第31話 2人以外の2人の事情
「とまぁそういう事情なのだよ」
よく晴れた日の早朝、ケンとハナの初めての行商の朝、ギイ商会の玄関の中でギルドマスターの説明が終わった。
ギイは考え込んでしまっており、ハナは目に見えて落ち込んでいる。そしてヘイとソレナと呼ばれた冒険者は互いに何か言いたそうな顔をしながらお互いをチラチラと見合っていた。
ケンだけは普通だった。いや驚いてはいたがイマイチ理解は出来ていない。最初に会った時からハナが王女だという意識が殆ど無い為、そうまでしてハナとお近づきになりたいという気持ちが理解出来ないのだ。
「お師匠様申し訳ありません」
しかしハナは違う。辺境の貧乏国だろうが王女であることは変わりなく、昔から事ある毎に様々な男性からアプローチを受けてきたのだ。事情を知っていても利用しようとする輩は来るのである。事情を知らなければそれは当然群がるだろう。何しろ行商人の護衛と言えば「正式に」「長期間」共に居られるのだから。
「それは違うなハナ殿、これはこの国の冒険者の資質の問題だ。少しでも恥を知っていればこんなことにはなっていなかった筈だ」
「それは・・・いえありがとう御座います。それでその本当にギルドマスターが私達の護衛依頼を受けて下さるのですか?」
ハナはこの国の王女として当然ギルドマスターとは面識がある。ギイもヘイも仕事上の付き合いで面識があり、無いのはケンだけであった。だからケン以外は理解していたのだ「ギルドマスターが動く」という事がどれだけの事かということを。
「ええ。この依頼は難易度的には初心者でも十分なものですが、それによって得られるものが難易度に即しておりません。ギルドでも初めての試みですので目処が立つまでは私が直接現場の確認をすることになりました」
「そんな!でも御存知の通り我が国は余りお金はありませんし、私自身にも資産も権限も存在しません」
「存じております。しかし実際にどうであるかはこの際どうでも良いのです。「王女殿下とお近づきになれば金持ちになれる」という考えに取り憑かれた者はそれ以外の思考を放棄しています。ギルドマスターとして今、他の冒険者をあなたの護衛に着かせる訳にはいきません。護衛対象に危害を及ぼす危険性を排除出来ませんので」
ギイもハナも思わず天を仰いだ。護衛を頼んだ冒険者達に行商中ずっと口説かれ、宿では貞操の危機を常に考慮しなければならない。確かにそんな相手に護衛は頼めない。一番の敵が身内など笑い話にもならないからだ。
「いやでもギルマス、こいつだってそう大して違わねーんじゃねぇですか?」
それはヘイだった。今まで会頭とギルマスと王女殿下の会話だったので黙っていたがいい加減限界だったのだろう。重そうな鎧を身にまとったソレナを見てそう呟く。
「確かにこいつなら同じ女ですから口説かれる事は無いと思いますがね、でもこいつアピールする気満々じゃねーですか」
「なっ失敬なそんなつもりは全く無い!」
「じゃあお前その鎧は何なんだよ。そりゃ騎士が馬に乗って戦うための鎧じゃねーか、俺らがこれから行くのは「徒歩の」行商だぞ。そんな鎧来てたら一日も持たずにバテて動けなくなっちまうだろーが」
「貴様こそ一体何を言っているのだ。我々が行うのは「王女殿下」の護衛だぞ。いつ何時どのような危険が襲ってくるのかも分からんのだ。可能な限り最強の装備で身を固めるなど当然の話しであろうが!」
ヘイとソレナが言い合いを始める。ケン達はそれを聞いていたが何となく違和感を覚えた。
「あのアニキ、そちらの女性とはお知り合いなんですか?」
「知り合いも何も成人するまでご近所さんだったんだよ。こいつ昔っから騎士物語に憧れててな、か弱い俺はいつもボコられてたもんさ」
「誰がか弱いだ!私はお前に付き合って何度危険な目にあったと思っているんだ。街中を治安の善し悪しに関わらず歩き回ったり、まだ子供なのに外壁を超えて町の外に出たり。最終的には行商人に弟子入りして町から出て行ってしまうし!ご両親は泣いていたぞ!」
「ぐっそれは言わない約束だろう」
「そんな約束をした覚えは無い!」
成程2人は幼馴染だったらしい。話を聞く限りどうも中々にワンパクな少年・少女時代だったようだ。
「それで、お前なんで冒険者やってるんだ?確か爺さんや親父さんと同じく兵士として働いていたはずだろう?」
「・・・貴様が町を出ていって2年後に曽祖父が他界してな。その際に貴族の地位を返上して平民に格下げとなったのだ。」
「えっ!あの爺さんが!・・・そいつぁ悪いことを聞いたな。今度墓参りに行かせてもらうわ」
「ああ、そしてその後家族と意見が分かれてな。私としてはやはり騎士として大功を挙げ貴族として復活したいのでな。兵士を止めて冒険者になったのだ」
「はい?」
ヘイが素っ頓狂な声を上げる。今なんて言ったんだこいつ?「騎士として」大功を挙げたいのに「冒険者」になったって言ったのか?
