第41話 狩人のホド
目の前に並べられた食べ物が見る見る内に消えていく。更に目の前に置かれた酒もいつの間にやら消えていく。
バクバクゴクゴク バクバクゴクゴク
「か~旨いなぁ!やっぱ働いた後の飯と酒は格別やね、五臓六腑に染み渡るわ~」
ウエストエンドにある唯一の酒場、その片隅のテーブルでは突如現れたエルフが怒涛の勢いで飲み食いをしていた。片隅と言っても普段は客も少ない田舎の酒場だ、座る場所が無かったため、エルフはケン達と相席をし同じテーブルで食事を取っていた。
「おっちゃんエール追加や、後食い物もな、取ってきた野うさぎ焼いてーや」
「そりゃ構わねぇが良いのかい。このペースで食いまくってたらあんたに残る現金が殆ど無くなっちまうぞ」
「かまへんかまへん、無くなったならまた狩ればええのや。獲物は森に仰山おるでな」
エルフは酒場に入るなり、持っていた大量の獲物を店主に渡し、「これを全てやるから飯と酒をくれ。エールが良い、余ったら現金で釣りをくれれば良い」と交渉し、今目の前で食事に没頭している。
おそらく暫くの間食事をしていなかったのだろうが、いくら何でも食べ過ぎだ。
ケン達は今まで出会ったエルフとの余りの違いに度肝を抜かれていた。
実はマール国にはエルフがよく訪れている。エルフは種族的に静かな森や湖畔を好み、狩りで生計を立てているものが多い。よって辺境で田舎で湖も森もあるマール国では頻繁にエルフが目撃されているのだ。
しかしエルフと言えば美形で物静かで生臭物は好まないというのが通説だったが、目の前のエルフは美形ではあるがとにかく喧しく、肉も酒もお構いなしだ。正直今回の行商の旅で一番の衝撃体験である。
ちなみにエルフとセットで語られることが多いドワーフは国内では余り見かけない。この国では鉱物資源が殆ど取れず、鍛冶の仕事も余り無い為仕事が無いのだ。よってワザワザこの国に来るドワーフは居ない。国から出たことのないケンとソレナは未だにドワーフには会ったこともないのである。
そんな事を思っている間に食事は終わったようだ。その量は軽く見積もってもケン達6人分に匹敵する量であった。一体この細い体の何処にこれだけ入ったのか謎すぎる。
「ゲ~フッ、あ~食った食った腹一杯や。おっちゃん後は酒だけでええで」
「ええでも何もあんたが持ってきた獲物じゃあこれ以上は出せねぇよ。どんだけ喰ってんだ」
「本気かいな、ちなみにエール一杯いくらや?」
「一杯銀貨20枚だよ」
「高っ!何でそんな高いねん、町の4倍の値段やで」
「ここはど田舎だからな、輸送費用が馬鹿になんねぇんだよ。ここの村民が自前で作ってる地酒なら安いが、あんた「エールが飲みたい」って言ってたからずっとエールしか出してねぇしな」
「あちゃ~おっちゃん商売上手やねぇ。まええわ、ほなら後は地酒を味わお。支払いは現金でな」
そう言ってエルフは店主に現金を渡し、酒を瓶ごと持ってきてテーブルに置き、7つのコップに酒を注いでいった。
「ってあれ?何で俺らのコップにも?」
「いやははは、迷惑かけたしこれも何かの縁や、折角だから一緒に飲もうや」
「おうそりゃありがてぇ。そういや自己紹介もまだだったな、俺は「ヘイ」行商人だ」
「ワイは「ホド」っちゅーもんや。狩人兼冒険者しとる、宜しゅう頼んます」
ヘイとホドが自己紹介をした後、順番に名を名乗っていった。ハナは行商人と名乗り、旦那は名を名乗らずに通した。ケンは心配したが、ホドは気にしなかった。訳ありの冒険者など世の中には山程いるからだ。
そこでケンとハナが行商人として修行中で、ここまで馬車の行商をしてきたことを話し、ホドは隣の国の森の中で狩りをしていたら熱中して道に迷い、気がつけば森の中を彷徨っていたことを明かした。
「それ聞きたかったんだけどよ、エルフなのに森で迷ったのか?ってかお前エルフのくせに肉も酒もお構い無しで喰いまくってたよな」
「そりゃそうや、ワイはエルフちゅーてもクオーターやからな。森でも迷うし、肉でも酒でも何でもいけるで」
「クオーターエルフ?へー珍しい」
クオーターエルフとはエルフの血が4分の1入っている者を指す言葉だ。この世界、他種族同士でも子孫は残すことが出来る。異種族の間に生まれた子供は「ハーフ」となり、その更に子供は「クオーター」となるのだ。
なおハーフなら両親の特性を引き継ぐ事が多いが、クオーターまで血が薄まるとそれも期待できなくなる。エルフと言えば森のエキスパートであるから森で迷うなどあり得ないが、クオーターならさもありなんと言った所か。
「まぶっちゃけエルフっぽいのは見た目だけやね。中身はまんま人間や」
「はー成程、あっでは見た目通りの年齢ということですか?」
「おう、今17やね」
「私と一緒ですね。ところでその見た目だと苦労も多いのでは無いですか?」
「そうでもないで。ワイがクオーターちゅうのはオープンにしとるさかいな。それに普段は一匹狼で単独で狩りしとるさかい、問題にする連中も特におらんのや」
「正直は美徳という事ですな」
ケン達は初めて見るクオーターエルフに驚いたが、ホドの開けっぴろげな性格に警戒心を解いて話し込んだ。気がつけば若い者同士で盛り上がっている。酒の力もあるのだろうが、滅多に会う事の無い同年代だ。意気投合したのだろう。
