第33話 村での行商
ケンが気絶し、ヘイが殴り倒され、ソレナが恥ずかしさで悶え苦しんでから一時間あまり。ようやく落ち着きを取り戻し始めた面々はやっとのことで村の中へと入っていった。
「ぐぐぅ痛てぇ、何も本気で殴らんでも」
「はーでも良いもの見れました」
「ケン君?何か見たのかな?」
「イエ何も見ておりません!」
「大変宜しい。女の子は繊細なんだからね」
ハナの放つ怒気にケンは戦々恐々だ。それに較べてソレナは先程までの元気さから打って変わってこの世の終わりのような声を出していた。
「私は・・・うううお嫁に行けない・・・見られた・・・私は・・・」
「ほらソレナさんもいい加減元気出して!」
騎士だの何だの言った所で20歳になったばかりの女性なのだ。貞操観念が高いこの世界において、上半身裸を見られたことは随分とダメージが大きかったらしい。
ハナは同じ女性だということでどうにかして慰めようとしている。先程までの怒り様はすっかり鳴りを潜めたようだ。まさかの上半身ストリップだ、衝撃が大きかったのだろう。
結局何だかんだとあって太陽は既に中天だ。仕方ないのでまずは食事を取ることになり広場で用意して貰ったサンドイッチを頂いた。今日の昼までは商会の食堂で食事を用意して貰っていたのだ。量も種類も十分にある、食堂のおばちゃんの無言のエールが聞こえてくるようだ。
閑話休題
それからケンとハナは初めての行商を開始することとなった。
行商人が行商をするためには、
・その地域を仕切っている人物や団体に話をつけて商売を始める許可を貰う
・特に規制が無い場合は、適当な場所で商売を始める
の2種類が基本だ。
前者は大きな都市や町での話であり、後者は普通の村や道中での商売の話である。
今回訪れたのは普通の村だ。つまり行商に特に支障は無い為好きな場所で商売を始めることになった。
「とは言っても殆どの場合は広場で行商するんだけどな」
とは町での修行中のヘイの言葉だ。まぁ当然の話である。行商人が商売を始めるに当たって、まず存在を認知して貰わなければ話にならない。村の片隅でこっそりと商売をする行商人など居ないのだ。
何処の国でもそうだが、村の周囲は基本的にモンスターや害獣避けのための柵で囲まれており、入り口に門番役の村人が交代で立っている。その門番に行商人ギルドのギルド証を見せて村に入れて貰い、広場で行商。その後その村に泊まるか次の村まで移動するかするのが大まかな村での行商の流れだ。
ケンとハナも同じように行商人ギルドのギルド証を見せて村の中に入れて貰い、広場に到着。食事をした後、背負ってきた荷物を広げた。中身は初めての行商という事で比較的無難な物ばかりだ。
内容は、
・塩、砂糖、酒、タバコ、毒消し、痛み止め、軟膏、干し肉、果物、干物、缶詰、包丁、お玉、ザル、鎌、トンカチ、ノコギリ、釘(100個入り)、フォークとナイフセット、湯呑み、木皿、戦闘用のナイフ、ろうそく、帽子、スカーフ、布、本
である。こう書くと少ないように感じるが、ここも含めて5つの村を10日掛けて回るのだ。調味料や酒なんかを5つも持てばそれだけで一荷物である。
広げている最中に村人がチラホラと寄って来た。そして何人かは広げている最中にも関わらず商品を購入していく。それに新米達は慣れていない手つきでお金のやり取りをしていた。
2人共一応気合を入れて町での修行中に稼いだ金額をほぼ全て注ぎ込んで買う事が出来るギリギリの量まで購入してきたが、実際に買ってくれるかどうかは未知数だったのでほっと一安心である。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございます!」
ケンとハナはニコニコしながら初めての行商を捌いていくのだった。
そうしていつの間にか客足も鈍り遂には居なくなった。どうやらこの村での行商はこれで終わりらしい。
「ふー終わったー」
「何とかなったわね。正直もう少し売れて欲しかったけど」
2人は初めての行商が終わった興奮で互いの健闘を称え合っている。これで後はこの村の宿屋に泊まって終わりの筈だ。しかしそうは問屋が卸さないのである。
「よーしご苦労さん。さて取り敢えず宿に向かってそれからまた再開するぞ」
「はい?アニキ再開って何をですか?」
「行商に決まっているだろうが。今回は荷物を広げた行商で、次は客の家を1軒ずつ訪ねて売るんだよ。訪問販売って奴だ」
「ええっ全ての家ですか兄さん」
「町での行商ならやらないけどな、村なら数も少ないし、日が暮れるまでどうせ暇だろ。それに客の家を実際に訪ねて売って行くと、商人としての経験値が飛躍的に上がって行くからな、可能な限り行っておけ」
そう言ってヘイは宿屋へ向かい、部屋を取った後、宿に要らぬ荷物を預けてから今度は村の建物を一軒一軒巡って行かせた。ケンとハナは最初緊張していたが、自分達が来たことに気づいていなかった人達や足が悪くて家から出られない人達相手に商売が出来た。更には先程の行商で会ったばかりの人達にも再開し、村での暮らし振りを伺う事が出来たので予想外に勉強になったのだった。
ちなみにギイとソレナと旦那は行商の間は一切口を出さずに黙って見ていた。護衛に集中していた事もあるが、何よりも口を出す事で新米行商人達の大事な経験を妨げないようにしたのだ。
そして夜、宿の食堂で今回の行商の反省会が行われた。ちなみに普通なら部屋で行うが今回は宿に他の客が居なかったため、広い食堂で行っている。
「それでどうだったかな、初めての行商は?」
「はい師匠、町からここまでの移動は大変でしたが、行商自体は満足の行く結果になりました」
「この村の人達は村長さん位しか私の事を知りませんでしたし、村人の暮らしを肌で感じる事が出来て楽しかったです。勿論行商も上手く言ったと思います」
「ふむ、ヘイお前は見ていてどう感じた?」
「俺も同意見ですよ。つーか今回の行商で失敗する理由なんか存在しませんよ。村も道中も平和だし、持ってきた物も売れ筋の物ばかりですから。行商で失敗する時ってのは、モンスターや野盗に襲われた時か、売れない商品を仕入れた時ですからね」
そしてギイは同じテーブルに座っている護衛の2人に話を向けた。
「旦那とソレナ嬢はどうだったかね?」
「問題ない。道中は平和そのものだった。明日からも同じ様に気をつけて進めば良い」
「同感です。明日は野営の予定ですからお2人は今夜はしっかりと休息を取って下さい」
護衛の2人は行商人では無いため、護衛に関してのみ感想を返す。
ちなみに護衛である旦那とソレナは、一応二交替で夜の見張りをすることになっているのだった。
そうしてケンとハナの初めての行商は、始まる前こそ大変だったが内容的には非常に満足出来るものになったのだった。