「お前それおかしくないか?冒険者じゃ騎士として成果なんざ挙げられる訳が無いじゃねーか」
「言い方が悪かったな。「物語の騎士の様に超人的な力を身に着け大功を挙げ貴族に返り咲いてみせる」と誓ったのだ。この国で兵士をしていてもロクに成果を挙げられないからな。ならば冒険者になって世界中で活躍をするべきだと考えたのさ」
「・・・それでお前今まで何処の国を巡ったんだ?」
「ふっ未だ修行中の身なのでな、まだ何処の国にも行ってはいない」
「・・・冒険者ランクは?」
「冒険者ランクはEだ。しかしこの国では最高でもDランクだからな。ランクの差など大した問題ではない」
ギイ商会の玄関内に微妙な空気が流れる。
皆揃ってギルマスを見るが彼は気まずそうに顔を反らした。つまりはそういうことなのだろう。
ヘイは優しい笑顔で幼馴染であるソレナの肩を叩いた。
「そうかお前も頑張ったんだなぁ」
「ああ、お陰でこんな重要な任務を任せて貰えたのだ。命をかけてやり遂げるよ」
「でもお前想像以上に馬鹿だったんだなぁ」
「ああ昔から家族にも「馬鹿だけど可愛い子だ」と言われていてな・・・何だと?」
ソレナがヘイの言い草に文句を言おうとするが、その前にヘイの言葉が炸裂した。
「お前バカじゃねーか!?俺が行商人になって2年後ってことは3年間も冒険者やってんだろ、国から出たことがない?冒険者ランクE?行商人の俺以下じゃねーか!何が物語の騎士の様な超人的な力だよ、現実を見ろ!はっきり行ってやるけどお前才能ねーよ!」
「なっ何を言うのだ貴様は。現に私はこのような重要な仕事を任されて・・・」
「ギルマスの説明を聞いてなかったのか?ギルドにいた連中が馬鹿ばっかりだったから消去法でお前を選んだってだけだろ。悪いことは言わねぇからお前冒険者辞めろよ、このまま続けてもいつか大怪我するか最悪死ぬぞ」
それは幼馴染に対するヘイの優しさだったのだが、認識していた自らの実力不足をよりによって幼馴染であるヘイに指摘されたソレナは激高してしまった。
「大きなお世話だこの親不孝者が!あれだけ立派な店を放ったらかして町を飛び出した貴様にそんな事を言う権利はない!」
「ぐっそれは、だが親父もお袋も最後には賛成してくれて・・・」
「嫌々だったに決まっているだろうが!貴様が町から居なくなってから暫くは目に見えて落ち込んでいたぞ。しかも貴様まともに連絡も取っていないだろう。定期的に届く母からの手紙には貴様の事が一切書かれていなかった。育てて貰った恩も忘れて好き勝手に生きている貴様に何かを言われる覚えはない!」
本当はソレナはこんなことを言うつもりはなかった。久しぶりに再開した幼馴染なのだ、この5年間の思い出話を沢山したかったのに口から出てくるのは罵詈雑言ばかりだ。しかもこいつは止められないのである。
「そもそも貴様何故ここにいるのだ。ここは天下のギイ商会の本部だぞ。お前のような馬鹿が居ていい訳が無いだろう」
「良いに決まってんだろーが!俺はギイ師匠の一番弟子だ!」
「なっ何・・・ではまさかハナ様は・・・」
「俺の妹弟子だよ文句あんのか!」
「あるに決まっているだろう!貴様私の風呂や着替えを覗いたことをよもや忘れたとは言わさんぞ!」
「ばっ・・・それは昔の話だろう。そもそもお前みたいな真っ平らな体見た所で俺は別に・・・」
「誰が真っ平らだぁ!姫様!同じ女として!幼馴染として!こんなアホにお世話を任せる訳には参りません!私がこれからあなたを必ずお守りすることを今この場でお約束いたします!」
売り言葉に買い言葉という状況がここまで似合うこともそうあることではないだろう。
ケンとハナの行商初日の朝はこうして2人以外の2人によって大騒ぎの内に始まってしまったのであった。
今回の投稿で丸一ヶ月が経ちました。
やれば出来るものですね。
これからも宜しくお願い致します。




