まで巡った。
そして1月掛けて馬車での行商の準備をし(ここまでで丁度1年)、一月半掛けてウエストエンドまで往復、その後半月休みを取り、また一月半掛けてイーストエンドまで往復、その後半月の休みを経て明日最後の目的地ノースエンドへと向かって出発する予定だ。
ちなみに帰ってから半月は休み過ぎの様にも聞こえるが、一月半も使い続けた荷車の点検に修理、品物の在庫確認と次の行商の仕入れ、働き続けた馬の休息等を考えると割とギリギリだった。既に季節は夏、馬にも無理は禁物な季節だ。
途中に衛星都市があるにしろ、出発したら基本1月以上補給も修理も出来ないのだ。準備は慎重に慎重を重ねなければならない。
そんな訳で出発準備は念入りに行われていた。
「ケン、ハナ、準備は?」
「出来てますアニキ。もう3回目ですからね、慣れてきましたよ」
「食料、荷物、販売物全てOKです。逆茂木も武器も手入れは終わっています」
「そうか、なら明日出発前にもう一度全部点検しておけ。
今回俺は同行はするが緊急時以外は一切口出しはしないからな」
「「了解!」」
新米2人は真剣に頷いて荷車や荷物のチェックを念入りに行っている。
馬車での行商も今回が3回目。
しかし全て教えて貰いながら行った1回目と違い、
2回目は師匠であるギイが一切口出しをせず、
3回目となる今回はギイも旦那も最初から同行しない。
監督役はヘイだけでケンとハナが行商人としてきちんと動けるかを見る事となっていた。
これはこの1年4ヶ月の修行でケンとハナの2人の行商に問題が無いと分かった事と、監督役であるヘイの成長の為、そして信頼できる護衛が増えたのが原因だ。
そう今やソレナに続いてホドもケンとハナの正式な護衛となっていた。
ちなみにホドが護衛になった理由はギイに説得されたからという訳ではなく、
単にウエストエンドからギイ商会まで帰った後に護衛代を支払ったら、
帰国には全く足りないと分かったからだった。
当たり前だがホドが元居た町に帰るためにはサウスの町から国境を通って隣国へ行き、更にそこから森の方まで行かなければならないのだ。
今回の様に護衛の依頼があれば話は別だったが自力で帰るには到底足りない。
その事に気づいた後に、国内を回った後は最後に国外への行商で隣国にも行く予定だとギイとヘイに教えられ、「ならその時まで雇ってや~」という事でホドは2人の護衛を続けていたのである。
「う~ん、2人共なんや貫禄付いてきたんとちゃうか?」
「どんなものでもそうですが成長する為には場数を踏むことが一番確実ですからね。お2人共9ヶ月の徒歩での行商と4ヶ月の馬車での行商で自信が付いたのでしょう。」
せっせと準備をしている2人の行商人見習いを護衛の2人は遠巻きに眺めている。
暫く一緒に過ごしたお陰でおぼろげながら行商人の生活や商売を理解できるようになった。
その為護衛の2人はケンとハナが国内とはいえ、
遂に師匠から離れて仕事をする事に良く分からない満足感を得ていたのだった。
そして全ての準備が終了した夜、ギイ商会の食堂に今回の行商に参加する若者5人が集まっていた。
ちなみにホドはソレナの部屋に居候していた。
ギイ商会の行商人では無いため商会には泊まれないが宿を借りるのは勿体無い。
という事でソレナが物置になっていた部屋を片付けてホドが一緒に住めるようにしたのだ。
なおその部屋にあったのはソレナが買い集めていた武器や鎧のコレクションだったのだが、「目が覚めた」というソレナ自身の言葉によってギイ商会を通じて売り払われていた。
今ソレナは旦那にならい武器の強さによらない強さを身に着けようと努力していた。尤も才能が無く、強いモンスターも出ない為未だEランクのままだったが。
「それも今回の行商が終われば変わるだろうな。
これが終われば間違いなく次の目的地は国外となる筈だ。
新たなモンスターとの戦いは私をもう一段上へと上げてくれるだろう。
もうゴブリンも狼も相手にするのは飽き飽きだからな」
「確かに国が変わると出て来るモンスターも微妙に変わってくるのよねぇ。
でもゴブリンは何処に行っても居るわよ」
「ワイのとこにも仰山おったでな。でもまぁ次の事よりもまずは今回の事やで。
今回はギイはんも旦那はんもおらんのや、今まで大丈夫だったからと言って楽観視はアカンで」
逸るソレナをハナとホドが窘める。ちなみにホドの冒険者ランクはDランクだった。それはソレナやヘイよりもランクが高く、冒険者ギルドから高い評価を得ている証拠だ。
ソレナはその事を知ってから年下にも関わらずホドの意見には従う様になっていた。旦那と同じく実力のある者は素直に尊敬するのである。
「確かにそうだな。しかし俺にはそれよりも重要な問題がある。
今回師匠にお前らの監督を1人で任されたこともあるし、何よりも・・・」
「久しぶりの帰省ですねアニキ!皆元気にしてるかなぁ。
いや手紙では元気って書いてありましたけどやっぱ会って確かめたいですよねぇ」
「・・・そうだな。家族には会わなくちゃだよな。
師匠気を利かせてくれたのか、それとも逃げたのか・・・」
「ギイ殿が何故逃げる必要があるのだ。
私も家族に久々に会えるのを楽しみにしているのだ。
きっとギイ殿もお前が家族と会う時に師匠の自分が同席するよりも、
弟弟子達が一緒の方が箔が付くと考えたのだろうさ。
と言うかな、大した距離でもないのに6年間も帰っていなかったお前が悪いのだ。
いい加減観念して再会して怒られて来い」
そして久々の帰省にはしゃぐケンと、
帰省せざるを得ない状況に困り果てているヘイが居た。
ノースエンドへと向かうには、ヘイとソレナの出身地であるノースの町とケンの故郷であるノースファースト村を通ることになる。つまり必ず家族に会うことになるのだ。
楽しみにしているケンはともかく、家を飛び出して行商人になってからまともに手紙も書いてこなかったヘイにはハードルが高い。
しかし師匠の命令で既に連絡もしてしまっている。ヘイは深い息を吐いて覚悟を決めた。
「仕方ない。パッと行ってパッと別れて今回の行商もいつも通り終わらせよう」
「ちょっと兄さん、久々の再会なんだからゆっくりすれば良いのよ」
「お前らだってウエストの町で一晩会っただけだったろうが」
「私達はウエストエンドから戻って来た時は2泊してゆっくりと話し合ったぞ。
お前もそうしろ。というか6年振りなのだもっと延ばせ、これは全員の総意だ」
「ちっ分かったよ。ほら明日は早いぞ、そろそろ解散だ」
そう言ってヘイは解散を促し、全員がそれぞれの寝床へと散って行った。
彼らは明日ノースエンドへ向けての行商の旅へと出発する。
これが行商人見習いケンとハナの「普通の行商人として行う」最後の行商の旅になるとはまだこの時誰も知らなかったのだった。




