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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第2章 行商人見習い
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第35話 馬車での行商 準備

ケンとハナはヘイに連れられてギイ商会の倉庫にやって来た。

ちなみにギイ商会では荷台置き場と馬車を引く馬の厩舎は別々の場所に存在する。

当たり前だが荷台を引いていない時まで馬を荷台に繋いでおく必要は無いからである。


では何故荷台置き場でなく倉庫に来たのかと言えば、2人に支給される荷台は現役の荷台ではなく使い古しの荷台だからであった。当たり前だが新米に現役や新品の荷台は回ってこない。お古でも貰えるだけ相当恵まれているのだ。


「おおこれが俺たちの馬車の荷台ですか・・・」

「うーん確かに古いですね。でも作りはしっかりしてそう。元々は良い馬車だったのかな?」



ケンとハナが倉庫に置いてある古い荷台を見て感想を漏らす。

あちこちボロボロで擦り傷切り傷果てしない代物だ。しかしハナが言ったように元は良い物だったのだろう。年月を感じさせる木の風合いがあるにも関わらず作りはしっかりしていてガタツキもない。これは腕の良い職人が良い材料を使って作った荷台であると一目で分かった。


「何でも師匠が若い頃に起こった魔物の活性化の時にどっかの国の輸送部隊が使っていた物らしいぞ。そいつが戦後に市場に流れてたまたま見つけた師匠達が購入して使ってたって話だ」

「うわーそいつは年季が入ってますねぇ」

「でも納得だわ。元が軍事用なら作りがしっかりしてるのも当然よね」


ハナがそんな感想を漏らす。どこの世界のどの国でも軍事関係にはとにかくお金を注ぐものなのである。味方の命が掛かってるのだから仕方ないのか、それをダシに高価な物を作る羽目になったのかは知らないが。


「じゃあ今からこいつの整備だ。基本荷台の整備は馬車職人が行うもんだが旅の途中に壊れて自力で修理しなきゃならん場面もあるからな、しっかり覚えておけよ」

「了解ですアニキ。でもアニキはこの荷台の整備が出来るんですか?」

「俺が行商で使っている馬車の荷台も同じ物なんだよ。師匠達は幾つか同じタイプの荷台を購入したらしくてな、俺の修行の時もここで眠っていたお古をくれたのさ」

「成程、所で私とケンは2人で一台の馬車なんですか?」


そこでヘイは少し考えてから話を始めた。これは折を見て話しておけと師匠であるギイに言われていたことだ。少し早いかとも思ったが、いつかは話すことだし丁度切りも良い。ならここで話してしまおうとヘイは考えた。


「ハナお前は基本ケンと一緒だ。修行中は勿論の事、出来れば修行が終わった後もケンと行動を共にして貰いたい。これは師匠も旦那も承知していることだ」

「・・・それは私は一人では行商をしてはいけないということですか?」

「そういうことだ、ギイ商会としてはお前一人での行商は認められない」

「・・・それは私が王族だからでしょうか?それとも女だからでしょうか?」


「どっちもだよ」と言ってヘイは頭をガリガリと掻いた。


「ハナは王族ってだけでも特殊なのに女だからな。言っちゃ何だが世の中物騒だ。女の行商人が一人で行商してたら襲ってくれって言ってるようなもんだぞ。おまけに王族ってんならこれはもうカモがネギ背負ってる状態だ。だからハナが行商人として活動する限りは必ずケンとセットで動いて貰う。ケンがもし行商人を辞めることになったり、他の奴と組みたいって話が出ればギイ商会の他の誰かと組んで貰う。」

「ちょっと待って下さいよアニキ!何で俺なんです?アニキでも良いと思いますけど?」


突然の話にケンが咄嗟に話に割って入る。一緒に居るのは修行中だけだと考えていたからこれはケンにとっても寝耳に水の出来事だった。


「お前らは同時期に弟子入りして来たから一緒に行動する理由になるんだよ。俺や他の奴だとハナとの間に要らぬ噂を立てられる可能性があるからな。だけどお前達なら「修行中に仲良くなったから修行後も一緒に行動している」って言い訳が成り立つんだ。実際そういう奴らは多いし、お前らも別に嫌っては居ないだろう?」