そしてホドとケン達は盛り上がっていたが、しばらくするとホドがギイに話し掛けた。
「そんでなギイはん、折り入って頼みがあんねん」
「ふむ何かね?」
「ワイをお宅らの護衛に雇って欲しいねん。腕には自信あるから考えてくれんかね」
「構わんよ」
突然の申し出だったがギイはすぐさま快諾した。それに驚いたのは他の面々だ。いや唯一旦那だけは分かっていたのか驚いてはいない。
「あの師匠、良いんですか?」
「ワイも同じ意見や。正直どうやって説得しようかと考えてたのにな」
売り込んできたホド自身が困惑している。若い連中は同じ様な顔をしているがギイにとっては寧ろ当然の流れだった。
「ふむでは皆に質問だ、何故ホドは我々の護衛として売り込んできたのか分かるかね?」
「えっ?何故ってそりゃあ護衛ですから勿論金を稼ぐために・・・」
「いえ兄さんそれは違いますよ。ホドさんお金に余り執着していないみたいですから」
「俺達と一緒に旅に出たくなったからとか?」
「ケンさん我々は出会ってまだ数時間ですよ。流石にそれはないでしょう」
あーでもないこーでもないと議論は白熱していく。いつもの状況だが初めて見るホドは目を白黒させていた。やがてホドは申し訳なさそうに理由を説明した。
「あんな皆、そんな大層な理由ちゃうねん」
「じゃあ何故なんですかホドさん」
「・・・帰り道が分からんからやねん。森を通って帰ろうとしたらワイ今度こそ野垂れ死にやさかい」
「「「「成程」」」」
クオーターエルフであるホドは森では迷ってしまう。だから森からは帰れない。帰る方法はこのまま道沿いにウエストの町、首都のサウス、そして国境を通って国に帰るしかないのだ。しかし道中は長いし1人では流石に危険だ。だから護衛として売り込んで「一緒に」旅をして貰いたいと考えたのである。
「という訳だ。ケン、ハナお前達でホドを幾らで雇うかを決めなさい」
「俺達が決めて良いのですか?」
ケンは驚いた。てっきりギイが判断するものだと思っていたからだ。
「忘れたのか?今回の行商はお前達の修行も兼ねている。お前達はまだ経験が浅いので護衛をする人物の選別は私と旦那がしているが、護衛代はお前達の稼ぎから捻出しているのだ。ならば決定権はお前達に有ると思って良い」
「分かりましたお師匠様。う~ん、とは言えこういう場合は幾ら位が相場なのでしょうか?旦那さんはどう考えますか?」
ハナは突然の事態に困惑し、旦那に話し掛けた。
「ギルドマスターとしての知識」を当てにしたのである。
「そうだな・・・ホドはこの大森林の中を単独で踏破できる実力が有るのだろう?ならば実力的には申し分無い筈だ。ギルドを通さずに直接冒険者を雇う場合は、今迄の経験に沿って相場を決めるのが一番間違いが無い。しかしこの場合大抵は相場よりも安く雇うな」
「それは何故ですか?」
「信用度が足りないし、頼まれている場合は安く済ませるのが行商人というものだろう?逆の立場なら、例えばお前達が至急護衛を欲している場合、その護衛は高く売り込んでくる筈だからな」
「成程」
ケンとハナは一旦席を立ち、暫く話し合ってから戻ってきた。
「ではホドさん。俺達は貴方をソレナや旦那よりも安い値段で雇いたいと思います」
「具体的に言うと、道中の食費・宿代込みで1日銀貨35枚です。これで考えて貰えますか?」
ちなみに現在ケン達は、ソレナと旦那それぞれに1日銀貨50枚の護衛代を渡している。一応これはマール国の衛星都市より北部地域を護衛する場合の護衛の相場の値段である。
勿論ギルドマスターを雇う値段には全く足りないが、「必要な人材を揃えられないのはギルドの責任だから」という理由で、旦那はこの値段で護衛を受けてくれているのだ。
「1日銀貨35枚て、そりゃワイが頼んだ話やけど安すぎやないか?」
「そうでもない。この国の冒険者の賃金は基本的に安いのだ。実際私達は1日銀貨50枚で雇われている」
それを聞いたホドがギョッとした顔で旦那を見る。
「あんさんが1日銀貨50枚?ワイから見てもあんたは只者や無いで?」
「この国に出てくるモンスターは弱く数も少ない為、これ位が相場なのだよ」
「マジかいな・・・う~んもう少し何とかならへんか?何ならワイの弓で旅の途中に獲物狩って提供するで」
「獲物付きですか、ならば1日銀貨40枚。これでお願いします」
ホドの狩りの腕前は酒場に入ってきた時に渡した獲物を見れば分かる。道中で肉が手に入ればそれだけ食費も浮くので悪くない提案だった。
「銀貨40枚か。まぁ無理言うとるのはワイやからな、これ以上の交渉は良くないな」
「では?」
「ああ了解や。仕事は護衛と肉の調達。道中の食費・宿代込みで銀貨40枚。契約成立や、宜しゅう頼んます」
「こちらこそ宜しくお願いします」
ケン達とホドはがっしりと握手を交わした。ケン達は気付いていないが、なにげに売り込みを掛けてきた冒険者と始めての商談を成功させていた。
そんなこんなで、クオーターエルフのホドがケン達の護衛となったのだった。
ホドの口調は「なんちゃって関西弁」です。
広い心で読んで下さい。




