第40話 ウエストエンドの出会い
この国の端がどうなっているのかを知っている人は勿論多い。しかし実際に国の端まで行ったことのある人間はとても少ない。
ケンとハナとソレナの3人はこの国の北西の端、ウエストエンドの村に到着してポカンと口を開けていた。
そこは山の麓であった。険しい山が聳え立ち、それが横へと続いている。
その下には広大な森が広がっており、山からかなりの距離が一面の森となっていた。
ウエストエンドの村はその森に入った中に存在した「森の中の村」であった。
エンドとか言いながら土地の端に辿り着いていない場所だったのである。
「その何と言うか森の中ですね。と言うよりもまだ先があるように見えるのですが・・」
ケンがそういうのも仕方ないだろう。最奥の村と聞いていたので国の端に到着すると思っていたら、まだ先があるのである。しかしハナは溜息を吐きながらこの国の内情を説明した。
「父様から聞かされていた通りですね。
「我が国は土地も少ないが人口はそれよりも少ない為、開拓が全く進んでいない」
本来ならこの森を切り開いて奥の山に道を作り、山の裏側にある海まで繋げて港を作るべきなのにそれをする為の資金も労働力も無い」
「海か~俺まだ見たこと無いなぁ」
「安心しなさい、大半の国民は見た事無いわよ」
なおこの山脈は隣の国まで続いているが、途中でなだらかになる場所がある。峠になっているその場所を超えると港町があるのだそうだ。マール国にとってはそこが一番近い港であり、海産物や遠くの国々からの貿易品の大半はその港から運ばれて来るという。
しかしこの山脈はマール国の北の領地全てに接しているため、マール国には「海」が存在しない。いや地図上は北が丸々海に接して居るのだがそれを有効活用出来ていないと言った方が良いか。最も最初は山の先まで開拓する気はあったのだろう。村の奥へ向かう道も一応作られていた。
「あのアニキ、ひょっとして他の最奥の村もこんな感じなんでしょうか?」
「ひょっとしても何も丸切り同じだよ。ノースエンドもイーストエンドも森の中の開拓村だ。最も人口がまるで足りてないから、開拓と言うよりも、これ以上森が広がらないように管理しているって言った方が正しいけどな」
ここに住んでいる住人の本来の仕事は開拓を進めて、まだ発見されていない鉱脈や水脈を見つけたり、奥の山へ通じる道を開発する為の前線基地だったのだが、現在の国の財政が厳しい状況では地方の開発まで予算が回らないのだ。
結果今の仕事は森の木を切り、森に生える植物を拾い集めてたまに訪れる行商人に卸すことを生業にしている。要するにただの田舎の村ということである。
「しかしこういう所にこそ行商人は訪れねばならん。何故ならここに住む人達はそう安々と町へ行くことが出来ないからだ。こういう場所を訪れて彼らの求める品物を商う事こそ行商の醍醐味であるのだよ」
そうギイは弟子達に教え、弟子達はいつもの様に行商を始めた。ここに来るまでの間に通った村では奥へ行けば行く程に行商時に集まってくる村民の数は増えていった。それは取りも直さず村の位置が奥であればあるほど行商人が訪れる機会が少なくなるということでもある。
そしてここウエストエンドでは村の全住民が押し寄せてきていた。既にケン達が村に入った時から外仕事をしていた者達も呼び寄せられており、さながら祭りのような様相を呈している。
実際にそれは祭りだったのだろう。訪れる人も滅多に居ない最奥の村では行商人の来訪は正に祭りに匹敵するビッグイベントなのだ。
そこでケンとハナは忙しく商品を捌いていく。工具、農具、薬に食べ物、仕入れた品物が飛ぶように売れていくのだ。ウエストエンドの住人からすれば次に何時仕入れられるか分からないのでなるべく多目に仕入れたいと思うのが心情だったのだ。それをギイやヘイは分かっていてウエストの町で多目に仕入れておく様に勧めたのである。
結果2人が行商を初めて以来最高の稼ぎを叩き出した。最もこの村には現金そのものが少なく、半分以上が物々交換になったのだが。
「こうやって人の往来の無い田舎の村まで来た時は村に現金が存在しない事も多々ある。そういった場合はその村の特産品を引き換えに手に入れるのだ。ここで言うと良質な木材に木彫人形、この森にしか生えていない薬草等だな。それを持ち帰り町で現金化すれば良い」
それもまた都会・田舎問わずに行商を続けてきたギイの行商の知恵であった。
そして日が暮れる頃、ケン達一行の姿は村の宿屋の中にあった。正確に言うと宿屋兼食堂兼飲み屋といった所か。こんな国の外れにも飲み屋はちゃんとあるのである。
「さてご苦労だったな皆。ここでは2~3泊してから来た道を戻り、またウエストの町に戻る予定だ。暫くは旅の疲れを癒やしてゆっくりすると良い」
「お師匠様、初めての長期滞在ですね」
「この先には村も無いし、次は何時来るか分からないからな。折角来たのならこの大森林を見学しても良いだろう」
「ギイ殿、森の中だとモンスターが心配ではありませんか?」
「この森には野うさぎやウルフ、ゴブリンの他には精々コボルトが居る程度だ。森の奥や山の麓まで行けばまた違うのだろうが、それ程深く潜らなければ心配はあるまい」
「つってもお前らは単独行動は禁止だからな。ソレナや旦那と一緒に行動しろよ」
「了解ですアニキ」
ケンもハナも戦えない訳ではないがあくまでも行商人であるため、基本護衛に戦って貰うということにこの一年で慣れて来ていた。
そんな訳で明日はどうしようかと相談していた所、村の飲み屋の扉が開いた。
宿屋の店主は「おやっ?」と思った。いつものメンバーは揃っているし、今日村に来た行商人一行は全員席にいる。この時間に来る客に心当たりが無かったからだ。
扉の先には今夜の見張り役の男が立っていた。しかし見張りに酒を出す訳にはいかないし、何よりこいつは真面目な奴だったはずだ。それが見張りの仕事を放ったらかして飲みに来る筈がない。店主はますます首を傾げた。するとその後ろから陽気な声が聞こえてきた。
「や~良かったわ~、村があってホンマ助かったわ。まさか狩りに熱中していて隣国まで来てまうとはホント参ったわ~。オッチャン酒や、それと何か腹に溜まるもん頼むで!」
そこにはヤケにスラリとした人物が立っていた。その髪はヤケにワイルドな緑色の短髪でその顔はとても整っており、背中には矢と弓を背負っている。何よりも特徴的なのはその耳だ。ピンと尖って上を向いたそれは通称「エルフ耳」と呼ばれていた。
と言うかエルフだった。マール国の端、最奥の村ウエストエンドにエルフが迷い込んで来たのだった。




