第43話 ホドの実力
マール国にある最奥の村の一つウエストエンドの更に先、開拓用に作られた道の先にある泉にはゴブリンの集団が存在した。
ケン達はそれを木の陰から覗いている。近くまで来た時に先頭を歩いていたホドがゴブリンの声に気づいたのだ。それから一行は森の中で足音を消して状況を確認した。目的としていた場所であれだけ騒がれれば誰だって注意して行動するだろう。
ゴブリンは全部で10体程か、全てが通常の個体であり上位個体も見当たらない。おそらくこの泉に水を飲みに来たのだろう。ウエストエンドで出発前に聞いた話では近くでモンスターは見かけていないそうなので、おそらく最近現れた群れだと推察できる。
「ゴブリンだ」
「ゴブリンね」
「ゴブリンやね、どうする?今殺る?それとも一度帰って応援呼んでから殺る?」
「あれくらいなら問題ありません。今殺りましょう」
「賛成」「賛成や」
殺るそうだ。慈悲はないようだ。ゴブリンは害獣だ、見つけたら即殺が基本だ。ゴブリンは女性を襲うため女性にはとにかく嫌われている。この場には女性の方が多い、多数決で即殺が決定した。勿論男性陣も賛成だった。発言するタイミングを逃しただけだ。
「で、どうするんや?ワイなら距離取って殺せるけど守りながらはキツイで」
「ソレナは突撃、ホドは森からゴブリンを狙撃してくれ。俺達は固まって防御してる」
「防御ってどないするつもりや。盾も鎧もないやろ。一旦引いて隠れておいた方が良いとちゃうか?」
「ああ心配ない。必要な物はちゃんとアイテムボックスに入れてあるからな」
「ならええけどな」
そう言ってホドは少し離れた位置へと移動して行く。単純な戦法だが、ホドが森の中から狙撃し、別の方向からソレナが突撃して攻撃する作戦だ。
ケン達はゴブリンが向かってきたら逆茂木を出して防御しながら攻撃する。行商人なのだから無理はしないのだ。
暫くするとケン達が今いる位置から約90度離れた位置からゴブリンに向かって狙撃が開始された。それは寸分違わず急所に当たり、的確に数を減らしていく。ソレナも突撃するがホドの狙撃の速さは早く、ゴブリンの群れに到着する前に半数以上が死亡、残ったゴブリンも大怪我をしているという状況だった。
「ギャガアアア」
「ギャギャーギャギャギャ」
「ギャー」
そんなゴブリンの群れをソレナは冷静に仕留めていく。ゴブリンの最大の特徴は繁殖力だ。可能なら一匹でも多く数を減らすべきなのだ。暫くするとゴブリンは全滅した。あっけないものだった。
「や~半分も残ってもうたか。まだまだやな自分」
「いや凄いですよホド殿、正直私の出番は殆どありませんでした」
「まぁこれくらいはな、でないと1人で森に入る事なんて出来へんよ」
ホドとソレナは互いの健闘を讃えあう。それを見てケン達は危険が無いと判断し泉の方へと向かって行った。
「お疲れさん。楽勝だったな」
「ホドすげーな。俺も弓習おうかな」
「あれは相当射続けなきゃ駄目でしょ。素人じゃまず当たらないわよ」
「何やケン弓に興味あるんか?良ければ教えたるで」
「是非ともお願いします!」
ホドの弓の腕に興味を惹かれたのかケンはホドから弓を習うことにしたようだ。
そしてホドはキョロキョロしながらケン達の方を見ている。そしてヘイに向かって質問をした。
「ところでヘイ、盾も鎧も無いけどもしゴブリンが襲ってきたらどないするつもりやったんや?」
「そりゃこいつを出すだけさ」
そう言ってヘイは目の前に逆茂木を出現させた。いきなり現れたそれにホドが度肝を抜かれる。
「おわっ!何やこれ、柵?いやこいつはあれや砦とかにあるやつやな」
「逆茂木だよ。俺らギイ商会の行商人は全員こいつをアイテムボックスに入れているんだ」
「成程な、こいつに隠れて戦うっちゅー事か。これなら確かに安全に戦えるな」
「お?ホドはこいつに好意的なんだな。卑怯者とか言う奴も居るんだが」
「アホか、物語の騎士様じゃあるまいし、自分らに有利な条件で戦うなんて当たり前やろ。ちゅーかこれマジでいいな。ワイも一つ入れとこかな」
ホドが逆茂木に好意的な意見を言うのを見てケン達は嬉しくなった。たまに逆茂木を貶す者も居るので新たに護衛になったホドがどう反応するのか不安だったのだ。
結局目的地の泉はゴブリンの死体が散乱して見られたものではなくなったので、一行は魔石を回収して、死体処理をしてから元来た道を戻ってウエストエンドへと帰っていった。
・・・そしてそれを森の中から見ている人影が存在した。その人影は完全に気配を殺してケン達一行に気づかれずに森を移動し、ケン達に先回りする形でウエストエンドへと戻って来た。そしてケン達が村に入り、ホド用の逆茂木を作り出すのを見届けた後宿へと戻って行ったのだった。
「それでどうだった?」
宿にはギイが待っておりその人影に話しかける。その人影、旦那は見てきた事をそのまま伝えて取り敢えずの結論を出した。
「・・・という事だ。俺の見た感じホドは信頼出来ると思う。どうやら間者でも何でもなく本当に道に迷った狩人だったようだな」
ギイと旦那は自分達がウエストエンドに到着した時に同じタイミングで現れたホドを警戒していた。ハナを狙うだけの理由が無いとは思っているが、それに気づいていない者が襲って来てもおかしくはないと考えていたからだ。
しかし警戒していたのだが見ている内に段々とその警戒は解かれていった。まさか目の前で暴飲暴食をしそのまま酔っ払うとは思わなかったのである。
そして今日、ケン達と森に行ったので念のために付いていったが、何のことはなく普通に護衛をしていただけだった。
正直あの弓の腕前があれば刺客なら動いてもおかしくなかった筈だ。
それが終始楽しそうに会話をし、仕舞には全員でゴブリンを殲滅していた。
あれがもし刺客なら余程の手練れだ。しかし長年の勘からそれはないと旦那は結論づけた。
「結局要らぬ世話だったか。済まなかったな手を煩わせて」
「構わんよ。敵では無いと確認が出来ただけで十分収穫だ。それにあれは中々に掘り出し物だ。出来ればこのままハナ様の護衛を続けて貰いたいな」
「ほう?何か評価出来る技能でもあったのか?」
「まず単純に弓の腕が良い。そして微弱だが魔法も使いこなしている。あれは風の魔法を使用して周辺の気配を探っていたのだろう。私クラスでなければ気づかれていただろうさ」
「それ程か。ならば私からも働きかけてみよう。商会に帰るまで2週間以上あるからな。説得するには十分な期間だろうさ」
「そうしてくれ。しかしまさかゴブリンの群れが居るとはな。どうも最近モンスターの数が増えている気がするよ」
「そうだな何かの前触れなのかもしれん」
ちなみに泉があった場所にゴブリンの群れが居た話はケン達から直接村の者に伝えられ、ウエストエンドの村ではモンスターへの警戒度を一段階上げることとなった。
そして翌日はゆっくり休み、さらに翌日の早朝ケン達はギイ商会に帰る為に、ウエストエンドを旅立ったのだった。