「勿論ハナを嫌ってなんかいませんよ。ってか寧ろ好きな方ですよ」

「私もケンを嫌ってなんか・・・えっ?好き?」


突然の告白にハナは狼狽えた。それを見てケンはキョトンとしている。ヘイは頭をガリガリと掻いてケンの心情を言い当てた。


「まぁハナは王女ってのを抜きにしても普通に良い女だもんな。真面目だし元気だしよく働くし、皆が好きになる「良い仲間」だよな」

「そうですよ、さすがアニキよく分かってるじゃないですか。俺もまだ見習いですけど、せめて仲間くらいは守れるようになりますからきっと大丈夫ですよ」

「・・・あーうんそうよね、良い仲間よね!私もケンのことは好きよ、仲間として」

「ありがとハナ」


「さーてまずは掃除ですかね」と言ってケンが馬車へと向かって行く。それを見送るハナにヘイが寄ってきて囁いてきた。


「どうしましたか王女殿下?もしかしてドキッとしちゃいました?」

「ちょっちょっと兄さん!巫山戯ないで下さい!」

「はっはっはっ若いねぇ。・・・まぁでも今のケンに色恋について期待するのは無駄だぜ。あいつ行商の修行で一杯一杯だからな」

「だから私はそんなことは別に・・・」


そう言って起ころうとしたハナはヘイの目を見て口を閉じた。ヘイは口調こそ軽かったが明らかに真剣な目をしていたからだ。それは行商について語る先輩としてではなく一人の女性の行く末を心配する漢の目だった。



「国王陛下が何を考えてるのかは俺には分からねぇ。師匠も旦那も本当に何も聞かされていないみたいだしな。だがギイ商会の見習い期間は2年間、俺や師匠がお前を守れる期間は後1年しか存在しねぇ。師匠にはこの商会の会頭としてやらなきゃならない仕事があるし、俺にしても世界を回りてぇって夢がある。お前の事を心配してもそれでもそれは一番にはならねぇんだ」


突然のヘイの真面目な告白にハナは口を出すことも出来ない。ヘイは構わないと思っているのか元から聞く気がないのかそのまま話を続けた。



「さっきギルマスは馬車移動に慣れてから国外に行ってくれって言ってたけどな、ギルマスクラスが国外へ出向くと色々と厄介なんだよ。そんでもって他の冒険者共がお前と仲良くなりたがっているこの状況は一向に進展がない。だからお前がこのまま行商人として活動するならお前の仲間はケンとソレナの2人だけって事になる。でもケンも俺と同じく世界を回りたいって夢があるし、ソレナにしてもこのままずっとお前の護衛として一生を過ごすって訳でもないだろう。もしそうなったらお前は1人だ、いくら何でもお前を1人で行商に出す訳には行かないからな」


ハナは突然告げられた未来の話に目を白黒させている。だが確かにそうだ。ギイ師匠も旦那さんもいつまでも私だけを守ってくださる訳ではない。冒険者は当てに出来ないし国の兵士を借りる訳にもいかない。もしもケンとソレナが居なくなってしまったら私は行商人を続けることが出来ないのだ。


「さっきケンは仲間くらいは守れるとか言ってたけどな、本気で狙われたら行商人が一人居た所でたかが知れてる。これはソレナが追加されても同様だ、ぶっちゃけケンとソレナの2人じゃ同時に戦っても旦那や師匠の足元にも及んでない。出来るならそれなりの使い手がもう1人か2人お前の護衛に付けば良いんだが、はっきり言って今の状態じゃ打つ手無しだ。ハナは国王陛下から何も聞かされては居ないんだよな?」

「はい、相変わらず何故お師匠様の元に修行に出したのかは教えてくれません」



ハナはギイ商会に修行に出されはしたが、帰ってくるなとは言われていない。だから行商から帰る度に実家である城にも帰省していた。そして事ある毎に父親である国王に話を聞いていたのだが、いつもはぐらかされるばかりで全く理由を教えてはくれないのだった。


「まぁ後1年しか無いと言ったが後1年あるとも言える。その間に修行が終わった後の身の振り方を考えておきな」


そう言ってヘイはボロボロの荷台ををキレイにしようと水を汲んで来たケンの元へと向かって行った。ハナはそんな2人を難しい顔で眺めていたのであった。

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