第32話 謝罪
色々と予想外が起こったがどうにか出発することになったケンとハナの行商初日。ヘイとソレナの大喧嘩が続く中、遂に初めて行商を行う村が見えてきた。
「はぁはぁ、やっと到着か・・・」
「お前もういい加減にその鎧脱げよ馬鹿。」
「やかましい・・・ハァハァ・・・万が一を考えれば・・・ハァハァ・・・脱ぐことなど・・・」
「その万が一があった時に一番お荷物になるのは間違いなくお前だよ。ギルマス!何とか言ってやって下さいよ」
「気持ちは分からないでもないがいい加減に現実を見ろソレナ。僅か半日の移動で動けなくなる冒険者など失格と言わざるを得ないぞ。それとヘイ君、私のことは「旦那」と呼べと言ったはずだ」
「どっちも面倒クセェよ。何なんだよこの展開は!」
ソレナは疲労困憊だ。本来なら騎馬に乗って使用することが前提の騎士鎧を徒歩で使用していれば誰だってこうなるだろう。出発前に全員に駄目出しをされていたが頑なに脱ごうとしなかったが、いかんせん体力が持たなかったのだ。
そしてギルマスは出発前に自らを「旦那」と呼ぶようにと今回のメンバーに言い含めておいた。ギルドマスターでは流石に目立ってしまうからだ。勿論顔を知っている人物も国内には結構いるが、よく似た他人で通せないことも無いからである。
「あの師匠、正直もう帰りたいのですが・・・」
「別の日に改めて仕切り直しては駄目ですかねお師匠様」
ケンとハナは心が折れる寸前である。楽しみにしていた初行商の道中が罵詈雑言で埋め尽くされれば致し方あるまい。しかし行商人にはこれしきのトラブルはいくらでも訪れるのだ。泣き言を言っている場合ではない。
「駄目に決っているだろう。・・・まぁ気持ちは分からなくもないがな、行商時に起こるトラブルの一つに最初から遭ったと思えばこれも経験だ。」
実際ギイは昔、別の行商人と組んで仕事をした際に痴情のもつれから修羅場真っ最中の道中を過ごした経験もあった。あの時は最終的に冒険者の夫婦と行商人の男性が3人共再起不能となったのだ、それに比べればこれはまだましな状況であろう。
「それとお前達、それ程に嫌だったならば道中に止めてくれと意見を言えばよかったのだ。お前達は行商人でソレナ殿は冒険者、雇い主として冒険者に注文を付けるのは決して間違ってはいないぞ」
そんな事をギイは言うが、実際問題初めての行商でそんなことが言える行商人など見たことがないというのが本音だ。どんな仕事でもそうだが、場数を踏めば踏むほどに押しの強さや交渉力と言うものは身につくのだ。ペーペーがこの状況をどうにか出来る訳がない。そして2人を鍛えるためにはギイ自身が動く訳にもいかなかったのだ。
しかしこの意見は2人には青天の霹靂として機能したようだ。ケンとハナはソレナに向かってズンズンと向かって行き口を開いた。
「失礼します、宜しいでしょうか?」
「何の用だ少年、私は見ての通り忙し「何かなケン君?」いのだが・・・」
「ソレナさん、申し訳ありませんがあなたは俺達の行商の邪魔になります。今すぐにその鎧を脱いで静かに護衛の依頼をこなすか、さもなくばお帰り下さい」
「兄さんもです。ここまで来る間色々教えてくれるって約束だったのに私達何も聞かされてませんよ。旦那さんもソレナさんと組んで仕事をしているのなら相方の暴走を止めて下さい」
ケンとハナは大騒ぎしていた2人に駄目出しをした。正直腹に据え兼ねていたし、そもそも2人はこの2ヶ月散々師匠とヘイに鍛えられていたのだ。自分達が正しいのならそれを相手に伝える事になんの躊躇も無いのである。
ヘイは己を恥じた。弟弟子達に見本を見せねばならない自分がこんな無様でどうするのかと。ギルマスも同様だった。久しぶりの仕事に加えて王女殿下の護衛として空回っていたことに気づいたのだ。今回はソレナと二人で依頼を受けたのだ。彼女の暴走を止める事もまた自分の仕事だったのだ。
「すまねぇ」
「すまなかった」
