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堅実勇者  作者: 髭付きだるま
第2章 行商人見習い
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第30話 冒険者のソレナ

ノースの町出身の冒険者ソレナは溜息を付いた。冒険者受付で薬草採集の依頼料を受け取った帰りである。


彼女はマール国北方にある町ノース出身の元貴族である。貴族とは言っても領地を持っていた訳ではない。曽祖父が数十年前のモンスター活性化時に国に貢献をしたとかで領地を持たない准男爵の地位を得たのである。その後曽祖父は一時国の防衛を担う騎士団の団長を務め、ソレナが17歳の時に天寿を全うした。


しかし曽祖父と同じく兵士であった祖父と父は大した功績も残しておらず、曽祖父が亡くなった時点で貴族の資格は返上。17歳の時にソレナは突然貴族から平民になったのであった。


とはいえこれは予定されていたことであり、家族は大した問題だとは思っていない様子だった。実際貴族とは言っても内情は他の民衆と大して違わない。マール国は辺境の貧乏国だからそもそも貴族の数が少ないし、地位を得たと言っても僅かばかりの年金が振り込まれるだけなのだ。


しかしソレナは物語に出てくる立派な騎士や貴族に憧れていたため家族に反発し家を出た。「物語の騎士の様に超人的な力を身に着け大功を挙げ貴族に返り咲いてみせる」と言い残して。


もちろん家族は止めた。いや止めるふりをして、現在地を把握し、毎月の連絡を欠かさないようにして娘が夢物語から覚める時を待つことにしたのだ。


そしてソレナは現実に直面していた。平和な時代、大功を挙げられるような機会もなく、そもそも実力が無い為難易度の低い依頼しかこなす事が出来ない。冒険者としてのキャリアも既に3年だ。家族からはそろそろ家に帰ってきてはどうかと手紙も来ている。


「引退して結婚か・・・」


それもまた一つの道であろう。この世界、15歳で成人として認定されるため早ければ成人と同時に結婚する者もいる。そして10代の内に半分は結婚し、20台前半でほぼ全てが結婚するのだ。ソレナは現在20歳。結婚して家庭を持っても何もおかしくはないのだ。


だから本来ならそうなっていたのだろう。あの日ギルドマスターに呼び出されることがなければ。



「王女殿下の護衛依頼を任せたい」


開口一番、ギルドマスターはソレナに向かってそう告げた。だが最初意味が分からなかった。王女殿下の護衛任務は王宮に務める騎士の中でも選ばれた者しか出来ない最重要任務の一つだ。それを元兵士とは言え一介の冒険者の自分に振るなどあり得ない。よってソレナは断ろうとした。


「勘違いするな。これは「王宮にお住まいの王女殿下」の護衛ではなく、「行商人として修行中の王女殿下」の護衛だ。国の騎士も兵士も動かすことは出来ないし、ギルドが受けた依頼として冒険者が受けるべきものだ」


「それは分かりました。しかし何故私なのですか?正直私は実力も無く実績も無い為、冒険者3年目で未だEランクです。正直引退も考えていたくらいなのですが」


「理由はいくつかある。まず女性であること、元とは言え貴族であったこと、2年間だけとは言え国の兵士であったこと、王女殿下と比較的年齢が近いことだ。更にお前はランクは低いが仕事ぶりは真面目で丁寧であり依頼者からの評判も良い。この依頼で重要なのは冒険者のランクでも実力でもない。「冒険者としての信用度」だ。以上を鑑みてお前が最も適任であると判断した」


早い話「実力は無いけど信頼が出来るから回ってきた仕事だよ」という事である。ソレナは悔しい気持ちに苛まれたが実力が無いのは事実であり仕方ないと判断した。それと同時に今までの仕事を評価されていたことが嬉しかった。


しかしソレナは考えた。この仕事は自分には不適格だと。


「申し訳ありませんがお断りさせて頂きます」

「ふむ理由を聞こう」

「私を信用して頂けたのは非常にありがたいです。しかし私の実力では万が一の場合王女殿下をお守りできません。ここは誰か実力のある冒険者に任せた方が良いかと考えます」


そう、この仕事が冒険者に回ってきたと言っても実際に守る対象が王族である以上何よりも必要なのは実力の筈だ。悔しいが自分にはそれが絶対的に不足している。断るしか無いのだった。