2人は素直に謝った。しかしソレナは憤慨した。
「なっ一体何を謝っているのですかギルドマスター!」
「ソレナ今回の事は全面的にお前が悪い。謝罪した後鎧を脱いで大人しくしておけ」
「納得出来ません!私はこの装備で王女殿下の護衛を・・・」
それ以上言葉を発することは出来なかった。
大声で否定の言葉を吐こうとするソレナに向かってハナが腰の剣を抜き放ち切りかかったからだ。
それは決して素早い訳でも優れていた訳でもない。そもそも殺気が無く切るつもりがないのは明らかだった。
しかしそんなことが分かるのはこの場には師匠と旦那の2人しかいない。だからそのいきなりの凶行に場は騒然となった。
「なっおい、ハナ!」
「ハナ!何してんだよ」
「おっ王女「ハナです」殿下・・・?」
「私は行商人のハナです。『この場には王女殿下などおりません』私を王女殿下と勘違いするのはお止め下さいな」
ハナは目に怒りを込めてソレナに対して言葉をかける。それは自分を王女殿下として過剰に守ろうとすることだけではなく、ケンに対する態度にも腹を立てていたからだ。
「それに彼の名前は「ケン」です。護衛対象に対して少年呼ばわりは失礼なのではありませんか?」
「あっいや・・・それは・・・」
「兄さんが冒険者ギルドに出した依頼は「私達2人を10日間の行商の間護衛すること」だった筈です。依頼を達成するつもりが無いなら今すぐ町へ引き返して下さい。勿論依頼料はお支払いしませんのであしからず」
そう言ってハナは剣を収めた。そしてすぐに師匠に怒られている。それを見ながらソレナは遠ざかっていった。正確にはギルマスに引きずられて行ったのだ。
「ソレナ「護衛対象の行商人」の話は聞こえたな、このまま依頼を続けるか引き返すか今すぐ決めろ」
「ギッギルマス、私は・・・」
「私は「旦那」だ。そしてあそこに居るのは今回の護衛対象の行商人である「ケン殿」と「ハナ殿」だ。さぁどうする?「冒険者」ソレナ」
旦那はソレナに現在の立場で話しかけた。そしてソレナは理解した。今の私が貴族ではなく冒険者であるように、王女殿下も今は行商人なのだろうと。
そして自分は彼女の立場も顧みずに久々に再会した幼馴染と喧嘩をしていただけだ。しかもまともに動くことも出来ない鎧を着ながらである。滑稽にも程があるではないか。
ちなみにこの鎧だが、これはソレナが騎士になった時のためにとコツコツお金をためて買っておいた鎧であった。しかしこれは徒歩の依頼には全く不向きだ。だからソレナはすぐに鎧をアイテムボックスに仕舞って護衛対象達に向かって行った。
「ケン殿、ハナ殿、申し訳ありませんでした!」
「・・・」
「私は騎士に憧れる余り、ハナ殿に勝手な願望を押し付けていたのです。実力も無く実績も無い為、せめて鎧だけはと思いましたが、お二人の事も考えずに独りよがりでした。申し訳ありません!」
「・・・・・・・」
「どうか今一度チャンスを下さい!マール国の冒険者として、この依頼立派に勤め上げてみせます!」
「・・・・・・・・・」ぶはっ
鎧をしまい、謝罪の言葉を口にしたソレナの前でケンが倒れる。しかも鼻血を出しながら倒れた。あまりの展開にソレナは驚くがそこでヘイが口を開いた。
「なぁソレナ」
「なっ何だヘイ」
「真っ平らだの絶壁だの言って悪かったよ。・・・結構育ってたんだなお前」
「なっ・・・いっイヤー!!!」
ドゴンといい音を響かせてヘイが吹き飛ばされていく。
ギイ商会の面々はアイテムボックスを最大限活用するために枠を全て埋めている状態だ。
だが他の者達はアイテムボックスを使いこなしているとは言い難く、枠が結構空いている者も存在する。
まぁ何が言いたいのかというと、
鎧と一緒に下に着ていた服も下着も仕舞ってしまったソレナは上半身素っ裸だったのだ。
そこにはヘイが指摘したとおり、子供の頃に較べて随分と育った双丘が揺れていたのだった。