しかしそれをギルドマスターは否定してきた。


「成程もっともな意見だ。他の国ならばそうするだろう。しかしここではそれは出来ん。何故ならこの国の冒険者にはそれほどの実力を持つ者などいないからだ」


「えっ?あっいや、その・・・」


「お前はEランクだがこの国で最高の冒険者のランクはDランクでしかない。はっきり言ってどんぐりの背比べだ。正直に言えば現在働いている冒険者の中で一対一でギイ会頭に勝てる者は一人もいないのが現状だ。ならば実力よりも信用で選んでも問題あるまい」


はっきり言って酷い言い草である。しかし事実なのだ。この国は辺境で平和だ、故に才能のある冒険者達は他国に移動してしまう、残った冒険者達は皆どっこいどっこいの実力しかないのだった。


「それにお前も含めて皆誤解をしている」

「誤解ですか?」

「そうだ。「王族は狙われる」という誤解だ。他国の王族ならば狙う価値もあるだろうが、この国は辺境で貧乏だ。正直狙う価値も無いと言った方が正しい」

「なっ!」


ソレナは激高した。王族に対する不敬だと感じたからだ。しかしギルマスは構わず続ける。


「お前も王女殿下を含めた王族の皆様を間近で見たことがある筈だ。しかし他国ではそもそも王族を間近で見る機会なぞ全く無いのが当たり前だ。誘拐・暗殺の危険がある以上警備の面からもその機会を減らすようにするからな。しかしこの国ではそれをしない。王族と国民の距離が近いという事はな、王族に価値がなければあり得ない状況なのだよ」


確かに誘拐や暗殺の心配が少しでもあればそもそも行商人に弟子入りすることもないだろうし、冒険者ギルドに登録して依頼など受けないだろう。そう考えると我が国の王族はそれ程価値が無いのだろうかとソレナは考え始めてしまった。


「正直まだ理解は出来ていないと思いますがお話は分かりました。しかしそれでも万が一を考えると私だけでは王女殿下の護衛は不可能です」


「安心しろ。流石に一人で護衛などやらせん。大体行商人の護衛というのは最低でも2名は着くのが普通だ。今回はそれに加えてギイ会頭や一番弟子も同伴するという。話しによれば、王女殿下ともう一人に護衛付きの行商を体験させるのが目的なのだそうだ」



成程とソレナは思った。世界各地を巡ったという行商人ギイの話はソレナもよく聞いていた。一番弟子についてはよく知らないがソレナが冒険者になった頃には既にこの町を離れて国中を回っているという話だった


そして今回は新米行商人2人の初行商の為に、師匠と兄弟子が監督をし、それに護衛が着いて行くという流れらしい。ならば何とかなりそうだとソレナは考えた。


「分かりました。では取り敢えず今回の護衛依頼を受けたいと思います。しかし無理だと感じたら次回からはお断りさせて下さい」

「分かっている。何分こちらも初めての事なのでな、手探り状態であることは否定出来ない。もう一人はこの国で最も信頼のおける冒険者なのでお前はお前のことのみに集中しておけ」


ソレナはギルドマスターからの指名を受けることにした。しかし続いて出た話には困惑をした。先程「どんぐりの背比べ」と言われたばかりなのだ。この国にそんな冒険者が居ただろうか?


「最も信頼のおける冒険者ですか?申し訳ありません、そんな冒険者がおりましたでしょうか?」

「私だ」

「は?」

「私がお前と共に王女殿下ともう一人の護衛依頼を受ける。宜しく頼むぞ」



かくしてギルドマスターとEランクの元貴族の凸凹コンビがケンとハナの護衛依頼を受けることとなった。


もっともその元貴族と行商人ギイの一番弟子が幼馴染だったことは出会う時まで誰も気づかなかったのだが。

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